生活保護受給者の遺品整理、手続きと注意点

生活保護受給者の遺品整理、手続きと注意点

厚生労働省の発表によれば、平成31年、生活保護を受けている人は全国で208万9641人。
世帯数にすると163万5515世帯で、そのうち高齢者世帯が88万世帯と50%を超えています。
さらに、単身世帯は80万世帯と、生活保護を受けている高齢者は半数近くが一人暮らしであることがわかりました。
もし、このような人に万が一のことが起きた場合、遺品整理はどうなるのでしょうか。
今回は、生活保護受給者の遺品整理について見ていきましょう。

生活保護制度とは?

まずは、生活保護がどんな制度かを見ておきましょう。

生活保護制度の趣旨とは?

生活保護とは、経済的に困窮する人に対し、国が必要な保護を行う制度です。
国は、国民の生存権を保障する日本国憲法第25条に基づき、健康で文化的な生活を保障するために、困窮度合いに応じて最低限度の費用を支給します。
この制度の目的は、その人が再び自立できるよう支援すること。
困窮している人は誰でも申請することができます。

生活保護を受ける条件は?

生活保護受給者の生活

生活保護は、個人単位ではなく世帯単位で行います。
そのため、世帯員全員が、資産や能力など最低限の生活維持のために活用できるものは活用することが前提となります。
つまり、働ける人がいるのであれば働き、生活に利用していない不動産などがあれば売却して現金化し、生活費にあてます。
また、年金や手当など受け取れる給付金がある場合は、生活保護よりそちらが優先されます。
その上で、最低限度の生活をするために足りない場合に、足りない分だけ保護費を受け取ることができます。

生活保護の申請の方法は?

生活保護の申請をしたい場合は、居住地域の福祉事務所に相談しましょう。
生活保護の申請をすると、実地調査に加え、預貯金・保険・不動産などの資産調査、扶養義務者が扶養できるかどうかの調査、就労できるかどうかなどについての調査を行います。
保護が必要と認められると保護費の支給が決定し、最低生活費から収入を引いた不足分が支給されることになります。

生活保護受給者が死亡したときの手続きは?

生活保護受給者の生活風景

葬儀の費用は、一般的に100〜200万円ほどといわれています。
しかし、生活保護受給者の場合、この費用を支払うのは難しいケースが多いため「葬祭扶助制度」として自治体から葬儀費用が支給されます。
葬祭扶助を申請するには、

  • ・葬儀の施主(扶養義務者)が生活保護受給者で生活に困窮している場合
  • ・故人が生活保護受給者で、遺族以外の人が葬儀の手配をする場合

の、どちらかの要件を満たす必要があります。
この制度を利用するには、葬儀前に、居住地の自治体への申請が必要です。
葬儀までの流れを見てみましょう。

福祉事務所などへの連絡

生活保護受給世帯の人が亡くなったら、民生委員やケースワーカー、役所の福祉係に連絡します。

葬祭扶助の申請

管轄の福祉事務所に葬祭扶助の申請をします。
申請は、必ず葬儀の前に行いましょう。あとでは認められません。

葬儀社へ依頼

葬祭扶助の申請が認められたら、葬儀社に連絡します。
多くの場合、役所が葬祭扶助に対応する葬儀社を紹介してくれます。
依頼の際には、葬祭扶助を利用することを必ず伝えましょう。

葬儀

生活保護受給者の葬儀

葬祭扶助の範囲内で行える葬儀を行います。
葬祭扶助を栄養する場合、通常の葬儀のような通夜・告別式などはなく、火葬のみを行う「直葬」と呼ばれる形態の葬儀となります。
親しい方数人のみでお別れをしたあと、火葬されます。

葬儀費用の支払い

自治体によって多少差はありますが、葬祭扶助の支給額は、大人20万6000円以内、子どもで16万4800円以内です。
ほとんどの場合、葬祭費用は福祉事務所から葬儀社に直接支払われます。

生活保護受給者の遺品整理とは?

生活保護を受給している親族がいる場合や、すでに亡くなってしまっている場合、故人の住居に残された遺品の整理はどうしたらよいのでしょうか。

遺品整理は誰がすべき?

