お超高齢化社会が進む日本にあって、大切な家族が亡くなること、その遺品を整理しなければならない時は、突然やって来ます。
特に親御さんが高齢になれば、心の準備はもちろん、遺品整理の準備も考えておかなければなりません。
親御さんがご存命のうちに、「生前整理」に注目が集まっているのも、そんな日本の現状を象徴していると言えるでしょう。
生前整理の代表例といえば、まず実家の片付けを始めたり、相続に関する品々の権利書などを整理したり、あるいはエンディングノートを作成したりといったことが挙がることかと思います。
その生前整理のなかに、お墓に関する問題が含まれていることはご存じでしょうか。
生きている間に自分のお墓や墓地を見つけておくことはもちろん、現在話題となっているのは、その真逆、現在あるお墓や墓地を整理する「墓じまい」なのです。
今回は遺品整理における、お墓の問題について触れたいと思います。
お墓については宗教によって形式が異なりますが、今回は仏教におけるケースを説明することにします。
生前整理でお墓・納骨堂の準備をしておく
現在、親が子に金銭的負担をかけないよう、生前に自身のお墓を用意しておくケースが増えています。
まず墓石の価格相場は、墓石の種類にもよりますが、一般的に安いものであれば60万円、高額なものでは300万円ほどと言われています。
これは墓石のみの値段で、文字を彫ったり石を磨いたりといった作業の費用も必要となります。
さらにお墓には墓地代(永代使用料)、お墓の管理費などもかかります。
永代使用料は約1.2平米で、東京都23区であれば平均160万円から200万円、それ以外でも30万円から60万円という価格が相場のようです。
もちろんこの価格は墓地(霊園)が場所・管理団体によって大きく変動します。
加えて、お墓の管理費用も年間で4000円から数万円がかかります。「お墓の管理」とは、管理団体や寺院が墓石や墓地を常に綺麗にしておいてくれたりするという、お墓を維持していくためには必要なものです。
こうしたお墓に関する費用の総額は何百万単位になることもあり、家族・親族にとってもすぐ用意できる金額ではありません。
そこで親としては、そんな金銭的負担を子にかけないよう、生前に自分が墓石や墓地を購入し、また管理費などの支払いも手続きを済ませておくケースが増えているのです。
最近は、墓石や墓地を購入せず「納骨堂」に遺骨を納めるケースも増えています。
納骨堂とは室内で骨壺に入った遺骨を保管・管理しておく施設のことです。
利用するのは宗教の別も問わず、また墓地や墓石を購入するよりも費用が安くなることもあり、現在では寺院が墓地とともに管理するのではなく、納骨堂のみの施設もあるほど需要が高まっています。
形式は多種多様ですが、最も多いのはロッカー式のものです。
お参りの際にはロッカー式の扉を開き、お線香やお供え物などを入れることができるので便利です。
ただし施設によっては管理期限があり、その場合は期限終了とともに契約を更新する必要があります。
契約更新を怠ってしまうと、大事な遺骨が「無縁仏」となってしまうこともありますので、注意してください。
埋葬・納骨に期限はないが制約はある
遺骨をいつまでに埋葬・納骨しなければならない、という期限はありません。
一周忌を迎えるまでに、とよく言われますが、それもひとつの目安です。
「墓地埋葬等に関する法律」(通称、墓埋法)では、「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。」とあるのみ(もちろん例外もあります)。つまり法律上、埋葬について「いつから」は定められていても、「いつまでに」という期限は決められていないのです。
火葬後の遺骨は七七日(亡くなってから四十九日)まで自宅に安置し、四十九日法要の際にお墓へ埋葬したり、納骨堂に納めることが多いようです。
ただし、埋葬・納骨に「いつまでに」という期限はありませんが、「どこに」という制約はあります。
「墓地埋葬等に関する法律」(通称、墓埋法)によって、遺骨は各都道府県が指定した墓地に埋葬しなければならないことが定められているのです。
さすがに都道府県の認可を受けていない業者が大っぴらに宣伝し、埋葬や納骨を受け付けるケースは見られませんが、それもしっかりと法律で定められているからとも言えます。
生前整理においても、親御さんにお墓のことを確認しておくこと、あるいは家族・親族のなかでも墓石・墓地・お墓の管理について話し合っておくことは、重要なポイントです。
金額も大きいため、専門家に問い合わせてみるのも良いでしょう。
現在はインターネットで霊園や墓地・墓石を探すことができるサイトもありますし、また霊園や寺院だけでなく、葬儀会社も葬儀だけでなくお墓に関する相談を受け付けています。
特に金額などは直接、業者と会い、相談することをお勧めします。
注目を集めている「墓じまい」とは
ここまで遺品整理にも関係してくる、お墓の問題について触れてきました。
生前、あるいは亡くなった後に墓石・墓地や納骨堂の手配をすることも重要ですが、現在はその逆とも言える作業に注目が集まっています。
それは「墓じまい」です。
文字どおり、お墓を撤去、墓地を返還したりすることを言います。
ではなぜ現代で「墓じまい」を行うことが増えたのでしょうか。
やはり核家族化や高齢化社会が大きな影響を及ぼしており、大きな理由としては次の2点が挙げられます。
1. 子供に金銭的・労働的負担をかけたくない
