ここ数年、テレビや雑誌などのメディアで、「ごみ屋敷」に関する報道を見たことがある人も多いでしょう。
一般的に「ごみ屋敷」といえば、家の主が物を捨てなかったり、周辺から様々なものをかき集め、かつ処分せず放置しないので、家が「ごみ」で埋め尽くされてしまっている状態を指します。
さらにこの「ごみ」が敷地からはみ出て、他の敷地に侵入していたり、異臭を放って近隣の住民に迷惑をかけてしまうなど、「ごみ屋敷」に関するトラブルは絶えません。
よくインターネット上で見られるような、「片付けられない」という心理状態も要因のひとつかもしれませんが、かといってそれを「精神疾患」と決めつけるには難しい問題でもあります。
「ごみ屋敷」が生まれる特別な理由として、次のようなものが挙げられます。
- 他の人には「ごみ」と見える物でも、持っている本人からすれば「ごみ」ではなく大切な物、あるいは残しておきたい物であり、それが溜まっている。
- 古物商を営んでいる人が商品として所有しているが、売れずに「在庫」として溜まっている。
- 本人ではなく他の人間からごみが不法投棄されている。
- 経済的困窮から、ごみを引き取ってもらうことができない。
所有者が「ごみではない」と主張した場合、私有地にある物を近隣住民や行政が一方的に排除しようとすれば、排除しようとした側が「住居侵入罪」などに問われかねません。
「ごみ屋敷」に関して近隣住民からの苦情が多い場合などは、行政からの強制撤去が行われる場合もあります。
上記の4つのケースのうち、c)とd)は必ずしも所有者に原因があるわけではなく、一部の市区町村では撤去費用の一部を自治体が負担するケースもあるようです。
一方、これほどの「ごみ屋敷」ではなくとも、ごみが溜まり片付けに困っている家・部屋も少なくはありません。そこで「ごみ屋敷」をはじめとする、大規模清掃を行ってくれる業者も増えています。
さて、この「ごみ屋敷問題」は遺品整理作業にも大きく関わってきます。
まず遺品整理の作業が必要となるのは、当然のことながら誰かが亡くなった後です。そして誰かが亡くなるという出来事は、予期できるものではありません。
そこで故人の家や部屋を整理しようとしても、そこには亡くなる前の生活がそのまま残っています。
つまりそれほど片付けられていない状態の部屋を整理していかなければならないのです。
特に故人が高齢の方であった場合、生前も体を動かしづらくなり、日常の中でも何かを片付けることは、なかなか億劫になってしまうでしょう。
すると必然的に、故人の家や部屋というのは「ごみ屋敷」ほどではないにせよ、散らかっていることが多い。
そこで遺品整理の作業は、こうした家や部屋を片付けることから始まります。
今回はこうした状態の家・部屋を片付けるポイント、特にごみの片付け法を紹介します。
項目ごとにスペースを確保しておこう
何事もまず準備が肝心ですが、遺品整理も同様です。
遺品整理作業は「遺品の仕分け」から始まります。前述のとおり、個人の所有物は、他の人からは「ごみ」に見えるようなものでも、本人にとっては大切な物であることが多いのです。
特に遺品整理では権利関係の書類や、故人の宝物など取っておかなくてはならないもの、ごみとして捨ててよいものに仕分けしなければいけません。
遺品整理における仕分けのポイントについては、こちらをご覧ください。
事前に仕分けの内容を整理できたら、次は部屋の間取りを確認しましょう。これは現場で行っても構いません。
なぜ間取りを確認するのか。それは仕分けの内容をもとに、何をどこにまとめて置くかを決めるためです。
単にごみを片付けるだけなら、目の前にあるものを一気にごみ袋に詰めていくだけでよいかもしれません。
しかし遺品整理の仕分け項目は多く、かつ作業は一般家庭でも複数の人間で行うため、何をどこに置くか決めておかないと、作業が進むにつれて現場は混乱するでしょう。
そこで「権利関係の書類や通帳、印鑑などはここに」「家具や家電製品はここに運び出す」「リサイクルに回す衣類などは、ここにまとめておく」「ごみ袋をまとめる場所は……」といった具合に、各スペースを確保していくことが重要です。
もうひとつ、忘れがちなのが「作業スペース」の確保です。
繰り返しになりますが、遺品整理はいわゆる「片付け」「掃除」「ごみ処分」とは異なり、作業中も細かい分別が必要となります。
遺品が多ければ多いほど、各項目ごとにまとめていけば、予想以上にそれらが多くのスペースをとるはずです。
片付けを始めて最初の段階では、特に作業スペースを確保していなくても、分別を行う場所はあるはずです。
しかしどんどんスペースの余裕がなくなっていけば、改めて積み上げたものをどかし、新たな作業スペースを作る必要が出てきます。
それを繰り返していては、片付け作業もなかなか進みません。必ず作業スペースも最初から十分に確保しておきましょう。
タイムスケジュールを作っておこう
ここ数年、「時短」に関する書籍が多数出版され、テレビ番組でも「時短」の特集が組まれているのを見たことがある人も多いでしょう。
時短とは「時間短縮」の略で、仕事から料理など幅広いジャンルで時間短縮がひとつのキーワードとなっています。
とはいえ、何でも作業時間を短縮できるかといえば、決してそうではありません。
仕事は会社勤務であれば労働時間が決まっていますし、料理も最低限かかる時間というものが存在します。
