2017年、厚生労働省が発表した「平均寿命の年次推移」によると、日本人の平均寿命は男性が81.09年、女性が87.26年で過去の最高記録を更新しました。
1947年の平均寿命が、男性50.06年、女性53.96年。
つまり、戦後70年で30年以上も平均寿命が延びたことになります。
また、世界的に見ても、男性が世界3位、女性が2位と、日本は男女ともにトップクラスの長寿国です。
そこで最近注目されているのが、「健康寿命」です。
健康寿命とは、健康上に問題がない状態で、日常生活が制限されることなく送れる年数のことです。
現在、日本では国の政策のひとつとして、この健康寿命を延ばすことに取り組んでいます。
そこで、この健康寿命について見ていきましょう。
目次
健康寿命とは?
健康寿命とは、WHO(世界保健機関)が2000年に提唱を始めた概念です。
厚生労働省では「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義しています。
「平均寿命」は寿命の長さ(その年に誕生した子どもが何年生きるかを推計したもの)を表していますが、健康寿命は、日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命を維持し、自立した生活ができる生存期間を表します。
健康寿命が長いほど、また、寿命に対する健康寿命の割合が高いほど、寿命の質が高いとされます。
その結果、医療費や介護費の削減にもつながるため、WHOも世界各国の政府や保健医療政策を管轄する行政機関も、健康寿命を延ばし、寿命に対する健康寿命の割合を高めることを大きな政策目標にしています。
平均寿命が延びる中、最後まで健康で生きたいと誰もが思うでしょう。
長寿の国となった日本でも、国の将来を決める重要政策のひとつとして取り上げています。
注目したいポイントは、平均寿命と健康寿命には差があるというところです。
2010年の厚労省発表資料「平成22年完全生命表」によれば、男性の平均寿命が79.55歳であるのに対して、健康寿命は70.42歳と9.13年もの開きがあります。
女性はさらに差が大きく、平均寿命は86.30歳で、健康寿命は73.62歳。12.68年以上の開きがあります。
つまり、それだけの年月、不健康な状態で過ごしているということです。
全体としては、健康寿命は延びていますが、必ずしも人生の最後まで健康に過ごせるとまでは言えないことがわかります。
健康寿命が短いとどうなる?
もし、健康寿命が短かったら・・・つまり、不健康である期間が長くなったら、どんな影響があるのでしょうか。
家族に負担がかかる
病気など、健康でなくなってしまうと、本人が苦しい思いをするだけではありません。
看病や介護をする家族にも、肉体的・精神的な負担をかけることになります。
また、医療や介護にかかる費用の負担も大きくなるでしょう。
病気になった本人に十分な備えがない場合、経済的にも家族に頼らざるを得なくなってしまいます。
現役世代に負担がかかる
健康寿命と平均寿命の差が大きいということは、自立した生活ができない期間が長くなるということです。
つまり、年金や介護、医療の社会保障を支えている現役世代への負担が大きくなるのです。
日本では、高齢者人口は増加傾向にあり、全人口に占める割合が高まっているのに対し、現役世代の人口は減少していく見通しです。
2015年には、65歳以上の高齢者1人を、15~64歳の現役世代2.3人が支える構図になっています。
この傾向が進んでいくと、2060年には、現役世代1.3人で65歳以上の高齢者1人を支えなくてはならなくなるといわれています。
健康寿命を縮める原因は?
健康寿命を縮める要素はいろいろありますが、大きな要因のひとつに生活習慣があります。
健康でない期間を過ごす人のほとんどは、介護が必要な状態となっています。
要介護になる原因はさまざまですが、主な原因は、認知症と脳卒中が占めており、特に、最も重度な要介護5の場合、原因の約3割を脳卒中が占めているといわれています。
脳卒中の原因は、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、大量飲酒などいろいろありますが、特に大きな危険因子は高血圧です。
血圧が高い人は、まず血圧を下げることを考え、規則正しい生活習慣を身につけることが大切です。
また、要介護リスクを高めるのに運動器症候群(ロコモティブシンドローム)があります。
これは、骨や関節、筋肉などの運動器の機能が衰え、自立度が低下するもので、加齢や不規則な生活によって引き起こされます。
健康寿命を延ばすには?
