生前整理・最新事情~注目を集めている「老前整理」って?

生前整理・最新事情~注目を集めている「老前整理」って?

近年、「断捨離」や「ミニマリスト」など、身の回りのモノを減らす活動が話題になっていますね。片付けの本が出版されたり、雑誌でも頻繁に特集が組まれたりしています。
そんななか、特に40代、50代の人たちの間で注目を集めているのが「老前整理」です。働き盛りの人たちが、まだ身体が思うように動くうちに、身辺整理をしておこうというものです。
この年代は、親の介護が始まったり、親の家を片付けたりといった現実にぶつかる人たちです。それだけに、自分たちの今後の生き方や暮らし方を考えるようになるのかもしれません。
また、子供が独立する年代でもありますから、自分たちのこれからについて改めて考える時期でもあるのでしょう。
今回は、この「老前整理」について考えてみたいと思います。

老前整理とは?

身辺整理という意味で、すでによく知られているのは「生前整理」でしょう。
まずは「生前整理」と「老前整理」を比較してみます。

生前整理

生前整理は、自分が死んだあと、残される家族のことを考えて行なう身辺整理です。多くは職を退いた60代、70代の人たちが考えている「終活」のひとつです。
世界一の長寿国・日本。経済的にも厳しい状況が続いています。
少子化も加速するなか、自分が死んだあと、残される家族や周囲に迷惑をかけたくないという意識が高まってきました。それに伴い「終活」という概念が生まれたのです。
自分がいなくなったあと、葬儀やお墓のこと、片付けなどで負担をかけたくない。子供たちや親戚を、遺産相続などで争わせたくない。
自分がいつどうなるかわからない不安がつきまとう世代にとって、終活をすることは、子や孫に負担をかけずに済む安心感につながります。
“立つ鳥あとを濁さない”ために行うのが「生前整理」です。

老前整理

「老前整理」は、40代後半~50代くらいで考え始める人が多いようです。
「生前整理」と大きく違うのは、「生前整理」が『残された家族のため』に行うのに対し、「老前整理」は『自分のため』に行うということです。
年齢を重ねるごとに、不用品はどんどん増えていきます。しかし、それに反比例して、モノを整理する気力、体力や判断力は低下していくのです。
家じゅうに溢れるモノ。年を取れば取るほど、身動きが取れなくなっていきます。
ちょっとした段差や、少し出ているコードに足を引っかけ、転倒・骨折するといった事故や、なだれ落ちてきたモノでケガをするなどの事故も後を絶ちません。
老いた時、安全・安心に暮らすためには、不用なモノを減らすことが有効です。しかし、モノを捨てる作業は負担が大きく、気力・体力が必要です。
また、モノを整理するのには、非常に時間がかかります。こういったことから、老前整理は、体力のあるうちに行うほうがよいわけです。

老前整理によって、老後、溢れるモノに悩むこともなく、身辺整理の負担も大幅に減ります。
老前整理は、快適な老後ライフだけでなく、将来、家族の負担を軽くすることにもつながるわけです。
生前整理と老前整理、主な違いを表にまとめてみました。

 生前整理老前整理
いつする?死ぬ前・ぼける前老いる前
誰が、誰のためにする?本人が、家族のために本人が、自分のために
何をする?遺品や財産を整理する不用品を処分する
何のためにする?相続トラブルを防ぐ
片付けの負担を軽減
快適な住空間をつくる
心の整理をする

モノだけじゃない。老前整理で整理するもの

モノって、いつの間にこんなに増えたのでしょう。
学校を卒業して就職し、結婚、子供が生まれる――モノが劇的に増えるのは、こういったライフステージが変化する時期です。
結婚すれば、単純に考えてモノの量は2倍になります。子供が生まれると、さらにモノは増えます。

生前整理

子供服やおもちゃ、勉強や部活の道具、学校で作った作品など、大きなモノから細々したモノまで、驚くほど増えます。
大人になった今でも、実家のご両親が、あなたの子供時代の絵や成績表、中学・高校の制服などを大切にしまっているという人は多いのではないでしょうか。

