人が最期を迎える場所は病院が最も多く、約8割を占めますが、近年は最後まで自宅で過ごしたいと考える人が増えているようです。
自宅でも十分なケアを受けることはできるのでしょうか。
今回は、ターミナルケア(終末期医療)を自宅で行う方法やメリットなどについて見ていきましょう。
目次
ターミナルケアとは?
まず、ターミナルケアについて見ていきましょう。
ターミナルケアとは?
ターミナルケアとは「終末期医療」ともいい、病気や障害、老衰などによって終末期を迎えた患者に対して行われる医療・看護・介護ケアのことです。
終末期とは、あらゆる医療の効果が望めず、余命が数ヶ月以内と診断された時期のことを指します。
ターミナルケアは、延命を目的としていません。
回復の見込みがなく、積極的な治療が行えなくなったり、老衰や認知症で寝たきりとなり、自力で食事がとれなくなったりした時に、患者が最後まで人間としての尊厳を保ち、痛みやストレス・不安などを和らげて、少しでも穏やかに過ごせるようにすることが目的です。
その意味では、一般的な治療とは異なります。
緩和ケアやホスピスとの違いは?
ターミナルケアに似たものに「緩和ケア」や「ホスピス」があります。
緩和ケアは、主にがん患者に対して行われるもので、治療を行うと同時に、痛みや倦怠感など身体的な苦痛の緩和と予防、また、悲しみや不安など精神的な苦痛を和らげていくことによって、生活の質を改善していくアプローチのことです。
緩和ケアは、全国のがん診療連携拠点病院ならどこでも受けることができます。
また、通院・入院のほか、自宅でも受けられます。
ホスピスは、入居した人が、最期の時を心穏やかに過ごせるような場や環境のことです。
病院の中にある緩和病棟や、落ち着ける自然の中などに作られている施設、また、ホスピスプランがある有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅もあります。
ホスピスでは、病気の完治を目指す治療は基本的に行いません。
抗がん剤の使用や手術は行わず、病気による苦痛を和らげる治療やケアを行います。
身体的苦痛のほか、精神的な悩み・経済的な悩みを解決できるようサポートしてもらえます。
ターミナルケアの内容とは?
ターミナルケアでは、主に身体的ケア、精神的ケア、社会的ケアの3つが行われます。
その内容について見ていきましょう。
身体的ケア
ターミナルケアでは、延命治療や病気を治すための治療は行わず、本人や家族の意思に寄り添ってケアプランを立てます。
痛みなどの症状を投薬などで和らげたり、日々の生活で行う着替えや排泄の介助、移動などがストレスなくできるようサポートします。
身体を清潔に保つための入浴介助、入浴が困難な場合は全身の清拭を行います。
このほか、髪の手入れやメイクなど、身だしなみのサポートも行います。
寝たきりになってしまった場合には、床ずれができないよう、体の向きを入れ替えます。
このように、本人が最期まで快適に過ごせるようサポートするのが身体的ケアです。
精神的ケア
最期を前にした本人にとって、死に対する不安や、この世に対する心残りが最もつらいと言えるでしょう。
このような不安や心残りを完全に吹っ切ることは困難ですが、少しでもリラックスできるよう、ベッドの周りをととのえます。
たとえば、思い出の品や大切にしているものをそばに置いたり、好きな音楽をかけるなど、利用者本人が穏やかな気持ちになれる空間をつくります。
また、家族や友人と一緒に過ごす時間をつくり、孤独を感じさせないようにする工夫も必要です。
社会的ケア
入院したり、介護を受けたりするためには費用がかかります。
この、費用の負担が利用者本人に重くのしかかってくることもあります。
このような場合は、ソーシャルワーカーと話し合い、医療費の負担を軽減できるかどうか相談することができます。
自宅でターミナルケアを受けるには?
以前は、自宅の場合、十分な介護や医療体制を整えることが難しかったため、自宅で最期を迎えることは難しいケースが少なくありませんでした。
しかし、2015年、介護保健法が改正され、在宅医療を支える仕組みが制度化され、現在では自宅でのケアが受けやすくなっています。
自宅でターミナルケアを受けるために必要な条件とは?
自宅でターミナルケアを受けながら最期を迎えるためには、以下のような条件が必要です。
- 本人と家族に「自宅で最期を迎えたい」という意思があること
- 在宅医や訪問看護などの医療チームの体制が整えられること
- 家族や介護サービスによって介護が可能であること
- 医療・介護が24時間体制でできること
特に、24時間体制で医療・介護が連携できることは非常に大切なポイントです。
医療面と介護面が充実してこそ、本人と家族にとって心強く、満足のいく看取りができると言えるでしょう。
ターミナルケアはいつ始める?
