超高齢化社会を迎えた現代。介護は今の日本社会が抱える大きな問題です。
介護は、入浴の介助や車椅子などの移乗介助、食事の介助、排泄の介助などが主となり、肉体的に負担の大きい労働です。
そのため、介護施設で働くスタッフにとって、腰痛は職業病と言われています。
自宅で介護をする場合は、こうした負担が家族にかかることになり、働き盛りの家族にとって、親の介護が大きな問題となっている家庭も増えています。
さらに、高齢化だけでなく、少子化という問題を抱えている日本では、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」が特別なものではなくなってきています。
今回は、老老介護とその問題点についてみていきます。
目次
老老介護とは?
老老介護とは、老人が老人を介護することです。
具体的には、65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護することを指します。
高齢の夫婦間での介護や兄弟姉妹間での介護、高齢になった子供がさらに高齢の親や身内の介護をするといったケースがあります。
厚生労働省の「平成28年 国民生活基礎調査(数値は熊本県を除く)」によると、主な介護者は要介護者等と同居している人が 58.7 %と最も多くなっています。
- 介護者の性別
- 介護者の続柄
- 介護者の年齢
- 要介護者と介護者の年齢
- 介護者の介護時間
- 介護者の悩み・ストレスの状況
介護者の性別
主な介護者の性別は、男性34.0 %、女性66.0 %と、女性が多くなっています。
これは、日本人の平均年齢が上がっており、特に女性が長生きであることとリンクしていますね。
介護者の続柄
要介護者等からみた主な介護者の続柄は、
- 配偶者…25.2 %
- 子…21.8 %
- 子の配偶者…9.7 %
となっています。
介護者の年齢
介護している側の年齢は、60歳以上の人が男性では70.1%、女性では 69.9 %を占めています。
そのうち最も多かったのは「60~69 歳」で、 男性が 28.5%、女性が 33.1%でした。
要介護者と介護者の年齢
同居している主な介護者と要介護者等の組み合わせをみてみましょう。
- 70~79歳の要介護者等を70~79歳の人が介護している…48.4%
- 80~89歳の要介護者等を50~59歳の人が介護している…32.9%
となっています。
また、
- 60 歳以上同士…70.3%
- 65 歳以上同士…54.7%
- 75 歳以上同士…30.2%
など、いずれも前年より増えています。
介護者の介護時間
では、同居している主な介護者は、介護のどのくらいの時間を費やしているのでしょうか?
要介護者等が「要支援1~要介護2」であれば、介護する人は「必要なときに手を貸す程度」が半数以上を占めています。
しかし、要介護度が上がれば上がるほど介護に費やす時間が多くなっていきます。
「ほとんど終日」介護が必要な割合は、「要介護度4 」で45.3%、「要介護度5」では54.6%にも上っています。
「ほとんど終日」介護をしている介護者は、男性が約30%、女性が約70%で、続柄は、女性の配偶者、女性の子、男性の配偶者の順となっています。
介護者の悩み・ストレスの状況
同居して介護にあたっている人で、「日常生活における悩みやストレスがある」と回答した人は 68.9%に上っています。
悩みやストレスの原因は、
- 家族の病気や介護……男性73.6%、女性76.8%
- 自分の病気や介護……男性33%、女性27.1%
という結果が出ており、自分も病気などを抱えながら、家族の介護にあたっているという姿が浮き彫りになりました。
この他には、「自由にできる時間がない」「自分の仕事」「家族との人間関係」なども悩みやストレスの原因となっているようです。
老老介護の原因
続いて、老老介護しなくてはならない原因についてみていきます。
- 平均寿命と健康寿命との差
- 世帯構造の変化
- 他人に助けを求められない
- 介護難民
- 金銭的な理由
- 8050問題
平均寿命と健康寿命との差
