もし、あなたが遺産を相続することになったとします。
故人の遺産を調べてみると、預貯金などはあるのですが、実は預貯金額を超えるかなり多額の借金と、ローンを抱えていることが分かりました。
遺産をそのまま相続すると、借金やローンをあなたが返していかなくてはならなくなります。
こんなとき、あなたならどうしますか?
借金やローンを抱えたくない場合、「相続放棄」という手段があります。
文字通り、相続する権利を放棄することです。
相続放棄をすると、現金は入ってこなくなりますが、その代わり債務を負う義務はなくなります。
もしも、相続放棄をすることになったら・・・。
今回は、相続放棄の方法や、注意点などについて見ていきましょう。
目次
相続放棄とは?
相続が発生すると、相続人(相続の権利がある人)は、次の3つのうちいずれかを選択することになります。
単純承認
故人の遺産、預貯金、土地・建物の所有権などのほか、借金などの義務・債務をすべて受け継ぎます。
相続放棄
故人の遺産や権利、義務・債務を一切受け継ぎません。
限定承認
相続によって得た財産の範囲内で、故人の債務の負担を受け継ぎます。
プラスの財産がほとんどなく、多額の債務が残された場合など、債務のすべてを必ず相続しなくてはならないと単純承認は、相続人にとっては大変なことです。
そういった場合に、相続人に認められている相続放棄や限定承認という手続きをとることになります。
また、相続問題に巻き込まれたくない場合や、故人の財産を特定の人にすべて承継させたい、などといった場合にも、相続放棄を選択することがあります。
相続放棄をすると、相続開始の時点にさかのぼり「当初から相続人ではなかった」ということになります。
相続開始の時点で相続人が複数存在した場合は、一人の相続人が相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増えたり、相続権がなかった人が相続権を取得したりします。
ちなみに、裁判所が取り扱う事件の統計である「司法統計」によると、平成30年度の相続放棄の件数は、21万5320件にものぼるそうです。
近年、相続放棄の件数は伸び続けています。
平成25年 | 17万2936件 |
平成26年 | 18万2082件 |
平成27年 | 18万9296件 |
平成28年 | 19万7656件 |
平成29年 | 20万5909件 |
平成30年 | 21万5320件 |
と、5年間で一度も減ることなく、4万件以上も多くなっています。
債務超過を理由とする相続放棄だけでなく、核家族化がすすみ、住む予定のない実家などを相続せず、相続放棄を選ぶ方が急増しているといわれています
相続放棄の手続きと申告方法は?
相続放棄を行うには、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
相続放棄の申述先は?
相続放棄の申述先は、被相続人(故人)の最後の居住地域を管轄する家庭裁判所です。
この家庭裁判所へ必要書類を提出しますが、直接持っていっても郵送しても、どちらでも構いません。
相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内に申し出ましょう。
相続放棄の申述に必要な書類は?
相続放棄の申述の際に必要なものは以下です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
そのほか、申述人の続柄によって、上記以外の書類も必要になります。あらかじめ確認しておきましょう。
相続放棄にかかる費用は?
相続放棄の申述を行う際には、収入印紙代(800円)がかかります。
また、戸籍謄本を取るには1通450円の小為替が必要です。
そのほか、書類を郵送する場合は切手が必要になります。
相続放棄申述書の作成方法は?
相続放棄申述書は、裁判所のホームページから入手できます。
申述人が未成年の場合と20歳以上である場合では、申述書に記載する内容が異なるので注意しましょう。
場合によっては、家庭裁判所から事情説明書などの説明資料の提出を求められることもあるようです。
書類の提出後は?
相続放棄の申述が裁判所に受理されると、数日から2週間ほど後に、裁判所から「照会書」が送られてきます。
この照会書に書かれている事項に回答し、署名・押印して裁判所へ返送しましょう。
特に問題がなければ「相続放棄受理証明書」が郵送されてきます。
この通知書の受け取りをもって、相続放棄の手続きは完了となります。
相続放棄のメリット・デメリットは?
