生前整理で親と向き合うためには

生前整理で親と向き合うためには

遺品整理において、「生前整理」が注目を集めています。
超高齢化社会を迎えた日本で孤独死・突然死が増加しているなか、「生前整理」とは自身が生きている間に家の中を片づけたり、資産などを整理しておくというものです。
残される子どもたちに負担をかけないよう、自分の墓石・墓地を自身で購入する、葬儀の内容を取り決めておく、といったいわゆる「終活」を行う人も増えてきました。
生前整理も、そんな終活の中のひとつです。

しかし、どうしても自身が亡くなったあとのことを考えるのは、気が進まない人が多いでしょう。
生きている間に、自身に関することを整理しておくのは、「縁起が悪い」とみなしてしまうのも当然のこと。
それが、家族から終活や生前整理を進められれば、なおさら反発してしまうかもしれません。

一方、生前整理は高齢者となる親御さんだけでなく、子どもや孫などご家族にとっても大切な問題といえるのではないでしょうか。
親御さんが亡くなったあとに遺品整理を行うとなれば、時間も費用もかかります。
人の死というのは突然訪れるもので、葬儀も含めた対応に追われるのも大変なはずです。

そこでご家族から、親御さんに生前整理を薦めてみてはいかがでしょうか。
もちろん上記のとおり、ストレートに生前整理のことを伝えては、きっと親御さんも反発してしまうはずです。
今回はそんなご家族のために、親御さんに生前整理を薦めるためのポイントをご紹介します。

実家の片付けを提案する2大サイン

今回はすでに実家から離れ、結婚して自宅を持っている子が、実家にお住まいの親御さんに生前整理を薦めるケースを想定します。
現在、日本は核家族化が進み、高齢者夫婦のみの世帯が増えており、それゆえに孤独死・突然死が増えているからです。

では、まず「実家の中を片づけたい」もしくは「実家の中を片づけなければならない」と考えるのは、どんな時でしょうか。
それは親御さんから「家を片づけてほしい」と頼まれたり、「親が自分自身では片づけられないのかな?」と気づいた時が、最も多いかと思います。
人は必ず老いていきます。少し前まで元気であった親御さんが、次に会った際、急に年老いて見えることもあるでしょう。
年齢を重ねると、次第に体も動かしづらくなり、片づけも億劫に感じられるようになっても仕方ありません。特に足腰が弱くなる年齢では、小さな片づけも困難になっていきます。
反対にそれは家族が実家の片づけを行うサインとも言えます。そこで家族の方に気づいてほしい片づけのサインの、最たるものは次の2つです。

1)冷蔵庫や押し入れの中が散らかっている

冷蔵庫や押し入れは、親御さんの生活と最も密着している場所といえるでしょう。
冷蔵庫には様々な食品や調味料が入っています。しかし年齢を重ねると食事量も減り、体力的な問題から家庭で料理を作る回数も、次第に減っていくものです。
結果、買っておいた食材は残るようになり、けれど片づけることもできず、冷蔵庫の中に食品が溜まっていくことになります。

押し入れも同様に、生活用品をしまっておく場所です。
その中にトイレットペーパーやティッシュペーパーといった生活用品の買い置きが溢れている。あるいは、あなたが子どもの頃から実家にある物が、まだ捨てられず乱雑に押し込まれていたら、それは親御さんの片づけに対する気持ちが下がっているサインです。

2)家の前の庭や玄関が散らかっている

家の前の庭や玄関は、いわば家の顔。誰かが訪ねてきた時に、まず目にする場所です。
多くの人が自分の身体のなかでまず顔を洗ったり綺麗にするように、家も庭や玄関を片づけることを優先するはずです。
逆に、そんな庭や玄関が散らかっていたら、それも親御さんの片づけに対する気持ちが下がっているサインだと考えてください。

実家に立ち寄った時、庭が雑草だらけになっていたり、玄関に靴や傘、衣類が散らかっている。その場合は、親御さんに片づけを提案してみる良いタイミングだといえるでしょう。

生前整理の提案で注意しておきたいこと

実家を片付けるべきサインに気づいたあと、どのようにして親御さんに片づけと生前整理を促すか。その点にも注意すべきポイントがあります。
前述のとおり、親御さんからすれば子どもから生前の整理を要求されることは、自分自身が亡くなる時のことを考えられているようで、余計に気が進まなくなることもあります。

親御さんの生前整理のために気をつけておきたいこと
A)親御さんの意志を尊重すること
B)家族全員で整理を行うこと

実家は自分の家ではありません。親御さんの家です。同時に、家族全員の思い出が詰まった“故郷”でもあるという点に注意しましょう。
まず持ち主である親御さんに反対されては、実家の整理は進みません。
どのようにして親御さんに片づけと生前整理を促すか。それは親御さんの気持ちになって考えていくことが必要となります。
さらに兄弟など他に家族がいれば、家族全員で話し合ったうえで片づけを進めていきたいところです。
これは遺品整理にとって必要な、相続などのトラブルを未然に防ぐためでもあります。

最も大切なのは、親御さんの気持ちと向き合うこと。そして家族全員の気持ちと向かい合いながら、次のように生前整理を進めていきましょう。

生前整理を進めるための3つのポイント

1)家族が集まる時に生前整理を相談しよう

子どもが勝手に家を片づけたりすると、親御さんは良い気持ちは持たないはずです。
しっかりと片付けについて話し合っておくことが必要になります。
とはいえ普段は離れて暮らす親御さんや兄弟と、なかなか話し合う機会はないかもしれません。
そこで家族全員が集まるお正月、お盆、法事、ゴールデンウィークなどを利用しましょう。

