遺品整理で出る“大物”と言えば、ベッドやタンスなどの大型家具などを思い浮べるかもしれません。
しかし、この他にも“大物”があるのです。それも、処分にかなり困るモノが。
それは、仏壇や神棚です。
まず、処分の仕方がわからない。しかも、その中に神さま、仏さまがいるとされている……。
日本人であれば、それがたとえ自分のものでなくても、処分するものであっても、ぞんざいに扱ってはいけないと感じる人がほとんどではないでしょうか。
最近は仏壇や神棚がないお宅も増えているので、よけいにそう感じる人が多いかもしれません。
何となく怖いな、もしも下手に処分したらバチが当たるのかな? なんて思ってしまいますよね。
大金を払ってご祈祷をしてもらわなくてはいけないのか?
ほかにも供養が必要なのか?
実際に不用品として処分する際は粗大ゴミに出せるのか?
など、わからないことだらけなのではないでしょうか。だからこそ、仏壇や神棚は“困った大物”になってしまうんですね。
今回は、そんな宗教物の処分についてみていきましょう。
目次
仏壇など仏教の宗教物の処分
最近、住宅事情などから仏壇の面倒を見られなくなり、処分する人が増えているようです。
しかし、祖父母や両親が、毎日お水を替えたり、手を合わせたりしてきた仏壇です。仏さまやご先祖さまに失礼にならずに処分するには、どうしたらよいのでしょうか。
- 閉眼供養
- 閉眼供養が終わったら
- 仏具について
- 供養ができない場合
閉眼供養
仏壇そのものは、粗大ごみとして廃棄することができます。
ただし、その前に必ずしなければならないことがあります。それが「閉眼供養」です。
「精抜き」「魂抜き」ともいわれるもので、僧侶に読経をしてもらい、仏壇に宿っている魂を抜き取る儀式です。この供養を行うことで、仏壇は「ただのモノ」になり、安心して処分できるようになります。
処分の時だけでなく、仏壇を別の場所に移動させたり、修理やリフォームをしたりする場合にも閉眼供養は必要です。ご先祖様の魂に安らかに過ごしていただくため、必ず行いましょう。
閉眼供養は、開眼供養(仏壇に魂を入れる法要)をしてもらったお寺や、葬儀や法事でお世話になったお寺に依頼するのが一般的です。
開眼供養をしているかどうか分からない場合は、菩提寺に確認しましょう。
開眼供養については、ご先祖の魂が宿っていないため閉眼供養をする意味がないとするところと、していなくても仏壇にはご先祖様の魂が宿っているので供養するべきとするところに分かれるようです。こちらも、菩提寺に確認して行なうかどうか決めます。
閉眼供養は、通常、家族のみで行われます。喪服を着る必要はありませんが、「法要」ですので、落ち着いた色合いの地味な服装にしましょう。派手な服装やメイク、Tシャツなどラフすぎる服装は避けます。
閉眼供養の際のお布施(料金)は、お寺や宗派によって違います。こちらも、事前に菩提寺に確認してください。
閉眼供養が終わったら
法要が終われば、仏壇は「ただのモノ」になりますので、粗大ごみの収集に出すことができます。こちらは、地域の自治体にそのまま出せるのかどうか、また、料金などを確認しておきましょう。
購入した仏壇店で引き取ってもらえる場合もあります。新しく買い替えるときには無料で引き取ってもらえますが、処分の場合は有料となることが多いようです。
また、閉眼供養を依頼したお寺で引き取ってもらえる場合もあります。事前に確認しておくとよいでしょう。
仏具について
仏具とは、仏壇の中や前に置く道具全般のことです。僧侶に法要を行なってもらう際や、日々の供養のための道具で、もし破損・汚損したら取り替えることが可能なものを指します。
同じ仏壇内にあっても、仏像や掛け軸、位牌、遺影などは、取り替えが不可能なものは、開眼供養の際に魂が入れられ、ご先祖や故人が宿るので、仏壇と同等の扱いになります。
しかし、仏具は供養の対象ではありませんので、処分の際、特に供養が必要ではなく、そのまま廃棄処分してOKです。
仏具には次のようなものがあります。
- おりん
- 木魚
- ろうそく立て
- 線香立て
- 花立て、香炉
など。木製のもの、金属製のもの、樹脂製のもの、陶器など様々ですね。
