日本では、お葬式の大半は仏式で行われています。
お葬式に出たことのある人もない人も、「お葬式」と言ってまず頭に浮かぶイメージは仏式のものではないでしょうか?
仏教の葬儀は概ね、通夜→葬儀・告別式→火葬という順で行われます。
しかし、仏教と一口にいっても、宗派によって葬儀の作法や手順に若干違いがあります。
そこで基本的なお葬式の流れを確認するとともに、各宗派のお葬式の違いについてみていきます。
目次
一般的な仏式葬儀の流れ
- 寺院・葬儀社への依頼と日時決定
- 戒名をいただく
- 喪主や世話役などを決める
- 通夜
- 葬儀・告別式
- 出棺
- 火葬
- 精進落とし
寺院・葬儀社への依頼と日時決定
身内が亡くなったら、速やかに菩提寺へ知らせます。
また、葬儀社を選び、寺院の都合とすり合わせ、通夜~葬儀の日程や僧侶の人数などを決めます。
戒名をいただく
一般に、戒名は通夜までに菩提寺につけてもらい、白木の位牌に書いてもらって葬儀の祭壇に安置します。正式な位牌は四十九日までに用意しましょう。
喪主や世話役などを決める
喪主は葬儀全般に関して最終決定をする責任者です。
葬儀の間は遺族代表として故人に付き添い、弔問を受けます。
喪主となる人は、一般的に故人の配偶者が務めます。
配偶者がいない場合や高齢の場合は故人の子ども、子どもがいない場合は親か兄弟姉妹が務めるケースが多いようです。
世話役とは、弔問を受ける喪主や遺族に代わり、葬儀全般の指揮を執る役目です。
遺族とともに葬儀社と打ち合わせをし、葬儀を進行します。
通夜
僧侶が到着したら、祭壇をチェックしてもらい、控え室に案内します。
受弔問客が式場に着席したら僧侶が入場、読経を始めます。
弔問客の焼香が終わり、僧侶が退席したら喪主挨拶を行いましょう。
そのあと、僧侶と弔問客を通夜ぶるまいの席に案内し、軽食とお酒でもてなします。
葬儀・告別式
「葬儀」とは遺族と近親者が故人をあの世に送る宗教的儀式、「告別式」は生前の故人とお付き合いの会った人が故人と最後のお別れをする社会的儀式です。
このように、葬儀と告別式は本来、別の意味をもつ儀式ですが、近年は同時に行うことがほとんどです。
喪主、遺族は開始15分前には着席しましょう。
一般会葬者などほとんどの人が着席したら、司会が開会を告げます。
僧侶の読経中に、喪主、遺族や親戚、友人・知人、一般会葬者の順で焼香をします。
読経が終わったら僧侶は退場し、司会が閉会を告げます。
出棺
出棺前に最後の対面をします。
棺は遺族や親戚、友人など6人ほどで運び、喪主が位牌、遺族が遺影を持って後に続きます。
棺が霊柩車に納められたら喪主は見送る人たちに挨拶をし、火葬場へ向かいます。
火葬
棺が炉の中に入れられたら僧侶が読経を始め、喪主から順に焼香をします。
火葬を待つ間、控え室に移動し、簡単な茶菓をふるまいます。
荼毘に付されたら、喪主、遺族、親戚、友人・知人の順に二人一組となり骨を拾います。
精進落とし
喪主または遺族代表がお世話になったことへの感謝と労をねぎらい、精進落としの席へ案内します。
遺族は各席を回って接待し、感謝を伝えます。
頃合いをみて、喪主が挨拶をしてお開きにします。
各宗派で葬儀作法が違うのはなぜ?
