現在、日本では「少子高齢化」と「核家族化」が進んでいます。
そのため、高齢者が亡くなっても、その遺品を整理する子や親族がいない、もしくは近くに住んでいない……なんてケースも増えています。
遺品の量が多かったり、あるいは大型の家具・家電を処分しなければいけない状況でも、少人数ではなかなか対応できないもの。
また、故人が賃貸物件に住んでいた場合は、早々に部屋を引き渡さなければいけないため、遺品整理も早く行わなければいけなくなってしまいます。
そこで遺品整理を業者にお願いする方が増え、それに伴って遺品整理業者も増加しているのですが、新しい業界だけにトラブルも絶えません。
今回は、遺品整理に関して多いトラブルとその対処法を、業者と依頼主、双方の視点から見ていきたいと思います。
目次
料金に関するトラブル~相見積もりをとった場合
遺品整理業にまつわるトラブルで最も多いのは、お金・料金に関するものです。
まず遺品整理費用の相場については、こちらの記事をご覧ください。
費用に関するトラブルとしては、「見積もりの金額と作業後に請求された金額がまったく違う」というケースが最も多いでしょう。
いわゆる悪徳業者ですね。なかには、「不要な遺品を全てトラックに積み込んだうえで見積もり以上の金額を請求し、料金を支払わない場合はトラックからの積み下ろしを遺族自身に行わせる」なんて被害もあるようです。
このような被害を防ぐためには、業者選びがとても重要です。特に、複数の業者から見積もりをとり(相見積もり)、各社の見積金額を比較してみるとよいでしょう。
相見積もりによって業者ごとの金額または相場を知ることができます。また、いくつかの業者の見積金額を比較し、あまりに高かったり、あるいは安かったりしたら要注意です。
ところが、この相見積もりもトラブルの原因となる可能性があることをご存じですか?
相見積もりトラブルを回避するためのポイント
悪徳業者による被害を受けないためにも、複数の業者から相見積もりをとることが重要です。
しかし、最終的にお願いするのは1社。複数の業者のうち、1社以外にはお断りを入れなければいけません。
そこでお断りを入れる方法や手順によっては、トラブルに発展することもあるのです。
相見積もりに関するトラブルを回避するポイントは、次の2つです。
- 業者に「相見積もりをとっていること」を伝えておく
- 見積もりに対する返答の期限を伝えておく
業者に「相見積もりをとっていること」を伝えておく
相見積もりをとる際には、見積もりを依頼する業者に相見積もりをとっていることを伝えておきましょう。
稀なケースではありますが、相見積もりをとっていることを伝えていないと、「自社のみで見積もりをとっている」と考えてしまう業者がいないわけではありません。
もちろん見積もりは見積もり、まだ交渉の段階ですので、依頼主側にも提示された見積もりに対してお断りを入れたり、再交渉する権利はあります。
依頼主と業者、お互いに「相見積もりをとっていることを伝える」「お断りが入っても、その後しつこく営業しない」といったマナーを持っていたいものです。
見積もりに対する返答の期限を伝えておく
相見積もりをとっていることを事前に伝えたうえで、もう1点抑えておきたいポイントがあります。
それは「依頼するのか、それとも断るのか」の返答をする期限を伝えておくことです。
これは相見積もりではなく、1社だけに見積もり依頼をしている場合でも守っておきたいことです。
見積もりを出したにもかかわらず、なかなか返事が来ないとなると業者としても不安になります。また作業スケジュールの都合もあるため、長い期間が開いた後で依頼を受けても、対応できない場合もあります。
それは依頼主にとっても業者にとっても、デメリットでしかありません。
見積もりの際には必ず返答の期限を決めて(業者から期限を提示される場合もあります)、その期限までに返答するようにしましょう。
期限を決めていないと、業者から何度も連絡が来て、特には“しつこい営業”まで発展することもありますので、ご注意ください。
処分に関するトラブル~投棄と買取
遺品整理におけるトラブルは、料金にまつわるものばかりではありません。
処分についても次のようなトラブルが報告されています。
- 高価な遺品を業者が持ち出してしまう
- 相場よりはるかに安い金額で遺品を買い取る
- 回収したごみを不法投棄する
高価な遺品を業者が持ち出してしまう
遺品は量が多くなればなるほど、遺族も何がどこにあるかを把握しておくことはできません。
そんな遺品のなかに、高価なアクセサリーやブランド品が入っている場合があります。それを遺族の許可なく勝手に持ち出し、売却してしまう悪徳業者がいるのです。
相場よりはるかに安い金額で遺品を買い取る
「モノの価値」とは、人によって異なります。遺品でも、故人のコレクションの価値を遺族が理解できないというケースは多いものです。
そこで悪徳業者は、遺族が価値を理解していないのをいいことに、相場よりもはるかに安い金額で買いたたくという報告もあります。
回収したごみを不法投棄する
回収したごみを、ごみ処理場(清掃センター)に持ち込むには費用が掛かります。多くの業者は、その費用を含めた金額を依頼主に提示します。
ところが、業者がそのごみ処理場へその費用を払いたくないがために、依頼主からは料金を受け取っておきながら、どこかに不法投棄する犯罪が後を絶ちません。