廃棄するときは、普通のごみと同じように、可燃か不燃、資源ごみなど、自治体のルールに従い分別して出します。
おりん、ろうそく立てなどは、真鍮製が多いので、リサイクルの対象になります。
数珠は、樹脂製のものと石でできたものがありますので、注意が必要です。
線香やろうそくなどの消耗品や、経本などは燃えるごみ扱いになります。
処分する際には、あらかじめ自治体に処分の仕方を確認しておくと安心です。
供養ができない場合
仏壇・仏具を自分で処分できない、したくない
近所に知られたくない
僧侶が見つからない
など、何らかの理由や事情で法要を行なえない場合や処分ができない場合は、遺品整理業者にご相談ください。
遺品整理で仏壇を引き取る際に、供養を代行したり、代行業者をご紹介したりすることができます。
神棚など神道の宗教物の処分
神棚は、もしかしたら仏壇よりも“畏れの念”を感じる人が多いかも知れませんね。子どもの頃、何かいたずらをすると「神さまに怒られるよ」と叱られた人もいるでしょう。
でも実は、宗教物の処分は神道が一番簡単かもしれません。
神道には、仏教でいう経典やキリスト教の聖書のような、共通の教えやルールが存在していません。そのため、宗教物の処分についても「こうでなくてはならない」という決まりがないわけです。
そのなかでも、代表的な処分の仕方を知っておきましょう。
- お焚き上げをする
- 神社で祈祷する
- お札を返す
お焚き上げをする
神棚を、神社で「お焚き上げ」(焼却処分)してもらいます。神社でのお焚き上げは年に数回行われているので、近所の神社に確認してみましょう。
お焚き上げは、神棚の内部にある神具も一緒に行うことができます。ただし、陶器や金属類、ガラスなど燃えない素材は不可という神社もあるので注意が必要です。神棚の扉ガラスなどは、あらかじめ外しておきましょう。
近年、都心では境内でものを燃やせない地域もあります。そのような場合は、遺品整理業者にご相談ください。お焚き上げを代行したり、代行業者をご紹介したりすることが可能です。
神社で祈祷する
不用なった神棚を神社へ持参し、神職の方にご祈祷してもらいます。
社務所や祈祷受付所で、「神棚処分のための祈祷」の申し込みをします。すると、祈祷殿・祈祷所と呼ばれる別棟へ案内され、祈祷に立ち会うことができます。
神棚は祈祷後、神社で廃棄処分してもらえます。
神棚のご祈祷を受け付けているかは、神社によって違います。事前に確認しておきましょう。
お札を返す
神棚の中に入っているお札を取り出します。そして、ほとんどの神社に設置されている「お札返納所」へお札を返納します。
神棚本体は、ごみとして廃棄してOKです。中のお飾り(鏡、お狐さま、神具など)もそのまま捨てて問題ありません。ただし、地域の分別ルールに従って出してください。
神棚の処分に関して、神社によっては「何もせず、そのまま廃棄してOK」というところもあるようです。あまり難しく考えず、あなたが精神的にスッキリする方法を選べばよいのです。
心配であれば、最寄りの神社に確認して処分すると安心ですね。
ロザリオなどキリスト教の宗教物の処分
キリスト教には、ロザリオや不思議のメダイ、聖画像や聖書、また家庭用祭壇などの宗教物があり、「信心用具」といいます。
これらは、ごみとして処分してOKです。故人のものでなく、古くなったり破損したりしたものの場合でも同じです。
なぜなら、キリスト教においては、信心用具は、礼拝の対象ではなく、あくまでそれらを介して神を礼拝する「道具」に過ぎないからです。
日本では仏教が主流なので、ご先祖さまや故人の霊が宿る仏像や仏壇、位牌そのものが信仰の対象となります。
仏像や仏壇は単なる「モノ」ではありませんし、処分するときには「閉眼供養」が必要となります。
そういった文化・風土の中で生まれ育ったわけですから、たとえクリスチャンであっても、信心用具をごみとして捨てることに抵抗のある人も多いでしょう。
しかし教会には、壊れた信心用具などを集めて「供養する」というような習慣や考え方がありません。
もちろんキリスト教においても、信心用具などを祝福する(※祝別といいます)ことはあります。