内閣府の平成29年度版「高齢社会白書」によると、平均寿命が延びるとともに健康寿命(日常生活に制限のない期間)も延びています。
しかし、健康寿命は平均寿命に比べて延びが小さく、平均寿命と健康寿命との間には、男性で9.02年、女性で12.4年もの差があります(平成25年)。
長生きではあるけれども、必ずしも健康ではない人が多いというわけです。
「健康寿命」とは、介護なしで日常生活を営める年齢的な期限のことです。
ですから、健康寿命から平均寿命までの期間は、「要介護期間」となりますね。
平成22年、厚生労働省は、平成22年時点で日本人男性の平均寿命は79.55歳、健康寿命は70.42歳。女性は平均寿命が86.30歳、健康寿命が73.62歳であると発表しています。
つまり、男性の要介護期間は9.13年、女性は12.68年ということになります。
実に、10年前後も要介護状態があるということになります。
親の介護が始まったときには50代でも、介護を続けていくうちに60歳を超え、老老介護となる状況は珍しくないということなのです。
世帯構造の変化
独立して別居する子供世帯が増えたことにより、核家族化が進みました。
子供世帯との住まいが近い場合はまだいいのですが、遠方に住んでいる場合はすぐに子供に助けを求められず、高齢夫婦間での老老介護を余儀なくされるケースが増えています。
子供の世話になるのを「情けない」と考えたり、「子供に負担をかけたくない」と考える人も多く、配偶者に介護を頼るしかない状況になるわけです。
他人に助けを求められない
現在、老介護を行っている世代は、全てにおいて忍耐が必要だった戦争を経験している人たちです。
生きてきた状況から、他人に助けを求めることに負い目を感じる傾向があるようです。
「自分一人でなんとか頑張らなくては」と思ってしまい、なかなか他人を頼ることができないのです。
さらに、警戒心が強く、他人を家に入れることに抵抗があったり、介護は入浴や排せつなどデリケートな領域もケアすることから、第三者のサポートを受け入れないケースもあります。
介護難民
65歳以上の高齢者で、介護が必要な「要介護者」に認定されているにもかかわらず、施設に入所できないだけでなく、家庭においても適切な介護サービスを受けられない人を「介護難民」といいます。
この原因の一つは、高齢者の増加です。
高齢者が増えることにより、要支援・要介護認定を受ける人の数も増えています。
厚生労働省が発表した平成26年度の「介護保険事業状況報告」では、2000年には256万人だった認定人数が、2014年には606万人にまで増えています。
さらに、介護に携わる従業員が不足していることも大きな要因です。
介護の仕事は精神的・肉体的に負担が大きく、その割には給与が低いなどの問題があります。
そのため、従業員が不足している事業所が多く、人材確保は難しい状況になっているのです。
金銭的な理由
金銭的な余裕がなかったり、生活保護を受給していたりする場合も、老老介護に陥りやすくなります。
要介護者を施設に入れたくても、お金がなければ入れることができません。
自宅介護の場合も、設備を揃えるためには費用がかかります。
また、訪問型の介護サービスを利用するにもお金が必要です。
金銭的な理由から、プロを頼ることができず、老老介護するしかないという家庭も少なくないようです。
8050問題
近年、ニートやひきこもりの長期化や高年齢化が深刻な問題になっています。
内閣府は平成30年度、40~59歳を対象にした初の実態調査を行うことを決めています。
これまでは、引きこもりは若者特有の問題とされており、調査対象は39歳まででしたが、この層が中高年層になろうとしているからです。
ひきこもりが長期化すれば、当然、親も高齢となります。
収入が途絶えたり、病気や介護が必要なのに一家が孤立・困窮するケースが出始めているからです。
今年(2018年)3月にも、北海道で82歳の母親と、ひきこもる52歳の娘が孤立死するという事件がありました。
こうした例は「80代の親と50代の子」を意味する「8050(はちまるごーまる)問題」と呼ばれ、早急な対策が叫ばれています。
老老介護の問題点
では、老老介護にはどんな問題点があるのでしょうか?
