「お葬式」というと、斎場やお寺などに血縁者や地縁者、関係者が集まり、お坊さんがお経をあげて、参列者が焼香をして・・・というイメージが浮かぶ人が多いのではないでしょうか。
日本で一番多いお葬式は仏式で、全てのお葬式の80%を占めるそうです。お葬式に対して、仏式のイメージが強いのは当然といえるでしょう。
では、残りの20%は、どんな形式でお葬式を行っているのでしょうか?
神式やキリスト教式でのお葬式も行われていますが、それぞれ2.4%、0.9%と割合は低く、ほとんどは宗教に関係ない葬儀が選ばれているそうです。
最近、形にとらわれないお葬式として、遺族や自分の思いを反映させた「自由葬」と呼ばれるお葬式が注目されています。
そんな「自由葬」とは、いったいどんなものなのでしょうか。
自由葬とは?
- 自由葬が増えつつある理由は?
- 無宗教葬と自由葬
自由葬が増えつつある理由は?
日本で仏式のお葬式が多いのは、お葬式とお寺(仏教)が密接に結びついているからです。
これは、江戸幕府が宗教統制のために作った「檀家制度」の名残りだと言われています。
現代に至るまで檀家制度は残っており、檀家制度によって確立した年忌法要、定期的なお墓参りは日本に根付いています。
このため、今でも葬儀や法要、お墓の管理を自身の家の檀那寺に委託するケースが非常に多いのです。
しかし、戦後を経て、現在、日本人の多くは特定の信仰を持たず、無宗教であるというのが実状ではないでしょうか?
そこで、「信仰がないんだから、特定の宗教に則ったお葬式はしたくない」「自分の好きなように行いたい」と考える人が出てきてもおかしくはありません。
こういった時代背景から、宗教的な儀式の枠にとらわれず、自由に故人を送るお葬式が増えていると考えられます。
無宗教葬と自由葬
「無宗教葬」とは、僧侶や神職など宗教者を招かず、宗教的な儀式を一切行わないお葬式です。
「自由葬」は、その名の通り“自由”なお葬式なので、宗教的な要素があってもなくても構いません。
各宗教や宗派で決まっている規範から少しでも外れていたり、自分がやりたいこと、好みの要素が加わっていれば、自由葬といっていいでしょう。
自由葬のいろいろ
- 生前葬
- 直葬
- 自宅葬
- お坊さん便
- 故人の好きなものを取り入れた葬儀
- ショー化されたお葬式
生前葬
「自由」といえば、これほど自由なお葬式もないのではないでしょうか?
本来「お葬式」というものは、「亡くなった人の魂を慰安する」、「遺族の安寧を祈る」ものです。
これは、宗教・宗派や形式が違っても、お葬式というものの基本ですね。
ところが生前葬は、まだ生きているのに自分を見送ろうというわけですから、意味合いから言っても自由の最たるものと言えるでしょう。
生前葬は、日本では、著名人が社会的な活動の終止符を打つときに行うケースが多いようです。
型破りなお葬式であり、本人がまだ死んでいないこともあって、式の形式も明るく、オープンに行われることが多いようです。
直葬
「直葬」とは、通夜やお葬式などを含めた一般的な葬儀の過程を減ることなく、火葬だけで済ませてしまうことを言います。
人が亡くなったあと、24時間は火葬ができないため、いったん葬儀社の安置室などに安置し、24時間が過ぎたら荼毘に付します。
火葬場では主だった親族が炉の前に集まり、一人ひとりが花を手向け、手を合わせて最後のお別れをし、炉に入るまでを見送って終了です。
火葬しか行わないというと、それで故人をきちんと供養できるのだろうか? と思う人も多いでしょう。
しかし、故人が大往生で参列者が少ない、親族も高齢で参列が難しいなどの理由から参列者が非常に少なくなるような場合、直葬を選ぶケースが多いようです。
また、「通常の儀式にありがたみを感じない、価値を見出せない」という理由や、費用が抑えられるという経済的な理由から選ぶ人も。
最近、直葬を「火葬場でお別れの儀式をする見送り方」と捉え、「火葬式」としてプランを組んでいる葬儀社が増えています。
自宅葬
昔は、お通夜やお葬式は斎場などで行うのでなく、自宅で行うのが普通でした。
しかし、多くの人が集まる現代の葬儀は、住宅事情や、相当な手間がかかることなどから難しくなり、次第に斎場や会館などで行われるようになったのです。
ところが、近年、また自宅葬を行う人が増えつつあるようです。
斎場や会館ではタイムスケジュールが決まっており、泊まることができないところも増えています。
