大切な家族を失った時、その悲しみははかりしれないものがあります。
ショックで食事がのどを通らなくなったり、精神的に不安定になったり、涙が止まらなかったり・・・。
そんな時に、傷ついた心をサポートしてくれるのが「グリーフケア」です。
グリーフ(悲嘆)ケアは、遺族の複雑な心の状態を理解して寄り添い、回復を支えていく取り組みです。
今回は、グリーフケアについて見ていきましょう。
目次
自分の心の動きを知ろう
まず、大切な人を亡くしたとき、人の心はどうなるのかから見ていきましょう。
「解釈」と「感情」の違い
大きな悲しみに直面した時、人の心はどう動くのでしょう。
たとえば、自分や環境、社会を責める気持ちが生まれることがあります。
「施設なのに助けてくれなかった」、「病院のせいで亡くなってしまった」など、施設や病院、周囲の人への怒り、他人を責めることがあります。
自分を責める人もいるでしょう。
「もっと出来ることがあったはずなのに申し訳ない」「これで良かったのか」「自分さえ、もっとしっかりしていれば・・・」など、一所懸命、看病して来ても、後悔が残る人も多いようです。
また、故人の死や人生に価値や意味を見出そうとする人もいます。
「母は十分もう苦しんだ。これでよかったんだ」、「彼は生きようとする姿勢を教えてくれた」など。
このような気持ちが出てくるのは、心の痛みやショックを解消していく過程では自然なことです。
ただ、これらは死に対する「解釈」であって、「感情」ではないということを知っておきましょう。
死に意味づけをしたり解釈したりすることは、大切な人を亡くした喪失感から立ち直る妨げになります。
本当にショックから立ち直るには、自分の感じている「感情」に目を向けることが大切なのです。
自分の「感情」を洗い出す
「解釈」と「感情」の違いは、なかなか分かりにくいかもしれません。
そこで、今の自分の「感情」を書き出してみましょう。
コツは、他人を介在させないこと。
純粋に、今感じている気持ちを書き出します。
たとえば
- 悲しい
- 虚しい
- 寂しい
- 落ち込んでいる
- 残念
など。
つまり、誰かのせいとか、自分がもっとこうしていれば、など、他人や理由を介在させず、自分が感じている感情のみをすくい上げるのです。
こうすると、現在、自分が何を感じているのか、どんな感情を抱いているのかが見えて来ます。
悲しみを癒す第一歩は、この悲しい状況をもたらしている「感情」そのものと向き合うことです。
苦しいときに自己批判や他者批判を続けても、心の回復にはつながりません。心が何を感じているかを知ることが大切なのです。
ただ、自己批や他者批判の言葉は、この感情を感じている理由を探るヒントになります。
たとえば、
「もっと出来ることがあったはず」→何もしてあげられなかったと、自分に腹を立てている
「病院のスタッフに腹が立つ」→故人との最後の時間を、静かに落ち着いて過ごしたかった
「会社が融通をきかせてくれなかった」→もっとそばにいてあげたかった、それが出来なかったから悲しい
というように。
こうして、今、自分が抱えている感情が何なのかを洗い出していきます。
悲しみを克服するコツ
では、今、自分が感じている心の痛みや苦しさを解消するには、どうすればよいのでしょうか。
現状を否定しない
落ち込むことや悲しむことを、いけないことだと否定する必要はありません。
悲しむことは、心の痛みから回復するために必要な過程だからです。
悲しみや怒りは、マイナスの感情と考えられがちです。
しかし、傷ついた心をケアするためには、これらの感情を感じることが大切なのです。
悲しみに浸ることはつらいものです。
しかし、感情を抑え込まず、十分悲しみ、怒り、落ち込む気持ちを感じましょう。
何もしない時間を過ごす
寂しい気分や苦しい気分になるのは嫌なものです。
そういう心理から、散財に走ったり、暴飲暴食したり、ギャンブルをしたりなど、刺激の強いことに夢中になりがちです。
また、仕事や趣味に没頭したり、ボランティア活動に励んだりなど、一見良いことに夢中になったりすることもあります。
ですが、これは、どちらも自分の気持ちを紛らわし、寂しさを埋めるための行動なのです。
もちろん、楽しいことや仕事に夢中になって充足感を得るには悪いことではありません。
でも、その反面、何かに熱中することが悲しみを増幅させてしまい、心身のバランスを崩す可能性もあるのです。