遺品整理も大切な故人の遺品を扱うので、もちろん誠意を持って慎重に作業を進める必要があり、何かひとつでも作業を省いて時間を短縮することなどできないでしょう。
そもそも時短とは単に時間を短縮するということではなく、時間を効率的に使おうという考え方であり、これは遺品整理にも当てはまります。
故人の家・部屋は、その人の人生そのものだと言えます。
整理していると遺族にとっても故人との思い出が詰まった品が出てくるでしょうし、思い出話をすることもあるはずです。
人が生活していた家・部屋を片付けるのですから、作業量も膨大になることは間違いありません。
対して、遺品整理の作業時間は多くの場合、限られたものです。遠い場所から家族が片付けのために集まっているケースはもちろんのこと、作業場所が自宅から近かったとしても、何日も仕事を休んで片付けに時間を費やすのも難しいでしょう。
かといって故人の家を片付けず放置したままでは、ごみ屋敷問題と同様に様々なトラブルが発生します。詳しくは「空き家問題」をご覧ください。
そこで遺品整理を行う場合は、事前にタイムスケジュールを作っておきましょう。
何を探し、何をまとめ、何を捨てるか。限られた日数の中でどのような順番で作業を行っていくか、進行表を作っておくことをお勧めします。
目標の時間・進行がわかっていれば、気持ちの面でも作業を行いやすいものです。
同時に、遺品整理はごみの処分や清掃だけにとどまりません。現場で整理したものの引き取り・買い取り、権利上の手続きなど、まだまだ続きます。
時間と労力がかかる作業だけに、その後のことも考慮に入れながらタイムスケジュールを作りたいところです。
片付けのために準備しておくもの
事前準備が終われば、次は現場での作業に入りますが、その前に片付けに必要な道具を用意しておきましょう。
- 軍手、マスク……片付けの必需品です。衣服も汚れてもよいものを選んでください。
- ごみ袋……各市区町村指定のごみ袋(収集袋)は5リットルの小さなものから70リットルの大きなものまでありますが、行政機関によっては45リットルのごみ袋しか回収してくれないところもあります。基本的には45リットルのものを用意しておけば問題はないでしょう。その際は破れにくいものを選んでください。ごみ袋が破れ、ごみ回収業者が引き取りに来るまで放置していると、近隣とのトラブルに発展しかねません。
- 段ボール箱……これは、ごみではなく取っておくものを入れるために用意しておく必要があります。大きすぎると、後で運び出す時に重くて大変なので、80サイズから100サイズのものがお勧めです。
- ペン、マジックとノート……どこに何を置いたか、どの段ボール箱に何が入っているかを記しておくためのものです。
- ごみ分別表……地域によって可燃物、不燃物、粗大ごみの種類や対応が異なります。故人の家がある市区町村の役場に行き、ごみ分別表をもらっておきましょう。
整理は「取っておくもの」から「捨てるもの」へ
遺品整理の現場では、まず仕分け作業から入ります。
事前に決めておいたとおり、「取っておくもの」と「捨てるもの」に仕分けしていきますが、順番としては「取っておくもの」から整理すると便利です。
細かく項目ごとに段ボール箱に分けて詰め込み、確保したスペースに置いておきます。家具・家電は大きく運びにくいものではありますが、一ヶ所にまとめます。
衣類は故人が直接身に付けていたものなので、なかなか捨てづらいかもしれませんが、かといって引き取っても世代が違えば着づらいものが多いのも衣類の特徴です。食器も同様です。
「形見」のようなものや、自身も着られるようなものを何枚か仕分けし、それ以外は捨てることも片付けのコツと言えます。
そのあと、「捨てるもの」は、用意しておいた分別表に従って一気に片付けていくーーごみ袋にどんどん入れていくのです。
「取っておくもの」と「捨てるもの」の片付けを同時に行うと、「これはどうかな? 取っておくべきか、捨てるべきか?」と考える時間が多くなったり、一度どちらかに決めたものについてもまた迷う……ということが繰り返されます。
そこで事前に仕分け項目をしっかりと決め、「取っておくもの」から「捨てるもの」へというタイムスケジュールを組み、現場で実行することが大切なのです。
片付けの後は業者の引き取りと清掃
遺品整理作業で出てくるごみの量は多いので、自宅や近隣のごみ置き場では収まらないかもしれません。
その場合は行政や業者へごみを回収してもらうことになります。
回収の手続きが終われば、あとは掃除をして現場の作業は終了です。
片付けの直後に清掃も行う場合は、ぞうきん、ホウキ、掃除機なども準備しておかなくてはいけません。
しかし家や部屋に異臭が染み付いていたりすると、個人では対応しきれないため、清掃業者に依頼する必要があります。
もちろん清掃だけでなく、片付けも業者にお願いしたほうが便利な時もあります。
冒頭でご説明したような、ごみ処分、清掃、不用品回収まで行ってくれる業者は全国にあり、現在はそうした業者の多くが「遺品整理士」の資格を取得しているので、すべて対応してくれるはずです。
遺品整理とは片付け、ごみ処分とは異なります。それは、故人の想いが詰まった品々を整理する作業だからこそ、作業量は膨大になものになるのです。
だからこそ事前にしっかりと準備し、計画を立て、故人を偲びながら作業を行ってください。