話の切り出し方も、たとえば「テレビで片づけについて放送していて……」「○○さんが自宅を片づけていて……」と、親御さんにも身近に感じられる話題を振ってみると良いかと思います。
事前に他の家族と連絡を取り、みんなで親御さんに片づけを薦めるように相談しておくことも重要です。
この時、片づけを押しつけるような話し方は禁物です。自分自身が何かを押しつけられた場合、どんな気持ちになるでしょうか。
必ず相手の気持ちになって考え、話し合ってください。

2)家を片づけるメリットは他にもある

繰り返しになりますが、親御さんが生前整理に反発するのは、自身が亡くなったあとの話に感じられるから、というのが理由のひとつです。
もちろんネガティブな内容は避けたほうが良いですが、同時に家を片付けることのメリットは、生前整理だけではありません。

東京消防庁が発表したデータによれば、ここ数年で、高齢者の救急搬送の要因として「転倒」が高まっています。さらに、転倒事故の半数は住宅内で発生しているとのこと。
高齢になれば、足腰も弱くなり、次第に歩行も困難になっていきます。そんな状態で、部屋の中が物で溢れかえっていたら、どうなるでしょうか。
床に落ちているものに足をひっかけ、つまずいて転倒することも多くなるでしょう。つまり転倒事故に繋がってしまうのです。

さらに、内閣府による「高齢者の住宅と生活環境による意識調査」の結果では、転倒した高齢者の怪我で最も多いのは「打撲」です。その打僕も多くが骨折に及ぶとのデータを、東京消防庁も発表しています。
高齢になると、一般的に骨自体も弱くなります。少しつまずいて手、足、腰を打っただけでも骨折に繋がるかもしれません。
厚生労働省が平成25年に発表した「国民生活基礎調査の概況」でも、「要介護」になる原因の4位が骨折であり、その割合は全体の11.8パーセントという調査結果が出ています。

生前整理だけでなく、現在の日常を事故なく過ごすためにも、部屋の片づけが必要となることを、ぜひ親御さんにも説明してあげてください。

3)エンディングノートを作っておく

生前に実家を片づけておくことが、実家で親御さんが住みやすい環境を作ること、そして亡くなったあとの遺品整理をスムーズに行える生前整理に繋がることは、ここまでご説明してきたとおりです。

さらに実家の片づけを行いながら、「エンディングノート」を作成することをお薦めします。土地など権利関係の必要書類、通帳や印鑑、親御さんのお付き合いの情報などをノートに記しておけば、遺品整理の際に何かを探していても見つからない、といったケースも少なくなるはずです。

何よりエンディングノートを使った情報の整理は、実家の片づけと同時に行ったほうがスムーズに進むことは、言うまでもないでしょう。

エンディングノートについては、詳しくはこちらをご覧ください。

生前整理で最も大切なのは“気持ち”

生前整理で最も大切なのは、親御さんは他の家族の気持ちと向き合うこと、と先に述べました。
まず親が家の中を片づけない、あるいは気持ちが乗っていないことに対して、子どもがイライラを募らせることは厳禁です。
そんなイライラは必ず相手に伝わり、親子の関係に影響を及ぼす可能性があります。

実家の片づけで子どもが注意しなければならないこと
1)「捨てる」という言葉をできるだけ使わない。
2)「片づけてあげている」という気持ちを持たない

高齢者となった親御さんの多くは、戦後の物が少ない時代に生まれ育った方々です。
使える物はとっておくという気持ちが強く、そのために家に物が溜まり、一方で足腰が弱くなり、片づけられないという状態に陥っているケースも多いはず。
実家を片づけていくなかで、自分は捨てたいと思っていても、親御さんは「まだ捨てたくない」と意見が異なるケースも多々出てくるでしょう。
親にとって子は、いつまでも子です。子どもが親の物を頭ごなしに捨てたり、子どもの「~~してあげている」という気持ちが伝わると、親の尊厳を傷つけ、頑なな気持ちになってしまう可能性もあります。

もちろんただ整理するだけでなく、バッサリと捨てなければいけない物も多いでしょう。
それでも気持ちの面では、生前整理はあくまで「捨てる」のではなく「片づける」。その気持ちで接すれば、親御さんも前向きに家の片づけを行うことができるはずです。

生前整理で家族の距離が近くなる

実家は親御さんの思い出が詰まった場所です。
整理しているうちに出てきた、様々な思い出の品について語り合うことも多くなるのは間違いなく、自身の小さい頃の懐かしい話にも花が咲きます。
また、部屋を整理しているうちに、自分の知らない現在の親御さんの生活も分かってくることでしょう。生前整理は、子が親のことを新しく知る機会ともいえます。
親御さんが高齢者になってくると、普段は離れて暮らす家族と一緒にじっくり話し合う機会は、どれだけ残されているでしょうか?
他の家族についても同様で、生前整理を行うことにより、兄弟・姉妹の交流も増えていきます。
生前整理とは、決してネガティブなものではありません。家族の距離が近くなる、良い機会として取り組んでください。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。