遺品整理とペットブームの悲しい末路とは

遺品整理とペットブームの悲しい末路とは

もう十数年以上、日本は「ペットブーム」だと言われています。
周囲を見渡しても、犬や猫を飼っている人が多いのではないでしょうか。SNSを見ても、多くはペットの写真、あるいはペットと飼い主の方が一緒に写っている写真で溢れています。

一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、2014年ごろには、ペットとして飼育されている犬と猫の数が合計で1000万匹を超えたというデータもありました。一方、同時期の子供の数は、総務省の統計で1600万人。
つまり日本の家庭では、子供の数をペットの数が上回っているのです。

もちろん子供の数もペットの数も、増減の理由は様々でしょうから、一概にそれが良い悪いとは言えません。ただ、それだけ日本は「ペットブーム」と呼ばれる状況だということです。

実際、ペット対応の施設も増加しました。集合住宅、飲食店のみならず、今は高速道路のサービスエリアにもドッグラン(動物を散歩させるためのスペース)が設置されています。
テレビや雑誌などで、ペット関連ビジネスが紹介されることも少なくはありません。

ただ、そのようなペット需要に関する報道とともに、常に「ペットブームの功罪」が報じられています。
功罪のうち罪の代表例は、ペットに対するお金のかけ方をはじめとする飼い主の異常な愛情(モンスター的な飼い主の誕生)か、増加するペットの殺処分や放置ではないでしょうか。
前者は各個人の嗜好でもあるので、あくまで「人それぞれ」という部分はあります。しかし後者は、人間と同じく動物の権利を冒涜するものとして、問題視されています。

現代はインターネット社会。冒頭に書いたとおり、多くの人が自分とペットの関わりについてSNSにアップしています。
そのなかで、端から見れば動物を粗末に扱っているようにしか思えない有名人のSNSが炎上しているケースが多いのもまた事実です。

と、ここまで読み進めて「ペットブームと遺品整理に何の関係があるの?」と思う人も多いでしょう。実は、遺品整理においてペットに対する対応も、重要な部分なのです。

増加する高齢者のペット飼育

高齢者がペットを飼うことが増えています。内閣府が発表した「動物愛護に関する世論調査」によれば、高齢者のなかで60歳以上の40パーセント近く、70歳以上でも30パーセント以上がペットを飼っているようです。
核家族化が進む日本にあって、高齢者のみの世帯も増えています。子供が成長して家を離れ、自身も定年で職場を離れた場合、新たな家族として動物を受け入れることが多いのでしょう。

高齢者がペットを飼うことで、「アニマルセラピー」の効果もあると言われています。
アニマルセラピーとは、平たく言えば「動物による癒し」のことです。
ペットを撫でたりすることで血圧が下がり、心臓病の進行を遅らせる、中性脂肪やコレステロールも減少するというデータもあるようです。

確かに、ペットがいればその世話のために日々、忙しくなることでしょう。ペットと一緒に外へ散歩に出掛ければ、良い運動となることは間違いありません。
仕事を終え、家族も巣立った高齢者の方にとって、新たな生活の張りになるはず。

とはいえ、日本が抱える高齢者化社会の課題のひとつは、高齢者のみの世帯が増えるなかでの、突然死・孤独死です。
もし飼い主が突然亡くなった場合、ペットはその家に取り残されることになります。
孤独死の場合だと、世話をしてくれる飼い主がいなくなれば、ペットも食事を摂ることができなくなるなど、ペットの健康にも影響が及ぶことにもなります。

そして高齢者の突然死・孤独死は増加しています。イコール、遺されるペットも増えていくことでしょう。
つまり、故人が遺したものについて考える遺品整理においても、高齢者とペット飼育は決して欠かすことができない問題と言えるのです。

先に述べたとおり、高齢者の方がペットを飼うメリットは大きいものです。そこでデメリットを取り上げ、高齢者はペットを飼ってはいけないと結論付けるのは間違いです。
そこでどうすれば高齢者がペットとともに幸せな老後を送り、亡くなったあとの遺品整理に関してもトラブルなく進めることができるのかを考えていきたいと思います。

保健所でペットを処分する遺族も……

故人が遺したペットへの対応として、保健所に連れて行くということが、よく聞かれます。
それは遺品整理だけでなく、日常的にもペットを捨てるように保健所で殺処分をしてもらうため連れて行くといったことも多く、そういった飼い主の行動は社会問題化しています。
ここでまず、そもそも保健所とは何かを理解しておく必要があるでしょう。

保健所とはペットを捨てる場所ではない

保健所とは「地域保険法」という法律に基づき、地域住民の健康や衛生環境を守るために、各地域に設置された公的機関です。
主な業務は食品衛生の管理や、上下水道、廃棄物などの指導・監督を行うことであり、また、病院や医師、看護師といった医療面も管理しています。
この保健所が、犬や猫をはじめとする動物の殺処分を実施しているのですが、それにはひとつの理由があります。

大前提として「地域住民の健康や衛生環境を守るために」、野良犬や野良猫が狂犬病などの病気を撒き散らすことがないよう、動物の殺処分を行います。
決して、「家庭で飼えなくなった動物を殺してもらうために」殺処分を実施しているわけではありません。動物を捨てるための場所ではないのです。
この点で、保健所による動物の殺処分は、一般的に大きな誤解を受けているようです。
それが証拠に、保健所は動物の里親を探す業務も行っています。飼い主がわからないからといって、全ての動物を殺処分ではないのです。
当然、飼い主が「里親を探してください」と保健所に自分のペットを連れて行くのも、完全に保健所の役割をはき違えた行為と言えるでしょう。

