相続をするのは本当にひと仕事。手続きが煩雑なうえ、法律の知識が必要です。
役所も平日の昼間しか開いていないので、働いている人は休みを取って手続きに出向かなくてはならないというデメリットもあります。
このような理由から、税理士や弁護士など、専門家に任せる人が多いようです。
でもやはり、自分でも大筋や流れは掴んでおくべき。少々面倒ではありますが、大まかな知識は持っておいてください。
便利な「原本還付」
相続に必要な書類は色々ありますが、同じものをあちこちに何度も提出しなければなりません。
これを何通も発行してもらっていると、時間も手間も料金もかなりかかってしまいます。
相続に必要な書類は、できる限り「原本還付」をして使い回すと便利です。
「原本還付」とは?
いろいろな相続がある場合、同じ書類がいくつも必要になってきます。でも、手続きをする際、書類の原本をそのまま提出してしまうと、担当部署がそのまま保管し、返却されません。
そこで、書類の原本を返却してほしい場合は、その書類のコピーをとって提出することができます。すると手続きが完了したあと原本を返却してもらうことができるのです。この手続きを「原本還付」といいます。
原本還付をしておくと、契約書や遺産分割協議書、承諾書など、権利の得喪に関する重要な証拠資料となる書類を手元に残しておくことができます。
住民票の写し、戸籍全部事項証明書などの各種証明書など、還付を受けて他の手続きに再使用できるので、証明書取得の手間や経費を減らすことができます。
原本還付の方法は?
還付を希望する書類は、原本をコピーしたものを提出します。
法務局によってはコピー機がないところもありますので、あらかじめコピーしておいたほうが安心です。
還付を希望する書類の原本は、ファイルなどにまとめて、申請書と一緒に申請窓口に提出します。
原本が1ページの場合
コピーの余白に『右は原本に相違ありません』と記入して、申請人または申請代理人が記名・押印します。
法務局に備え付けの『右は原本に相違ありません』のゴム印も利用できます。
還付を希望する書類の原本は、ファイルなどにまとめて、申請書と一緒に申請窓口に提出します。
原本が2ページ以上ある場合
1ページの書類と同様に、余白に『右は原本に相違ありません』と記載して、申請人または申請代理人の印で各ページを割印します。
割印を押すのは、最初のページでも、最後のページでも、裏面でもかまいません。
割印でつながったコピーの綴りのうち、どこか1カ所に『右は原本に相違ありません』の記載があればOKです。
相続登記に添付する戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の原本還付の場合
相続登記書類に添付する故人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)・改製原戸籍謄本・除籍謄本は、一般的に何十ページもあるので、コピーするのが大変です。
そこで、これらを原本還付してもらいたい場合は、「相続関係説明図」を作成しましょう。
「相続関係説明図」は、戸籍の記載から証明できる相続関係を図式化した書類のことです。
これを提出すれば、原本還付してもらうことができます。
「相続関係説明図」とは、故人と相続人との関係を示した図のことです。
ここでいう「相続人」は、故人と法定相続人の関係にある人のことです。
相続関係説明図に記載する事項は、
- 故人の氏名(被相続人として記載)、生年月日、亡くなった年月日、故人の最後の住所
- 法定相続人と故人との続柄、法定相続人の氏名、生年月日、現住所
です。
婚姻関係にある人とは、横の二重線(=)でつなげて夫婦関係を表します。それ以外は一本線(-)でつなげます。
原本還付できない書類
原本還付は、すべての書類についてできるわけではありません。以下の書類については、原本還付をすることができません。
- 申請書(本人申請)または委任状(代理人申請)に押印した申請人等の印鑑証明書
- 第三者の同意または承諾を証する情報に押印した者の印鑑証明書
※相続の手続きに必要な遺産分割協議書などの書類に添付する印鑑証明書は、原本還付を請求することができます。 - 登記申請のためだけに作成された委任状
※「その登記・申請のためだけに作成された書類」は、原本還付の請求ができません。 - 登記申請当事者が作成した報告形式の登記原因証明情報
- 資格者代理人による本人確認情報
- 登記用に請求した固定資産評価証明書
遺言書の扱い方
相続に関わる大きな書類として、「遺言書」があります。遺言書がある場合は、原則として遺言書に沿って相続を行うことになります。
遺言書は、誰が開封するの?
