自分が死んだあとのこと、考えたことがありますか?
人が亡くなったあと、一番争いになりやすいと言われているのが、相続問題です。それまで仲の良かった兄弟が、親の死後、遺産相続をめぐって骨肉の争いになったという話は、ドラマの中だけのことではありません。
そんな争いを未然に防ぐには、遺言書を書いておくのが有効です。
こんな俳句があります。
恋文のごとき遺言 星月夜 (高野虹子)
遺言書は、大切な家族への最後の手紙のようなものです。
みんながこの先も仲良く過ごしていけるよう、生前準備として遺言書を書く人が増えています。
そんな遺言書はどのように書いたらよいのでしょうか。プロに頼むのなら、弁護士・司法書士・行政書士・税理士の誰に頼めばよいのでしょう?費用はどのくらいかかるかなども、あわせてご紹介します。
目次
遺言書を書くメリットとは?
人が亡くなると、相続が発生します。
民法では、相続人とその順位、また、それぞれがどのくらいの割合で相続できるかが決まっており、通常はこの法律に従って相続が行われます(法定相続)。
しかし、もし、誰に何を、どのくらい相続させたいという希望があった場合、どうすればよいのでしょうか。
相続には、法律に従って行う法定相続のほか、遺言書書に従って行う「指定相続」(遺言相続)があります。この内容を指定するのが「遺言書」です。
遺言書の内容は、できる限り被相続人の意思を反映させるため、法定相続よりも優先されます。
遺言書によって自分の意思を示せば、相続手続きで相続人同士が争う可能性が低くなります。
相続を進めるには、相続人全員の意見を一致させる必要があるため、土地建物など資産としての計算が困難な財産があった場合、一つ一つの財産をどう分配するかを決めるのは、とても大変です。しかし、遺言書で、誰に何をどのくらい相続させるか決めておけば、遺産分割協議をする必要がなくなります。
また、民法で決められている法定相続人は配偶者や子など血族のみですが、指定相続であれば、長男の妻や内縁の妻など、法定相続人でない人にも遺産を相続させることができます。
特に、相続人が1人もいない場合、原則として故人の財産は国庫に入ることになります。もし、お世話になった人など財産をあげたい人がいる場合は、遺言書を残しておきましょう。
遺言書を書く際の注意点は?
自分で書いた遺言書を「自筆証書遺言」といいます。
自筆証言遺言には、法律で定められた要件や形式があり、それらを満たさなくてはなりません。
- 遺言の内容、日付、遺言者の署名を全て自分で手書きする
- 日付を明記する
- 署名・押印する
- 加除訂正は、法律で決まったルールに従う
- 封筒に入れて封印する
などのほか、
曖昧な表現を使わない、不動産は登記簿謄本通りに正確に記載する、預貯金は金融機関の支店名、預金の種類や口座番号まで記載するなど、かなり細かく記載することが必要になります。
これらの要件や形式に不備があると、せっかく書いた自筆証書遺言が無効になってしまい、自分の意思が実行されません。もし少しでも不安があったら、相続の専門家に相談しましょう。
遺言書作成は、誰に依頼すればいいの?