がんなどの病気の場合、治療の効果が見込めるかどうか、また、病状から予測される余命がどのくらいかを考慮して、開始のタイミングを決めます。
しかし、ターミナルケアを始めるということは、「延命をあきらめる」とほぼ同じ意味です。
それだけに、ターミナルケアを始めるかどうか、また始めるタイミングを決めることは、非常にデリケートな問題と言えるでしょう。
そのため、本人や家族の意思を尊重した上で医師の判断を仰ぎ、開始時期を決めるのが理想的です。
ターミナルケアを受ける期間は、通常3〜6ヶ月程度にことが多いようです。
認知症や老衰の場合は、一般的に、寝たきりになり、介助があっても食事ができなくなった時がターミナルケアの開始時期とされています。
認知症の場合、本人の意思を確認することが難しいため、家族が判断することになります。
自宅でターミナルケアを受けるために必要な準備とは?
自宅でターミナルケアを受けるために必要な準備は、以下の通りです。
1)ケアマネージャー、在宅医を探す
自宅でターミナルケアを受けたいという意思が固まったら、地域包括センターに行きましょう。
窓口で相談して、在宅医療や看取りに関してアドバイスできるケアマネージャーと、在宅医を探します。
かかりつけ医がいる場合は、往診や、看取りまで対応してもらえるか相談してみましょう。
2)看取りチームをつくる
本人や家族の状態に応じて、
- 在宅医
- 薬剤師
- 訪問看護師
- 理学療法士
- 管理栄養士
- 介護福祉士
などから成る看取りチームをつくります。
これらのチームは、それぞれ連携して、自宅でのターミナルケアを支えます。
家族の果たすべき役割とは?
家族は、患者本人が穏やかに過ごせる環境づくりをするのが大きな役割です。
できるだけ以前と変わらない雰囲気で、本人がリラックスできるような空間をつくりましょう。
ターミナルケアの利用者は、費用に関する心の重荷のほか、「会社や家族に迷惑をかけている」「自分がいなくなってもこの世は変わらない」などというマイナス思考に陥りやすいものです。
本人の気持ちに寄り添い、孤独を感じさせないような環境づくりをしましょう。
自宅でターミナルケアを受けるメリットとは?
自宅でターミナルケアを受けるメリットは、いろいろあります。
家族で過ごせる
自宅でのターミナルケアで最も大きいメリットは、残された時間を住み慣れた自宅で家族と一緒に過ごせることでしょう。
自宅であれば、病人の状態をいつでも確認することができ、病院への往復の負担がなくなります。
また、昨今のコロナ禍により、病院では面会できなかったり、短時間しか会えないところも増えていますが、自宅でのケアならいつでも顔を見ることができます。
本人の肉体的・精神的負担が軽減できる
ターミナルケアによって痛みなどの肉体的苦痛が緩和されます。
ケアマネージャーをはじめとする看取りチームの連携によって、手厚いケアを受けることができるでしょう。
また、自宅で過ごすことにより、1人きりで過ごすことがなくなり、精神的不安も軽減されます。
本人・家族の納得のいくケアが受けられる
ケアチームの連携や、本人。家族の希望に沿ったケアプランを立てることで、納得のいくケアが受けられます。
ケアプランは、状況や気持ちの変化によって修正することも可能です。
自宅でターミナルケアを受けるデメリットとは?
自宅でのターミナルケアには、デメリットもあります。
一番のデメリットは、家族と一緒に過ごすため、介護の負担が家族にかかりがちになることです。
ケアマネージャーに相談して、ヘルパーや介護サービスを利用するなどの対策が必要でしょう。
また、ケアチームとは日頃からコミュニケーションを取っておく必要があります。
状態の変改によって、訪問看護や訪問介護の頻度も変化します。
さらに、急変や、いざというときに、長々と経過説明をしている時間はありません。
普段から連絡を密にし、素早く動けるようにしておく必要があります。
自宅でケアを受ける場合、介護の中心は家族となります。
家族にも大きな覚悟が必要であることを心しておきましょう。
まとめ
ターミナルケアは、延命治療をせず、できるだけ穏やかに最期を迎えさせるケアです。
ターミナルケアは自宅でも行うことができますが、それにはケアマネージャーや在宅医を探し、ケアチームをつくる必要があります。
家族は介護の中心となりますが、ヘルパーや介護サービスなどを利用して負担を減らしましょう。
ターミナルケアは、何年も続くことはありません。
本人に安らかな最期を迎えさせるためには、有効な選択肢と言えるでしょう。