ドラマなどで、親族全員が集まって遺言書を開封するシーンがありますね。
でも実は、自分たちで遺言書を開封するのは法律違反なのです。
故人が亡くなったあと、遺言書が発見されたら、すぐに家庭裁判所で検認を受けましょう。
遺言書は検認を受けることで発効します。封印のある遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の罰金が課せられることがあります。
また、偽造などが疑われたり、開封した遺言書の内容を変えてしまった場合には、遺言書が無効になったり、相続人の資格を失ったりする恐れも出てきます。遺言書は絶対に開封しないでください。
ただし、公正証書遺言書に関しては開封しても大丈夫です。
公正証書遺言書は原本が役所に残っているので、仮に書換えられても比較することができるからです。
公正証書遺言書を発見した場合は、勝手に開けてしまっても問題なく、家庭紙番所の検認も必要ありません。
検認を受けるには?
「検認」とは、遺言書に書かれている内容を裁判所で明確にして、その後の偽装・変造を防ぐことです。公正証書で作成された遺言書以外は、この検認が必ず必要です。
家庭裁判所で遺言書の検認を受けるには、遺言書の原本、湯銀書検認裁判申立書、遺言者と相続人全員の戸籍謄本が必要です。
開封は相続人の立ち会いのもと行われ、有効と認められたら、遺言の内容に従うことになります。
形見分け
形見分けとは、故人の遺品を遺族や親戚、親しい知人などに贈ることです。
贈られた人が故人の愛用していた品を引き継ぐことで、故人を忘れず、折々に思い出せば、故人はきっと喜んでくれることでしょう。形見分けは、ただ物を配るわけではなく、故人への供養の気持ちで行われるものです。
形見分けは必ずしなくてはならない?
形見分けには、これといった明確なルールはありません。
まず、形見分けは絶対に行わなければいけないわけではありません。
また逆に、形見分けを提案されたら必ず遺品を受け取らなければならない、というわけでもないのです。
形見分けを提案して、もし遠慮されるようなことがあれば、無理に遺品を渡すことは控えましょう。
形見分けの時期
遺品の整理と形見分けは、忌明けまでに済ませましょう。
仏式では四十九日、神式では五十日祭の忌明け、キリスト教式では死後1ヶ月ごろなどに行われるのが一般的です。
形見分けのマナー
目上の人には贈らない
形見分けは、本来、親から子、上司から部下など、目上の人から目下の人へ贈るものです。
そこから、贈りたい相手が目上の場合、贈るのは失礼とされます。
とはいえ、現代では上下関係や年齢を気にしない人も増えています。どうしても贈りたい場合は、失礼を詫びる一言を添えましょう。
目上の人の側から形見分けの希望があった場合は失礼にあたりません。
できるだけ綺麗な状態で贈る
形見分けをする時は、クリーニングやメンテナンスしてから渡しましょう。
・洋服や着物
きちんとクリーニングしてから贈ります。
着物の場合は、バッグなどの小物にリメイクして贈るのもよいでしょう。
・バッグ
持ち手や肩掛けなどが破損している場合は修理し、使いやすい状態にしておきます。
・時計や文具、アクセサリーなど
機械時計や万年筆などはメンテナンスが必要な場合があります。品物の状態を確認し、手入れしておきましょう。
故人が身につけていた指輪やイヤリング、ネクタイやベルト、眼鏡など日常使いするものは、きちんと汚れを落とし、手入れしてから贈りましょう。
・書籍やCD、ビデオ、レコードなど
好みや要不要がはっきりと分かれ、また家の中で場所を取るものでもあります。受け取る人に贈ってよいか確認しましょう。
高価過ぎるものは贈らない
形見分けの品物が高価な場合、贈与税が発生することがあります。
目安としては、時価110万円を超えると税金の対象になる可能性が出てきます。
相手に迷惑をかけないよう、贈る相手や贈るものは慎重に選びましょう。
形見分けの贈り方
形見分けは、事前に、相手に受け取る意思があるかどうかを確かめ、包装せずに手渡します。
裸でお渡しするのが気になる時は、半紙のような白い紙に包んで、仏式なら「遺品」、神式なら「偲ぶ草」と表書きして手渡しましょう。
遠方で手渡しできない場合は、破損しないように最低限の包装し、宅配便などで送っても大丈夫です。
その場合は、必ず形見分けである旨を一筆、書き添えるようにしましょう。
最近では、遺品整理とともに、形見分けの発送を代行してくれる遺品整理業者も出てきていますので、問い合わせてみるとよいでしょう。
形見分けの受け方
形見分けの申し出をいただいた場合は、受けるのがマナーです。
大抵は事前に遺族から問い合わせがあるので、お礼を述べ、なるべく受け取るようにしましょう。
受け取る際は「ありがとうございます。○○さんの思い出として、大切にいたします」と言葉を添えます。
譲り受けた遺品を大切に使うことが故人の供養になります。
いただいた品は、第三者に譲ったり現金化したりしないようにしましょう。
サイズが合わない衣類など、使うことができないようなものだったり、どうしても受け取れない理由があったりする場合は辞退しても構いません。
その場合はお礼を述べ、「ただ、寸法が合わないようです。いただいて使わないと申し訳ありませんので……」というように、丁寧にお断りしましょう。
故人の借金
引き継ぐか、放棄するか
遺産には、預貯金や不動産などの「プラスの遺産」だけでなく、借金やローンなど「マイナスの遺産」もあります。
法定相続人であっても、遺産を相続するかしないかは自由です。
何も相続したくない場合は、相続の権利を放棄できます。
相続財産に多額の債務がある場合や、相続人のうち誰かに全てをあげたい場合、トラブルを避けたい場合などに、相続の権利そのものを放棄できます。プラスの遺産、マイナスの遺産のどちらも引き継ぎません。
また、限定的に相続をする方法もあります。
「限定承認」といい、プラスの遺産からマイナスの遺産を返済し、残った分があれば相続する方法です。
どちらの方法を取る場合も、まずは故人の遺産をしっかり調査してから決めましょう。
相続完了後に故人の負債が発覚したら?