同じ仏教でも、それぞれの宗派の教義・宗旨によって、葬儀の意義は異なります。
なぜなら宗派によって、仏教的世界観・死生観が違うからです。
葬儀において、故人のために読まれるお経や、行われる様々な儀礼には、その宗派独自の仏教的な意味が込められています。
もしも遺族となって仏式で葬儀を行うことになったら、故人が帰依していた宗派、あるいは喪家としての菩提寺が属す宗派によって葬儀をしなくてはなりません。
間違っても違う宗派のやり方で行うことのないよう注意しましょう。
天台宗の葬儀
天台宗は、延暦25(806)年に、伝教大師最澄によって開かれた宗派です。
比叡山延暦寺を総本山とし、主尊は釈迦牟尼仏です。
葬儀の目的
苦しみや迷いのない安らかな世界へ故人を送ることが目的です。
導師は読経によって故人の心を清めます。
そして、仏に帰依する誓い(戒)を授けし、引導作法によって仏様の悟りの世界へ故人を導きます。
戒名
授けます。
焼香の回数
厳密には回数は決まっていません。
三度焼香をする場合は、仏前に進み合掌礼拝し、右手の親指人差し指、中指の三本で焼香を軽くつまみます。
左手を添え、額の前でいただきます。つまんだ香を香炉に静かに薫じます。
以上を三度繰り返し、もう一度仏前に合掌礼拝します。
線香の本数
1本または3本。
1本の場合は、線香立ての中央に立てます。
3本の場合は向かって手前に1本、奥に2本立てます。
数珠
天台宗では薄い円形の珠(平珠)の数珠を用います。
左手で持ち、合掌するときは親指と人差し指の間にかけ、房を下に垂らすようにします。
浄土宗の葬儀
平安時代末期に法然上人を宗祖として開かれました。
「南無阿弥陀仏」を唱えることで仏の願いに近づくと教えています。
葬儀の目的
故人の新たな生まれを願うため。阿弥陀佛がお迎えに来て下さり、西方極楽浄土へとお生まれになって下さいと、仏様に願い、亡き方をお救いくださいと祈ります。
戒名
授けます。
焼香の回数
特に決まりはありません。通夜、葬儀では1回焼香の場合もあります。
線香の本数
1本を香炉の中央に立てます。
数珠
浄土宗のお数珠には「日課数珠」「百八数珠」「荘厳数珠」の3種類があります。
一般の信徒は「日課数珠」を使います。僧侶は普段使いに「日課数珠」、儀式用に「荘厳数珠」を持つことがあります。
真言宗の葬儀
真言宗は弘法大師・空海が中国で学び、平安時代に日本に広めた宗派です。
仏教の中でも「密教」と言われます。
葬儀の目的
真言宗では、葬儀の際に「授戒」と「灌頂」を行います。
「授戒」とは、故人に仏となるための戒めを授けること。「灌頂」とは弘法大師が密教を授かった際に行った作法で、これによって、故人は大日如来と一体になる功徳を授かります。
これを真言宗では「即身成仏」といいます。
戒名
「授戒」を授かった証として贈られます。
焼香の回数
3回が基本です。
この理由は、三宝(仏・法・僧)に帰依するため、大日如来・弘法大師・ご先祖に帰依するため、また、故人と向かい合うために自身の身・口・心を清めるため、など諸説あります。
線香の本数
3本立てます。
数珠
真言宗は、他の宗派に比べて特に数珠を重要視しています。主玉が108個あり、この数は、金剛界の百八尊をさすとされています。
また、親玉は大日如来の智慧を、それを取り囲む天玉は宇宙を表現した曼荼羅の四方四仏あるいは、普賢菩薩・観音菩薩・文殊菩薩・弥勒菩薩の四菩薩をさすと言われています。
浄土真宗 本願寺派(お西)の葬儀
浄土真宗は、鎌倉時代の中頃、親鸞聖人によって開かれました。
祈ることによって救われるのではなく、阿弥陀仏の「悩みや苦しむ人々を救いたい」という願いによって救われるという教えです。
葬儀の目的
浄土真宗の葬儀は、故人に別れを告げる「告別式」ではありません。
遺族や会葬者と共に、故人を偲びながら阿弥陀如来の功徳を讃え、報謝を捧げる儀式です。
これが永遠の別れではなく、いずれ浄土に生まれ、また会わせていただく命であることに感謝を表します。
戒名
浄土真宗では「戒名」ではなく「法名」と言います。
仏弟子となり人生を歩む証として授かる名前のことで、お釋迦さまの「釋」の字を冠とし、経典から二文字を選定してつけます。
