モノがあふれた部屋……。
あまりにモノが多過ぎて足の踏み場もなく、常にモノをまたがないと移動できない。そのうち、何かにつまずいて転ぶ。親の家が、そんな状態になっていませんか?
高齢者は、ちょっとしたことでも大きなケガをしやすいもの。ケガをしたために寝たきりになったり、認知症が始まるといったケースもあります。
そんな事態に陥らないためにも、できるだけ親が元気なうちに家のなかのモノを整理しておきたいものです。
目次
生前整理:生前に親と向き合う重要性
少子高齢化が進む現在の日本。また、核家族化も進み、1人で暮らす高齢者が急激に増えています。
そんななか、問題になっているのが、家にあふれる「モノ」です。最近は「親の家(実家)を片付けたい」=「親家片(おやかた)」などと言われていますね。離れて暮らす子供にとって、親の家(実家)を片付けるというのは大変な作業です。遠方に住んでいる場合は特にそうでしょう。親が亡くなったあとの遺品整理には、時間も費用も労力もかかります。
人の死は、突然訪れるもの。葬儀などで精神的、肉体的にも疲弊している先に待っているのは「ゴミ屋敷」の片付け……。
そんな自体に陥らないよう、親が元気なうちに、真摯に向き合ってみませんか?
- なぜ、家にモノがあふれるの?
- 親との向き合い方
- 新しいライフスタイルを提案しよう
なぜ、家にモノがあふれるの?
親の家がモノであふれるのは、「もったいない」と感じる世代だから、とよくいわれます。まだ使える、いつか使う、だから捨てるのはもったいない……確かにそうした理由もあるでしょう。けれど、実はそれだけではないのです。
もうひとつの大きな理由は、健康問題です。
年を取ると、どうしても体力は衰えてきます。足腰が弱くなって、身体を曲げたり伸ばしたりすることも大変になってくるのです。
親御さんが、腰が痛い、ひざが痛いと言うのを聞いたことはないでしょうか。こういった身体の衰えから、モノを元の位置に戻す動作が億劫になってくるのではないでしょうか。
当然ながら、身の回りはだんだん散らかっていきます。そうしているうち、散らかった部屋に慣れてしまい、モノの上にモノを積み重ねるということにも躊躇がなくなっていきます。すると、モノはどんどん埋もれていく→ そこからモノを取り出すのが面倒になる→ どこに置いたのかもわからなくなる→ また同じものを買ってしまう、という悪循環に陥ります。
こうして、高齢者の家はモノであふれ返っていくわけです。
親との向き合い方
高齢者にとって、自身が死んだ後のことを考えるのは、あまり気分のよいものではないかもしれません。また、生前に自身に関することを整理しておくのは、「縁起が悪い」と思う人も多いでしょう。
特に、親自身が生前整理の必要性を感じていない場合、「いま必要なモノ」を置いているだけなのに、たとえ子供であっても、人から「モノを捨てましょう」などと言われれば、「老い先短いと言われているのか」と、気分を害してしまうこともあるでしょう。
また「あとで私たちが大変だから」といった理由で生前整理を勧めてしまうと、これもまた親の気持ちを傷つけることになりかねません。何といっても、まず親の気持ちになって、よいタイミングをみて勧めることが重要です。
生前整理を勧めるときは、「本当に今の自分に必要なものだけがある家で生活する」ことを主軸に話すとよいでしょう。
生前整理は、死後のことを考えて行うではなく、これからの人生を前向きなものにするために行うのです。ここ何年か「断捨離」や「ミニマルな生活」(ミニマリスト=最小限主義者の生活)が注目を浴びていますが、生前整理も同様です。ムダな不用品をなくした部屋で、自分が好きなモノ、本当に必要なモノだけに囲まれて暮らす――スッキリと身軽な生活は、清潔で、健康のためにも非常によいのです。
生前整理とは、「生きることを前提」に、これまでの人生を振り返り、モノだけでなく、心や思い出、生き方を整理すること。老後をより良いものにするために、元気なうちにやっておく。このような考えを子から提案すれば、親も動く気持ちになってくれるのではないでしょうか。