生活保護受給者は、役所から生活費を受け取っています。
受給者が亡くなった場合、役所は遺品整理などの処理をしてくれるのでしょうか?
いいえ、役所は何もしてくれません。
生活保護は、国の補助なしで生活できない人に対して補助金が支払われる制度です。
そのため、受給者が亡くなった後の各種手続きや遺品整理、その費用などに関しては、補助してもらうことはできません。

そこで、一般的には親族が中心となって遺品整理を行うことになります。
故人の住居が賃貸であり、故人に借金があるなどの理由から親族全員が相続放棄をした場合は、連帯保証人が遺品整理を行うことになります。

連帯保証人が不可能な時は、大家さんや管理会社が遺品整理を行います。
このような場合、保証人や大家さん、管理会社は実費で遺品整理や清掃を行わなくてはなりません。

周りに迷惑をかけたくない人は、生活保護受給者であっても生前整理を依頼することができます。
死亡後は遺品整理費用を生活保護費から賄うことはできませんが、存命中であれば、生前整理という形で支援を受けることができます。
生活保護受給世帯で死者が出て遺品整理を依頼する場合も同様です。
このような場合、業者は役所側で選択することがほとんどです。
勝手に業者に依頼せず、まず役所やケースワーカーと相談して決めましょう。

費用は誰が支払うの?

生活保護は、受給者が死亡した時点でストップします。
そのため、遺品整理の作業料金を生活保護費から出すことはできません。
従って、遺品整理の費用は、基本的に親族が負担するしかありません。
納得できないこと、事情もあるかもしれません。
しかし、複数の親族で分担して支払い、1人の負担を少なくしましょう。

繰り返しになりますが、遺品整理を行う親族がいない場合は、連帯保証人や大家さん、管理会社が費用を負担することになります。

生活保護受給者の遺品整理で気をつけるべきポイントとは?

生活保護受給者の遺品整理

親族が中心となって行わなくてはならない生活保護受給者の遺品整理。
知識がないまま始めると、取り返しのつかないことになってしまうこともあるのです。
遺品整理を行う際に押さえておきたいポイントを見ていきましょう。

相続の手続きを必ずしよう

故人が生活保護を受給していても、相続の手続きは通常通り行えます。
資産や価値のある遺品はないのがほとんどですが、手続きは必要です。
資産の整理は必ず行いましょう。

気をつけたいのは、手続きを行う人も生活保護を受けている場合です。
相続する金額によっては、自身の生活保護受給が打ち切られてしまう可能性があるからです。
相続すれば、まとまったお金が入りますが、そのあとも受給なしで生活を続けて行けますか?
長期にわたりそうな病気などがある場合、相続せずに、生活保護受給を続けた方がよいケースもあります。
現在の生活状況を考え、よく検討しましょう。

遺品を勝手に処分しない

もし相続放棄をしたい場合は、勝手に遺品の処分をしないよう注意しましょう。
分割協議前に遺品を処分したり、形見分けをしたりすると、遺産を相続する意思があると判断され、相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。
生活保護費は借金の返済には使えないため、生活保護受給者が借金を持っているケースは少なくありません。
そこで遺品を処分してしまうと、マイナスの遺産を背負いこんでしまうことになりかねないのです。
遺品整理は、故人に借金がないか事前に必ず確認してから行いましょう。

ただし、資産価値のない生ごみや、手紙・写真などは、すぐに処分しても大丈夫です。
特に生ごみは、そのまま放置しておくと害虫が発生したり悪臭の原因となったりします。
簡単な清掃だけで済んだところ、掃除業者の費用もかかってしまうことになりかねないので、早めに処分しましょう。

遺品整理業者への依頼。メリットは?

親族が遠方に住んでいたり、故人の住居が賃貸でなるべく早く部屋を空ける必要がある場合は、遺品整理業者への依頼も検討するとよいでしょう。
親族の立ち会いなしで作業を行ってくれる業者もあるので、インターネットで探してみましょう。
こういった場合、作業前の写真と作業後の写真を撮影し、送ってもらえるところがほとんどです。
また、最近では、スマホをつなぎ、作業の様子を動画中継で見られるサービスを行なっている業者もあります。
このような業者では、作業中に希望を伝えたり、スタッフからの遺品の確認に答えることもできて便利です。
遺品整理をするための交通費や宿泊費、さらにかかる時間や手間を考えると、業者へ依頼する方がスムーズな場合もあります。

まとめ

生活保護受給者の遺品整理では、必ず相続の手続きを行い、必要な場合は相続放棄の手続きも行いましょう。
高齢者の場合、住居を借りる場合に保証会社を使っている場合があります。
すると、故人の遺したものの撤去や未払いの家賃は、保証会社が対応してくれる場合があります。
だからといって相続放棄の手続きをしないでいると、後日、保証会社から相続人に対して遺品整理など費用を請求されてしまうケースもあります。
相続に関する手続きは、忘れず行いましょう。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。