親が亡くなった際、遺言書の有無は相続に大きく影響します。
自分で書いた「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」については、親が保管していそうな場所を探すしか方法はありません。
しかし、平成元年以降、公証役場で作成された「公正証書遺言」であれば、「遺言検索システム」を使って調べることができます。
今回は、遺言書の探し方について見ていきましょう。
目次
遺言書とは?
「遺言書」とは、財産を所有する人が、自分の死後にその財産をどう分けるかの意思を示した書面です。
似ている言葉に「遺書」がありますが、遺言書と遺書は違います。
「遺言書」は、遺産の分け方を示した法的な書類です。
しかし「遺書」は、自分の気持ちなどをしたためた手紙のようなもので、法的な効力はありません。
「遺言書」では、自分の持つ財産を、誰に、どのように譲るかという意思表示ができます。
遺言書がある場合、基本的にその内容通りに遺産相続が行われることになります。
遺言書がない場合は、民法で定められている、遺産を相続する権利のある人(法定相続人)全員で協議を行って、どのように相続するか決めることになります。
遺言書には種類があるの?
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
どのような違いがあるのでしょうか。
自筆証書遺言
「自筆証書遺言」とは、自分で書いた遺言のことです。
“自筆”の言葉通り、自分の肉筆で書く必要があり、パソコンなどで作成したり他人が代筆したりものは無効となります。
所定の書式に従って書く必要があり、追加や修正する場合も、決まったルールに従わなくてはなりません。
自分1人で作成できるため、遺言書の内容を秘密にできます。
また、費用もかかりません。
しかし、書式に間違いなどがあった場合、無効になってしまうので注意が必要です。
また、自分で保管するため、紛失したり書き換えられてしまったりするリスクがあります。
公正証書遺言
「公正証書遺言」は、公正証書による遺言で、公証役場で公証人が作成します。
“公正証書”とは、国の機関が作成して保管する書類のことです。
裁判官や検察官など過去に法律実務に携わった者から法務大臣によって任命された法律の専門家である公証人が作成します。
その際には2人以上の証人が立ち会う必要があります。
そのため、偽造や改ざんの心配がありません。
また、公証役場で保管するため、紛失の心配もありません。
ただし、公証人と証人とはいえ、遺言書の内容を第3者に知られてしまうことになります。
また作成に費用や時間がかかります。
秘密証書遺言
「秘密証書遺言」は、公証人と2人以上の証人に遺言書が存在していることを証明してもらう遺言書です。
公証人、証人、相続人含め、本人以外の人は内容を見ることができないため、遺言書の内容を秘密にすることができます。
秘密証書遺言の場合、自筆である必要はありません。
パソコンでの作成や、代筆してもらうこともできますが、代筆の場合は代筆した人には内容がわかってしまいます。
証人がいるため、改ざんなどの心配がありません。
公証役場に行く必要があり。作成に費用はかかりますが、公正証書遺言に比べて手数料は安く済みます。
しかし、自分で保管するため、紛失したり、死後に発見されないリスクがあります。
また、自分以外は内容を見ることができないため、書式などが間違っていると無効になってしまう危険性もあります。
遺言書の探し方は?
相続手続きを行う際、まず最初に確定しなければならないのが、遺言書の有無です。
遺言書があるかないかで、その後の流れや手続きが全く変わってきます。
とは言っても、遺言書はどうやって探せばよいのでしょうか。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、家族の誰かが保管場所を聞いていない限り探す必要があります。
よくある保管場所としては、自宅の書斎の引き出しの中や金庫の中、仏壇の中などに保管されているケースが見られるようです。
そのほか、相続人や知人・友人、また銀行の貸金庫などに保管されていることもあります。
まずは、故人とお付き合いのあった人や関係先に、遺言書の有無について聞いていないか問い合わせてみましょう。
また、故人が弁護士・税理士・司法書士・行政書士など、遺言作成の専門家とお付き合いがあった場合や、銀行などとの関係が明らかになった場合は、そちらに問い合わせましょう。
遺言書について誰も聞いていない場合は、故人の持ち物の中に遺言書がないか探すことになります。
遺言書のことを頭に置きながら遺品整理をしましょう。
法務局に自筆証書遺言を保管できる
令和2年7月から、自筆証書遺言を対象とした遺言書保管制度が始まりました。
もし、遺言者がこの制度を利用していれば、遺言者の死後、相続人や遺言執行者、受遺者などは、法務局に出向くことで遺言書を確認できます。
公正証書遺言
公正証書遺言の場合は公証役場に保管されているため、最寄りの公証役場に問い合わせましょう。
昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言については「遺言検索システム」を利用できます。
公正証書遺言は公証役場をデータで管理しており、以下を全国どこからでも検索できます。
- 遺言の有無
- 公正証書遺言を作成した公証役場名
- 公証人名
- 遺言者名
- 作成年月日など
ただし、遺言に関する秘密を守らなくてはならないため、このシステムを利用できる人は限られています。
遺言者の生前は、遺言者しか利用できません。
遺言の有無や内容は遺言者の個人情報となるため、遺言者が存命中である限り、本人以外の人は利用できません。
ただし、遺言者からの委任があった場合は、代理人も利用が可能です。
遺言者が亡くなったあとは、相続人や受遺者、遺言執行者などの決められた利害関係人が利用できます。
また、相続人、利害関係人からの委任があれば、代理人も利用できます。
公正証書遺言を作成した場合、遺言者に正本と謄本が交付されるため、遺言者が自宅や貸金庫などで保管している可能性もあります。
重要書類を保管していそうな場所を探すと見つかるかもしれません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言を作成するには公証人が関与するため、公証役場に行けば、遺言を作成した事実があるかがわかります。
とはいえ、遺言書そのものを公証役場で保管しているわけではありません。
ですから遺言書本体については、自分で探さなくてはなりません。
遺言書が見つかったらどうする?
親の遺言書を発見した場合、それを正しく相続に反映させるためには、どうすれば良いのでしょうか。
自筆証書遺言・秘密証書遺言
家庭や貸金庫などで見つかった自筆証書遺言や秘密証書遺言は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に「検認」の申し立てを行う必要があります。
「検認」とは、遺言書を開封するための手続きです。
相続人に対して遺言の存在・内容を知らせるのはもちろん、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付・署名など、遺言書の内容を明確にします。
検認は、裁判所が遺言の形式や状態を確認して、改ざんやすり替えなどを防ぐための手続きです。
ですから、遺言書を勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所以外で開封すると、5万円以下の過料を科される恐れがあります。
また、検認をしないで遺言を執行した場合も、同様の過料を科されるので、検認は必ず受けましょう。
検認後は、裁判所に検認済証明書の申請をして、遺言書に「検認済証明書」をつけてもらいましょう。
遺言に基づいて相続手続きを進めるのはそれからです。
法務局に保管されていた自筆証書遺言・公正証書遺言
遺言書保管所(法務局)に保管されている自筆証書遺言は、保管されているということによって改ざんやすり替えの心配がありません。
また、公正証書遺言は、公証人によって作成され、原本が公証役場に保管されているため改ざんやすり替えなどの心配がありません。
ですからどちらも検認手続きを申し立てる必要はありません。
遺言書保管所で交付してもらった「遺言書情報証明書」や、公正証書遺言の正本または謄本に記載された遺言に基づいて相続手続きを進めましょう。
まとめ
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があり、それぞれ保管方法が異なります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、保管場所を探す必要があります。
見つかった場合、公正証書遺言以外は家庭裁判所の検認が必要です。
公正証書遺言は公証役場に問い合わせることによって有無が判明します。