遺品整理というと、大きなものを運び出したり、特殊な清掃をしたりと、何となく「男性の仕事」というイメージがありませんか?
ところが、そうではないんです。最近は、遺品整理の現場でも、女性スタッフが活躍するようになっています。
実は、女性の遺品整理スタッフは、すでにテレビドラマにもなっているんです。2010年5月よりTBS系列で放送された『遺品整理人 谷崎藍子』です。
主人公は遺品整理会社のベテラン女性社員。火事で息子を亡くしており、息子の遺品は焼失し何も残らなかったことから、「遺品を遺族に渡すことで、亡くなった人は遺族の心の中で生き続けられる」という信念を持ち、この仕事を天職と思っている、という設定です。
しかも、主演女優の高畑淳子さんは、亡くなったお父上の遺品に深く感化された個人的体験や、身近な人が孤独死されたことから、遺品整理業をテーマに舞台化できないかと、自ら情報収集をしていたほど。
ドラマはサスペンス、娯楽ものですが、劇中にはもちろん遺品整理のシーンが登場し、遺品整理会社の監修を受けているそうです。
「女性ならではの視点」での遺品整理が、こんな形でも注目されているのですね。今回は、女性による遺品整理について見てみましょう。
目次
なぜ遺品整理に女性スタッフが求められるのか?
ポピュラーになりつつある遺品整理という仕事。時にはゴミ屋敷を片付けたり、大きな家具を運び出したりするなど、力仕事というイメージがあります。
しかし最近では、女性スタッフに参加してもらいたいという要望が多くなっているようです。女性だけの遺品整理会社も設立されています。
今なぜ遺品整理に女性スタッフが求められているのでしょうか。また、どんな時に女性スタッフが求められるのでしょうか。
- どんな人に遺品整理をやってほしい?
- 女性の持つ雰囲気と気配り
どんな人に遺品整理をやってほしい?
遺品整理を依頼する時、女性スタッフが求められるのは、亡くなられた方が女性である場合が多いようです。
決して男女差別ではありませんが、実際の心情として、女性の持ち物や部屋というのは、やはり少し特別な感じがしますよね。そういったところから、「女性の部屋は女性が片付けるのが自然」と考える遺族が多いようです。
衣服や化粧品、アクセサリーなど、男性のものに比べてデリケートなものが多いことからも、そういったものに詳しい女性スタッフに見てほしいという要望が上がることもあります。
故人の遺したものを見知らぬ男性に触れられたくないと思う遺族もいらっしゃいます。ある男性は、最愛の奥さまを亡くされましたが、「妻の遺品には、自分以外の男性には触れてもらいたくない」ということで、女性スタッフを要望されました。
特に下着などの整理には、男性に見られたり、触られたりすることに抵抗があるというケースが多いようです。
男性には男性同士の方が分かり合えることがあるように、女性にも女性同士のほうがスムーズに行えることがあるのですね。
女性の持つ雰囲気と気配り
遺品整理では、依頼者の気持ちに寄り添う姿勢が不可欠です。
遺族・依頼者が遺品整理といってイメージするのは、現場での仕分け作業や、搬出される家財道具の様子ではないでしょうか。
でも、遺品整理で本当に大切なのは、モノの整理を通じて、遺族や依頼者自身が気持ちを整理することなのです。
男女にかかわらず、遺品整理をするスタッフは、「気持ちを理解すること」が最も大切なことと肝に銘じて仕事にあたっています。
しかし、それでも女性は女性であるというだけで、相手の気持ちを和らげることができるのです。初めての遺品整理で、何人かのスタッフの中に女性がいたので、ホッとしたとおっしゃる方も少なくありません。
これは、なぜなのでしょうか。
a.女性特有の雰囲気
男女平等の世の中ではありますが、女性は男性よりか弱い存在であるというのが、まだまだ一般的な見方ですよね。そのため、女性スタッフがお客様の前に現れた場合、男性よりもお客様の緊張感や警戒感が和らぐという傾向があるのです。
つまり、女性のスタッフは、お客様と初めて接する段階から安心感を与えることができ、お客様側も心を開きやすいわけです。