気持ちを紛らわすために、予定や用事を入れ過ぎて疲れてしまったり、その時は楽しくても一人になると虚しくなったり、何かをしていなければ落ち着かないなどの状態は良くありません。
意識的に「何もしない時間」を作って、心と身体をリラックスさせてあげましょう。
焦らない、一人で抱え込まない
悲しみの渦中にある時は、早く元気になりたいと思うものです。
しかし、まだ立ち直れない、早く前向きにならなければと焦ることは、心の回復の妨げになるだけでなく、うつ病などを招く危険性があります。
大切な人を失ったことで受ける衝撃や、心の痛みから心が回復する時間は、もともとの心の強さというよりは、故人との関係の深さや思いの強さにあります。
故人に対する思いが大きければ、痛みは大きくて当然です。
焦らず、悲しみを一人で抱え込まないようにしましょう。
イライラしたり、急に泣けてきたり、やる気が起こらないなど、心身の変調を感じた時は、一人で悩まず、メンタルヘルスの専門家に助けを求めましょう。
グリーフケアとは
一人では苦しみから抜けられないときは、グリーフケアの助けを借りましょう。
グリーフケアとは
グリーフケア(grief care)とは、家族や親しい人を亡くして深い悲しみの中にいる人に寄り添い、悲しみから立ち直れるように支援することです。
1960年代にアメリカで始まったグリーフケアは、現在、大切な人を亡くした際に医師やグリーフアドバイザーによるケアを受けることが一般に浸透しています。
日本国内でグリーフケアが研究され始めたのは、医療の進歩に伴って平均寿命が延び、核家族化や非婚化など社会が変化し始めた1970年代ごろといわれています。
現在では専門の研究機関も設立されるなど、各地の医療機関や市民グループなどがグリーフケアに取り組んでいます。
グリーフケアで行うことは?
グリーフケアは、悲嘆する人が回復に向け、たどるプロセスに寄り添っていきます。
茫然として無感覚の状態になったり、正常な判断ができずにパニック状態になったりする「ショック期」、故人の死を現実として受け止め始めるものの、受け止めきれず、号泣や怒り、自責の念などの強い感情が繰り返し現れる「喪失期」、死を受け止めることができても、そのせいでうつ状態や無気力に陥る「閉じこもり期」、そして故人の死を乗り越える「再生期」というプロセスを通じて、その人が悲しみを克服する手助けをします。
これを「グリーフワーク」といいます。
これらのプロセスは、必ず順番に進んでいくというものではありません。それぞれの段階を行ったり来たりしながら、少しずつ進んでいきます。
個人差がありますが、グリーフワーク全体としての期間は、一般的に配偶者との死別の場合で1~2年、子供との死別の場合は2~5年ほどと言われています。
グリーフケアの方法は?
グリーフケアには、このようにするという明確なルールや方法はありません。
傷ついた心を癒やす効果があると言われるものや行動の総称がグリーフケアです。
たとえば、悲しい気持ちを心の中にしまい込んで苦しむ人には、個人について語り合い、思いや感情を吐露することができるようサポートします。
また、故人との思い出の品などを心のよりどころとして悲しみを和らげるようにするのもグリーフケアの一つです。
遺骨を加工したアクセサリーやオブジェなどの製作や、手元供養の方法について知らせるなど、その人に合った方法を提案します。
グリーフケアの基本は「さりげなく寄り添うこと」。
前向きであればいいというものではありません。
泣きたい時は泣く、落ち込んでいる時は落ち込むなど、感情を素直に吐き出してもらうことが大切です。
そのため、本人が感情に逆らわずに過ごせるようサポートしてあげましょう。
グリーフケアの専門家とは?
グリーフケアは、家族や友人など身近な人が行うことが多いですが、専門家や団体に相談する方法もあります。
グリーフケアは資格がなくても行えます。
しかし、人の心をケアすることはなかなか難しいものです。
近年はグリーフケアの専門家が増えているため、このような専門家の力を借りるのも一つの方法でしょう。
グリーフケアの資格には、主に「グリーフケア・アドバイザー」と「グリーフ・カウンセラー」の2つがあります。
専門家が在籍する機関では、カウンセリングも行っています。
費用は機関によって異なりますが、面談時間に応じて60~90分で10万円~2万円程度と幅があるようです。
まとめ
大切な人を失った悲しみは、一朝一夕に拭うことはできません。
遺族も、ケアする人も、時間をかける必要があることを理解し、焦らず立ち直っていくことが必要です。