1997年に施行された臓器移植法では、脳死後の臓器提供には本人による書面での意思表示を必要とするなど、厳しい制限がありました。
しかし、2010年に法律が改正され、本人の意思が不明な場合は、家族の承諾があれば、臓器の提供や15歳未満の人の脳死臓器提供も可能になりました。
これにより、臓器提供に対する本人の意思が確認できないまま、家族に生と死の判断が委ねられるケースが増えています。
もし肉親が脳死状態となってしまったら、あなたはどうしますか。
家族の葛藤が深まっている今、臓器移植について知っておきましょう。
目次
臓器移植とは?
臓器移植は、病気や事故によって臓器が機能しなくなったときに、健康な人の臓器を移植して、機能を回復させる医療です。
臓器移植までの流れは?
腎臓の移植を希望する人は、通院している透析施設から移植施設に申し出て、日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録します。
その他の臓器の場合は、各臓器の移植施設で検査とインフォームドコンセントを行います。
日本循環器学会、日本肝臓学会などの関連学会による各臓器の適応評価検討委員会が、全国から集まった移植希望者のデータを医学的に検討し、移植が必要かどうかを判定します。
その結果、移植が必要と判定されると、移植施設を通じて臓器移植ネットワーク本部に登録し、移植の機会を待つことになります。
登録するには?
JOTに新規で移植希望の登録をする場合、3万円の登録料が必要です。また、毎年3月末に登録が更新され、5000円の更新料が必要となります。
心肺同時移植、肝腎同時移植、膵腎同時移植などのように、2つの臓器の移植が必要な場合は、それぞれの臓器について登録の手続きが必要です。
また、更新もそれぞれの臓器について行います。
生活保護世帯、または住民税の非課税世帯は、所定の書類を提出すれば、いずれも免除されます。
なお、JOTに登録が必要なのは、脳死を含む亡くなられた人からの臓器移植の場合です。
生体腎移植や生体肝移植などの「生体移植」については各病院で行われているので、各病院に問い合わせましょう。
臓器提供とは?
臓器提供とは、脳死や心肺停止後、回復に向けた治療が難しいと判断された場合に、患者の健康な臓器を別の患者に提供することです。
臓器提供は、善意による無償の提供です。
また臓器提供者には、提供にかかわる費用の負担は一切ありません。
どんな人が提供できるの?
基本的に誰でもできますが、がんや全身性の感染症などで死亡した場合は提供できないことがあります。
提供の可否は、臓器提供時に医学的に判断されます。
提供する場合、年齢制限はなく、0歳(脳死下は12週以上)から提供できます。
ただ、上限があり、心臓は60歳くらいまで、腎臓は70歳代で、眼球は80歳代で提供された例があります。
移植できる臓器は?
心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸、眼球(角膜)です。
心肺同時移植、肝腎同時移植、膵腎同時移植、小腸肝同時移植などの2臓器同時移植もあります。
海外では胃や大腸、小腸などを同時移植する多臓器移植も行われています。
手術に痛みはあるの?
臓器の摘出は、脳死後、または心肺停止後に行われます。
いわゆる「植物状態」の場合は回復の見込みがあり、脳も働いていますが、脳死の場合は回復の見込みがない状態です。
そのため、痛みはありません。
臓器提供後の身体はどうなるの?
数時間の摘出手術をしたあと、家族のもとに戻ります。
脳死の場合、臓器の摘出手術は、家族が提供に同意してから2〜3日後に行われます。
摘出による傷は1ヶ所のみです。術後はきれいに縫合され、外からは分かりません。
眼球を提供した場合は義眼を入れるので、顔はほとんど変わらないようです。
臓器を提供するには?
