お墓の名義人が亡くなったとき、そのお墓はどうすればいいのでしょうか。
土地や建物、預貯金といった相続財産は、所有者が亡くなると、相続人へ引き継がれます。では、お墓や仏壇・仏具といった先祖を祀るためのものは、一体誰が受け継ぐのでしょうか。
従来の家制度のもとでは、配偶者やその家の長男がお墓を引き継ぐことが一般的とされてきました。しかし、現在の日本では、少子化や核家族化が進んでおり、必ずしも長子が家やお墓を継ぐとは限りません。
また、そのために、お墓を継ぐ承継者がいないというケースも珍しくなくなりました。
とはいえ、大切な先祖代々のお墓です。どのようにすればよいのか見ていきましょう。
目次
お墓の相続とは?
そもそも「お墓の相続」とはどういうことなのでしょうか。「相続」というからには、遺産相続のような煩雑な手続きが必要なのでしょうか。
故人の遺産のうち、お墓・墓石、仏壇・仏具など、ご先祖さまの祭祀に関係するものを「祭祀(さいし)財産」といいます。
祭祀財産は、一般的な相続財産の対象にはなりません。兄弟親族で分割をすることができないため、特定の一人が相続します。複数の相続人で分割することはありません。
ちなみに、一般的な相続とは区別し、「承継」といいます。
お墓の名義人(使用権を持っている人)が亡くなると、残されたお墓は祭祀財産となり、これを承継する「祭祀承継者」を決めることになります。
祭祀承継者は、一族の代表として、先祖代々のお墓や仏壇仏具などを管理するだけでなく、家系図や系譜、仏壇仏具などの祭具も引き継ぎ、法要も主宰することになります。
祭祀承継者の決め方は?
これまで祭祀承継者は、一般的な慣習として、配偶者や長男が継ぐものとされてきました。でも実は、法律上はそのような決まりはないのです。
祭祀財産は特定の一人だけが受け継ぎますが、それは、必ずしも配偶者や長男でなければならないわけではありません。
次男、長女など、個人の子供たちはじめ、他家に嫁いだ娘、姪や甥、直接血のつながりのない姻族、被相続人の親や兄弟姉妹でもお墓を引き継ぐことができます。
祭祀承継者の決定順は、民法で次のように定められています。
遺言等で指定
まず、先代の祭祀承継者の意思が優先されます。
次期継承者を生前に指名していた場合や、遺言によって祭祀承継者を指定していた場合、指定された人がお墓を相続することになります。
慣習、親族間での話し合い
故人が指定していなかった場合、慣習によって祭祀承継者を決定します。
たとえば、その家では代々長男が祭祀を承継してきたなどの事情や、その地域の慣習などによって、次の祭祀承継者を決めます。
家庭裁判所の調停か審判
故人の意思が不明で、慣習によっても決められない場合には、家庭裁判所の調停によって決めます。
まず「祭祀承継者指定調停」を行い、相続人同士で話し合いをします。合意が得られない場合は「審判」となり、家庭裁判所が祭祀承継者を指定します。
裁判所は、候補者と故人の関係や生前の生活状況、候補者の自宅とお墓の距離、候補者の管理能力、候補者が祭祀承継者になりたいと望んでいるかどうか、また、利害関係のある人の意見などを総合的に考慮して、祭祀承継者を指定します。
ただし、相続人の間で話し合って決められるのであれば、家庭裁判所への申し立ては必要ありません。
祭祀継承者の役割とは?
お墓を承継したら、次の3つを行わなくてはなりません。
お墓の維持・管理
祭祀承継者は、命日やお彼岸、お盆などに親族がお参りできるよう、お墓の掃除や手入れをし、管理します。
また、霊園などの維持管理費、寺院墓地のお布施など、管理に必要な費用を支払います。
法要を行う
一周忌などの年忌法要や、お盆・お彼岸など、ご先祖様の供養に関する行事を行います。
遺骨やお墓の所有権を持つ
遺骨やお墓の所有権は、祭祀承継者にあります。もしも、遺族や親族が分骨や改葬を希望しても、祭祀承継者の同意を得なければ行うことができません。
お墓に相続税はかかるの?
