遺品を整理していると、故人との思い出が詰まっている品は、なかなか捨てづらいものです。
故人がうつっている写真、直筆の手紙はもちろん。人形やぬいぐるみは特に「亡くなった人の魂が宿っている」と考えられるほど。
遺品整理業者のなかでも「思い切って処分しづらい」という声が多いのが、人形やぬいぐるみです。
もちろん人形やぬいぐるみ以外でも、何かにつけ引き取るか、買い取ってもらうか、あるいはごみとして処分するか悩みに悩み抜いた結果、仕方なくごみとして処分することを決めるのが遺品整理です。
そんな品々を処分する時に、「供養」を行うことも遺品整理にとって重要になります。
一般的に「供養」といえば、亡くなった方や祖先など、人に対してお供えものをし、冥福を祈ることを指しますが、決してそれだけではありません。
仏教では古来より、物に対する供養も広く行われています。それは故人への供養の意味合いもあります。
今回は遺品整理にまつわる様々な「供養」をご紹介しましょう。
人形供養
前述のとおり、人形やぬいぐるみといった、人や動物の形をしたものには「それを使っていた人の魂が宿る」と考えられています。
そこで人形を処分しなければならない時に、「人形供養」を行う人が多いのです。
一例を挙げると、「一般社団法人日本人形協会」では、不用になった人形を引き取り、毎年10月に東京大神宮で開催される「人形感謝祭」にて人形供養を行うという、「人形感謝(供養)代行サービス」を受けつけています。
この「感謝」という言葉を用いていることこそ、「供養」が何のために行われるかの意味合いを示していると言えるでしょう。
「お焚き上げ」とは何か
人形をはじめとする物への供養は、「お焚き上げ」という方法が用いられます。
文字どおり、遺品を火によって浄化し、天へ還す行事です。
神社の庭で庭燎(にわび、神社の庭で焚くかかり火)を焚くことと、仏教の護摩(ごま、火を用いた祈祷)を焚くことが結びつき、魂を天に送り出す行事となったのが、お焚き上げの由来といわれています。
現在では広く行われている人形供養には、このお焚き上げという供養方法が用いられており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
もちろん人形・ぬいぐるみを一般ごみとして処分することもあります。
しかしその場合でも、中身が見えないような袋に入れたり、お清めの塩を一緒に入れて処分したほうが、気持ちもすっきりするはずです。
どうしても供養のことが気にかかる方には、人形供養をお勧めします。
お焚き上げの対象は人形やぬいぐるみに限りません。
写真、遺影、手紙、仏壇、神棚、ほか故人の魂がこもると言われている遺品や、仏事・神事など宗教にまつわるものは全て供養を行っておいたほうが良いでしょう。
なかでも宗教にまつわるものは供養や処分の方法が、その宗教上で決められていたり、望ましい方法がいくつもあります。
以下、宗教にまつわるものの主な供養・処分方法をまとめたので、参考にしてみてください。
仏壇
まずお付き合いのあるお寺や、仏壇を購入した仏具店に相談しましょう。
仏壇はほとんどが大きな物ですし、それ以上にご先祖様や故人が毎日手を合わせていたもので、多くの方々の魂がこもっているもの。
遺品整理のなかでも、簡単にごみとして捨てることは考えにくいもののひとつです。
故人の長男が位牌とともに仏壇を受け継ぐケースも少なくはありません。
とはいえ実家が一軒家で仏壇を置くスペースもあったとしても、マンション暮らしが中心の現代では、なかなか大きな仏壇を自宅に置いておくのも難しいはずです。
仏壇ブランド『インブルームス』が2013年に行った「仏壇に関する意識調査」の結果には、そうした現代の仏壇事情が如実に表れていました。
「自宅に仏壇があるか」という質問に対し、「ある」と答えた人が約40%、「ない」と答えた人が約60%と、自宅に仏壇がない人のほうが多いのです。
さらに一軒家に住んでいる人の50%強が、自宅に仏壇があるのに対して、マンションなど集合住宅に住んでいる人たちの8割は自宅に仏壇がないというアンケート結果が出ています。
遺品整理は地方に住む高齢者が亡くなり、首都圏など遠く離れたところに住むお子さんや親戚が集まって行うケースが多いと思います。
その場合は、仏壇の引き取りや供養、処分についても十分に調べ、話し合っておいたほうが良いでしょう。
完成の際に開眼法要(入魂式、魂入れ)が行われている仏壇は、閉眼法要(閉眼供養、仏壇から仏様の魂を抜く法要)を行う必要があります。
また、仏教も宗派によって仏壇・仏具にまつわる対処は異なるので、ご注意ください。
神棚
お付き合いのある神社に相談してみましょう。
一般的には、神棚を神社に持っていき、お焚き上げをしてもらうのが最適とされています。
神棚が神様が宿っているものです。「魂入れ」が購入前に行われているもの、購入後に行うものとケースは様々ですが、いずれにしてもお焚き上げを行う際に、宿った魂を抜く儀式をお願いすることも忘れてはいけません。
神棚は大きいものなので、運搬が難しい状況であれば、中に入っている神札のみ取り出してお焚き上げを行い、神棚の本体はごみとして処分するという方法もあります。
遺品整理では、どちらを選ぶかもよく検討しておいたほうが良いでしょう。
お札、お守り
