遺品整理の際に出てくるのは、モノだけではありません。不動産やお金関係など、遺族も知らないこと、ものが出てくるケースがあります。
そんなとき、どのように対処すべきか、また、本人が生前にやっておくべきことについてみていきましょう。
目次
不動産
不動産は、高額なものにも関わらず、モノとして簡単に分けることができません。また、不動産は、どのくらいの価値なのか評価することがとても難しいものであります。
そう簡単にお金に換えることができないケースも多く、手続きも素人では難しい場合がほとんどです。
そのため、遺産相続は、相続財産に不動産が含まれると難易度が高くなるといわれています。不動産をできるだけスムーズに分配・相続するために、不動産について知っておきましょう。
不動産はどうやって評価するの?
不動産を分配する際には、不動産鑑定士に評価してもらうなどして、その不動産の価値、価格を把握します。土地の評価には、公示価格、基準地価格、路線価、固定資産評価額の「一物四価」などが用いられます。
公示価格
全国の都市計画区域について、国土交通省が発表。国土法の指導価格、土地収用の価格に用いられます。毎年1月1日を基準日とし、3月下旬ごろ発表されます。
基準地価格
各都道府県が全ての区域について発表。公示価格の補完として利用されます。毎年7月1日を基準日とし、9月下旬ごろ発表されます。
路線価(相続税評価額)
国税庁が相続税・贈与税の算出の基礎として発表します。毎年1月1日を基準日とし、8月下旬ごろ発表されます。
固定資産税評価額
各市町村が、固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税などの算出の基礎として発表します。3年に1度、評価が見直され、基準年度の前年の1月1日が基準日です。
不動産の相続方法は?
不動産は、土地の評価をした上で公平に分配されるのが基本です。でも、実は、相続の権利を持つ人全員が納得すれば、遺産の価値をどう判断し、分配するかは自由です。不動産の分割の仕方を知っておきましょう。
現物分割
「土地と建物は妻に、現金と預金は子供に」というように、遺産をあるがままの形で分け合う、最もシンプルな分割方法です。
ただし、土地建物と現金預金の資産価値はイコールではないこともありますので、相続者全員が納得することが必要です。
換価分割
不動産を売って現金化し、そのお金を分配する方法です。
メリットは公平に分配することができることですが、土地や建物に思い出や歴史があっても手放さなくてはならないこと、また、売却による譲渡税が発生するのがデメリットです。
そのため、長く暮らした実家ではなく、よそに不動産がある場合や、投資用の不動産を分割するような場合に適しています。
注意したいポイントは、1億円の価値がある不動産を売却しても、必ずしも現金1億円になるとは限らないことです。土地の価格は、景気に影響されます。もしも不景気な時に相続が発生したら、高く買ってもらえないことが考えられます。
また、遺産分割協議は、10カ月以内(相続税の申告期限)に合意する必要があるため、時間をかけて売ることができません。
このように、換価分割の場合、市場相場よりも安く買いたたかれてしまう可能性が高くなってしまいます。こういった場合を考え、もしも可能であれば生前に売却して現金化しておくのも一つの手です。
代償分割
相続人のうち1人が不動産を全て相続し、他の相続人には、相当分のお金を支払う方法です。
たとえば、1億円の価値がある土地を4人で分ける場合、1人の取り分は2500万円になります。これを、1人が不動産を全て受け継ぎ、あとの3人に現金で2500万円ずつ支払うことになります。
不動産を手放したくない場合、残すことができるのがメリットですが、不動産を引き継ぐ人は、現金を用意しなくてはならないのがデメリットです。
また、代償分割をする場合には、遺産分割協議書にその旨を記載していかなくてはなりません。
共有分割
不動産を、複数の相続人で共有するという形で相続する方法です。
土地などを手放さずに済みますが、管理をめぐってトラブルになるケースがあります。また、共有財産なので、その不動産を売却したり賃貸したりする場合には、相続人全員の合意が必要になります。
スムーズに不動産相続するためには?