相続放棄をすると、どんなメリット、またデメリットがあるのでしょうか。
メリット
被相続人の借金から解放される
相続放棄をする最大のメリットは、故人の債務や義務を負わずに済むことでしょう。
被相続人に借金があった場合、相続人全員が、法定相続分に従って債務を引き継ぎ、債権者から返済を迫られることになります。
この場合、もしも借金の返済が滞っていたようなことがあると、延滞金も一緒についてきます。
相続の揉めごとに関わらなくて済む
相続放棄をすると、相続人ではなくなります。
つまり、相続に関わる権利関係から離れることができます。
分割協議に参加する必要もありませんし、相続に関して親族間でもめごとが生じたとしても一切関係なくなります。
デメリット
すべての相続財産に対し、権利がなくなる
最も大きなデメリットは、被相続人の財産を手放さなくてはならなくなることでしょう。
たとえば、被相続人が同居の親だった場合、相続を放棄すると、自分以外の他人のものとなり、住み続けることができなくなる可能性があります。
また、被相続人の所有物は、勝手に持ち出したり処分したりすることはできません。
やり直しできない
一度相続放棄をすると、原則として撤回や取り消しはできません。
当初、財産はないと言われていたのに実はあったことが分かっても、相続放棄の手続きが完了したあとでは取り消しできません。
早とちりして相続放棄してしまったなどということがないよう、事前によく検討しましょう。
相続放棄が認められない場合がある
相続放棄をしても、その後の行動によって、相続放棄をしたことが認められなくなる場合があります。
たとえば、相続放棄をした人が被相続人の財産を使用したり処分したりすると、相続を承認したものとみなされることがあります。
トラブルの可能性がある
相続放棄をすると、相続放棄した人ははじめから相続人ではなかったこととなり、次の順位の相続人に相続の権利が移ります。
このような場合に、順位が繰り上がった相続人が、マイナスの財産の存在を知らず単純承認してしまったことで、負債を背負ってしまったという事例があります。
思わぬところからトラブルが発生することがあるので、相続放棄をする場合は、ほかの相続人ともよく話し合って決めましょう。
相続放棄すると、遺品整理が行えない!? 相続放棄でやっていいこと・ダメなこと
相続財産を処分したとみなされる行為をすると相続放棄ができなくなることについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
遺品整理はNG?
民法第921条には「相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、相続人は相続を単純承認したものとみなす」と書かれています。
被相続人が借金を負っているために、相続放棄を考えているとしましょう。
このような場合、遺品整理をした後で相続放棄の手続きを行うと、後日、債権者から相続放棄の無効を訴えられ、賠償責任が生じる可能性があります。
被相続人にお金を貸していた債権者は、遺産を金銭にかえて債権を回収したいと考えるのは当然ですね。
しかし、相続人が遺産を勝手に処分したうえ、相続放棄を行い、返済義務を免れるという事態は、あまりにも債権者の利益を害しています。
そこで、相続放棄が許されないというわけです。
このようなことから、遺品整理をすると「相続を承認した」と見なされる可能性があります。
そして、一度でも相続を承認すると、相続放棄はできなくなります。
確実に相続放棄をするためには、放棄が完全に認められるまで遺品整理はしないのがよいでしょう。
市場価値のないものについて
故人の手紙や写真などをもらうことに関しては問題ありません。
これらの形見の品には経済的な価値がないため、相続すべき財産には入らないからです。
手紙や写真以外のものでも、確実に経済的価値がないと認められるものであれば、その遺品のみ整理することは問題ないと考えられます。
まとめ
相続放棄の手続きは、それほど難しいものではありません。
しかし、遺品整理を行えないなど、さまざまな問題が絡んでくることも事実です。
確実に相続放棄をするには、専門家に相談するのが安心です。相続関係に強い弁護士などに相談してみましょう。
また、遺品整理業者でも、相談に乗ってもらえる場合があります。
さらに、提携の専門家などを紹介してもらえる場合もあるので、まずは相談してみるとよいでしょう。