お札とお守りは、もらったお寺や神社(以下、寺社)へ返納するのが原則です。
もともとお札・お守りの効力は1年と(長くて3年)と言われており、この期間を過ぎればもらった寺社で新しいものを頂くほうが望ましいとされています。
返納の際は必ずどのお寺でもらったものか、どの神社でもらったものかを確認しましょう。
返納は年中受け付けているので、直接持っていき、お焚き上げをお願いします。
もらった寺社が遠方にある場合は、郵送を受け付けているところもありますし、また近所の寺社へ持ち込むこともあります。
しかし、あくまで原則はもらった寺社への返納です。遺品整理では必ず確認しておきましょう。
どうしても返納する時間が取れないという場合は、自分自身で処分することも可能です。
その場合は札やお守りを白い紙で、お清めの塩とともに包んで焼却するか、ごみに出します。
ただしお札やお守りへの感謝の気持ちをこめることは絶対に忘れないように。
数珠、念珠
数珠は持ち運びができることから、最も普及している仏具と言われています。念をこめた珠であることから念数とも呼びます。
それだけに仏様だけでなく、故人の念もこもっていると言ってもいいでしょう。
遺品整理の際は、やはりお寺に納めてお焚き上げを行ってもらうのがベストです。
ただしこれもお札・お守りと同じく簡略化して、感謝の気持ちをこめながら白い紙でお清めの塩とともに包み、焼却(木製の物のみ)あるいは、ごみとして廃棄しても構いません。
仏具の売買
仏具のなかには、仏像が美術品として価値が高かったり、お鈴(あのチーンと鳴らすものです)が銀製品であったりという場合もあります。
仏具を売るのは「バチがあたる」行為だと思われるかもしれませんが、「仏教美術」は美術品のジャンルとして成立しているものです。
しっかりと市場も存在しているので、価値が高そうな物は専門家に査定をお願いしてみてみましょう、
その際は、できれば買い取ってもらう前にお寺へ持っていき、「魂抜き」という供養を行っていただいたほうが安心です。
燃えない物でも供養はできる
前述のお焚き上げについては、「焚く」という名称から、燃やせない物はお焚き上げができないと思われる方もいるかもしれません。
そんなことはなく、焼却できない物は読教・魂抜きを行ったあと、故人の魂がこめられたお札をお焚き上げという方法をとります。
さらに仏具でなくても、お焚き上げを行うこともあります。
故人が使っていた布団一式のお焚き上げを依頼される方もいますし、遺品全てのお焚き上げを希望する遺族もいらっしゃいました。
それらは「ごみ処分」ではなく「供養」であることを、寺社にお焚き上げをお願いする際、念頭に置いておくことは、言うまでもありません。
最近は環境破壊の観点から、ごみ処理、ごみ焼却に関する法律も変化してきています。
もちろん寺社ではお焚き上げは、こうした法律に則って行われているので安心してください。
キリスト教の聖品
ここまでは神社やお寺にまるわる宗教的な物の処分方法についてご紹介してきました。
では故人がキリスト教徒で、遺品の中にキリスト教にまつわる物があった場合は、どうすれば良いでしょうか。
キリスト教にまつわる物といえば、イエス・キリストや聖母マリアの像・絵、十字架、ロザリオ、メダイ(聖人・聖女が彫られたメダルのようなもの)が挙げられます。これらは「聖品」(もしくは聖具)と呼ばれます。
上記の寺社にまつわる物と異なり、キリスト教において聖品はお祈りをするための道具であり、それ自体に神様が宿っているというものではありません。
従って、破損した場合も含めて使わなくなったものは、そのまま廃棄するというのが一般的です。寺社と違い、不用になった聖品を教会に持っていくという風習も規則もないので、注意してください。
望ましいのは、知人にキリスト教徒がいれば、その方にお譲りすること。
どうしても処分しなければならない場合は、他の人が用いることができない形にしなければいけません。
燃える物だと白い紙に包んで焼却します。陶器であれば粉々に壊し、金属類はそのまま土の中に埋めることもあります。
もちろん一般ごみとして出すことも可能です。
最も注意すべきは、他の人へ譲る場合です。キリスト教では教会が、祝別された聖品を他人に譲る時、代わりに金品を受け取ることを禁じています。
それは「聖品売買」といい、最も神を冒涜する行為だとされているからです。
仏教もキリスト教も多くの派があり、それぞれの教えがあります。
繰り返しになりますが、宗教にまつわる遺品の整理に関しては、必ず事前に詳細を確認しましょう。
故人の信仰を冒涜するすることは、故人を冒涜することに繋がります。
ここまで遺品整理に関する供養や、宗教にまつわる品々の処分方法をご紹介してきました。
最後に、上記は遺品整理を行ったあとの対応になります。
加えて、我々プロの遺品整理士として最も大切にしているのは、作業を始める前なのです。
遺族とお会いする時には、まず身だしなみを整え、お悔やみを申し上げるのは当然のこと。部屋に入る時、あるいは部屋にお仏壇があれば必ず手を合わせます。
なかにはこうした供養の気持ちがなく、遺品をただのごみのように扱う業者もいることは、悲しい現実です。
遺品整理は単なる整理作業ではありません。
最優先すべきは故人と遺族のお気持ちであり、故人の供養をを常に忘れず、肝に命じて作業を行うことが遺品整理なのです。