先に述べたとおり、お墓に関する費用は、場合によっては非常に高額なものとなります。
新規に墓石や墓地を購入するケースではなく、ご先祖様より受け継いだお墓に自分が入り、子たちがそれを守っていくだけでも、当然のことながら維持費が発生します。
霊園・寺院に管理費を支払い、通常のケアを行ってもらうことはできますが、やはりお墓を維持するためには、修繕・清掃も含めて新規の費用はどうしても必要になってくるものです。
子からすれば、先祖代々のお墓を守っていくことに対する、金銭的・労働的な負担は問題ないかもしれませんが、自分の死後に子へ負担をかけたくないと思うのも当然かもしれません。
2. 子孫が絶え、無縁仏になってしまう
現代ニッポンは核家族化、高齢化社会が進み、さらには少子化も大きな問題となっています。
すでに子が親元から旅立ち、遠く離れた場所で生活を営み、そこで新たな世帯を形成することも一般的になりました。
そこでひとつの問題が発生します。実家で守られてきた、先祖代々のお墓をどう維持していくかということです。
子にとっても、日頃からお参りしたり、お墓の掃除を行いたいという希望があっても、現在の生活拠点が離れた場所にあれば、それもなかなか叶いません。
さらに少子化によって、お墓を受け継ぐ子孫がいなくなった場合(子が女性ばかりで、全員が嫁いでしまった場合も含む)、どうなるでしょうか。
結果、お墓をお参りしてくれる人がいなくなり、そのまま無縁仏となってしまうことが、少なくないのです。
自身が入っているお墓、あるいはご先祖様が眠っているお墓が無縁仏となり、放置されてしまうのは、誰にとっても悲しいものです。
ならば生前にお墓を整理しておく――「墓じまい」という選択をするのも、当然なのかもしれません。
「墓じまい」の基本的な流れ
実際に「墓じまい」――お墓を整理するには、どうすればよいのでしょうか。
ここで一般的な「墓じまい」の流れを説明しましょう。
1) 遺骨の行き先を決める
「墓じまい」とは文字どおり、お墓を整理することであり、墓地から墓石を撤去することになります。
そこでお墓に眠っている遺骨を、お墓の撤去後はどこで管理するか決めておかなくてはいけません。
遺骨の行き先としては、次のようなものが挙げられます。
・永代供養墓(合祀)
寺院や霊園が運営する共同墓地や納骨堂を、永代供養墓と言います。ここに他の人と一緒に入る(合祀)は、近年増えているパターンです。
これは墓じまいに限らず、先にご紹介したように、墓石や墓地の購入や維持の負担を子に背負わせたくない親御さんが、生前に合祀を選択することも多くなっています。
永代供養墓の場合は、恒久的に管理者(寺院・霊園など)が手入れや供養を行ってくれるため、お墓の掃除など遺族の金銭的・労働的な負担が軽減されます。
また、永代供養墓は宗教の別を問いません。したがって子の家の近くの寺院や霊園、納骨堂に合祀してもらうと、子にとってもお参りしやすいというメリットもあります。
・散骨
故人の遺体を火葬したあと、遺骨を粉末状にし、海や山に撒く葬送方法を「散骨」と言います。
まず火葬した遺骨をそのままの形で撒いてしまうと、刑法で罰せられてしまう(遺棄罪)点には注意が必要です。
散骨のためには、遺骨を2ミリ以下の粉末状にしなければいけません。さらに、散骨の場所についても、どこに撒いてもよいというわけにもいかず、海でも山でも撒く場所にとっては、その周辺に住んでいる人や、仕事をしている人とトラブルが発生することもあります。
散骨を選択する場合でも、自身で行うのではなく、専門業者に任せたほうがトラブルを避けることができるでしょう。
・手元供養(自宅供養)
自宅で遺骨を管理することを「手元供養(自宅供養)」と言います。
この方法だと永代供養墓や散骨よりも比較的費用を抑えられ、また常に故人と一緒にいることができるという、心理的なメリットもあります。
2) 権利関係の確認、寺院・霊園との交渉
お墓(遺骨)の管理には、相続問題も関わってきます。また法事を行ううえでも、祭祀継承権など家族・親戚と話し合っておくことも必要となります。
この権利関係を整理したうえで、現在お墓を管理している寺院や霊園に、墓じまい(お墓の撤去)する旨を伝えます。
さらに遺骨の行き先が永代供養墓である場合は、市区町村へ行き「改葬許可申請」の手続きを行います。これは遺骨を今のお墓から別のお墓へ移すために必要な申請で、散骨や手元供養の場合は手続きの必要はありません。
3) 墓石の撤去、墓地の返納
墓石の撤去は墓石屋さんにお願いすることになります。撤去後、更地にした墓地は、管理していた寺院や霊園に永代使用権を返納して、「墓じまい」は完了です。
上記のとおり、お墓や埋葬、墓じまいには様々な手続きが必要となり、そのため多くの業者が関わってきます。
特に最近、墓じまいは多くの代行業者が存在していますが、依頼者と業者の間でトラブルが起こることも少なくありません。
なかには、ありもしない寺院や霊園、専門業者とのトラブルを煽り、「ウチに任せれば大丈夫」と高額の料金を請求する代行業者もいるほどです。
一方で、専門知識が必要な部分もあり、個人で行うより業者に任せたほうがよいことも多いのも事実です。
ご家族が亡くなった直後に、こうしたお墓の問題に対処するのは、遺族にとっても難しいことでしょう。
もしもの場合に慌てないよう、お墓についても事前の準備や業者選びなど、生前整理が重要となってくることは言うまでもありません。
故人と遺族、どちらにとっても大切な生前整理に、しっかり取り組んでおきましょう。