きちんと有効となる遺言書を作成するには、プロの手を借りた方が安心です。では、一体どのような人に依頼すればよいのでしょうか。
弁護士
まず、相談先として思い浮かぶのは、法律のプロである弁護士ではないでしょうか。
特に、遺留分を明らかに侵害するようなケースなど、遺言書の内容によって紛争が予想されるような場合は、弁護士に依頼するのが良いでしょう。
[メリット]
もしも相続について紛争や訴訟などが起きてしまった場合、弁護士は代理人として交渉を行うことができます。これは、弁護士にしかできません。
遺言の内容によって相続争いが起きる可能性が高いと考えられる場合は、事前に遺言書の作成について相談することもできます。
[デメリット]
弁護士は複雑な案件を扱うことが多いため、他の専門家に比べて費用が高めです。手数料は、遺産の価格によって異なりますが、高い場合は300万円ほどもかかるケースもあるようです。
[費用の相場]
20万円〜300万円
ただし、数百万円の預金と不動産所有といった一般的な財産であれば、20~30万円前後で収まるようです。
司法書士
遺産の中に不動産が含まれる場合は、不動産を正確に特定した上で遺言書を作成する必要があります。そのため、登記の専門家である司法書士に依頼すると良いでしょう。
[メリット]
司法書士は、土地や不動産などの登記申請(名義変更)手続きを専門としています。また、相続手続きに関わることが多いので、預金の相続手続きや相続放棄手続きなどの相談もできます。
相続における紛争が起きた場合でも、簡裁訴訟代理権認定を受けた司法書士は、一定の条件下であれば代理人になることができます。
[デメリット]
不動産の所有がない場合は、遺言書作成の相談ができません。また、全ての司法書士が相続争いの代理人になれるわけではありません。紛争の心配がある場合は、あらかじめ確認しておきましょう。
[費用の相場]
7万円〜15万円
司法書士の場合、財産の多寡に関係なく、一律の料金体系で引き受ける事務所が多いようです。
行政書士
行政書士も、費用が安く済むようです。気軽に遺言書を作成したい人や、作成費用をなるべく抑えたい人、また、相続税などに関してや、相続争いに関して不安がない人は、行政書士に依頼すると良いでしょう。
[メリット]
行政書士は、書類作成の専門家です。遺言書の作成サポートも本来の業務として扱っているため、安価で依頼することができます。
[デメリット]
行政書士の専門は、あくまで書類作成です。そのため、相続争いなどの問題が起きてしまったら、詳しい相談ができません。
行政書士に依頼する場合、相続に関して問題が起きる可能性がないか、事前に考えておくようにしましょう。
[費用の相場]
7万円〜15万円
遺産の多寡に関係なく、一律の料金体系で引き受ける事務所が多いようです。
税理士
他の専門家に比べて、業務として遺言書作成をしている税理士の数は少ないようです。
相続税が発生する場合や、相続税の申告に不安のある場合は、税理士に依頼すると良いでしょう。
[メリット]
相続税の計算や申告は、税理士の専門分野です。書面を作成する前から相続税の相談に乗ってもらえるので、しっかり生前対策ができます。
[デメリット]
相続税に関して詳しい税理士や、遺言書の作成を業務として扱っている税理士は、まだ少ないようです。そのため、自分に合った税理士を見つけるのが難しいかもしれません。
また、税理士はあくまで税務の専門家です。もし遺産相続に関する紛争が起きても、代理人として相手と交渉することができません。
[費用の相場]
10万円〜50万円
費用は遺産や案件の複雑さによって変わりますが、比較的安く済ませることができる場合もあるようです。
士業以外にも遺言書作成は依頼できる?
ご紹介した士業以外にも、遺言書作成のサポートを行っているところがあります。
信託銀行・信託会社
信託銀行や信託会社で遺言信託を頼めば、遺言書の作成、保管から、遺言の執行まで全て行ってもらえます。士業よりも身近なイメージがあり、また信頼性もあるので、士業よりは敷居が低いかもしれません。
遺言書を作成するまでの平均的な手数料は30万円〜180万円と、やや高めです。ただ、遺言の内容を実行に移す「遺言執行」も専門家に依頼したい場合、事務所によって異なりますが、司法書士で最低15万円程度の手数料と、年間保管料として5千〜1万円程度が追加料金として必要になります。信託銀行・信託会社の費用は、いわゆるコミコミということになります。
また、相続に関する紛争が起きたとき、起きる可能性があるときは、遺言信託を引き受けてもらえない場合もあるので注意しましょう。
ファイナンシャルプランナー
どの専門家に遺言書作成のサポートを依頼するか迷ったら、ファイナンシャルプランナーに相談してみましょう。相談者の状況を総合的にみて、誰に依頼するのが良いか判断してくれます。
また、各専門家(弁護士・税理士・司法書士・行政書士)と業務提携して、遺言書作成の手配もしてもらえるところもあります。
まとめ
遺言書の作成は、相続の手続きに比べると、難易度は低めの業務です。そのため、各専門家によって大きく差が開くことはないでしょう。また、費用の点でも、相続手続きに比べてそれほど大きく差が開くこともありません。
では、あなたにとって良い専門家とは、誰なのでしょうか。
それは、「自分に最も合った専門家」です。自分が一番話しやすく、相談しやすい人に依頼するのがいいでしょう。
最後のメッセージである、遺言書。納得できて、後悔のないものを作成したいですね。