- 介護者の肉体的・精神的負担
- 認認介護
介護者の肉体的・精神的負担
要介護者の介護度によって異なりますが、一般的には、高齢になればなるほど体の自由が利かなくなり、介護する人の肉体的な負担が増えていきます。
介護は、プロの介護士でさえ腰痛が職業病の一つとされるほど過酷なもの。
介護者が素人、まして高齢であれば、どれだけ大変なことか想像できますね。
また、精神的な面での負担も大きく、そのストレスが「介護うつ」を引き起こし、介護者の自殺や要介護者への虐待などにつながる恐れがあります。
認認介護
老老介護の場合、肉体的・精神的な限界が来て、介護者本人も第三者のサポートがないと生活できなくなる「共倒れ」状態になることもあります。
近年の研究では、強いストレスは認知症を引き起こす原因になり得るという報告もあります。
夫婦二人だけの世帯など、周囲から孤立して老老介護をしている介護者ほど、自分も認知症になってしまう可能性が高くなるのです。
このように、老老介護の中でも、認知症の要介護者を認知症の介護者が介護している状態を「認認介護」といいます。
事故が起きやすい危険な介護状況の一つです。
認認介護において起こりやすいのは、認知症による記憶障害や判断力・認識力の低下から、自分が食事や排泄など必要な世話をしたかどうか、介護者にもわからなくなってしまうことです。
日常における様々な管理ができなくなることも考えられます。
公共料金などの支払いを忘れて、生活環境を維持できなくなったり、悪徳商法や詐欺のターゲットになってしまったりといった状況も少なくありません。
また、火の不始末による火事や、徘徊中に事故に遭ったりなど、生活そのものが正常に成り立たなくなっていきます。
認知症の要介護者は、介護を強硬な態度で拒むことも多いようです。
しかし、拒否された介護者も「自分がなんとかしなければ」と思うあまり、事件や事故につながることもあります。
こういっことから、認知症の介護者が、自分が何をしているのか認識できずに加害者になってしまうという悲しい事件も起きています。
老老介護~整理の観点から~
誰にも訪れる「老い」と「死」。自分のことのみならず、親御さんや身内には少しでも健康に過ごしてほしいですし、苦労もさせたくないですよね。
とはいえ、先のことは分かりません。そこで、いざという時のための準備をしておきたいものです。
- 生前整理
- 遺産相続、お墓の準備、介護施設など
生前整理
身内が亡くなられたあと、遺品を仕分け・整理しなくてはなりませんが、老老介護のご家庭に限らず、高齢者だけのお家は、どうしても掃除や片付けが行き届かなくなることが多いでしょう。
まだ早いと思っても、元気なうちから身辺整理をしておくのは大切です。片付けることによって、清潔な部屋で快適な生活が送れます。
高齢になると、ちょっとしたものにもつまづきやすくなり、大怪我につながることもあります。そんなリスクを減らすことができます。
こういった活動を「生前整理」といいますが、遺品整理業者も生前整理についてサポートしてくれる業者があります。
もしもお家の片付けで困りごとがあれば、問い合わせてみましょう。これまでの経験から、アドバイスを受けることもできます。
遺産相続、お墓の準備、介護施設など
こちらも生前整理のひとつになります。
まずはどのくらい遺産があるのかを明白にし、目録を作ります。遺産の分配について希望がある場合は、遺言書を書いておきましょう。
葬儀やお墓についても、いまでは生前予約という便利なシステムがあります。
元気なうちに、自分がどのようなお葬式を行いたいのか、また、どのようなお墓に入りたいのか決めておけば、遺族が迷ったり悩んだりすることがありません。
老老介護を避けるためには、あらかじめ介護施設を探しておくことも必要です。
元気なうちに自分の目で見て、快適に過ごせそうなところを探しておきましょう。
また、死に際し、延命措置をするかどうか、献体するかどうかなども考えておきましょう。
こちらは家族とも話し合っておくことが必要です。
認知症になってしまった場合、どのように生活していくかを決めておくことも大切です。
これまで、認知症などで判断力がなくなってしまった場合、「成年後見制度」によるサポートが行われてきました。
しかし、この制度には、毎年、家裁への報告義務があったり、資産の積極的活用や生前贈与・相続税対策ができないなどの大きなデメリットがありました。
そこで、様々なことに対して柔軟な設定ができる「家族信託」が注目されています。
家族信託は、信頼できる家族に財産を託し、家族が財産を管理・運用するシステムです。
このシステムを使えば、本人に判断力がなくなってしまっても、家族が代わりに財産を運用したり、その利益によって本人の生活を支えることができます。
こういったことを、ざっくりとでも構わないので、エンディングノートに書いておくのも大切です。
まずは、元気なうちに考えておくことが最も大切です。
「備えあれば憂いなし」
望まない形でも老後にならないよう、しっかり準備しておきましょう。