上記は全て不法行為です。なかには業者が刑事罰に問われるケースもあるほどですが、少なからず依頼主にも被害は発生するでしょう。
まずはしっかりとした業者を選ぶこと、そして作業後にトラブルが発生したときは、一つひとつ丁寧に対応することが求められます。
他にも遺品整理にまつわるトラブルは数多くありますので、こちらの記事をご覧ください。
『遺産整理のトラブル-1 空き家問題』
『遺品整理のトラブル-2 相続問題』
もしトラブルに遭ってしまったら・・・
悪徳業者による被害は、たびたびニュースでも取り上げられています。
ではもし、実際に自分自身がトラブルに巻き込まれた場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
- マナーを守りつつ毅然と対応する
- 遺品整理不正防止情報センターに相談する
マナーを守りつつ毅然と対応する
「相見積もり」の項でもご説明しましたが、トラブルの要因は業者側ばかりにあるとは限りません。
ただし、依頼主側としてもルールやマナーを守っていれば、業者が法外な金額を提示してきたり、非常識なクレームをつけてきても、毅然と対応してください。
業者の言い分に従う必要はありません。
たとえば、相見積もりで無料見積もりをお願いしたあと、他の業者のほうが安かったためにお断りを入れると、キャンセル料金を要求する業者がいるようです。
しかし見積もりはあくまで見積もり、まだ契約までの交渉段階です。キャンセル料は多くの場合、成約後にキャンセルした場合に支払うもの。
見積もりをとる際に相手から特に条件などを提示されていなければ、キャンセル料を支払う必要はないでしょう。
また、自身に落ち度がない、あるいは違法性がなければ、被害者として正当な主張をしてください。
一度支払ってしまったお金は、なかなか簡単に戻ってきません。不当な費用を請求された場合は、いきなり支払うことなく対応しましょう。
遺品整理不正防止情報センターに相談する
遺品整理業者によるトラブルが増加するなかで、一般社団法人 遺品整理士認定協会が「遺品整理不正防止情報センター」を設立しました。
「遺品整理不正防止情報センター」では遺品整理業者によるトラブルに巻き込まれた被害者の相談に乗ったり、トラブルに巻き込まれないための情報提供をしたりしています。
逆にいえば、「遺品整理不正防止情報センター」が設立され、被害者を減らそうという動きが出るほど、遺品整理業者に関するトラブルは増えているということです。
遺品整理士認定協会の公式サイトには、次の「遺品整理士養成理念」が掲載されています。
「『遺品整理』とはご遺族の間で兼ねてより行われていましたが、業務を事業として代行するにあたっては、より法規制に遵守した形で行っていくことが重要です。遺品整理の取り扱い手順や遺品整理に関わる法規制等の知識を、正しく身に付けられます」
また、遺品整理不正防止情報センターには、より詳しい定義が掲載されています。
「遺品整理をご遺族に代わり行う、専門的な知識と故人への畏敬・感謝の気持ち、ご遺族への配慮の気持ちを持ち合わせた、遺品整理の専門家のことです。 業務を事業として代行するにあたっては、より法規制に遵守した形で行っていくことが重要です。遺品整理の取り扱い手順や遺品整理に関わる法規制等の知識を、正しく身に付けられます。また、認識の違いから”遺品整理”を”遺品の処理”と捉える傾向にありますが、生前使用され、故人の想いのこもった品々を”供養”という観点から、取り扱い方法について学ぶことができます。すでに遺品整理業に関わられておられる方々におかれましても、資格取得をきっかけとして、法規制に基づいた法令遵守への認識を高めて頂くとともに、実務だけではなく、”命の尊さ”について、もう一度考える機会になることを、心より願う次第です」
もし悪徳業者とのトラブルが納まらない、あるいは被害が拡大しそうなときは、警察や弁護士、あるいはこの遺品整理不正防止情報センターに相談してみてください。
トラブルになる前に防ぐ手立てを知っておく
ここまで遺品整理におけるトラブル事例や対処法をご紹介してきましたが、最後に一番大切なことをご紹介しておきます。
それは、トラブルに巻き込まれる前に、トラブルを防ぐ手立てを知っておくことです。
トラブルは一度起こってしまうと、対応には時間が掛かってしまいます。
いくら警察や弁護士、遺品整理不正防止情報センターといった相談する先があるとはいえ、できれば事前にトラブルの原因は回避しておきたいところです。
トラブル回避のためには、特に
- 複数の業者から見積もりをとる
- 遺品整理士、廃棄物処理、古物商などの資格を確認する
といった準備も必要ですが、その準備をするための知識を身につけておくことも大切です。
- 遺品整理の作業内容はどのようなものか
- 遺品整理の費用相場はいくらぐらいなのか
- 遺品整理に関わる資格にはどんなものがあるのか
こうした知識を身につけておくと、必然的にトラブルの対処法もわかったり、調べたりするきっかけにもなります。
遺品整理業とは、遺族に寄り添いながら、故人の供養をお手伝いすることです。誰よりも亡くなった大切な人のために、悪徳業者の被害に遭わないようにしておきたいところですね。