高齢者の暮らしに張りを与え、健康維持にもよい効果を与えるものとして、ペットの飼育が知られています。
たとえば、犬と人間がお互いを見つめ合うと「オキシトシン」というホルモンの分泌が促進されます。
「オキシトシン」は「幸せホルモン」と呼ばれ、分泌されるとハッピーな気持ちになれるのです。
また、犬の散歩で健康を維持・増進したり、触れ合うことで安心感や癒しを得られ、ペットを飼っている高齢者はQOL(生活の質)が高くなると言われています。
しかし、もし飼い主が先に亡くなってしまったら、残されたペットはどうなってしまうのでしょうか。
今回は、飼い主が亡くなったペットについて、さらに生前にできることなどについて見ていきましょう。
目次
孤独死とペット問題
近年、高齢者の孤独死が増えています。
そして、故人が飼っていたペットも衰弱して発見される痛ましいケースも増加しています。
ペットは人の手がなければ生きていけません。
飼い主の孤独死が発見されたときには、飼い主に寄り添って吠えることもできないほど衰弱した状態で発見されるケースも増えているようです。
内閣府の「世論調査報告書」(平成22年9月調査)によると、60代でペットを飼っている人は36.4%、70代では24.1%を占めています。
飼い主が他の家族と同居している場合はあまり問題ありませんが、一人暮らしであった場合、残されたペットはどうなってしまうのでしょうか。
いったんは行政で保護されますが、新しい飼い主が現れなければ多くの場合殺処分されてしまうようです。
もちろんこれは、高齢者だけの問題ではありません。
近年は、若い世代にも孤独死が増えています。
ペットの命を守るために、早くから対策を考えることが必要です。
もし、ペットが飼えなくなったら?
故人がペットを残して亡くなってしまい、遺族がそのペットを飼えない場合はどうすればよいのでしょうか。
保健所や地域の動物愛護センターに持ち込んではダメ
故人のペットを、家族が誰も飼えないというケースは少なくありません。
このような場合、ペットを保健所や地域の動物愛護センターなどに持ち込もうとする人が多いようですが、これは間違っています。
保健所は、狂犬病などを拡大させないなど、あくまで地域住民の健康と安全を目的とした施設です。
飼えなくなったペットを処分するための施設ではありません。
また、動物愛護センターは、「動物保護事業」「動物愛護普及事業」などを行う施設です。
これらの事業により以下のような活動をしています。
- 捨てられる犬猫を減らす
- 捨てられてしまった犬猫の保護
- 虐待を受けている犬猫の保護
- 新しい飼い主に譲渡
殺処分は故人が最も望まないことでしょう。
このような施設に、気軽に依頼すべきではないということを覚えておきましょう。
新しい飼い主・里親を探す
知人や友人に、ペットを引き取ってくれる人がいないか探してみましょう。
故人の犬つながりの友達や知り合いに、引き取れる人がいるかもしれません。
見つからないときは、インターネットの里親募集サイトを利用しましょう。
無料で新しい飼い主を探すことができます。
専門の施設を利用する
ペットが年老いている場合、体調やさまざまな問題から、飼い主以外の人では世話が難しいことがあります。
その場合は、ペットの老人ホームともいえる「老犬ホーム」「老猫ホーム」などに預ける方法も考えられます。
新しい飼い主が見つかるまで期間限定で預けられるコースや、終身面倒をみてくれるコースなど、さまざまな預け方があります。
費用はそれなりにかかるため、故人がペットのためにお金を残している場合などは利用するとよいでしょう。
動物愛護団体やNPO法人に相談する
どうしても飼える人が見つからない場合、動物愛護団体やNPO法人に相談してみましょう。
事情によってはペットを引き取ってもらえたり、里親を紹介してくれたりするなど相談に乗ってもらえます。
このような団体では、新しい引き取り手に対して条件を課しているので、自力で里親を探すより安心でしょう。
生前にペットと一緒に入れる介護施設を選ぶ
近年、ペットを飼っている高齢者のための施設や老人ホームが出てきています。
このような施設では、大切なペットと一緒に生活することが可能です。
仮に飼い主が先に亡くなってしまった場合も、残されたペットの面倒を最後までみてくれます。
費用はかかりますが、財政上の余裕があれば、このようなホームに入居することを検討すると良いでしょう。
ペットのための生前整理
急に亡くなった個人のケースで困ることはいろいろありますが、命あるペットが残されてしまうというのは残された家族にとって大きな問題となります。
そこで、自分の死後、ペットのことで遺族が困らないよう、生前整理でペットの情報をまとめておくのがおすすめです。
ペットの基本情報
まず、以下のようなペットの基本的な情報をまとめます。
- 名前
- 誕生日
- 種類
- 性別
- 現在の健康状態
- 病歴
- 去勢・避妊の有無
- かかりつけ医の情報
また、普段どんなものを食べているか、ペットフードの名前や、好きなもの・好きなことなども書いておくと良いでしょう。
最近は、ペットショップでペットを販売する際、個体を識別できるマイクロチップを埋め込むことが多いようです。
マイクロチップは、番号を登録して個体を識別できるので、埋め込んでいるのであれば番号をメモしておきます。
血統書
新たな飼い主に引き取ってもらう場合、血統書の有無は重要な情報になります。
血統書付きの場合は、血統証明書も一緒にまとめておきましょう。
ペット保険
近年、ペットの治療や入院にかかる費用を負担してもらえる「ペット保険」が広がりを見せています。
ペット保険に加入している場合、ペットを引き取る際に支払いや保証内容の引き継ぎについても確認しなければなりません。
保険加入の有無を必ず書いておきましょう。
ペットに遺産を残すには?
