誰にも看取ってもらえず、ただ一人ひっそりと最期を迎える孤独死。
平均寿命は伸び、医療は進歩し、未婚率が高くなっている現在。
当然の結果として、1人暮らしをする「独居老人」が増えています。
内閣府の調査によると、2000年に約300万人だった65歳以上の独居老人は、わずか5年で2015年には約600万人へ倍増しています。
そんな状況のなか、孤独死が社会問題になっているわけです。
そこで、保険各社が販売する「孤独死保険」が注目されています。
これは一体どんなものなのでしょうか?
目次
「孤独死」の現状
- 孤独死とは
- 孤独死の現場とは
孤独死とは
孤独死の原因は、脳出血や室内での転倒、心臓発作やヒートショックなどさまざまです。
このように、突発的な傷病で誰にも看取られることなく亡くなることを「孤独死」といいます。
1人暮らしの高齢者にはご近所づきあいや友人の少ない人、社会やコミュニティから孤立している人も多いようです。
そこで発見が早ければ助かっていたケースや、亡くなったことを誰にも気付いてもらえず、日数が経過してから遺体が発見されるケースもあります。
孤独死の現場とは
孤独死に気づくのは、同じ集合住宅に住んでいる人や、近隣の住人などが多いようです。
悪臭が漂い、急に害虫やネズミなどが増える。
どうもおかしいと通報すると、住人が孤独死していたという具合です。
特に夏季は臭いなどの被害がひどく、発見が遅かった場合は部屋を開けると、嗅いだことのないような独特の臭いが鼻をつき、無数のハエの死骸とウジ、ハエの蛹が大量に転がっているといいます。
もちろん人間の遺体は警察によって運び出されていますが、故人が倒れていた後にはタールのようにどす黒い液体や、腐敗した皮膚のようなものが残されているといいます。
これらの体液などは、部屋にどんどん染み込んでいきます。
なかには、4階で亡くなった人の体液が、3階を通過して2階の天井まで染み出したケースもあるといいます。
ハエの駆除だけでも大変な手間がかかり、このような部屋を完全に綺麗にするには、部屋全体をリフォームするしかなくなってしまうのです。
孤独死の後始末
- 事故物件
- 心理的瑕疵
- 事故物件の後始末は誰がするの?
事故物件
専門のサイトなどから「事故物件」という言葉が知られるようになっていますね。
不動産取引や賃貸借契約の対象となる土地・建物や、アパート・マンションなどで、その物件の本体部分もしくは共用部分のいずれかにおいて、何らかの原因で前居住者が死亡した経歴のあるものをいいます。
事故物件として扱われるのは、次のようなケースが挙げられます。
- 殺人、傷害致死、火災(放火ないし失火)などの刑事事件に該当する事柄で死者の出た物件
- 事件性のない事故、自殺、災害(地震による崩壊など)、孤独死などで居住者が死亡した物件
これらは、いわゆる「心理的瑕疵」に該当します。
つまり、事件・事故の影響で精神的・心理的に、その部屋の住みにくい状況です。
心理的瑕疵
一度事故物件になると、次の入居者への告知義務が生じます。
そのため、なかなか次の入居者が見つけられず、家賃を下げたり、応募が途絶えたり、大家さんにとっては非常に困った状態になります。
告知義務には期限がなく、「事故」が起きてからどれくらいの期間告知を続けるのかはケースバイケースだそうです。
一度、だれかが借りれば、次の人には告知しない大家さんや、ずっと伝え続ける大家さんなど、いろいろな人がいるようです。
事故物件の後始末は誰がするの?
もしも、孤独死によって遺体が死後何日も経過していた場合、遺体の腐敗によって物件が汚損してしまいます。
部屋を元の状態へ回復するためには特殊な技術が必要となります。
繰り返しになりますが、高齢者に多い「汚部屋」「ごみ屋敷」問題もあります。
年齢を重ねるごとに体力・気力が衰え、自炊しなくなり、コンビニ弁当の空きパックや、ペットボトルをまとめて捨てることもできなくなり、しなくなる。
ゴミが散乱する部屋は、高齢者に多いようです。
この大量のゴミを、いったい誰が始末するのでしょうか?
