近年、急速に知られるようになってきた「デジタル遺品」という言葉。
一度は耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか?
スマホやSNS、デジタルカメラなどだけでなく、銀行や株取引、通貨に至るまで、デジタル環境の発達はとどまるところを知りません。
そのため、現代に生きるわたしたちは、否応なしにデジタルと無縁ではいられなくなりました。
今や、なんでもインターネットを介して行う時代です。
日夜、便利に、そして複雑になっていくデジタル環境。その問題点や、亡くなった後に起きる問題についてみていきましょう。
デジタル遺品とは?
「デジタル遺品」とは、「デジタル環境を通してしか把握することのできない遺品」のことです。
たとえば、原稿用紙に手書きした文章はそのまま目で見て読むことができますが、Wordなどで書いた文章は、パソコンなどのデジタル環境がなければ読むことができません。
このように、パソコンやスマホの中にあるデータや、SNSやブログ、オンラインゲームなどのアカウント、ネット銀行の口座などのことをデジタル遺品といいます。
インターネットの発達により、さまざまな情報をパソコンやスマホで管理する人が急増しています。
かつては銀行の実店舗に出向かなければできなかった引き落としや支払いなども、自宅にいながらにしてインターネットバンキングで行えるようになりました。
デジタル遺品は、SNSなど個人の楽しみの範囲を超え、日常生活から必ず生まれるものになりつつあります。
デジタル遺品の問題点とは?
少し前までは、
- 趣味で集めていた画像を人に見られたくない
- 家族の思い出が詰まった写真がある
- 自分の書いた日記を隠しておきたい
など、デジタル遺品の問題は個人的なものがほとんどで、そこまで深刻な問題はみられませんでした。
しかし、わずかの間にデジタル環境はどんどん発達し、お金に関する面にも進出してきています。
インターネットバンキングや、株券の電子化によって、これまで当たり前だった通帳や株券を持つことなく資産運用ができるようになりました。
そうなると、亡くなった人個人の問題では済まないケースも増えてきます。
その大きな 理由は、セキュリティの問題から、本人以外が操作することが難しいということです。
ネット銀行に口座を持っていると家族が知っていても、IDやパスワードが分からなければ、資産を確認することはできません。
特に、インターネットバンキングなどは、パスワードが分からなければ口座のページを開くことさえできないのです。
その上、遺族がパソコンに詳しくなかった場合、デジタル遺品に気がつかず、故人のパソコンを処分してしまうというケースも急増しています。
これによって、遺族が資産を確認できなくなってしまうのです。
そのため、生きているうちに、これらの問題を解決しておく必要があります。
恐ろしい目に遭うかもしれないデジタル遺品とは?
遺族がその存在を知らないまま放置されていることによって、結果的に遺族に大きなダメージを与える可能性のあるデジタル遺品とは何でしょうか?
- ネット銀行の口座
- 有価証券
- 生命保険
- FX
- 仮想通貨
ネット銀行の口座
ネット銀行の預金口座は、実店舗を持つ普通の銀行口座と法的な扱いに違いはありません。
持ち主が亡くなった場合、遺族が問い合わせをすれば、リアルの銀行と同様、故人の口座はひとまず凍結され(2018年現在。2022年からは仮払い制度がスタート)、遺産分割協議が完了したら相続手続きに進むことになります。
リアルの銀行との違いは、“気づきにくさ”だけと言っていいでしょう。
とは言っても、取引用の専用カードの発行や、郵送による定期的なレポート発行などを行っている銀行も多いので、故人がネット銀行を使っていたという痕跡が見つかる可能性は高いでしょう。
有価証券
ネット証券などで所持している有価証券も、資産価値があるため遺産とみなされます。
こちらもネット銀行とだいたい同様で、資料などの郵送から、故人がインターネットで株取り引きをしていた痕跡が残ることが多いようです。
生命保険
ネット保険も基本は同様です。保険金の受け取りに関しては、受取人として設定された人が保険会社に申請しなくてはならない場合が多いようです。
そのため、遺族や受取人が保険に関して知っている場合はいいのですが、保険の存在を知らず、また気づくことがなければ、保険金を受け取れなくなってしまいます。
FX
故人が亡くなったあと、負債となる危険が大きいのは、FX(外国為替証拠金取引)のような、証拠金によってより大きなお金を動かすタイプの取り引きです。
FXとは、もともとの「Foreign Exchange」を短縮形にした造語です。