焼香の回数
ひとつまみ1回、押しいただかず、そのまま香炉に入れます。
焼香の前に合掌はしません。
線香の本数
1本を折って香炉に寝かせます。
数珠
数珠は左手に掛けて持ちます。お参りの際は両手に念珠を通し、胸元で合掌します。
また、浄土真宗では、信徒は袈裟の代わりである「門徒式章」をかけます。
真宗大谷派(お東)の葬儀
鎌倉時代、親鸞聖人を宗祖として開かれました。
本願念仏の教えに従い、それによって人として生きる意味としていく教えです。
葬儀の目的
故人との最後のお別れの儀式であると同時に、自分も「諸行無常」の身であり、「死」と共にある「いのち」に気づく場です。
戒名
戒名ではなく「法名」と言います。
故人を仏さまの弟子として送る際に、菩提寺からつけてもらいます。
生前の功績や趣味などを考慮してつけられます。
焼香の回数
焼香する時は、まずご本尊の阿弥陀如来を仰ぎ見、軽く頭を下げてから、お香を香炉に2回(2撮と言います)くべます。
その後、お香の乱れを整え、合掌・念仏します。
お香をくべる時、額のところに押しいただく必要はありません。
終わったら軽くご本尊に一礼します。
線香の本数
線香を2つまたは3つに折り、火を付けた後、線香を横に寝かせて供えます。
線香の本数に決まりはないので、1本でも2本でもOKです。
数珠
数珠を二重に巻き、房を上にして合掌した両手に掛け、左手の側に房を垂らします。
臨済宗の葬儀
臨済宗は「仏心宗」とも言われるように、お釈迦さまの心を身に体して生活することを旨とします。
葬儀の目的
臨済宗においては、葬儀は故人との別れを惜しみ、死後の冥福を祈る厳粛な儀式です。
また同時に、死と真摯に向き合い、生きていることの本質を見極めるための場でもあります。
戒名
あり。「信士」「信女」「居士」「大姉」の他に院号がつけられます。
焼香の回数
焼香は、普通本山作法に準じて1回とすることが多いようです。
仏前に合掌・礼拝し、抹香を軽くつまんで香炉にくべます。
その後、もう一度、仏前に合掌・礼拝します。
線香の本数
1本を香炉の中央に立てます。
数珠
臨済宗の数珠は、人間の煩悩の数と同じ108玉で出来ています。
この、108個つなげた数珠を持つことにより、煩悩を消し去り、身を清めるご利益があると言われています。
曹洞宗の葬儀
曹洞宗は、お釈迦さまより歴代の祖師方によって相続されてきた「正伝の仏法」を依りどころとする宗派です。
葬儀の目的
曹洞宗では、輪廻転生の考えから葬儀において故人の死後の安寧を祈ります。
葬儀式のなかで一番重要とされるのは「授戒式」です。
次の生が無事安心であるように願い、故人にお釈迦さまの弟子となるベく、僧侶から「十六条の仏戒」を授けていただく儀式です。
授戒が終わり、仏弟子としての旅立ちの準備が整ったら「引導式」を行います。
僧侶から、生前の徳を讃え、成仏のための諭しと励ましを込めた「引導」を渡していただきます。
戒名
「十六条の仏戒」を授けていただいた証明として戒名をいただきます。
焼香の回数
基本的に2回とされています。
焼香台のある仏前に進み、焼香台の2~3歩手前でご本尊、故人さまの遺影、お位牌に軽く一礼します。
焼香台の前に進み、右手でお香をつまみ、軽く左手を添えるようにして額のところにいただいて、ゆっくり念じてから火中に薫じます。
2度目は、先のお香に添えるようにして、額にいただかずに火中に薫じます。
お焼香をし終わったら、故人の冥福を祈り、数珠を両手にかけて合掌・礼拝します。
線香の本数
1本立てます。
数珠
曹洞宗の数珠は、人間の煩悩の数と同じ108玉で出来ています。
この数珠を持つことにより、煩悩を消し去り、身を清めるご利益があると言われています。
葬儀は必ず菩提寺を確認しましょう
ここまでご紹介してきたとおり、宗派によって葬儀の内容は異なります。
葬儀を行うときは、必ず菩提寺に連絡しましょう。
菩提寺があるのにもかかわらず、近くにあるお寺で葬儀を行うことは、菩提寺に対して失礼な行為です。
菩提寺が遠方にある場合は、近くの同宗派のお寺を紹介してもらい、葬儀のみを依頼します。
戒名は菩提寺でつけてもらいましょう。
先祖代々続く菩提寺との関係を壊さないよう注意が必要です。