8050問題とは? 深刻化する中高年のひきこもり。

8050問題とは? 深刻化する中高年のひきこもり。

2019年3月、内閣府は、中高年層(40歳〜64歳)を対象とした、ひきこもり実態調査の結果を発表しました。
内閣府は、2010年、2016年にも、若年層(15歳〜39歳)の、ひきこもりの調査をしていますが、中高年層を対象とした調査は今回が初めてです。
そこで明らかにされたのは、61万3千人という、あまりにも衝撃的な数字でした。

若年層の調査では、2010年で約70万人、2016年で約54万人という数字が出ていますが、それを超える数の、中高年のひきこもりの人々がいることが明らかになったのです。

なかでも深刻なのは、80代の親が50代のひきこもりの子を養う世帯の困窮と孤立で、「8050問題」と呼ばれています。
今回は、この8050問題について見ていきましょう。

8050問題とは?

ひきこもり

「8050問題」の「80」は80代の親、「50」は自立できない事情を抱える50代の子どものことを指します。
代表的なのが「ひきこもり」の問題です。ひきこもりとは、家族以外との人間関係がなく、6ヶ月以上社会に参加していない状態をいいます。

ひきこもりは、これまで若者の問題とされてきました。しかし、ひきこもりが長期化すればするほど、子どもも親も年をとっていきます。
その結果、高齢の親が働けなくなって生活に困窮したり、社会から孤立したりする世帯が各地で報告されています。

8050問題・事件簿①

2018年1月、札幌市中央区のアパートで、82歳の母親と52歳の娘が遺体で見つかりました。死因は、いずれも栄養失調による衰弱死でした。娘は10年以上ひきこもっており、近所付き合いはほとんどなく、高齢の母親が娘の生活を支えていました。

遺体の状態から、母親が先に死亡、娘はしばらく後に死亡していました。娘は母親の遺体のそばで生活していたとみられますが、それでも、周りに助けを求めることはありませんでした。

8050問題・事件簿②

2019年5月、川崎・登戸で、51歳の男がスクールバスを待っていた小学生や保護者らに次々と襲いかかり、17人が重軽傷を負い、2人が死亡するという通り魔事件が発生しました。
事件直後に自殺した容疑者は、長期間ひきこもりの状態で、同居する高齢の伯父夫婦とはほとんど顔を合わせなかったと言います。

8050問題・事件簿③

2019年6月、70代の元農林水産省事務次官が、川崎・登戸殺傷事件を受けて、ひきこもりだった40代の長男の胸などを包丁で刺し殺害するという事件が起きました。長男の将来を悲観しての行動でした。

容疑者は社会的に認められる超エリートであり、社交的な性格でもあったようです。しかし、長男のことだけは、本音で相談できる相手はいなかったのではないかと言われています。

子どもだけでなく、面倒を見る親も孤立しているという状況が多く見られます。そのため、事件となるまで周囲から気づかれないということに繋がるわけです。

ひきこもりとは?

ひきこもり 定義

では、8050問題の中心となっている「ひきこもり」の定義とは何か、見ていきましょう。

ひきこもりの定義

厚生労働省によると、ひきこもりの定義は「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」とされています。

つまり、「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」ことがひきこもりであるとされていました。
しかし、最近では「趣味の用事の時だけ外出する」「近所のコンビニなどには出かける」状態が6ヶ月以上続く場合も、広義でのひきこもりと定義されています。

内閣府の調査では、
・自室からほとんど出ない・・・4.3%
・自室からは出るが、家からは出ない・・・10.6%
・趣味の用事の時だけ外出する・・・40.4%
・近所のコンビニなどには出かける・・・44.7%
となっています。

また、ひきこもっている期間は、5年以上の人が過半数を占めています。中には、30年以上という人も6%いるという結果が出ています。

ひきこもりの男女比

同調査によると、ひきこもっている人の男女別は、広義のひきこもり群で男性76.6%、女性が23.4%と、男性が圧倒的に多くなっています。

しかし、「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」レベルでは、男性が48.3%、女性51.7%と逆転します。女性の場合、家事手伝いなど、家にいることが疑問に思われにくいせいもあるのか、女性のひきこもりは深刻化していると言えるでしょう。

ひきこもりの原因

ひきこもりとなるきっかけとして多いのは「不登校」と「退職」です。
同調査でも、「職場になじめなかった」、「病気」、「就職活動がうまくいかなかった」、「不登校」、「人間関係がうまくいかなかった」などの回答が上がっています。