自分の脳死後、誰かに臓器を提供したいと思ったら、どうすればよいのでしょうか。
それには、3つの方法があります。
「臓器提供意思表示カード」
臓器提供意思表示カードは、全国の市役所、保健所、郵便局、運転免許試験場、一部のコンビニエンスストアなどで配られています。
裏面には以下のような項目が書かれています。
- 私は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植の為に臓器を提供します。
- 私は、心臓が停止した死後に限り、移植のために臓器を提供します。
- 私は、臓器を提供しません。
(1又は2を選んだ方で、提供したくない臓器があれば×をつけてください。)
[心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球]
「臓器提供意思表示カード」という名称から、提供した場合のみの意思を表示するような印象がありますが、そうではありません。
「提供しない意思」を表示することもできます。
インターネットによる意思登録
日本臓器移植ネットワークの臓器提供意思登録サイト(https://www2.jotnw.or.jp)にアクセスし、国内での死後の臓器提供に関する意思が登録しましょう。
このサイトから個人情報などを入力し、仮登録をすると、IDの入った登録カードが郵送されてきます。
もう一度サイトにアクセスし、送付されたIDとパスワードを入力すれば、登録完了です。
また、15歳未満の人でも臓器を「提供しない」意思を登録できます。
保護者と一緒に同意画面を確認の上、登録をしましょう。
健康保険証などへの記入
一人ひとりが手軽に意思表示できる環境を整えるため、運転免許証や健康保険証、マイナンバーカードなどに、臓器提供意思表示欄の設置が進められています。
自分の免許証や保険証などを確認してみましょう。
もし意思表示欄があれば、記入は任意ですが、なるべく意思を表示しておきましょう。
家族は何をするべきか?
もし、家族に突然不幸があり、その家族の臓器が移植できるとしたら、家族はどうすればよいでしょうか。
家族の臓器提供の意思の有無がはっきりしている場合はいいでしょう。
しかし、カードを持っていなかったり、亡くなった人本人の意思がはっきりしない場合、臓器提供の可否は家族に委ねられるのです。
通常、脳死になった人は数日から10日ほどで亡くなることが多いため、家族は、その限られた時間の中で臓器を提供するかどうかを決断しなければなりません。
家族が臓器提供の検討を望んだ場合、臓器移植コーディネーターという移植の専門家が詳しい説明をします。
その結果、家族が正式に提供を承諾すると、脳死判定が2度にわたって行われ、ここで法的に「死亡」が確定し、2回目の検査が終わった時間が臨終の時刻となります。
ここで問題となるのが「脳死」に関する感じ方、考え方です。
脳死とは、脳が機能しなくなった状態のこと。
自然状態では、呼吸もできず、まもなく心臓も停止します。
しかし、病院で人工呼吸器をつけ、強制的に呼吸させ続けると、脳が完全に機能停止した後も、数時間から数日の間、心臓は動き続けます。
その間は体温も維持され、爪やひげ、髪も伸び続けるのです。
ただし、完全な脳死状態になったら、蘇生することはありません。
人工呼吸器をつけていても、その間に内蔵は劣化していくため、脳死から数日たち、完全に心臓が停止した状態においては、ほとんどの臓器は移植には使えなくなってしまうのです。
そのため、心臓が動いているうちに脳死判定を行い、臓器を移植するわけです。
Aさんの家族は、最初は臓器提供を承諾しようと考えましたが、最終的には承諾しませんでした。
脳は死んでいると言われても、まだ体温があり、心臓も動いているのです。
臓器提供を承諾すれば、Aさんの命は自然に消えるのではなく、自分たちが死を決めることになる。
その葛藤から臓器の提供を行わないという決断をしました。
Bさんの家族は、臓器の提供を行いました。
しかし、後悔が残っていると言います。
生前のBさんが、何気なく「将来、臓器移植してもいいかな」と言っていたという家族の記憶から提供を決断しました。
Bさん家族は、人助けができたという気持ちとともに、本当にこれで良かったのか、という悔いも残っているといいます。
本人の意思をはっきり確認したわけではないからです。
このような大きな決断とは、もっとじっくり向き合いたかった、という気持ちが拭えないそうです。
まとめ
臓器提供の意思がはっきりしていないと、家族が悩んだり、のちのちまで後悔したりすることになりかねません。
また、亡くなった本人にとっても、望んでいなかった結果になってしまうこともあります。
このようなことにならないためには、家族との話し合いが大切です。
生前整理の一環として、相続のことや遺品のこととともに、エンディングノートなどに書き込んでおくとよいでしょう。
また、臓器提供の可否を明確にするため、臓器提供意思表示カードを携行していれば、本人と家族の共通した意思であることを証明できます。
臓器提供の意思は、いつでも何度でも変更できます。
あまり気負わず、考えてみてはいかがでしょうか。