多くの人を悩ませる、ごみ屋敷や汚宅問題。メディアにも頻繁に取り上げられるようになり、広く知られるようになりました。
そこから、「終活」「生前整理」「老前整理」など様々な言葉が生まれました。そのなかで最近出て来たのが、「福祉整理」です。
比較的新しく出てきた「福祉整理」。その内容・意義と、他の整理との違いは何でしょうか。
目次
高齢になると、なぜ片付けができなくなるの?
そもそも、年齢を重ねると、なぜ片付けができなくなってしまうのでしょうか。その理由を考えてみましょう。
- 「捨てる=悪」の道徳観
- 「もったいない」の価値観
- 体力・気力の衰え
- 「思い出」を捨てられない
- 家に人を呼ばなくなる
- 他人に自分の領域を荒らされたくない
- セルフネグレクト
- ためこみ障害
「捨てる=悪」の道徳観
包装紙や紙袋、洗剤の計量スプーン、広告紙や空き箱、果ては壊れた家電まで……。おそらく使うことはないのに、「物を捨てる」ということに強い罪悪感を覚え、溜め込んでいる高齢者は少なくありません。
特に、買ったとき値段が高かったものが、使われずにそのまま残っていることがあります。
高かったから、もったいなくてなかなか下ろせない。使っていないけれど、高かったものだから捨てられない、というわけです。
また、引き出物や景品などのいただき物を捨てられずに置いてあるケースもよく見られます。
モノのなかった昔は、布ひとつでも捨てずに再利用して、最後は雑巾として使い、ボロボロになってから捨てるのが当たり前でした。
こういった道徳観は決して悪いことではありませんが、捨てるときは捨てる、というように、なかなか柔軟に対応できない高齢者が多いようです。
「もったいない」の価値観
「もったいない」という言葉は、モノを大切にし、心豊かに生きて来た日本人の心であり、世界の環境問題を変革するキーワードとして注目されています。
子供のころ、「モノを無駄にするとバチが当たる」と叱られたことのある人も多いでしょう。
もちろん、こういった価値観は大切なことなのですが、程度問題でもあります。
高齢者だけのお宅にうかがうと、冷蔵庫が期限切れの食品で埋まっていることが珍しくありません。
冷蔵庫には、さまざまな食品や調味料が入っていますね。
しかし、年を取ると食事の量が減りますし、体力的な問題から、家庭で料理を作る回数も減っていきます。
すると、買った食材や調味料が残るようになります。でも、もったいないから捨てられない。
こうして、冷蔵庫が期限切れの食品で埋まっていくことになるわけです。傷みかけた食材や期限切れの調味料を使って健康を損ねては、意味がないのですが……。
体力・気力の衰え
親御さんが、腰が痛い、ひざが痛いと言うのを聞いたことはないでしょうか。
年齢を重ねると足腰が弱くなって、身体を曲げ伸ばしするのが大変になってくるのです。
そのため、モノを動かすという動作が億劫になっていきます。
散らかる部屋を見て「これではいけない」と頭では解っていても、重い腰を上げられず、そのうち、散らかった状態に慣れたり諦めたりして、「汚部屋」が出来上がっていくわけです。
また、気力の衰えも出て来ます。体力低下に伴うものだけでなく、子供たちが独立して気が抜けたり、伴侶を亡くしたりという理由が多いようです。
ご主人に先立たれた奥さまが、それまできちんとしていた家事を放棄し、ごみ屋敷となるケースがよく見られます。
逆に、奥さまを亡くされたご主人の場合は、もともと家事をする男性が少ない世代でもあり、ごみ屋敷化がさらに加速してしまいます。
また、今は、ごみの分別が複雑なため、ごみを捨てる気力がなくなってしまう人もいるようです。
「思い出」を捨てられない
子どもが独立し、親を見送り、やっと自分だけの時間が取れるようになった世代。そんなエアポケットのような時期に思い出すのが、懐かしい昔のことです。
亡き親からもらったものや、親族の形見、若い頃気に入っていた服やアクセサリー。子供のベビー服や作品、写真など、思い出を捨ててしまうようで処分できない人が多いようです。
家に人を呼ばなくなる
家の玄関は、家の「顔」。誰かが訪ねてきたときに、まず目にする場所ですね。
親が若かったころは、毎日家のまわりのゴミを拾ったり、水を撒いたりしてきれいにしていたことでしょう。特に来客があるときは、恥ずかしくないよう念入りに掃除をしたはずです。
