警察庁の報道発表によると、平成29年の交通事故件数は472,165件。
前年と比べると27,036件(5.4%)減少しています。
また、10年前の平成19年から見ても、10年連続で事故件数は減っています。
ですが、年齢別に見ると、高齢者、特に70歳以上の世代が起こす事故が増えているのです。
平成19年から平成29年の10年間で、75歳以上の高齢運転者が起こす交通事故の割合は、全死亡事故件数のうち8.2%から13.5%にまで上昇しています。
ニュースでも、高齢者が子どもの列やお店などに突っ込んだというような事故をよく耳にしますね。
そこで、高齢者の運転事故や免許返納などについてご説明します。
目次
急速に進む高齢化社会と運転免許
日本では急速に高齢化が進んでいます。
内閣府のデータによれば、平成28年10月1日現在、65歳以上の人口は3459万人。
総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%と、約4人に1人が高齢者という状態です。
今後、日本の総人口が減少するなか、高齢者人口はどんどん増え、高齢化率は引き続き上昇していくでしょう。
2042年以降、高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、2065年には38.4%に達すると推計されています。
- 高齢者と運転免許
- 高齢運転者による死亡事故の発生状況は?
- 高齢者の事故の事例は?
高齢者と運転免許
同じく内閣府のデータによると、平成28年末における運転免許保有者数は約8,221万人で、前年末に比べ約6万人(0.1%)増加しています。
このうち、75歳以上の免許保有者数は約513万人。
75歳以上の人口の約3人に1人が運転免許を持っている計算になります。
こちらも、前年末に比べると約35万人(7.3%)増加し、今後も増えると推計されています。
高齢運転者による死亡事故の発生状況は?
では、高齢者の運転による死亡事故の発生状況を見てみましょう。
警視庁の報道資料では、原付以上の免許を持っている人の、10万人あたりの年代別交通事故件数は、16~19歳、20~29歳に次いで80歳以上の人が起こす事故件数が3位となっています。
また、内閣府の統計では、平成28年における75歳以上の運転者の起こした死亡事故件数は、免許人口10万人あたり約89,000件で、75歳以下の38,000件を大きく上回っています。
数字を見てみると、高齢者の運転事故のあまりの多さに、改めて驚いた人も多いのではないでしょうか。
高齢者の事故の事例は?
高齢運転者による交通死亡事故を類型別に見てみましょう。
同じく警察庁の資料によると、75歳以上の運転者による事故は、車両単独事故が全体の40%と高くなっています。
これは、75歳未満の運転者による単独事故の割合23%と比べても高い割合です。
具体的な事例としては、たとえば運転を誤って物や建物などに衝突するといった「工作物衝突」が最も多く発生しています。
一方、75歳未満の場合は、横断中の事故など人対車両による事故が多く発生しています。
また、75歳以上の高齢運転者による交通死亡事故の理由を見てみると、1位がハンドルなどの操作の誤りによる事故、2位が前方不注意、3位が安全不確認の順となっています。
一方で、75歳未満の運転者では、前方不注意や、安全不確認が比較的多くなっています。
たった5歳ほどでも、かなりの違いが出るようです。
ニュースでよく見かける、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故は、75歳未満の運転者では死亡事故全体の0.7%ほどですが、75歳以上では5.9%で、かなり高くなっていることがわかります。
高齢者の事故の原因は?
あまりにも多い、高齢運転者の事故。なぜ、こんなに頻発しているのでしょうか。
- 高齢者の肉体的要因
- 高齢者の心理的要因
高齢者の肉体的要因
高齢運転者の特性は、個人差はありますが、一般的には次のような要因が挙げられます。
- 反射神経が衰え、とっさの対応が遅れる
- 視力の衰えや視野が狭まり、周囲の状況がわかりにくく、適切な判断が難しくなる
- 色彩判断能力が低下し、信号や歩行者の服の色などが識別しにくくなる
- 体力が全体的に衰え、運転操作が不的確になったり、長時間運転し続けるのが難しくなる
- 複数のものに同時に注意する能力が衰え、どのタイミングでどう行動するべきかの判断が全て遅れてしまう
加齢によって起きるこれらの特性が、75歳以上の運転者が死亡事故を起こしやすい要因の一つになっていると考えられます。
高齢者の心理的要因
電車などで、お年寄りに席を譲ろうとして断られた経験がある人もいるのではないでしょうか?