健康寿命を延ばすためには、要支援・要介護状態にならないようにすることが重要です。
要支援・要介護状態となる原因には、運動器の障害、脳血管障害、認知症などが挙げられます。
これらは、運動不足や睡眠不足、ストレス、不摂生、栄養の偏りなど、毎日の生活習慣と密接に関係しています。
つまり、健康寿命を延ばすためには、高血圧や糖尿病、心臓病、脳卒中などの生活習慣病にならないことが一番の条件なのです。
予防には、日ごろから規則正しい食生活と送り、適度な運動と休養を行い、喫煙や飲酒などに注意する、良い生活を習慣づけることが大切です。
肥満の人の場合は、肥満を改善することが、生活習慣病を予防する上でのスタートになります。
食生活
食品をバランス良く取る
たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素を十分に摂りましょう。
毎日の食事は、主食、主菜、副菜、汁物を揃え、調理に使用する食材の数を多くすることで、さまざまな食品をバランス良く食べるようにします。
腹八分目を守る
食べ過ぎは肥満の原因になります。肥満は糖尿病や動脈硬化症、心臓病などの誘因となりやすいので、腹八分目で収める習慣をつけましょう。
塩分を摂り過ぎない
塩分の取り過ぎは、高血圧症を引き起こします。さらに、脳卒中や心臓病、胃がんなどの原因となりやすいので気をつけましょう。
動物性脂肪は控えめに
動物性脂肪の摂り過ぎは、肥満、動脈硬化症、心臓病、大腸がん、乳がんなどの原因になりやすいといわれています。
肉の脂身やラ-ドなどは控えめにし、植物油や青背の魚などを多く摂るようにしましょう。
ビタミン類を十分摂る
色の濃い野菜や果物を多く摂っていると、がんにかかりにくいことが分かっています。
1日に350~400gを目標に食べましょう。
食物繊維を十分摂る
食物繊維は、腸内で作られる発がん物質を体外に排泄したり、糖質の吸収を遅くし、脂肪の吸収を抑制して肥満を予防したり、コレステロ-ルを低下させるといった効果があり、生活習慣病を予防するうえで役立ちます。
野菜、キノコ、海藻、こんにゃく、果物、いもなどは十分に摂るようにしましょう。
また、ご飯やパン、麺類などの穀類や豆類なども、毎日一定の量を取るようにしましょう。
ただし、食べ過ぎはいけません。
カルシウムを十分に摂る
骨粗しょう症を予防するため、牛乳や小魚、海藻、豆腐、緑黄色野菜などを十分摂るようにします。
糖分は控える
お菓子の食べ過ぎや清涼飲料の飲み過ぎは、肥満の原因になります。
規則正しく食べる
食事は1日3回、規則正しく食べるようにしましょう。
また、食事はよく噛んでゆっくり食べることを心がけてください。
適切な運動と睡眠
適切な運動を行うことは、健康を増進し、脳を含めた全身の血行改善が期待できるため、生活習慣病や認知症発症のリスクを下げることにつながります。
そこで激しい運動を行う必要はありません。
毎日、散歩をするなどでいいのです。
最近は、携帯アプリなどに歩数計が入っているので、毎日の記録を取ると励みになります。
可能な場合は、軽いジョギングをしましょう。
ひざや腰に負担をかけない運動としては、プールの中での体操やウォーキングも効果があります。
また、毎日、良質で十分な時間を取りましょう。
睡眠は、肉体的な疲労を取り除くだけではなく、ストレスを解消するためにも効果的です。
睡眠は、健康寿命を延ばすために最も手軽にできる対策です。
脳の活性化
脳を活性化し、認知症を予防するには、楽器の演奏や編み物などの手芸、料理など、手先を使う活動が効果的です。
また、運動と知的作業を組み合わせた活動も、認知症予防効果が期待できます。
たとえば、散歩の時、街や公園で見かける植物の名前を思い出しながら歩いたり、知らない街を地図やガイドブックを見ながら歩いてみるといったことも、脳の活性化につながります。
ジョギングの場合も、マシンを使って漫然と走るより、簡単なテストや考えごとをしながら走った方が、脳の働きがよくなるという研究結果が出ています。
まとめ
要介護や寝たきりになってしまうと、本人だけでなく、家族など周囲の人に対しても負担をかけることになってしまいます。
自分だけでなく、大切な家族のためにも、健康寿命を延ばす努力をしたいですね。