また、道路から見える場所にある庭にも気を遣うものです。庭木を美しく剪定したり、道に散らかった落ち葉を片付けたりと、きれいにしますね。
人を招こうという気持ちが下がってくると、玄関や庭が散らかり始めます。毎日、掃除することができない、また、する気持ちもなくなっているわけです。
他人に自分の領域を荒らされたくない
家や部屋を整理されることを嫌がる高齢者は少なくありません。
散らかっていようが、自分の部屋にあるモノは自分のモノだから、他人に「要・不要」を決定される筋合いはないというわけです。
特に、親御さん自身が片付けの必要を感じていない場合、「今要るから置いているモノ」なのに、たとえ子供であっても、人から「捨てましょう」などと言われたくない。高齢者になるほど、この傾向は強まるようです。
セルフネグレクト
最近よく聞くようになった言葉に「セルフネグレクト」という現象があります。
セルフネグレクトとは、自分自身の生活に対して「やる気」をなくしてしまい、全てを放棄してしまうことです。
精神的に不安定になり、生活が荒れてしまうセルフネグレクト。自分の殻に閉じこもり、心に壁を作りプライドが高くなります。
もしも第三者が勝手に掃除したり、口出ししてきたりすると激しく抵抗し、非常に攻撃的になることがあります。
そんななかで、アルコールに依存したり、酒類の空き容器や弁当ガラなどがどんどん増えていき、ついにはゴミ屋敷となることがあります。
ためこみ障害
本当はそんなにたくさんの食材はいらないはずなのに、食材を切らすといけない気がして大量に買ってしまう。その結果、使いきれずに腐らせてしまったり、傷みかけた食品を食べて健康を害してしまったりする人も少なくありません。
まだあるのに、トイレットペーパーやティッシュペーパー、石けんやシャンプー、洗剤などといった生活用品をつい買ってしまうことはないでしょうか。腐らないものほど、買いだめをする高齢者が多いようです。
あまりにもモノを捨てられない、また、モノがないと不安でたまらない人は、「ためこみ障害」という心の病気を抱えている可能性があります。
家の中が足の踏み場もない状態になるようなら、精神科(神経科)を受診し、心理療法などで解決していくことが必要かも知れません。
「福祉整理」とは?
超高齢社会を迎え、「おひとりさま」の高齢者が激増しています。さらに、認知症を発症したり、身体の自由が利かなくなったりする人も増えています。
自分で身の回りのことができなくなった高齢者は、次第に劣悪になる環境の中で生活していかなくてはならなくなります。
「福祉整理」とは、介護や福祉に関わり、高齢者が健全な生活を続けるために住環境を整えることをいいます。
- 施設入居・入院に伴う家財整理・撤去
- 認知症の人の住環境整理
- 自宅介護のための不用品整理
- 定期的なハウスクリーニング
施設入居・入院に伴う家財整理・撤去
介護施設に入居したり、末期がんなどで入院すると、再び自宅に帰って生活することはほぼなくなります。施設や病院には最低限のものしか置けないため、これまで暮らしていた自宅や部屋を整理する必要が出て来ます。
入所・入院が必要な状態なので、もちろん高齢者自身で部屋を片付けることはできません。そんなとき、本人に代わって家財道具を整理・撤去します。
認知症の人の住環境整理
認知症で、家の中を汚したり、徘徊してごみや不用品を集めてきたりという行動をするようになることがあります。こういった高齢者が、ごみや汚物の中で暮らしているといったケースも少なくありません。
1人暮らしが難しくなった高齢者が、清潔で健康な生活を営めるよう、ごみを捨て、片付けをします。
自宅介護のための不用品整理
自宅で介護生活を送る人のための住環境を整えます。あまりにモノが溢れ、また、ごみ屋敷状態になっていると、介護する人が家に入ることができないでしょう。
また、介護用ベッドを入れる必要がある場合、まずは自宅を片付けて、ベッドを置く場所を作らなくてはなりません。
介護する人・される人が、双方気持ち良く生活するために不用品やごみを片付けます。
定期的なハウスクリーニング
要介護でなくても、自分で片付けや整理が難しい高齢者は増えています。