不動産相続で争いを起こさない最善の方法は、何といっても生前整理です。元気なうちに財産目録を作成し、分配方法を決めて遺言書を作っておくことで、相続トラブルを未然に防ぎましょう。
財産目録を作っておこう
元気なうちに、相続財産の一覧表「財産目録」を作成しておきましょう。
法律的な義務はなく書式にも決まりはありません。プラスの財産はもちろん、借金などマイナスの財産もすべて記入しましょう。
この目録を作成することにより、遺産分割協議の際、相続人全員が公平に情報を知ることができます。目録があれば、隠し財産があるのではないか、自分の取り分が少ないのではないか、といった疑いの心を生じさせることなく、スムーズに協議を行うことができます。
遺言書を書いておく
無駄な争いを起こさせないために最も有効な手段は、遺言書を書いておくことです。遺留分などについては協議が行われることは考えられますが、大筋を決めておけば、争いを最小限に食い止めることができます。民法によって定められた要件を守り、遺言書を作成しておきましょう。
お墓
近年、生前に自分自身のお墓を用意しておく人が増えています。
お墓に関する費用の総額は何百万円にものぼることがあります。残された家族がすぐに用意できる金額ではありません。
そこで、子供に金銭的負担をかけないよう、生前に自分が墓石や墓地を購入し、管理費などの支払いも手続きを済ませておくケースが増えているのです。
お墓にかかる費用は?
墓石
墓石の価格相場は、石の種類にもよりますが、一般的に60万円から300万円ほどと言われています。
これは石のみの価格で、文字を彫ったり石を磨いたりといった作業の費用が別途必要となります。
管理費
お墓には、墓地代(永代使用料)、お墓の管理費などが必要です。
お墓の管理とは、管理団体や寺院が墓石や墓地を常に綺麗にしておいてくれたり、お墓を維持していくために必要な費用です。
東京都23区では、約1.2平米の墓地で永代使用料は160万円から200万円、23区以外では30万円から60万円が相場です。この価格、は墓地や霊園、場所、管理団体によって大きく変動します。
お墓の管理費用は、幅がありますが、年間で4000円から数万円がかかります。
お墓はいつ建てればいいの?
お墓は、いつまでに建てなくてはならないという明確な決まりはありません。
一般的には、故人の一周忌や三回忌などといった節目に合わせて建てるのがよいとされていますが、これは、お墓に「開眼法要」という法要が必要だからです。開眼法要には親戚や知人などに集まってもらうのが一般的なので、一周忌や三回忌などの法要の際に開眼法要も一緒に行えば、主催者や参列者にとって負担が少なくなるというのが大きな理由です。
しかし、お墓を建てるには大きな費用がかかります。そのため、経済的状況が整った時がベストだと言えます。
その意味では、元気なうちに自分でお墓を用意しておくのが一番ではないでしょうか。
生前墓は、時間をかけて選んだり考えたりできるのが大きなメリットです。最近は、伝統的なお墓だけでなく、自分だけが入る個人墓や、夫婦のみで入る夫婦墓を建てる人も。
また、自分で石材を選びデザインする「デザイン墓」なども増えていますので、世界に一つしかないお墓に入りたい人は考えてみるとよいでしょう。
また、生前墓を建てておくと、相続税の負担が軽くなります。お墓は「非課税財産」なので、相続税の課税対象から外れるのです。
また、お墓の購入は「所有権」ではなく「使用権」となります。固定資産税や不動産取得税などは「所有権」で発生するので、こういった税金もかかりません。
しかし、相続人が財産相続後にお墓を建てる場合、相続税を払って残ったお金の中から建てることになります。
つまり、自分自身で生前墓を建ててから相続手続きを行った方が、相続人の負担が軽くなるわけです。
借金
「遺産」には、預貯金や不動産など「プラスの遺産」だけでなく、借金やローンなど「マイナスの遺産」もあります。
相続が開始されると、故人の持っていた一切の「権利」ならびに「義務」が相続人に継承されます。