譲ってもらった席に座ろうとしない人のように、高齢者の中には、「自分はまだ若い」という意識がある人が少なからずいらっしゃるようです。
ある大学で行った「事故を回避する自信がありますか?」というアンケート結果によると、10代から60代前半までのそれぞれの世代で「自信がある」と答えた人は20%を下回っています。
しかし、60代後半で約30%に増え、70代前半では40%以上、そして70代後半の人ではなんと53%にも上りました。
高齢者には、長く運転してきたけれど、今まで大きな事故に遭ったこともなかったからと、交通規則よりも自分の経験則の方が先立ってしまうことが多いといいます。
「今まで大丈夫だったから」と交通ルールを無視してしまう。
けれども、実際は昔と同じようには運転できない。
この落差に気付かないことや自分への過信が事故に繋がるのです。
運転を続けるには?
高齢者ドライバーによる交通事故問題は、年々、深刻になってきています。
その中で、「運転免許証に年齢の上限をつけるべき」という考え方があります。
現在のところ、自動車の運転免許証を取得できる年齢の下限は決められていますが、何歳まで持てるという上限はありません。
免許は、一度取得したら失効することはなく、基本的には死ぬまで有効です。そのため、70代どころか、80代、90代の現役ドライバーも存在します。
運転が危険になっている世代であっても、免許取得の上限が法律で決められていないのは、高齢による衰えは個人差が大きいこと、交通インフラが乏しい地域では、自動車は必要不可欠な移動手段である、という理由からです。
そのため、平成29年3月に道路交通法が改正され、75歳以上の人が免許を更新する場合、認知機能検査と高齢者向けの講習を受けなくてはならなくなりました。
この検査では、時間の見当識(検査時の年月日、曜日及び時間を回答える)、手がかり再生(16種類の絵を記憶し、何が描かれていたかを答える)、時計描写(時計の文字盤を描き、指定された時刻を表す針を描く)を行います。
判定結果は3種類あり、
- 「記憶力・判断力に心配ありません」→高齢者2時間講習を受けたのち、免許更新
- 「記憶力・判断力が少し低くなっています」→高齢者3時間講習を受けたのち、免許更新
- 「記憶力・判断力が低くなっています」→すぐには更新できず、臨時適性検査または医師の診断者を提出。3ヶ月以内に提出できない場合は免許剥奪となる
免許の自主返納
75歳以上の免許更新で検査を行うようになって以来、運転免許を自主返納する高齢者が増えています。
自分に自信を持っていても、検査を受けたことによって自分の衰えに気づいたり、不合格になった場合、医師の検査を受けるのが煩わしいというのが、自主返納を選ぶ理由のようです。
- 免許の自主返納の方法は?
- 運転経歴証明書
- 自主返納のメリット
免許の自主返納の方法は?
運転免許の自主返納は、運転免許試験場や、居住地を管轄する警察署で受け付けてもらえます。地域によっては交番で行えるところもありますので、確認してみましょう。
持ち物は、現在持っている運転免許証です。千葉県など一部の地域では印鑑も必要なので、事前に確認しましょう。
自主返納は、何歳からでも行うことができます。
運転経歴証明書
免許を返納してしまうと、身分を証明できる書類がなくなってしまいますね。
そこで、運転免許を返納したあと、公的な身分証明書として使うことができる「運転経歴証明書」を申請することができます。
運転経歴証明書の申請には、下記の条件をクリアしていることが必要です。
- 運転免許の全部取り消しを行っている
- 運転免許を返納してから5年以内である
- 運転免許証の取消基準に該当しない
- 免許停止中、免許停止の基準に該当しない
- 再試験の基準に該当しない
運転経歴証明書は、居住地域を管轄する警察署や、運転免許試験場で申請することができます。
運転経歴証明書交付申請書(運転免許センター、警察署に置いてあります)、住民票または申請者の氏名、住所、生年月日を確認できる身分証明書など、印鑑、申請用写真が必要です。
自主返納のメリット
「運転経歴証明書」を提示すると、自治体や民間から割引が適用されるというメリットが用意されています。
たとえば、
- 市営・県営の交通機関の割引や優待
- 指定タクシーの運賃割引
- 補聴器や電動車椅子の購入費用割引
- 日用品購入の費用割引
- テーマパークなどの入園料割引
- ホテルの宿泊料割引
- 信用金庫などで定期預金の金利上乗せ
など、さまざまな自治体や民間での特典が用意されています。
内容は地方によりさまざまです。
ちょっとビックリするような特典もあるので、調べてみると面白いですね。
生前整理としての免許自主返納
運転していて、ふと不安がよぎることがあったら、免許の自主返納を考えてみるのもよいでしょう。
車の運転には、誰かを傷つける可能性が潜んでいます。
被害者やその家族のみならず、大切な自分の家族を「加害者の家族」にしないためにも、有益な選択肢であると言えます。
生前整理を考えているのであれば、その中に運転免許の自主返納を加えてみてはいかがでしょうか。