また、男性は、悲しんでいるご遺族になかなか声をかけられないものです。特に、故人が亡くなってまだ日が浅い場合、つい躊躇してしまう場合があります。
そんな時に、親身なコミュニケーションを取りやすいのが女性スタッフなのです。
特に依頼者の立ち会いのもとで作業を行なう場合は、女性スタッフがお客様に自然に声をかけると、お客様も話しやすいことが多いようです。
黙って作業を進めていくよりも、遺品を整理しながら色々な話をすることで、依頼者の気持ちも少しずつ整理されていきます。
ずっと1人で介護をしてきたような場合は、話すことで心の癒しにつながります。遺族や依頼者の気持ちに寄り添う傾聴ボランティアのような仕事は、女性スタッフこそ適しているといえるでしょう。
b.女性だからできる気配り
男女平等の社会だからこそ、よく言われるのが「女性ならではの視線」。どんな仕事でも、お客様に対して細かな気配りができることは大切ですね。
遺品整理業界では、清掃に関して、女性の丁寧さが高い評価を得ています。水回りやサッシの溝など、家事をやることが多い女性ならではの視線で行うからでしょう。
故人や依頼者の意向をよく聞いて尊重したり、ちょっとものを移動させるにも丁寧なのも、女性に多い傾向があります。
たとえて言うなら、コーヒーのカップをそのままテーブルに置くのではなく、ソーサーに載せるような、ほんのちょっとした気配り。女性には、そういった細やかな対応ができる人が多いようです。
人を安心させたり、喜ばせたり。女性には、不思議な力があるようですね。
1人暮らしの女性は何でも依頼しにくい?
遺品整理を依頼される場合、故人が1人暮らしであったケースは多いものです。
老若に関わらず、1人暮らしは気楽で楽しい部分もありますが、その反面、空き巣被害やストーカーなど、いろいろなことに気をつけ、1人で対応しなくてはなりません。
そんななか、病気などについて不安が出て来る高齢女性の1人暮らしの傾向を見てみましょう。
- 高齢者の1人暮らしの社会状況
- 1人暮らしの不安
- 女性の“安心”に応えるために
高齢者の1人暮らしの社会状況
内閣府が公開している「高齢社会白書」(平成26年度版)によると、2012年時点の日本国内の世帯数は4817万世帯で、そのうち65歳以上の高齢者がいる世帯は2093万世帯となっています。
つまり、65歳以上の高齢者がいる世帯が全世帯の43%を占めているわけです。日本の高齢化がいかに進んでいるかを裏付ける数字ですね。
その内容を詳しく見ると、「夫婦のみ世帯」と「単独世帯」が増えています。
「夫婦のみ世帯」は、子供が独立したあと、夫婦のみで生活するようになった世帯です。核家族化が進んでいる社会状況が顕著に表れています。
「単独世帯」は、「夫婦のみ世帯」で夫婦のどちらかが亡くなった世帯と、未婚者の世帯です。
50歳になった時点で未婚である「生涯未婚率」も上昇しており、未婚率は男性で3.6%、女性 は3.9%。未婚者は増加傾向にあります。
これらの世帯は全体的に増えており、高齢者のいる世帯の50%以上は、高齢者のみで生活しているということになります。
さらに、1人暮らしの高齢者は今後も増えるとみられ、同白書では、2025年には65歳以上の男性240万人、女性471万人もの人が1人暮らしで生活していくことになるだろうと予測されています。
1人暮らしの不安
高齢になっての1人暮らしには、さまざまな不安が付きまといます。
若い人であっても、突然の病気などは怖いものです。高齢者なら、なおさらのこと。突然、倒れたらどうしよう、持病が悪化したらどうしよう……といった、健康・体調に関する不安が大きくなっていきます。
身の回りに関する小さなことも、たくさんあります。
たとえば、切れた電球の交換、水回りやエアコンなどの修理、日々の買い物や掃除まで、住まいに関する悩みを抱える方はかなり多いようです。
しかし、このような不安や悩みを抱えながらも、そうした悩みを誰かに言うことができない人が多いのです。
身寄りのない単身者であったり、家族と疎遠になっていたりする人は珍しくありません。また、家族との関係が良好であっても、家族に迷惑をかけたくないという理由から、悩みや不安を相談することが出来なくなってしまうわけです。