外国通貨を売買することによって為替差益(利益)を得ることを目指す「外国為替証拠金取引」のことです。
FXの取引の例を挙げると、「日本円からアメリカドルへ両替→その後しばらくして、両替したアメリカドルを日本円へと変える」という具合に、各国の通貨を両替していくような取り引きです。
たとえば、Aさんが、100万円の証拠金を用意して20倍=2000万円の外貨資産を持っているとしましょう。
為替が大きく動いて急に1900万円まで下がってしまったとしたら、資産を解消する(損失を損失として確定すること)か、追加の証拠金を払うかの選択が必要になります。
さらに1800万円まで下がった場合は、不足分の100万円の支払い義務が生じます。
この時点で持ち主が亡くなっていた場合、遺族または相続人にこの請求がくることになるのです。
「FXで数千万円を失った」という話を聞くことがありますが、もし、故人がFXで資産運用していることを遺族が知らなかったら・・・と思うと、恐ろしいですね。
ただ、近年は倍率が下がったことから、1千万単位の損失が出ることは少なく、また、遺族への請求も少なくなっているとはいいます。
それでも、請求される可能性はゼロではないようです。
仮想通貨
ここ最近、話題になることの多い「仮想通貨」。
ニュースでも取り上げられている「ビットコイン」という言葉は、耳にしたことのある人が多いのではないでしょうか。
仮想通貨とは、ブロックチェーンや電子署名といった暗号技術を組み合わせて成立する、国家による価値の保証を持たない電子的な通貨のことです。
仮想通貨は日本政府によっても定義づけがされており、「電子情報処理組織を用いることによって渡したり受け取ったりできる財産的価値」のことを仮想通貨と呼ぶと定めています。
仮想通貨には、管理者が存在しません。
たとえば、日本円は日本政府が発行主体として存在しますし、電子マネーなら、Suicaを例にすると、JRが管理しています。
また、電子マネーの価値はそもそも日本円に依存しているので、同時に発行元の日本政府を信頼していなければなりません。
しかし、仮想通貨には発行主体も管理団体もありません。
誰かと誰かの1対1のやり取りを、みんなで監視し合うシステムになっているのです。
さて、この仮想通貨は「ウォレット」という専用の財布に入れて保管します。
ウォレットにはオンライン上のものや、スマホやパソコンに入れておくもの、専用機器に保管するもの、紙で管理するものなどさまざまな種類があります。
いずれもパスワードを入力することで仮想通貨を売買したり取引したりできるのですが・・・
もし、持ち主が亡くなって、相続人がこれらのウォレットを引き継いだ場合、どのようなことになるのでしょうか?
遺族や相続人が、ウォレットがあるとは知らずに端末を処分したり、初期化したりしてしまうケースは多々あります。
仮に数千万円もの価値があったとしても、知らなかったらそれまでです。
また、価値に気づいたとしても、パスワードが分からなければ扱いようがありません。
それなのに、このような手出しできない財産であっても、相続税の対象としてカウントされる可能性は十分にあるのです。
2018年3月23日の参議院財政金融委員会で、藤井健志・国税庁長官代行(当時)は、「遺族がパスワードを知るか否かに関わらず、仮想通貨は相続税の対象とみなされる可能性がある」と話しています。
つまり、もし、故人が1億円クラスの仮想通貨を所持していたら、多額の相続税がのしかかってくるということです。
相続税の基礎控除額を超えてしまうことはまず間違いなく、仮に相続人が1人しかいない場合、6400万円が課税対象となり、1000万円以上の相続税が請求されるかもしれません。
そして、それを知らずにウォレットを処分してしまっていたら・・・。
仮想通貨は、価値の変動が激しいこと、パスワードを知らないと扱えないことと、さらに法の整備が追いついていないところに大きな問題があるのです。
「デジタル終活」のススメ
これまで見てきたように、お金に関するデジタル遺産は、残された家族を苦しめる結果になりかねません。
そこで、近年「デジタル終活」という言葉も出てきています。
デジタル遺品によるトラブルの最大の原因は「目に見えない」こと。
ということは、「目で確認できるようにする」のが一番です。
自分がいなくなった後、家族や相続人にわかるように、デジタル遺品となりうるものの一覧表を作りましょう。
- スマートフォンやパソコンのパスワード
- インターネットバンキングの口座情報
- 証券会社の連絡先と運用情報
などを列記しておきましょう。
エンディングノートをつけている人であれば、その中に一緒に書いておいてもいいですね。
のちのち大きなトラブルを起こさないため、生前整理の一環として、ぜひデジタル就活を始めましょう。