特に、中高年のひきこもりの場合、かつては社会に出ていた人が、途中からひきこもりになってしまうというケースが増えています。

たとえば、早期退職制度を利用したけれど再就職がうまくいかず、社会に出ることができなかった人、派遣切りやリストラなど、会社の都合や社会状況が原因でひきこもってしまう人も。
終身雇用の時代でなくなっている現代、社会に居場所をなくし、ひきこもりになってしまう人が多いようです。

ひきこもりと親の高齢化

ひきこもり 親 高齢化

ひきこもりが長期化すればするほど、親も高齢化していきます。そこでクローズアップされるのが、介護の問題です。

実は、親とひきこもりの子どもは、共依存の関係になっていることが少なくありません。
ひきこもりの子どもは、親のサポートがあって生活できています。また、親にはひきこもっている子どもを守っていかなくてはという気持ちがあるため、双方が強くつながるわけです。

親が元気なうちはいいのですが、親が倒れたり、介護が必要になると、子どもはパニックに陥ってしまいます。「親以外に頼れる人がいないのに、どうすればいいのか」、「自分が親を世話するのか」、「収入がないのに、これからどうやって生活していくのか」。

しかし、これまで、親と子どもはお互いに依存しあってきたため、外に助けを求めるという発想が出てきません。こうして、親子共倒れとなってしまうのです。

8050問題の対策は?

8050問題 対策 自治体

国の取り組み

厚生労働省では、これまで精神保健福祉分野、児童福祉分野、ニート対策においてひきこもりに関する各種事業を実施しており、全国の精神保健福祉センター、保健所、児童相談所において、ひきこもりを含む相談などの取り組みを行ってきました。

これらに加え、2009年から、ひきこもりに特化した「ひきこもり対策推進事業」を創設。全国で「ひきこもり地域支援センター」の設置を進めています。

この施設は、本人や家族が、地域の中で最初にどこに相談したらよいかを明確にすることが目的です。社会福祉士や精神保健福祉士など置き、地方自治体やハローワークと連携して相談窓口を設け、自立や就業支援、ひきこもりに関する啓発活動などを行っています。
また、「ひきこもりサポーター養成研修事業」として、ひきこもっている本人や、その親を支援する人材育成も行います。

自治体の取り組み

ひきこもりや不登校の人たちに対し、教育機関や社会福祉協議会など住民に身近な支援機関と一体的に取り組む基礎自治体が現れてきています。

これを受け、2019年8月、岡山県総社市で、「全国ひきこもり支援基礎自治体サミットinそうじゃ」ならびに「全国ひきこもり支援フォーラム」が行われました。今後の取り組みの方向性や具体的方策を明らかにし、その必要性を全国に発信していくことが目的です。

サミットでは、ひきこもり支援に積極的に取り組んでいる基礎自治体の首長を一堂に集め、基礎自治体において、ひきこもり支援を行う意義や必要性についての意見交換が行われました。

民間の取り組み

ひきこもりの人が無理なく働ける土台として、「クラウドソーシング」に期待が集まっています。
クラウドソーシングとは、不特定多数の人を募り、ネット上のシステムを利用することで、仕事をしたい人と仕事を発注したい人が契約できる仕組みです。

クラウドソーシングなら、受注から業務完了までをネット上で完結できます。つまり、ひきこもりの人が苦手とする、他人と会う必要がなく、一人で仕事をすることができるのです。
こうした新しい働き方によって、ひきこもりの救済を目指して行きます。

まとめ

8050問題 ひきこもり 相談

自ら「助けて」と手を挙げることがほとんどないため、光が当たりにくく解決が難しい「8050問題」。
生きるうえで大きな問題を抱える人に対しては、何らかのサポートを行う体制があります。しかし、本人や家族が声を上げなければ、支援を受けることができません。

親や子どもが孤立している状況をご紹介しましたが、一方で、80代になった親が、困り果てて外部の人に相談せざるを得なくなったり、介護ヘルパーやケアマネージャーが気づいたり、ひきこもっている人の兄弟が親の死後のことを考えて誰かに相談するようなケースも増えてきています。

今後も、ひきこもりを社会全体の問題と捉え、取り組んでいくことが望まれます。「8050問題」が「9060問題」とならないように・・・。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。