こういった人が安心して健康な毎日を送れるようにするため、定期的に整理やハウスクリーニングを依頼します。
少し汚れたり、ごみが溜まったりしても、定期的に片付けてもらえれば安心です。
遺品整理・生前整理との違い
「遺品整理」とは、故人が亡くなった後、遺したものや愛用品を整理することです。
不用品を仕分けし、必要なものを残しますが、遺言書があればその内容に沿って行う必要があります。
近年、耳にする「生前整理」「老前整理」は、「遺品整理」を本人が生きているうちに行うことです。自分にもしものことがあった場合、家族や親族に迷惑をかけないため、生きているうちに財産やものを整理しておきます。
これに対し、「福祉整理」は、部屋の衛生や健康な生活環境を整えることです。
部屋の整理という点では同じですが、将来来るであろう「死」を意識して行うというよりは、現在の生活を整備し、より良く生きていこうと「生」を意識して行われます。社会的・福祉的側面が強い整理であるといえます。
福祉整理の効用
福祉整理には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
- 部屋の中の危険がなくなる
- 衛生的になる
- 短時間で片付き、処分の手間が省ける
- 離れて暮らす家族も安心できる
部屋の中の危険がなくなる
片付いていない部屋には、危険がいっぱいです。
年を取れば取るほど、身動きが取れなくなっていきます。
高齢者は、足もとのモノが見えにくいことがあり、少し出ているコードや散らかったモノに足を引っかけたり、ちょっとした段差に対応できず、転倒・骨折するといった事故が頻繁に起きています。
また、高いところにあるモノを取ろうとして転んだり、なだれ落ちてきたモノでケガをしたりする事故も後を絶ちません。
福祉整理をして部屋が片付けば、こういった危険をグンと減らすことができます。
衛生的になる
ごみだらけで腐臭が漂い、害虫がゾロゾロと湧く中での生活……普通は、想像するだけでゾッとしますよね。
でも、体力・気力が衰えてしまった高齢者は、自分で整理整頓することができません。また、認知症などでものの判断が難しい場合があります。
そのため、決して望んでいるわけではないのに、衛生状態の悪い部屋で生活せざるを得なくなる人が増えています。
当たり前ですが、ごみだらけの部屋は衛生的によくありません。ごみやホコリは、ダニなどの害虫が好む環境です。汚部屋で暮らしていると、呼吸器系をやられ、健康を確実に損ないます。
福祉整理を利用すれば、体力が弱っている高齢の方が風邪や病気にかかるリスクを低くすることができます。
短時間で片付き、処分の手間が省ける
プロに整理を依頼すれば、短い時間で片付けてくれます。汚れの程度によっては、高齢者がデイサービスや病院に通っている間に清掃しておいてもらうこともできます。
もちろん、清掃に立ち合えますので、捨ててほしくないものがあれば立ち合って指示するとよいでしょう。
業者に依頼すれば、ごみなどはすべて処分してくれます。自分で分別する必要もないためラクです。まだ使える不用品があれば買い取ってもらうこともできるので、確認してみましょう。
離れて暮らす家族も安心できる
親御さんと離れて暮らしている家族なら、自分が帰り、親御さんと話し合いながらモノを整理するのが理想でしょう。
でも、離れて暮らす子供にとって、親の家(実家)を片付けるというのは大変な作業です。遠方に住んでいる場合は特にそうでしょう。モノの整理には、時間も費用も労力もかかります。
そんなときに、福祉整理を利用するとよいでしょう。プロの技術により短時間で清掃してくれ、不用品も処分してもらえます。
なぜ遺品整理の仕事があるのか
遺品整理の仕事をしているなかでよく頭に浮かぶのは、「人は何のために生まれてきたのか」ということです。
いろいろ考えますが、やはり行き着くのは「人は幸せになるために生まれてきたはず」ということ。現実には必ずしもそうとは限らないので、余計にそう思うのでしょうか。
でも、ご本人さまにも、遺族の方にも、少しでも幸せに、健康に生きていただくために、また、亡くなったあとにも「これでよかった」と喜んでいただくために、私たちは仕事をしています。
遺品整理、生前・老前整理、福祉整理、何でもご相談ください。