近年のお葬式は、従来の仏式だけでなく、音楽葬や、故人の趣味をテーマにしたお葬式、故人のさまざまな作品などを展示するお葬式など、個性を前面に出したお葬式が増えています。
ですが、一風変わっているお葬式といえば、やはり「生前葬」ではないでしょうか。
普通、お葬式は、人が亡くなってから行うもの。
それを、まだ生きているうちにやるというのですから。
芸能人やスポーツ選手など、著名人の生前葬がメディアに取り上げられることがありますが、生前葬には、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
目次
生前葬とは?
「生前葬」とは、「生きているうちに行う葬儀」のことです。
いわゆる普通のお葬式が「故人のために」と他人が行うものであるのに対し、生前葬は、自分自身で行うものです。
生前葬は葬儀の一形態ですが、実際にはまだ誰かが亡くなっているわけではないため、明るい雰囲気でパーティーのように行われることが多いようです。
生前葬の目的は?
人によって目的はさまざまです。
たとえば、
- 人生の節目で区切りをつけるため
- 生きているうちに、周りの人たちに自ら感謝の気持ちを伝えるため
- 生前葬を一つの機会と捉え、なかなか会えない人たちに会っておきたい
などです。
よくメディアで取り上げられるのは、芸能界やスポーツ界の有名人が、年齢的節目、引退、受賞したときなどに、ファンや関係者に対する感謝の気持ちを伝えるイベントとして行うケースですね。
また、病気で余命宣告を受けた人が、生きているうちに感謝の気持ちを伝える場として生前葬を行う例もあります。
生前葬の歴史は?
最近になって始まったもののようなイメージがある生前葬ですが、その歴史は意外に古く、今から約200年前、江戸時代にさかのぼります。
『甲子夜話』という随筆集に、ある家老がお寺の住職に「命があるうちに葬礼をしたい」と頼み、行われたという話が残っているのです。
この時は、白装束に着替え棺桶に入り、僧侶にお経をあげてもらって、最後は埋葬される直前にお棺から出てきたそう。
現代のようなパーティー形式ではなく、本番さながらのお葬式だったようです。
生前葬が注目される理由は?
近年、生前葬が注目されるようになった背景には、「死」というものをめぐる社会状況の変化があります。
少子高齢化が進み、高齢者の人口が激増する社会状況において、若い世代に負担をかけず最期を迎えようとする意識が高まっています。
これが「終活」の広がりにつながってきました。
そして、「死」への意識は、周囲へ迷惑をかけないためだけでなく、自分が生きた証を後世へ残したいという願いの現れとなり、葬儀も自己実現の場である、という意識も広がっています。
こういった理由から、生前葬が注目されるようになっています。
生前葬のスタイルは?
生前葬に、これと決まったスタイルはありません。
生前葬をどう行うかどうかや、どのような会場を使い、誰を招待し、どのような内容にするかなど、すべて自由に決めることができます。
本人の希望するスタイルで行うことができ、参列者全員が笑顔で過ごせるのが特徴です。
海外にも生前葬がある?
実は、海外でも生前葬は行われています。
ただ、「生前葬」というような正式な呼び方は、特にはないようです。
外国における生前葬は、「親から子供世代への助け舟」という捉え方をされているようです。
生前葬を行うことは、子供や家族と財産について話し合うきっかけになります。
また同時に、死後の葬儀の不安を減らす目的も含まれているようです。
実際の生前葬の内容は?
生前葬が注目されているといっても、実際に出席した経験のある人はまだ少ないのではないでしょうか。
そこで、生前葬を行う場合の流れを見ておきましょう。
生前葬の流れ
生前葬は、特に決まった流れはなく、自由に決めることができます。
ただ、基本的には、以下のような流れや内容が盛り込まれることが多いようです。
- 開式の辞
- 自分の人生などをまとめた映像演出
- 親族や友人によるスピーチ
- 歓談・会食
- 余興など
- 本人の挨拶
- 閉式の辞
このような流れを基本とし、本人の趣味や趣向によってさまざまなプログラムを自由に入れることができます。
生前葬のマナーは?