しかし、その場合でも、品物に魂を入れているわけではありません。
それらを用いて祈る人や、身につける人に神様の恵みがありますようにと祈っているに過ぎず、用具そのものが聖なるものになるわけではないのです。
ですから、信心用具は、ごみとして捨てても信仰上、何の問題もありません。自治体のルールに従い、分別して廃棄すればOKです。
ただ、やはりこれまで愛用していた道具をポイと捨てることに抵抗のある人もいるかも知れませんね。
その場合は、外から見えないようにしたり、元の形があまり目立たないように分解したりして処分するとよいでしょう。
教会や教会関係の施設を建設する際に、古い信心用具を土台部分に埋めたりすることもあるようです。また、古くなった信心用具を回収してくれる教会もあるようです。
捨てることにどうしても抵抗のある人は、教会の責任者に相談してみましょう。
イスラム教の宗教物の処分
日本ではイスラム教は少数派ですが、古くから神戸、名古屋などにモスク(回教寺院)があり、一定数の信者が存在しています。
イスラム教で最も大切なのは、毎日の礼拝で、1日のうち5回、決まった時間に行います。イスラム教では偶像崇拝を禁じているので、宗教物は礼拝に関するものがほとんどのようです。
コーラン(クルアーン)
イスラム教の経典です。
コーランを30に分けた巻を「ジュズ」といい、コーランを覚えるのに使われています。
タスビーフ
イスラム教における数珠で、タスビ、スブハ、ミスバハなどとも呼ばれます。
イスラム教では、礼拝の際に同じ言葉を何度も繰り返し唱えるので、回数をカウントするために使います。数珠で回数が分かれば、数にとらわれることなく祈りに集中できるからです。
珠が33個のものと99個のものがあり、1人で複数のタスビーフを持つのが一般的です。しかし、タスビーフは単に祈りの回数を数えるカウンターとしての意味しかないようです。
キブラマーク
礼拝はメッカに向かって行うため、メッカの方向を示すものです。
コンパスとセットで売られていうことも。
サッジャーダ
礼拝用のマットです。1人分のスペースを確保する大きさです。
イスラム教の礼拝では額を床につけるため、マットを敷きますが、なくても構いません。
聖石
シーア派が礼拝時に使用します。シーア派では礼拝の際、自然物に額がつくようにするため、こういった石を使います。
アスマ=アル・ウスナ
アラーの良い名前のリストです。イスラムには、全部で99の神の名前があります。コーランにも書かれているので、通常はコーランの中で見ることができます。
これを覚えることは義務ではありませんが、暗唱できれば善行であると考えられています。
アヤット・クルシ・カリグラフィ
アヤット・クルシは、コーランの2章・255節が記されています。礼拝後に、アヤット・クルシを唱えると、悪い霊から家族や生活を護れると考えられています。
必ず飾らなくてはならないものではなく、装飾として使ったり、魔除けのお札として飾る家庭があるようです。
イスラム教において、これらの宗教物は単なる道具であり、そこに神が宿るといった性格のものではありません。
あるモスクによれば、不用となった宗教物は、誰か欲しい人、それを使いたい人にあげてよいそうです(たとえ壊れていても)。
どうしても欲しい人、もらってくれる人がいなければ、自治体のルールに従い、ごみとして出して問題ありません。
しかし、それでもやはり日本人は、宗教物を普通に捨てることに抵抗がある人もいますよね。捨てることにためらいがある人は、もう使わないものとしてよけ、しまっておくそうです。
宗教物の処分で一番大切なのは・・・
家族であっても、同じ宗教を信仰しているとは限りません。ましてや、離れて暮らしていた場合はなおさらです。
宗教に関するものはデリケートなので、扱いに悩んでしまいますよね。
そんなとき、一番確実なのは、やはり、その宗教を司るお寺や神社、教会や寺院などに問い合わせることです。
故人が、たとえ知らない宗教や、自分とは違う宗教を信仰していたとしても、何かを信じる心や敬虔な気持ちは同じはず。故人の心を大切にして、適切に処分したいものですね。