親の家が「ごみ屋敷」になっている、という話をよく耳にします。
高齢になると、施設に入居したり、病気になれば介護施設に入るなど、どうしても身辺整理をしなくてはならない状況になりますね。
そこで、その時になって慌てないよう、終活や生前整理の一環として家を大掃除したり片付けたりしておくのがお勧めです。
でも、実は、親の家の片付けは、非常に難しい部分があります。
片付けを勧めても聞く耳を持たなかったり、かかりつけの医師に家を片付けるように言われているのに全く動く気配がなかったりなど、時には認知症ではないかと心配になる家族もいらっしゃるようです。
ものを何ひとつ捨てない、家が不衛生な状態になっているのに、片付けを勧めると怒り出す……そんな高齢者が増えています。
一体どのようにすれば、親の家を片付け、清潔で快適な生活を送ってもらうことができるのでしょうか?
目次
片付けを始めるために① 親の変化を知る
たとえば、親御さんが入院などしたとき……
「必要なものを家に取りに行ったら、ものが多すぎて何がどこにあるのか全くわからなかった」という経験はありませんか?
家の中があまりにも整理されていないので、子として退院後の生活が心配になり、片付けたりします。完全に親御さんを思ってのことです。
それなのに、肝心の親御さんに理解してもらえず、「久しぶりに家に帰ったら、勝手に片づけられて、何がどこにあるのかわからなくなっていた」などと言われてしまうというケースは多いのです。
親世代と子ども世代とでは、価値観が大きく違います。
それは、世代間のギャップもありますが、それ以上に、親世代の変化に理由があるのです。
まだ若い子ども世代には想像できないことですが、親世代には老化が始まっています。
- 視力が落ちて小さな字が読みにくい
- 夜間トイレに起きる回数が増えて睡眠に影響する
- 腰や膝などに痛みが出てしゃがむのが苦痛になる
- 腕が上がりにくくなって高いところのものが取りにくい
など。
ひとつひとつは小さなことですが、これまで普通にできていたことが、やりにくくなってきているのです。
これらの変化は、外見からはわかりません。そのため、子どもの目からは気づきにくいわけです。
もしかしたら親御さんは、頭ではわかっていても、肉体的な問題のために片付けるのが億劫になっているのかもしれません。
片付けを始めるために② 親の心理を知る
まず、親世代と子ども世代で一番違うのは、育ってきた時代背景や教育です。
現在の親世代には戦時を過ごしてきた人も多く、物資のない戦後を生き抜いてきています。そんな親世代にとっては、まだ使える物を捨てるなんて「非常識」なことなのです。
「もったいない」という言葉そのままに、使えるものは最後まで使うのが親世代。
現代では、学校で使う雑巾もお店で買うのが普通のことになっていますが、昔は雑巾といえば古くなった布を縫って作るのが当たり前でした。
このように親世代には、「厳しい時代を生き抜き、子どもたちを育て上げてきた」という自負心が強く、プライドが高くなるので、子ども世代が自分たちに指示するなどということが許せない人も多いようです。
それと同時に、子どもや親族に迷惑をかけたくないという気持ちも強く持っています。
厳しい時代を生きてきた自負があるからこそ、人に頼らないという自立心も強くなるわけです。
また、自分の記憶や思い出を物に投影しているということもあります。
これは世代にかかわらず、思い当たる人は多いのではないでしょうか?
他人からはごみにしか見えないものでも、当人にとっては記憶や思い出を呼び起こす大切なものであるかもしれません。
一概に「ごみ」と決めつけず、本人の思いを理解することが大切です。
片付けを始めるコツは?
以上のことから、親の家を片付けるには、親御さんの体調を考慮し、気持ちに沿いながら行うことが最も大切です。
どんな点に気をつけて片付けを進めればよいのでしょうか?