お墓を引き継ぐとき、相続税はどのくらいかかるのでしょうか。先祖代々の大切なものだけに、高いのでしょうか。
安心してください。お墓を含む祭祀財産は、相続財産の対象ではないため、相続税はかかりません。
祭祀承継者は、墓地の管理者や菩提寺に連絡し、名義変更手続きをするだけで大丈夫です。
名義変更手続き
墓地の名義変更に必要な書類は、以下のようなものです。
- 墓地使用権を取得した際に発行された書類(墓地使用許可証、永代使用承諾証など)
- 承継の理由がわかる書類(墓地使用者の死亡が記載された戸籍謄本など)
- 承継者の戸籍謄本や住民票
- 承継者の実印と印鑑登録証明書
- 祭祀を主宰する者であることを証明する書類(墓地使用者との関係が分かる戸籍謄本や、葬儀の領収書など)
- 祭祀承継者であることを証明する書類(遺言書、親族の同意書、家庭裁判所の審判書など)
必要な書類は霊園によって異なりますので、注意しましょう。
名義変更にかかる費用は?
名義変更の手続きの際、必要書類と手数料を支払います。
- 公営墓地・・・数百円から数千円程度のところが多いようです。
- 民営の霊園・・・霊園によって異なり、数千円から1万円以上と幅があります。
- 寺院の墓地・・・檀家としての立場も引き継ぐため、手数料とは別に、お布施を包むことがあります。お布施の額は、各寺院や、これまでのお付き合いによっても変わります、分からないときは、お寺に相談しましょう。
お墓を相続する際、注意したいポイントは?
スムーズに祭祀承継者を決めるには?
お墓の承継が発生したとき、祭祀承継者を決められず、もめることがあります。
よくあるのは、遺産分割と絡んでもめるケースです。遺産分割協議が紛糾すると、お互いが「大切なお墓の管理を、あんなやつには任せられない」と言い出したりするのです。
このような場合、家庭裁判所の祭祀承継者調停・審判を利用することにより、祭祀承継者を決めることができます。
しかし審判で祭祀承継者が決まっても親族間の関係が回復するわけではありません。その後、絶縁状態になるようなケースもあります。
もめごとを起こさないためには、祭祀承継者を遺言書などで指定しておくのが一番安心です。
特に、公正証書遺言で祭祀承継者を指定しておけば、死後にトラブルになる恐れはほとんどなくなると言っていいでしょう。
費用や税金について
繰り返しになりますが、お墓や仏壇仏具など祭祀財産に関しては、相続税や贈与税が発生しません。
余談ですが、このことを利用して、お墓を相続税対策に使う人もいます。生前に高額なお墓を建てたり、仏壇を購入したりすることで預貯金額を減らした上、祭祀財産を無税で相続させるという方法です。
さて、お墓を相続すると、その後、お墓を維持するための管理費用が必要になります。
管理費用は霊園によって異なります。毎年費用が発生する霊園や、一度払ったら10年〜20年支払いが不要になる霊園、初回の支払いだけで済む霊園など、額も支払い方も様々なので、必ず確認しましょう。
また、法要の際など、僧侶に読経してもらう際は、お布施も祭祀承継者が負担します。
お墓の承継は放棄できる?
お墓を承継すると、維持や管理が大変だったり、金銭的負担がかかったりするため、引き継ぎたくないと考える人もいます。
しかし、お墓の承継は放棄できません。祭祀財産は、継がなければならないものという仕組みになっており、祭祀継承者に指定されたら拒否も辞退もできないのです。
しかし、祭祀継承者は、「祭祀財産を自由に売却や処分できる」という権利を持ちます。
そのため、継承権は放棄できませんが、継承するものを処分してしまうことで、継承権をなくすという方法があります。つまり、祭祀財産を処分してしまえば、その祭祀財産とともに継承した権利自体が存在しなくなることになります。
相続放棄をしても、お墓は承継できる?
遺産の相続放棄した人は、祭祀財産を承継することができるのでしょうか。
祭祀財産の承継は相続ではないため、相続放棄をしても、祭祀財産の承継には全く影響はありません。相続放棄をしても、祭祀財産を放棄したことにはならないのです。従って、遺骨、位牌、仏壇、墓地のいずれも引き継ぐことができます。
まとめ
お墓は一般的な相続財産ではないので相続税は発生しませんが、お墓を維持するための管理費用が必要になります。
近年は少子化に伴い、お墓を相続する承継者不足が深刻化しています。誰が最も祭祀承継者にふさわしいか、被相続人が元気なうちに家族で話し合っておくといいでしょう。
どうしても承継者になる人がいない、遠方に住む子供を承継者にして、負担をかけたくないというような場合は、墓じまいやお墓の引っ越しを検討してもよいのかもしれません。