孤独死の場合、保証人と連絡が取れないケースが多いようです。
また、亡くなった人が天涯孤独だった場合、部屋の現状回復から遺品処理、ゴミ処理に至るまで、結局、すべてを大家さんが背負うことになり、大家さんは大きな負担を強いられることになるのです。
「孤独死対策保険」――大家さんのための保険
1人暮らしの高齢者の増大、孤独死の増加……。
このような社会状況のため、高齢者の入居に拒否感や不安感がある大家さんは6割を超えているそうです(国土交通省調べ)。
でも、今後ますます老人大国となっていく日本。
高齢者であるという理由で部屋を借りられなかったら困りますよね。
そこで、2011年ごろから、家主が貸借人の孤独死で被るリスクをカバーする保険が登場し始めました。
これらは「孤独死保険」「孤独死対策保険」と呼ばれています。
- 大家さんが支払う保険
- 入居者が支払う保険
大家さんが支払う保険
大家さんが自分で掛け金を支払い、事故があったときに保障を受けるタイプの保険です。
2015年10月、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は、大家さんを対象にした火災保険の特約・付帯サービスとして「家主費用・利益保険」の共同販売を始めました。
孤独死が発生した際の補償内容の一例を挙げると、
- 遺品整理など・・・「事故対応費用」として最大10万円
- 敷金を超える清掃・修復など・・・「原状回復費用」として最大100万円
- 事故後に借り手がつかず空室となった場合の減収分・・・賃料の80%を最大12か月間
といった保障金が大家さんに支払われます。
東京海上日動火災保険も「孤独死対策プラン」を販売しています。
「孤独死対策プラン」は、「家主費用・利益保険」と「企業総合保険(家賃補償特約)」をセットにした商品で、このうち「家主費用・利益保険」部分で孤独死や自殺、犯罪死の発生に伴う家賃損失、費用などを補償します。
原状回復・事故対応費用は、事故発見日から180日以内に被保険者が支出した費用が対象となっており、原状回復費用と事故対応費用などを合計して1回の事故につき、100万円を限度として補償します(契約内容により限度額は変更OK)。
こちらは事故対応費用として「お祓い」や「供養」の費用まで認められている点が特徴です。
入居者が支払う保険
「孤独死保険」が発売され始めた頃は、こういった保険は大家さんが掛け、支払う保険がほとんどでした。
しかし最近では、入居者が掛け、事故があった場合に大家さんに保険金が支払われる保険が出てきています。
ジック少額短期保険が、2014年に家財保険のオプションとして販売を始めた「孤立死原状回復費用特約」は、3年ほどで契約件数が1万5000件を超えているそうです。
保険料は2年間2000円で、万一の補償は最大50万円だそうです。
こちらの保険は、高齢で身寄りのない方が賃貸物件に入居を希望する際、大家さんが保険の加入を条件にするケースが多いとのこと。
入居者からすれば、「あなたは孤独死しそうな人です」とレッテルを貼られたようなものです。
でも、大家さんからすれば切実です。加入しなければ入居はしてもらえない……それほど「孤独死」の問題は大きな問題なのです。
入居者側が支払う保険としては、少額の火災保険に「孤立死原状回復費用特約」を付加できるものもあります。
この特約を付けることで、入居者に万一の事態が起こった時、大家さんが原状回復費用を補償してもらえるわけです。
少額短期保険会社と共同で保険商品を開発したNPO法人もあります。
この保険では、入居者が加入時の年齢によって異なる金額の保険料を払います。
この保険は、本人が亡くなったあとの遺品整理や修繕だけでなく、葬儀や納骨までカバーしています。
また、身寄りがない人のため、この法人など第三者を保険金の受取人とすることができます。
このように、入居者が保険料を負担することで孤独死のリスクを軽減できれば、大家さんが高齢者の入居を敬遠する理由が減ることになります。
また、今は若くても、そのまま住み続けていれば、いつかは高齢の単身者になります。
こうした個人向けの孤独死対策保険は、大家さん向けの商品も、入居者自身が備える商品も、今後さらに増えていくでしょう。
生前整理をしましょう
社会問題となっている孤独死。
でも、孤独死は今後ますます増えていくと考えられています。
厚生労働省が発表した平成28年の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳。
これは過去最高の数字で、世界では香港に次いで2位という結果でした。
また、生涯未婚率も年々高くなり、1人暮らしの高齢者は増えることはあっても減ることはなさそうです。
こんな現代だからこそ、生前整理をしておきたいもの。
孤独死なんて誰もしたくないし、事件にだって遭いたくないに決まっています。
でも、この世の中、いつ何が起こるかわかりません。
だからこそ、生前整理をしておきたいもの。
暗く考えるのではなく、これまでの自分を振り返り、整理すると考えてみてはいかがでしょうか?
少しでも、この先の人生を明るく身軽に生きていくために。
その時に、ぜひ孤独死保険についても考えてみてくださいね。