- 親御さんのペースに合わせよう
- 「捨てる」のではなく「仕分けする」気持ちで
- よく使うもの・場所から始める
親御さんのペースに合わせよう
親世代は、子ども世代と同じように動くことはできません。
たとえ、ゆっくりでイライラするようなスピードであっても、急かしたり、責めるような言葉を遣ったりしてはいけません。
親御さんのお家なのですから、主役はあくまで親御さんであり、子ども世代は「お手伝いをする」立場なのです。親御さんのペースに合わせましょう。
また、価値観を否定するのもNGです。他人には無価値でも、自分だけにとって大切なものを、誰でも1つや2つ持っているものです。
自分にとってはごみにしか見えなくても、親御さんにとってはかけがえのない思い出が詰まった宝物かもしれません。
ですから、親御さんのものを、勝手に捨てたり、移動したりしないのは鉄則です。
冒頭でも例として挙げた、入院中に勝手に片付けるなどはご法度です。
親御さんのペースに合わせて一緒に片付けていきましょう。
「捨てる」のではなく「仕分けする」気持ちで
親世代はものを捨てられないもの。「捨てる」、「危ないから」などという言葉は、責められていると感じさせてしまいます。
これでは、親御さんにやる気を出してもらうことはできません。親御さんの意向を確認しながら、ものを仕分けていきましょう。
よく使うもの・場所から始める
まずは、よく使うものや場所から始めましょう。
よく使っているところが使いやすくなったと感じてもらえれば、親御さん自身に片付けをしてみようという気持ちになってもらいやすいからです。
毎日料理をするキッチン、毎日着替える洋服の収納などがおすすめです。
高齢者にとって使いやすい高さは、腰から目くらいの高さです。
この範囲に収納できるものは限られているので、本当に必要なものを厳選し、使いやすい場所に収納していきます。
ここでは、いらない(と子ども世代が感じるもの)は、まだ捨てなくても大丈夫です。
まずは、使いやすい範囲外に移動させましょう。
やたらとものを捨てないことで、親御さんも安心し、前向きになれます。
このようにして、まずはよく使っている場所を整理して、片付けの成果を実感してもらいながら、気長に整理を進めていきましょう。
これを実感してもらおう!
- 清潔な家の快適さ
- ものを失くしにくくなる
- 行動しやすくなる
- スッキリした気分を実感する
清潔な家の快適さ
ものが多い家は掃除がしにくいため、不潔になりやすいですね。結果、ウイルスや雑菌の温床となり、感染症などの心配が高まります。
体力の落ちている高齢者にとって片付けられていない家で生活することは、若い世代よりも健康を損ねるリスクが高くなるのです。
また、換気が悪くなり湿気がこもりやすくなるので、カビが発生しやすいといったリスクもあります。
カビが発生すると、胞子が空中を漂います。これを吸い込んで感染してしまうと、肺や気管支に異常をきたし、咳や痰、胸痛、呼吸困難などいった症状が出ることがあります。
ひどい場合には肺の空洞に真菌の塊ができたり、血管の中に真菌が侵入してさまざまな臓器を侵すこともあるのです。
特に、体力のない高齢者には危険です。
近年、昔ながらの住宅は姿を消し、マンションはじめ密閉性の高い構造の家が増えています。
それだけに、家の中を清潔にしておくことは、健康な生活を送るために大切なことなのです。
ものを失くしにくくなる
ゴチャついている家の中では、ものを失くしやすくなります。
探すのも大変ですから、家の中にあるとわかっていても、また新しく同じものを買い、さらにものが増えていくという悪循環に陥ります。
何がどこにあるのか整理されていれば、このようなことはありません。
行動しやすくなる
年を取ると、ちょっとしたものにもつまずきやすくなります。
高齢になると、腰をかがめたりするのが億劫になるので、床に落ちたペットボトルなどをそのままにしている人も少なくありません。
特に「ごみ屋敷」と言われるような家では、常に何かを跨がなくては歩けないような状態になっています。
そこで、何かのコードなどに足を引っかけて転倒し、怪我を負う高齢者も多いようです。
打撲程度で済めばいいのですが、骨折して入院、そこから認知症になるといった例もあります。
スッキリした気分を実感する
散らかった部屋で生活していると、無意識にイライラしやすくなります。
何かをよけながら歩いたり、必要なものをすぐに取り出せなかったりすることに慣れしまっているとなかなか気がつきにくいですが、一度片付けてみると、その快適さがわかります。
肉体的な側面だけでなく、精神衛生上も、スッキリした部屋で生活すること。
そして家の中でのリスクを低くし、健康的な生活を送れると理解してもらうことが大切です。
そこで親御さんを片付ける気にさせるには、親御さんの気持ちに寄り添うことが必要です。
子ども世代が当たり前と思っていることが、親世代にとっても当たり前とは限らないということを念頭において、ゆっくり進めていきましょう。