つまり、資産だけでなく、負債や債務の返済義務も引き継がなくてはならなくなるのです。故人にマイナスの遺産があった場合、どうすればよいのでしょうか。
相続放棄する
法定相続人であっても、遺産を相続するかしないかは自由に選べます。
もし遺産を相続したくない場合は、権利を放棄することができます。相続財産の中に多額の債務がある場合や、相続人のうち誰かに全てをあげたい場合、トラブルを避けたい場合などに、相続の権利そのものを放棄できます。プラスの遺産、マイナスの遺産のどちらも引き継ぎません。
相続放棄をしたいときは、相続がわかってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
また、相続放棄をしたい場合は、遺品整理を保留しましょう。民法第921条1号では「相続財産の全部または一部を処分したときは、相続放棄が認められない」と定められており、故人の持ち物を処分すると、相続の意志があると見なされてしまうからです。
とはいえ、故人が賃貸に住んでいた場合など、大家さんや管理会社に迷惑をかけることになります。そんな時は、相続放棄に強い弁護士や司法書士に相談するのがよいでしょう。
限定承認する
プラスの遺産からマイナスの遺産を返済し、残った分を相続することを「限定承認」といいます。弁済はプラスの遺産の範囲内で行いますので、相続人の財産を持ち出してまで返済することはありません。
限定承認をしたい場合も、相続がわかってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てなくてはなりません。
相続完了後に負債がわかったら?
相続が完了した後に、故人の借金や負債が発覚することがあります。マイナスの遺産があるのなら相続しなければよかった、と思う人がほとんどではないでしょうか。こんなとき、どう対処すればよいのでしょうか。
督促状の対処は? 時効の援用
相続が完了してから、金融会社などから督促状が届くことがあります。
まずは冷静になって、督促状をよく見てみましょう。すでに時効となっているものがあるかもしれません。督促状には「支払期日」が記載されています。この日付から5年以上経過していると、その借金は時効になっている可能性があるのです。
借り主側が時効による借金の消滅を主張するには「時効の援用」が必要です。「時効の援用」とは、「私の借金は時効になっているので、お金は返しません」と貸し主に伝えることです。
この意思を伝えるには先方に「時効援用通知」を送ります。時効援用通知には、債務を特定できる情報(顧客番号や契約番号、契約の年月日など)を明記し、その債務に関して消滅時効の援用をするという内容を記載します。これを、配達証明付きの内容証明郵便で先方に郵送します。必ず、文書の到着と内容を証明できる、配達証明付き内容証明郵便で送りましょう。
時効の援用が完了するまでは、お金を支払ってはいけません。たとえ1円でもお金を支払うと、その時点で時効援用権を失ってしまいますので注意しましょう。
連帯責任
故人が連帯保証人になっていた場合、その連帯責任を負わなくてはならないのでしょうか。
故人が借金の連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしない限り、連帯保証人としての責任が引き継がれます。知人がお金を返せなかったら、相続人が代わって返済しなくてはなりません。
部屋を借りる際の連帯保証人になっていた場合も、連帯保証人としての地位は相続されます。借り主が家賃を滞納したら、相続人に滞納分の支払いが請求されることがあります。
相続完了後の相続放棄
続放棄の申し立て期間は3ヶ月と定められています。しかし、昭和59年、最高裁は「それ相応の理由があれば、申し立て期間の起算点を後ろにずらすことができる」という判例を出しています。
相続開始後3ヶ月を過ぎてから借金があることに気づいても、諦めずに相続放棄の手続きを取りましょう。
ただし、相続放棄の申述は、いちど却下されてしまったらやり直すことはできません。失敗の内容。相続放棄に強い司法書士や弁護士に相談するのがベストです。