新しいライフスタイルを提案しよう
意外かも知れませんが、家がゴミ屋敷状態になる人のなかには、座卓やコタツを利用していることが多いようです。
コタツを使っていると、座っている場所を中心に、そこから動かず手が届く範囲にモノを置く、というスタイルになりがちです。この生活習慣の延長がゴミ屋敷につながるのではないでしょうか。
モノがあふれ返る家に住む人は、1人で生活している場合が圧倒的に多いです。また、ワンルームの部屋で収納スペースが少ないと、「汚部屋」になるケースが多く見受けられます。
また、最近多いのは、今までしっかり家事をこなしていた奥様が、ご主人に先立たれた後、家事をしなくなるというケースです。ご主人が亡くなった途端、家事を放棄することで、家がゴミ屋敷化してしまうのです。
逆に、ご主人が奥様に先立たれた場合は、さらにゴミ屋敷率が跳ね上がります。今の若い世代に比べ、男性が家事をすることが少なかった世代ですから、仕方がないかもしれません。
現代はそこに、コンビニエンスストアの台頭が絡んできます。今、コンビニは日本全国のあちこちにありますが、遺品整理の現場でも、コンビニで買ったお弁当とペットボトルが多いのです。
家事が億劫になったり、あるいは家事ができなくなった高齢者の家は、こうしてゴミが溜まり、いざというときに片付けられなくなってしまうのです。
そこで、親御さんに新しいライフスタイルを提案してはいかがでしょうか。
たとえば、運動を勧めてみましょう。散歩など軽い運動をしたり、ラジオ体操などで身体を動かしたり……。できれば親子で一緒に運動できるといいですね。
運動以外にも、新しい趣味を提案してみるのもよいでしょう。人に会う機会が増えれば、生活にハリが出てきます。人と会話したり新しい趣味に挑戦すると、認知症の予防にもつながります。
さらに、新しい趣味と併せて生前整理を勧めてみましょう。
現在の部屋が狭い、あるいは収納がないからといって新しいマンションに引っ越しするのは、高齢者にとって大変なことです。それよりも、もし親がコタツや座椅子をはじめとする「動かない生活」をしていたら、なるべく動くような生活を勧めたいものです。
もし机の上がモノでいっぱいになっていたら、こまめに片付けることを勧めたり、自身で片付く習慣がつくような環境を整えることです。これだけで、いざというときに片付けが困るような事態は避けられます。
実家のこんな兆候にご用心
子から見て、「実家を片付けたい」、「実家を片付けなくてはならない」と感じるのは、どんなときでしょうか。
まず、親からストレートに「家を片付けてほしい」と頼まれたときが挙げられます。次に、少し前まで元気だった親が急に年老いて見えたときです。
子供にとっては、いつまでも親は元気でいるような気がするものですが、残念ながらそうではありません。
もし親が年を取ったなと感じることがあったら、下記のポイントをチェックしてみてください。そこが、子供が実家の片付けを行うタイミングだといえます。
たまにしか会えなくても、いえ、たまにしか会えないからこそわかる変化を見逃さず、親をサポートしてあげましょう。
- 冷蔵庫や納戸の中が散らかっている
- 玄関や家の庭が汚れている
冷蔵庫や納戸の中が散らかっている
冷蔵庫や押し入れは、日々の生活と直結している場所です。
冷蔵庫には様々な食品や調味料が入っています。しかし、年を取ると食事の量が減り、また体力的な問題からも、家庭で料理を作る回数も減っていきます。
そのため、買った食材が残るようになります。かといって片付けるのも大変なので、冷蔵庫のなかは期限切れの食品で埋まっていくことが多くなります。
納戸や押し入れなど、生活用品をしまっておく場所も要注意です。
トイレットペーパーやティッシュペーパー、石けんやシャンプー、洗剤などといった生活用品の買い置きがあふれていませんか? これらは腐るものではないので、特に買いだめをする高齢者が多いようです。
押し入れなどにも、あなたが子供の頃から実家にあるようなモノが、30年、40年たっても押し込まれていませんか? こういった傾向が見られるようになったら、片付けを提案するタイミングといえます。