自分の死後もペットの生活を守るため、相続や新しく世話をしてくれる人の指名などができれば安心です。
そのためには、どのようなことができるのでしょうか。
ペットは遺産相続できる?
ペットは、飼い主にとっては大切な家族ですが、法律においてには「動産」という、いわばモノ扱いになっています。
現在の日本では、人間以外に遺産相続をさせることはできません。ですからペットに金銭などを相続させることは不可能です。
遺産相続の代わりに負担付き遺贈
ペットに間接的に遺産を残す方法の一つが「負担付き遺贈」です。
「負担付遺贈」とは、財産を受け取る「受贈者」を設定し、その人に一定の義務を負ってもらうというものです。
ペットの場合は、残されたペットの飼育をしてもらう代わりに、飼育を引き受けた人に財産を残します。
負担付き遺贈を使う場合、ペットの新しい飼い主を生前にあらかじめ決めておかなくてはなりません。
その上で、遺言などで誰に何を依頼し、何を遺贈するかをしっかり明記しておく必要があります。
ただし、この遺贈は一方的に遺言をするだけでも成立します。
ですから、いざというとき受贈者が受け取りを拒否できる点には注意しましょう。
遺産相続の代わりに負担付死因贈与契約
「負担付死因贈与契約」は、財産を贈る贈与者と受け取る受贈者が贈与内容について生前に契約を交わすものです。
負担付遺贈の場合と同じく、受贈者は贈与者の死後に遺産を受け取り、ペットの面倒をみていくことになります。
負担付死因贈与契約は、一方的に遺言をするだけでもできる負担付遺贈と違い、両者間での契約です。
ですから、特段の事情がない限り相続時に受贈者は撤回できません。
そのため、自分の死後、確実にペットの飼育を請け負ってもらうには負担付死因贈与契約の方がおすすめです。
負担付死因贈与契約を結ぶ際は、話し合うだけでなく、お互いにきちんと書面に残しておきましょう。
遺産相続の代わりに信託
「負担付贈与」「負担付死因贈与」では、自分の死後、満足できるレベルで受贈者がペットを世話してくれるかどうか確認できません。
心配な人は「信託」を利用すると良いでしょう。
信託では、元の飼い主を「委託者兼当初受益者」、飼育を引き受けてくれる人を「受託者」として信託契約を結びます。
また、どのペットの飼育を依頼するか取り決め、飼育費用を「信託財産」として専用の口座に入れておきます。
受託者はペットの世話を引き受ける対価として、信託財産から飼育費用を受け取ります。
信託契約では、以下のような細かな取り決めができます。
- 信託を開始する条件
- どのような飼育を希望するか
- 信託開始の時期
- ペットの葬儀方法の指定
さらに、第三者の信託監督人を置くことで、受託者が確実にペットの世話をしているかを監視できます。
もし委託者(飼い主)が亡くなった場合は、飼い主の相続人が第二受益者となり信託契約は続行するのも安心な点です。
この方法なら、確実にペットの世話を頼むことができます。
ただし、信託契約を結ぶ際に司法書士など専門家に支払う経費、信託監督人を依頼するための費用が必要になります。
まとめ
死後のペットの世話は、本当に気がかりなものです。
どのような方法においても、すぐに新しい引き取り手が見つかるという保証はありません。
そのため、早いうちから新しい飼い主を探し始めるのがベストでしょう。