一般社団法人日本ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査(2017年)によると、日本全国で犬は892万頭、猫は952万6千頭も飼われているそうです。
犬の飼育頭数はやや減少傾向にあり、2016年と比べると、20~60代では飼育率、飼育意向(ペットを飼いたいという希望)ともに減少しているのに対し、70代では飼育率、飼育意向ともに横ばいとなっています。
高齢者がペットを飼う動機は、「生活に癒しや安らぎが欲しかったから」という理由が3割を占めます。
特に犬の場合は「運動不足解消のため」という理由も1割強を占めています。
散歩の頻度や時間ともに全世代の中で最も多く、犬の散歩を通じて自分の健康も維持したいと考えているんですね。
また、市販の犬のおもちゃや衣類にかける費用は、20代を除いて他の世代よりも高いそうです。犬と接する時間が長いからなのでしょう。
さて、遺品整理を行っていると、故人が飼っていたペットの問題もよく見かけます。
可愛がっていたペットを残してこの世を去るのは、どんなにか心残りなことでしょう。
そして、残されたペットは? もし引き取るとしたら、遺産扱いになるのでしょうか?
ペットに財産的価値はあるの?
身内が亡くなり、ペットが残されたら、そのペットは一体どのような扱いとなるのでしょうか?
法律上、ペットは「モノ」として扱われますので、そういった意味では遺産の一部になると考えられます。
そこで難しいのが、故人亡きあと、残されたペットをどう扱うかです。
相続人に遺産相続する意思がある場合はいいのですが、もし故人に借金などマイナスの財産があり、相続放棄をしたい場合に、このペット問題が浮上してきます。
故人が多額の借金を残していたというような場合、法定相続人は「相続放棄」をするか「限定承認」をするかを3カ月以内に決めなくてはなりません。
そして、期限内に家庭裁判所に対して手続きをする必要があります。
もし、この手続きをする前に、ある一定の行為をしてしまうと、 プラスの遺産もマイナスの遺産も全てひっくるめて相続する「単純承認」をしたとみなされてしまいます(法定単純承認)。
この、法定単純承認とされる要件のひとつに『相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合』があります。
“処分”というのは、勝手に人にあげてしまったり、あるいは売却してしまったり、また壊してしまったりすることをいいます。
果たして、この「相続財産」にペットは含まれるのでしょうか?
つまり、個人と一緒に暮らしていたペットが残されてしまい、かわいそうだからと相続人が引き取ってしまうと、相続放棄したくてもできなくなるのでは? ということです。
通常の遺産相続の場合、ほとんど金銭的価値のないものであれば、「形見分け」をするのは問題ありません。
しかし、財産的価値があるものに関しては「相続財産の処分をした」とみなされる可能性があり、そうなると相続放棄ができなくなってしまいます。
形式的・理論的には、ペットも相続財産として扱われるため、亡くなった人のペットを引き取った場合、相続放棄できなくなる可能性はゼロではありません。
血統書付きの、購入した際も高額だったようなペットであれば、財産的価値があるとされる可能性は考えられます。
しかし、近所にいたノラネコを拾ったというような場合は、財産的価値はほとんどないと言えるでしょう。
このように、ペットが財産上無価値(売却不可能)であることが明らかならば、事実上、管理し続ける(引き取る)ことはできそうです。
とはいえ、ペットが血統書付きだからといって、必ずしも財産的価値があるとはいえませんし、財産とはいっても命のある生き物です。
現実問題として、家庭裁判所において、相続放棄の申述受理にあたってそこまで厳しく審査はしませんし、相続人しか引き取り手がいない場合、もし相続放棄を認めたくない債権者が裁判を起こしたとしても、放棄が認められると考えられます。
ただ、弁護士によって見解が違う場合もありますので、もしもこのような事態になった場合は、早めに専門家に相談しましょう。
ちなみに、相続放棄の手続き中、残されたペットに対してエサをやることは、財産の処分行為ではなく、「管理保存」と考えられます。
そのため、単純承認をしたとはみなされず、相続放棄ができなくなることはないでしょう。
ペットは遺産相続できる?