また、消防法から、一晩じゅう線香の火をつけておくことができず、本来の意味での通夜ができなくなっています。
そこで、故人が住み慣れた自宅で、最後の時間をゆっくり過ごせる自宅葬が注目されているのです。
お坊さん便
2015年12月、通販サイトで発売され、仏教界に大きな波紋を広げたのが、法事に僧侶を手配するサービス「お坊さん便」です。
サービス開始当初、メディアで大きく報道され、全日本仏教会が販売中止を申し入れるという波紋を呼びました。
しかし、利用数は増え続け、サービスとして定着しつつあるそうです。
たとえば、自宅葬や家族葬などにお坊さんを呼び、簡単にお経だけあげてもらうといったことができます。
お坊さん便は、日時と宗派を選んで注文します。
離島と山間部を除く全国で、菩提寺とつながりのない人が対象です。
利用者は、都市部に住む地方出身者の利用が多いとのこと。
提携する僧侶は30代の若手から70代のベテランまでと幅広く、人数も1千人を超え、今や人気のサービスとなっています。
故人の好きなものを取り入れた葬儀
故人が好きだった食べ物や趣味などを取り入れた葬儀も増えています。
たとえば、2014年に亡くなった女優の淡路恵子さんのお葬式では、生前熱中していたゲーム「ドラゴンクエスト」のソフトやキャラクターのぬいぐるみなどが会場に飾られました。
同様に、故人が好きだった音楽を流したり、愛用していた楽器を会場に飾る「音楽葬」や、絵を描くのが趣味だった人の作品を飾る「美術葬」などもあります。
また、近年では、従来のしきたりにとらわれないムードも出てきています。
死者に白装束でなく、きれいなドレスや故人が好きだった服を着せたり、弔辞にもユーモアを混ぜた内容のものが読み上げられたりしています。
故人が明るい雰囲気が好きだったり、いつも笑いが絶えないような人だったという場合、笑顔があふれるようなお葬式が行われることもあるようです。
さらに、自分の葬儀に誰に来てもらうか自分でプロデュースする「プロデュース葬」なども登場してきています。
ショー化されたお葬式
葬儀社も、様々な新しいプランを打ち出してきています。
たとえば、ただ音楽を流すだけでなく、故人の好きだった曲を生バンドが演奏するような演出です。
最近では、映像システムを導入したプランもあります。祭壇の裏に巨大なスクリーンを設置し、故人が好きだった風景や思い出の写真が映し出されるのです。
さらに、そこにバイオリンやピアノの生演奏を流すといった、まるで結婚式のような演出プランも登場しています。
また、プロジェクションマッピングを活用した「祭壇マッピング」は、生花祭壇に蝶やホタルの映像が舞うという演出が行われます。
新しい埋葬方法
「自由葬」は、葬儀だけでなく、埋葬方法も指す言葉です。
こちらも、先祖代々のお墓に入るといった従来の埋葬を離れ、海や山への散骨をはじめ、さまざまなプランが生まれています。
- 樹木葬
- 宇宙葬
- バルーン葬
樹木葬
墓石の代わりに樹木を植えるタイプのお墓で、近年急速に増えています。
山の一画を使い、遺骨を自然の木の近くに埋めるものや、寺院の一画に作られたスペースに埋葬されるものなどがあります。
遺骨を土に埋めて自然に還りたいといった自然志向の人から支持されています。
宇宙葬
宇宙葬は、宇宙散骨といっていいでしょう。
遺灰が入ったカプセルを全長3~4メートルほどの宇宙葬専用ロケットに積み、アメリカ・ニューメキシコ州から打ち上げます。打ち上げられたロケットは宇宙空間に数分間とどまり、そのあと大気圏に落下して遺灰は燃え尽きます。
宇宙への憧れのある60~70代の男性や、その家族が希望することが多く、今後はNASA(米航空宇宙局)の調査と連携して、月面に遺灰を持っていく宇宙葬の計画もあるそうです。
バルーン葬
バルーン葬とは、風船の中に遺灰を入れて空に放つ方法です。
バルーンに乗せられた遺灰は成層圏まで飛んで行きます。
すると風船が割れ、そこで散骨されるというわけです。
バルーン葬は費用が20万円ほどと安価で、生前に申し込みができるので、いつでも準備しておくことができます。
まとめ
今後、多死社会を迎え、亡くなる人は確実に増えていきます。
この世から去るのは寂しいことですが、どんなに頑張っても、死を免れることのできる人はいません。
それならばいっそ、自分の最後は、形にとらわれず、好きな人や物に囲まれて明るくさよならしたい・・・。
そう考える人はさらに増えるのではないでしょうか。