ライフステージの変化によって増えるモノの困った点は、自分だけのモノではないというところです。
たとえば、独立したお子さんの部屋をそのままにしている場合、お子さんに無断で、部屋の中を勝手に片付けたり、置いてあるものを黙って捨てたりすることはできませんよね。
こういった“捨てにくいモノ”が、どんどん溜まっていくわけです。
また、年数が長いほど捨てにくくなります。高齢者のお宅によくあるのが、40年以上も前のモノが、タンスや押し入れに山ほど眠っているケースです。
「いつか使う」というモノは、たいてい使われずに終わっていくのですが、年齢を重ねてしまうと、そういった判断力も落ちてきてしまいます。

そして、テレビをつければ通販番組が溢れ、新聞や雑誌にも通販の広告が数多く掲載されています。現代は、モノを買うのはとても簡単なこと。外に出るのが億劫な高齢者でも、電話1本で買い物ができ、家まで届けてもらえる世の中です。
捨てられない上に、モノをどんどん買えば、家の中はすぐにカオス状態になります。意識して減らしていかないと、家の中はすぐにモノで溢れてしまうのです。

冷静に、自分の生活になくても困らないものを挙げてみましょう。
お子さんの作品は、心の中にしまっておきませんか。結婚して独立したお子さんは別世帯です。お子さんのものは、本人に返すか、処分しませんか。思い出の洋服も、もう着ない・着られないなら、思い切ってサヨナラしましょう。
老前整理は、物質だけでなく、心の整理でもあるのです。

老前整理のコツは、まず優先順位をつけること

老前整理では、通常の整理同様に、所有物に対して優先順位をつけて整理を始めることが大切になります。所有物の優先順位から始める老前整理のコツについてご紹介しましょう。

  1. チェックリストを作る
  2. 時間の余裕がある日に行う
  3. 考え方を変えてみよう
  4. 大きいモノから処分する
  5. 優先順位の低いモノを処分する
  6. モノを並べて俯瞰する

チェックリストを作る

老前整理には、いつまでという期限はありません。焦らず、あわてず、少しずつ進めましょう。一気にやろうと欲張らないのがポイントです。
まず最初に、家全体をじっくり見てみましょう。その中から、「この日には、ここを片付ける」とスケジュールを決めます。
たとえば、「○月○日:机にあるペン立ての中身」でも構いません。どんな狭い範囲でもいいのです。
片付ける場所を決めたらリストを作り、整理整頓を実行したらチェックを入れます。こうすると、進み具合が一目瞭然となります。
また、チェックすることがちょっとした励みとなり、やる気が持続します。完了したら、花マルをつけるのもいいかもしれませんね。

老前整理

時間に余裕のある日に行なう

整理は、時間に余裕のある日にすることもコツのひとつです。狭い範囲だからといって、すぐに終わるかどうかは、やってみなければわかりません。
捨てるかどうか迷って、時間が過ぎてしまうこともあります。焦らずに片付けるため、時間に余裕をもって整理にあたりましょう。

考え方を変えてみよう

モノが溜まってしまうのは、“捨てられない”からですよね。
あなたは、モノを捨てることに罪悪感がありますか?
つい、「もったいない」と思ってしまったり、捨てると思い出まで消えてしまうような気がしたりしませんか?
モノを大切にするのは良いことです。でも、色々なモノを溜め込み、どこに何があるか分からないような状態では、かえって大切にしているとは言えないのではないでしょうか。
不用なモノを捨てることは、これまでの生活の中で溜め込んできた執着心や惰性を捨てること。部屋と一緒に、頭の中もスッキリとクリアにしてしまいましょう。

大きいモノから処分する

大きいモノ、重いモノは早めに処分しましょう。年を取るほど、大きいモノの処分は体力的に厳しくなります。

優先順位の低いモノを処分する

現在の生活で必要としないモノや、今後、使う可能性の低いモノは処分しましょう。まずは、確実に必要ないと思えるモノから処分していきます。

モノを並べて俯瞰する

その日片付けるエリアに収納されているモノをいったん取り出し、床に並べてみましょう。
たとえば、タンスの中を整理する日であれば、上の段から順番に引き出しの中身を全て出して並べます。俯瞰することで中身がわかりやすくなり、取捨選択しやすくなります。

老全整理で迷ったらどうする?