生前葬は、通常のお葬式とはまったく異なるため、マナーやドレスコードもさまざまです。
基本的には、男性はスーツ、女性はワンピースやアンサンブルなどの平服での参加が多いようです。
参列者の中にはどのような服装で参加すべきか悩む人もいるので、案内状にドレスコードも載せておくとよいでしょう。
お香典は必要?
生前葬の場合、お香典という形ではなく、会費制で行うのがほとんどのようです。
そのため、会費を記載した案内状を参列者に送ることになります。
ただし、香典を受け取ってはいけないというわけではありません。
受け取る場合は、1万円から2万円ほどが相場となっています。
生前葬の費用は?
生前葬には決まった形式がなく、自由に内容を決めることができるため、内容によって費用は大きく異なります。
数百人以上の規模の生前葬では広い会場が必要なため、費用も高額になります。
しかし、30人から50人程度の小規模なものであれば、会場の利用料、設営費、設備などを含め20万円〜30万円ほどで行うこともできるようです。
この会場費に、飲食費や返礼品などを合計したものが生前葬の総費用となります。
生前葬のパッケージプランが用意されている葬儀社もあるので、相談してみるのもよいでしょう。
本当に亡くなった後は?
生前葬を行った人がのちに亡くなった場合、改めてお葬式を行うのでしょうか。
多くの場合、葬儀は行いませんが、家族や親族の「しっかり見送りたい」「気持ちに区切りをつけたい」という思いから、家族葬など小さな葬儀を行うこともあるようです。
忘れてはならないのは、生前葬を行った場合でも、火葬や埋葬は必要だということです。
そのまま出棺し、火葬、骨上げ、埋葬を行います。
生前葬を行うメリットとは?
では、生前葬を行うメリットについて見ていきましょう。
自由にできる
生前葬の最大のメリットは、いつ・どこで行い、誰を招待し、どんなことをするか、また、飾る花や料理の内容まで、すべてを自分で決められることでしょう。
生前葬には、通常の通夜や葬儀・告別式のように決まった形式がないので、礼儀作法や段取りなどに縛られることもありません。
すべて、自分の好きなように計画できます。
気持ちを直接伝えられる
参列者に対し、自分で直接、感謝の気持ちやお別れを伝えることができます。
これは、死後に行う葬儀では絶対にできない大きなメリットと言えます。
暗さがない
通常のお葬式とは違い、堅苦しさや重々しさがなく、明るい雰囲気で行われるのがほとんどです。
本人が元気に生きているうちに行うので、湿っぽくなったり暗い雰囲気になりにくいのでしょう。
じっくり準備できる
生前葬の準備には、時間の制約がありません。
遺体の保存なども考える必要がないので、納得がいくまで準備や打ち合わせに時間をかけることができます。
家族の負担を軽減できる
通常の葬儀では、家族が葬儀社やお寺などと打ち合わせをしたり、会場や料理などの手配をすることになります。
しかし、生前葬の場合は打ち合わせも手配もすべて自分で行うので、家族の手を煩わせることがありません。
また、生前葬をしておけば、葬儀は省略するか簡略化することができるので、家族に時間的・金銭的負担がかかりません。
生前葬を行うデメリットとは?
生前葬のデメリットについても、見ておきましょう。
理解を得にくい
関心を持たれているとはいえ、生前葬を行う人はまだ少なく、認知度も低いため、突飛なことと捉えられるかもしれません。
また「生きているうちに葬儀をするなんて不謹慎」など、批判的な意見を持つ人もいます。
そのため、周囲の理解を得るには時間と労力がかかる場合があります。
菩提寺などとの関係性
檀家に入っているお寺がある場合、お寺には必ず連絡しましょう。
お寺や宗派によっては、葬儀を行わなくてはいけない場合もあります。
自分だけで決めず、事前に必ずお寺へも相談する必要があります。
家族の負担が軽減されない
生前葬をしたとしても、遺族や親族の気持ちの面などから、葬儀はしなくていいとはなりにくいケースは多いものです。
すると、亡くなった後、一般的な葬儀を行うことになり、家族の時間的・金銭的負担が減らせないというケースも出てきます。
まとめ
生前葬は多くのメリットがありますが、まだ一般的な葬儀とはいえません。
そのため、実際には、自分1人で話を進めることは避けましょう。
家族や参列者の気持ちを充分に理解し、時間をかけて準備を進めていくようにしましょう。