面倒だった相続の手続きがスムーズに終わり、ひと安心したところに、故人の借金や負債が発覚するケースがあります。
相続が完了している場合、どうすればよいのでしょうか?
相続放棄をしたい場合
相続放棄の申立期間は3カ月と定められていますが、それ相応の理由があれば、申立期間の起算点を後ろにずらすことができるケースがあります。
たとえば、疎遠になっていた遠い親戚が仕方なく遺品整理をやっているとか、長く別居していた配偶者など、「これでは借金の存在を知らなくても仕方がない」と思えるような状況であれば、相続開始後3ヶ月を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。
相続が済んだあと借金があることに気づいても、多額の負債に苦しむことがないように、諦めずに相続放棄の手続きを取りましょう。
ただし、相続放棄の申述は、いちど却下されてしまったら再度やり直すことはできません。相続放棄に強い司法書士や弁護士に相談した方がよいでしょう。
督促状が見つかったら?
遺品整理の際に、消費者金融や債権の回収会社などからの督促状が見つかったり、相続が完了したあとに金融会社などから督促状が届いたりすることがあります。こんなとき、どうすればよいのでしょうか?
まずは落ち着いて、督促状をよく見てみましょう。もしかしたら、すでに時効となっているものがあるかもしれません。
督促状やお知らせには、「支払期日」の記載があります。この日付から5年以上経過していると、その借金は時効になっている可能性があります。
とはいえ、借金が勝手に消えてくれるわけではありません。
借り主側が時効の効果で借金の消滅を主張するには、「この借金は時効になっているので、お金はお返しいたしません」と貸主に伝えなければならないのです。
この意思を伝える文書が「時効援用通知」です。
時効援用通知には、債務を特定できる情報(顧客番号や契約番号、契約の年月日など)を明記し、その債務に関して消滅時効の援用をするという内容を記載します。
こうして作成した「時効援用通知書」を、配達証明付きの内容証明郵便で先方に郵送します。
普通郵便だと、配達証明付きにすれば書類が到達したことは証明できますが、届いた文書の内容が証明できないため、証拠になりません。
しかし、配達証明付き内容証明郵便であれば、文書の到着と、到着した文書の内容が時効援用通知であることの両方を証明できるため、裁判上の証拠にすることができます。
故人が連帯保証人になっていたら?
相続のとき気づきにくいものの1つに、故人が連帯保証人になっているケースがあります。
相続すると、故人が負っていた連帯保証人としての責任も負わなければいけないのでしょうか。
金融機関からの借り入れ
故人が知り合いに頼まれて借金の連帯保証人になっていたような場合は、相続放棄をしない限り、故人が負っていた連帯保証人として責任を負うことになります。
つまり、知人がお金を返せなかったら、相続人が返済しなくてはなりません。
不動産の賃貸借契約
部屋を借りる際の連帯保証人になっていた場合も、連帯保証人としての地位は相続されます。
借り主が家賃を滞納したような場合、相続人に滞納分の支払い請求が来ることがあります。
身元保証
身元保証とは、会社に入社する際などに求められるものです。
もしも被保証人が会社に損害を与えた場合、身元保証人がその損害を賠償しますという約束です。
身元保証は、被保証人と保証人の間の信頼関係に基づいて成立するものです。
相続人と被保証人の間には信頼関係はないため、身元保証人としての地位は相続されません。