外国で、大金持ちが自分の死後、飼っていたペットに○億円相続させた、というような話を見かけますよね。
近年、日本でも、残されたペットのことを考え、自身の死後に「遺産相続」をしたいと考える飼い主さんが増えています。
でも、ペットに人間の子供と同じだけの権利が与えられ、多くの州で飼い主の死後にペットへ一定の財産を相続させる制度が認められているアメリカと違い、日本ではペットは「モノ」であり、飼い主の所有物のひとつと見なされます。
そのため、日本の民法では遺産の相続や遺贈を受けられるのは「相続人」つまり「人間」のみ。たとえ遺言にペットに相続させると書かれていても、法律上、認められません。
しかし直接ペットに譲るのではなく、「人」を介してなら可能なのです。
- 負担付き遺贈
- 負担付き死因贈与契約
- ペット信託
- 老犬(老猫)ホームを利用する
負担付き遺贈
「負担付き遺贈」とは、特定の人へ「財産の譲渡」と「債務の負担」をセットで託すことを遺言として残す方法です。
財産となる遺産を渡すかわりに、遺産を譲られた人は、何らかの負担を課せられるというものです。
これをペットに応用し、ペットの飼育を条件として財産の一部または全部を相続人に相続させたり、法定相続人以外の第三者に贈与したりすることができます。
また、「遺言執行人」を指定し、ペットが遺言通りきちんと世話されているか監視してもらうことができます。
遺言が守られていない場合、遺言執行者は改善請求をすることができ、改善されない場合は、遺贈の取り消しを家裁に申し立てすることができます。
負担付遺贈は、元の飼い主の死後に発効しますは、元の飼い主が亡くなった後に放棄される可能性があるので注意が必要です。
負担付き死因贈与契約
「負担付死因贈与契約」は、ペットの飼育を条件に、新しい飼い主に財産を遺す契約で、元の飼い主の死後に発効します。
「負担付遺贈」は被相続人からの一方的な行為ですが、「負担付死因贈与契約」は元の飼い主と新しい飼い主との間で結ぶ合意契約です。
負担付死因贈与は、合意が成立していたら、元の飼い主の死後、新しい飼い主が一方的に破棄することはできません。
より確実に履行してもらいたいなら、負担付遺贈より負担付死因贈与契約のほうが適していると言えるでしょう。
ペット信託
「負担付遺贈」も「負担付死因贈与契約」も、効力が発生するのは飼い主が亡くなった後です。
飼い主が病気になった場合など、ペットの飼育ができない状態になった時にも備えるなら、別の方法が必要となります。
それが「ペット信託」です。
ペット信託とは、残されたペットが生涯世話を受けるための資金と場所を、あらかじめ準備しておく仕組みです。
飼い主が亡くなった後のことだけでなく、生前に自力で世話をしてあげることが難しくなった場合にも備えることができます。
飼い主は、ペットの養育費を、資金を管理する人や会社へ信託します。
この時、信託開始の条件や新しい飼い主などを決めておきます。
遺産は特定の信託管理人の管理下におかれ、ペットの飼育費などを新しい飼主へ分配、利用してもらいます。
信託監督人がペットの様子と飼育費を監督してくれるので、遺産が他の人に渡ることはありません。
元の飼い主の希望に近い形で遺産が利用され、ペットの生活が保障されるのです。
もしも、相続人に対して「費用は出すのでペットの面倒を見てほしい」と遺言を残したとしても、遺言の内容が確実に実行されるかどうかは保証がありません。
最悪の場合、お金だけ取られてペットは放置されるような可能性もあります。
しかし、信託であれば、弁護士や行政書士などが信託監督人となって受託者の飼育状況を監視してもらえるので、確実に世話が行われます。
また、信託は遺言と違い、生前・死後に関わらず実行されるという大きなメリットもあります。飼い主にとっては最も安心できる制度ではないでしょうか。
老犬(老猫)ホームを利用する
ペットのために誰かに遺産を譲るという形以外にも、遺産を利用する方法はあります。
最近は、フードや飼育環境が良くなり、また医療も発達してペットの寿命も延びています。
そのため、寝たきりになったり、痴呆が始まって素人では面倒を見きれなくなるペットが増えています。
そこで、老犬ホーム(老猫ホーム)を利用するという方法があります。
老犬ホームは、人間の老人ホームのペット版で、家で飼い続けることが難しくなった犬や猫の面倒を見てくれる施設です。
数カ月の期間限定で預けられるコースから、終身で面倒を見てもらえるコースまで、さまざまなタイプがあります。
ある老犬ホームでは、8㎏未満の小型犬の終身タイプの費用は86万4000円、入所金10万円となっています。
このように、老犬ホームは100万円前後のお金が必要なので、使えるお金がある場合は、プロの手に託すという選択肢を考えてみるのもいいでしょう。
まとめ
法律上は「モノ」であっても、ペットは心を持った生き物です。
大好きな飼い主さんがいなくなってしまった悲しみは、人間と変わりありません。
故人の供養の一つとして、残されたペットが安心して生活できるよう、良い方法を見つけてあげたいですね。