故人にとってペットは大切な家族であったはずです。今は「ペット」という呼び方を嫌がる人もいます。それは「飼い主」という言い方も同様です。
我が子のように育てた動物を、そのように処分されたら、きっと故人も悲しい思いをすることでしょう。
だからこそ故人が遺したペットも、遺族で引き取るか、または引き取ってくれる親類を探してください。
どうしても引き取り手がいなければ、必ず里親を探すようにしましょう。今は里親を探してくれるボランティア団体や、ペットショップなども存在します。
どうすれば良いかわからない場合は、遺品整理の際に業者に相談してみることをお勧めします。

生前整理でペットの情報をまとめておこう

亡くなる前に、その人の情報を整理しておく「生前整理」の重要性が、日に日に高まっています。それはペットについての情報も同じです。
ここで、生前整理においてペットに関し、どのような情報をまとめておけば良いかをご紹介します。
次のような情報を、ペットについてのお喋りを通じて引き出しておくのが良いでしょう。

1)ペットの基本情報

名前、種類、性別、年齢・生年月日、健康状態・病気、かかりつけの病院、特徴・癖、好きな食べ物(普段どんなものを食べていたのか)

2)血統書の有無

よく聞かれる血統書とは、正式には「血統証明書」といいます。血統証明書を発行している一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)では、次のように定義しています。

血統証明書とは、一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)に血統登録された同一犬種の父母によって生まれた子犬に対して発行されるもので、人間に例えると「戸籍」のようなものにあたります。純粋犬種は、この血統証明書によって、本犬、両親から祖先まですべて同一の犬種であるということが証明されなければなりません。

血統証明書とは、一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)に血統登録された同一犬種の父母によって生まれた子犬に対して発行されるもので、人間に例えると「戸籍」のようなものにあたります。純粋犬種は、この血統証明書によって、本犬、両親から祖先まですべて血統証明書の登録申請は、クラブ会員である繁殖者とJKCとの信頼関係に基づいて行われます。子犬の血統証明書が発行される手続きは、まず繁殖者(=母犬の所有者)が所属クラブを通じてJKC本会に申請し、JKCでは申請内容を厳重に審査したうえで、犬籍原簿に登録し、血統証明書を発行します。これを人間に例えると「出生届」にあたり、犬籍原簿は永久に管理されます。

JKCをはじめとする世界のケネルクラブでは、純粋犬種の血統を管理し、より犬質の高い犬を繁殖するために必要な祖先犬の情報を「血統証明書」という形で提供しています。
(JKC公式ウェブサイトより)

このように、特別な種の動物であれば、故人が血統証明書を発行してもらっています。その動物を引き取る上で重要な情報ですので、必ず確認してください。

3)避妊手術の有無

動物を飼育するうえで、最も注意しておかなくてはならないことのひとつが、繁殖と避妊です。
ペットを飼っている方、あるいは以前に買ったことがある方は、特に犬や猫の繁殖について困った経験があるのではないでしょうか。
動物の繁殖行為については、なかなか飼い主が管理しきれるものではありません。気づけばメスが赤ちゃんを身ごもっているというケースは、たくさんあります。
同時に、そこで生まれた赤ちゃんの世話や今後について、オスの飼い主に責任を求めるトラブルも多数発生しています。
そのため、ペットに避妊手術を施している飼い主も多く、結果、繁殖に関するトラブルを回避している飼い主もいることも、皆さんご存知でしょう。
しかし動物を飼ったことのない人が引き取る場合には、なかなか気づかれない部分です。必ずしも避妊するほうが良いというわけでもなく、また悪いわけでもありません。
どちらにもメリット・デメリットはあります。いずれにせよ、引き取り手のために必ず、避妊手術の有無は確認しておいてください。

4)ペット保険について

現在は大手保険メーカーが、「ペット保険」という商品を取り扱っています。
基本的にペットには、人間と同じ医療保険が存在しないため(当たり前ですが)、ペットの医療費用は全て自己負担となります。
そこで医療に関すること、治療や入院などの費用を保険会社が負担してくれるのが「ペット保険」です。
引き取る場合には、ペット保険の有無も確認しましょう。支払いなどを引き継ぐかどうかなど、重要なポイントとなります。

5)ペット墓について

ペットのお墓については以前から存在していましたが、ペット飼育の需要が高まるにつれて、ペット専用の墓地も数多く誕生してきました。
現在、生前整理として生きているうちに自身の墓地や墓石を用意しておく方が増えたように、ペットのための墓も準備している可能性があります。
また、遺言としてペットが自身のあとに亡くなったら、同じ墓に入れてほしいと希望する飼い主もいます。
ペットの死後についても、故人の意志を確認しておくことが必須と言えます。

以上のように、遺品整理において故人が遺したペットへの対応も重要な項目のひとつです。そのためにも生前整理が大切になってくる理由もおわかりいただけたでしょうか。
高齢者がより良き老後を過ごすためのパートナーとして動物を選び、家族のように大切にしていたペットです。
故人の意志を尊重しながら、しっかりと引き継いでください。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。