整理していると、捨てるか残すか、すぐには判断のつかないモノも出て来ます。そんなとき、どうすればよいのでしょうか。

  • とりあえず保留する
  • 「不用品ボックス」と「保留ボックス」を作る
  • しばらく寝かせる
  • 思い切って捨てるモノ

とりあえず保留する

処分するか、取っておくか迷うモノがあったら、とりあえず保留しましょう。迷っていると、そこで作業を中断することになりますし、慌てると判断を誤る場合もあります。
取り返しのつかないことにならないよう、まずいったん保留して、あとからゆっくり考えましょう。

「不用品ボックス」と「保留ボックス」を作る

作業前に、段ボール箱などを利用して「不用品ボックス」と「保留ボックス」を用意します。
床に並べたモノのうち、いらないモノは「不用品ボックス」に入れます。処分するか迷うモノは「保留ボックス」に入れます。必要なものは、元の場所に戻しましょう。
こうして、どんどん仕分けしていきます。

生前整理

しばらく寝かせる

「保留ボックス」に入れたものは、しばらく保留のままにしておきましょう。1週間でも1カ月でも、期限を決めて、そのまま置いておきましょう。期限が来るまでは、保留ボックスのことは、しばし忘れます。
期限の日が来たら、保留ボックスの中身を取り出して、もう一度、床に並べて見直してみます。冷却期間を置いて改めて見ると、必要か、そうでないか、判断できるものです。

思い切って捨てるべきモノ

a.無料でもらったもの

おまけ、粗品、無料サンプル、景品など、無料でもらったもの。もともと欲しかったわけでもなく、何となく家にあるモノは、場所をふさぐだけです。

b.たくさんあるもの

ボールペンなどの筆記具、シーツやタオルの洗い替え、食器、レジ袋、エコバッグなど。これらのモノは、どこのお宅でもたくさんあるものです。
でも、本当にそんなに必要でしょうか? 必要な分だけを残し、あとは処分します。

c.思い出の品

捨てにくいモノの代表ですね。でも、思い出は心の中にしまっておきましょう。どうしても捨てられない人は、デジタル写真に撮ってデータとして残しておくとよいでしょう。

d.所定の位置が決まっていないモノ

今使っているわけではないのに、見えるところに出ているモノはありませんか? 場所を決めて収納するか、処分するかしましょう。

e.使っていないモノ

たとえば、ダイエットのために買ったトレーニング機器や、外国語の教材、いつか着ようと思いながら着るチャンスのなかった服、読もうと思って買ったけれど、結局、積んであるだけの本……。これからも使わないのであれば、処分しましょう。

老前整理のススメ~無理せず、少しずつ進めましょう

老前整理は、無理に所有物を処分する必要はありません。
必要なものであれば残し、不必要なものは処分するのが老前整理の方法です。体力・気力・判断力のあるうちに、少しずつ始めるのがよいでしょう。
定年退職後の60代に入ってしまうと、体力的に難しくなるケースが増えて来ます。50代くらいから始めるとよいでしょう。
しかし、50代は、まだまだ働き盛り。多忙な人が多く、なかなか片付けの時間が取れないかも知れません。
老前整理は、引っ越しのように期限がありませんから、一気に全部片付けようと張り切り過ぎないことが大切です。

老前整理

また、あとから後悔することのないように、最初に家の中を冷静に観察してスケジュールを組むのもポイントです。無理のないよう、少しずつ進めていきましょう。
残すと決めたものは、取り出しやすいように効率的にしまうこと、また、再びモノを増やさないように心がけることも大切です。衝動買いをしたり、使わない無料サンプルや粗品などを溜め込んだりしては、元の木阿弥ですからね。

古いモノ、必要でないモノを抱え込むことは、貴重な居住スペースを無駄にしているということです。これこそ、「もったいない」でしょう。
家が片付くだけでなく、気分がスッキリして生活がしやすくなる老前整理は、お金もかからず、思い立ったらいつでも始めることができます。
きれいに整頓され、モノが少ない家は、万が一、災害が起きたときも安全です。シニア世代だけでなく、ぜひ、20代、30代の若い世代の方々も実践してください。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。