玄関や家の庭が汚れている
家の玄関は、家の「顔」。誰かが訪ねてきたときに、まず目にする場所です。
親が若かったころは、毎日家のまわりのゴミを拾ったり、水を撒いたりしてきれいにしていたことでしょう。特に、来客があるときは玄関を念入りに掃除したはずです。
また、道路から見える場所にある庭にも気を遣うものです。庭木を美しく剪定したり、道に落ち葉が散らかれば片付けたりしますね。
もしもそんな玄関や庭が散らかっていたら、これも親の「片付けよう」という気持ちが落ちている兆候です。毎日、掃除することができなくなっているのです。
実家に行ったとき、もし玄関に靴や傘などが散らかっていたり、庭が雑草だらけになっていたりしたら、親に片付けを提案するタイミングといえるでしょう。ぜひ注意して見てください。
生前整理の3大ポイント
では、生前整理とは具体的に何をすればよいのでしょうか。
そのポイントは主に次の3つがあります。
- 家族で相談する
- エンディングノートを作っておく
- 溢れるモノを処分する
家族で相談する
たとえ自身の実家であっても、結婚して家を出れば、そこはもう「親の家」です。子供だからといって、勝手に親の家を片付けるわけにはいきません。まずは片付けについて、家族でしっかり話し合うことが必要です。
遠方の場合は、家族が集まるお正月、お盆、法事、ゴールデンウィークなどに話し合うとよいでしょう。事前に、兄弟など他の家族と連絡を取り、片付けについて相談しておきましょう。
エンディングノートを作っておく
近年、終活の一環として注目されている「エンディングノート」を作りましょう。
エンディングノートとは、財産や葬儀、お墓などについて、自分の希望を書いておくノートです。財産目録、通帳や印鑑、友人・知人の情報など記しておけば、遺品整理がスムーズに行えます。
エンディングノートに情報を書き出すことによって、自分の持っているモノや希望を把握することができます。特にモノは、他人から見れば不用品でも、本人にとっては大切な思い出の品という場合もあります。
エンディングノートを作る過程で、残しておくモノ、捨てるモノを分けていきます。同時に、何を誰に形見分けをするか決めておくこともできます。
溢れるモノを処分する
写真に残す
思い出の品は、写真に撮って残しておきましょう。写真なら、スペースを取らず、いつでも見ることができます。
業者に引き取ってもらう
たくさん出て来た不用品を、一括して引き取ってくれる業者がいます。分別する手間もなく、短い時間で家がスッキリします。
生前整理や遺品整理の専門業者に依頼するのもよいでしょう。近年、遺品整理士という資格を持って活動している業者も増えています。遺品整理士は、処分する人の気持ちに添い、思い出や大事なこと大切にしながら、モノの整理をサポートしてくれます。
きちんとした料金システムを持ち、整理風景をWEBカメラで中継してくれたりする業者もいるようです。
生前整理で最も大切なのは「気持ち」です
生前整理で最も大切なのは、親の気持ちに寄り添うことです。
親が家を片付けない、モノを捨てないことに対して、子供がイライラしてはいけません。イライラや自分本位な気持ちは必ず相手に伝わるもので、親は尊厳は傷つけられ、拒絶反応を起こしてしまう可能性もあります。生前整理は、いずれ自分が片付けるのが大変になるからではなく、親の現在の生活や健康を考えて行う、ということを忘れないようにしましょう。
親にとって、子供はいつまでたっても子供です。子供が親のモノを頭ごなしに否定したり、「~してあげている」という気持ちでいてはいけません。
たくさんのモノのなかには、捨てなければならないモノも出てきます。しかし、それは「捨てる」ではなく、あくまで「片付ける」なのです。
自分ではなかなか捨てる決心がつかなくても、誰かが背中を押してくれることで、モノと一緒に気持ちも整理できるものです。親が元気なうちに、思い出を話しながら、整理を手伝えるといいですね。