これは1人暮らしの高齢者に多くみられる特徴で、1人暮らし世帯の男性の20%および女性の8.5%が「困ったときに頼れる人がいない」と答えています。
余談ですが、年齢を重ねて身体を動かすのが億劫になり、定期的な掃除ができなくなると、家はいわゆる「ゴミ屋敷」「汚部屋」となっていきます。
そうなると、さらに「恥ずかしい」という気持ちから、ますます誰にも言えなくなっていくわけです。そうなる前に、誰かにヘルプを頼めればよいのですが…。
女性の“安心”に応えるために
ただでさえ、不安がついて回る高齢女性の1人暮らし。たとえ業者であっても、見知らぬ男性スタッフが1人で家に見積りに来るのは、ちょっと怖い……と思うのは当然でしょう。
そんな時、スタッフの中に女性がいると何となく安心だったりするものです。
また、部屋が散らかっているので恥ずかしい、詳しいことはコッソリ女性に聞いてもらいたい……そんな女性のために、女性スタッフを雇用したり、女性による対応を中心としたプランを用意したりしている遺品整理業者が増えています。
作業中も、女性目線での気配りで喜ばれたり、当日、立会いができなくても、女性スタッフがいることで安心してもらえるケースもあります。
遺品整理業界では、個人のプライバシーが最重要項目と位置づけられていますが、さらに、女性のお客様のプライバシーに細やかに気遣う傾向がますます強くなっています。
増加する遺品整理の女性スタッフとそのメリット
では、女性スタッフがいることによって得られるメリットについて、改めて整理してみましょう。
- 女性の遺品整理を依頼しやすい
- 特に丁寧な作業を望む場合
- 話しやすく、親切に対応してもらえる
女性の遺品整理を依頼しやすい
下着などデリケートな品物の整理は、やはり女性スタッフのほうが依頼しやすいものです。
また、残された化粧品やアクセサリーに関しても、同性である女性の方が価値を理解し、大切に扱うことが期待できます。
衣服なども同様で、不用品にしてしまうのではなく、リユース、リサイクルに役立てることができます。
特に丁寧な作業を望む場合
女性には、ものを仕分けし、整理する能力に長けた人が多いようです。清掃に関しても、細かいところまで気がつきやすいようです。
また、女性ならではの優しく繊細な作業で大事な遺品を扱い、故人や依頼者の気持ちを想像し、尊重した作業が期待できます。
話しやすく、親切に対応してもらえる
身内を失い、遺族はただでさえ精神的に消耗しているものです。だからこそ、問い合わせや相談には親切に対応してほしい、遺族の気持ちに寄り添って話を聞いてほしいと思うもの。
そんな時、女性なら、特有の柔らかさ、親しみやすさで対応してもらえます。
遺品整理では、依頼者の気持ちに寄り添う姿勢が最も大切です。依頼者に対する親身なコミュニケーションこそ、女性の真骨頂と言えます。
女性だけで現場に行くのは危険? その対応は?
さて、女性ならではのメリットを挙げてきましたが、果たして、作業をする場合、女性だけで十分なのでしょうか。
遺品整理では、タンスやベッド、冷蔵庫など重量のある家具を搬出する危険な作業もあるため、体格が男性より劣りがちで、力がない女性に向いているとはいえません。
そのため、スタッフチームを組む時に、男女を混ぜて編成することになります。屈強な男性と、繊細な女性が力を合わせることによって、お互いの弱点をカバーし、さらに強力なチームとなるわけです。
お互いの良いところを発揮しながら仕事をする、これはある意味、理想の形といえるのかもしれません。
まとめ~“プラスの遺品整理”
遺品整理で大切なのは、遺族や依頼者の心の整理です。
ただ単にモノを仕分けて捨てるのなら、それは引き算の「マイナスの遺品整理」です。
逆に、細やかな視点で作業をし、依頼者の気持ちに寄り添い、依頼者の気持ちの整理までをお手伝いすること――これが「プラスの遺品整理」と言えるでしょう。
そういった分野が得意なのが女性であり、今後も、女性スタッフへの期待や要望はますます高まると考えられます。