12月は、一年のうちで最も税金に関する関心が高まるときではないでしょうか?
それは「年末調整」の時期だから。
特に、その年に相続があった人は、税金に対して敏感になることでしょう。
でも、確定申告、年末調整、所得税、相続税……税金の制度は煩雑なので、わかりにくいところが多いですね。
身内が亡くなって相続が発生すると、まとまった預貯金や不動産を手にすることになります。
相続で収入が増えますが、年末調整の話が出るこの時期になると
「相続があったから、今年は扶養から外れてしまうの?」
「相続をしたので個人確定申告をすると、勤務先での年末調整は必要ないのかな?」
と不安になる人も少なくありません。
そこで、相続があった人が知っておくべきポイントをみていきましょう。
目次
相続税とは?
相続税とは、その名の通り、相続した財産に応じて課せられる税金です。
被相続人(亡くなった人)の遺産を相続で受け継いだ場合や、遺言によって遺産を受け継いだ場合に、その遺産総額となる金額が大きい(基礎控除額を超える)とかかる税金で、金額に応じた相続税率が適用されます。
もし、受け継いだ遺産が基礎控除額を超えないならば、相続税の申告は必要なく、納税の必要もありません。
では、相続税の計算方法を知っておきましょう。
- 遺産額の算出
- 基礎控除額
- 相続税の額
1. 遺産額の算出
まずは、正味の遺産額を算出します。
土地・建物や預金などの財産(プラスの遺産)から、借入金や未払金などの債務(マイナスの遺産)を引いたものが正味の遺産額です。
生命保険金や死亡退職金については、それぞれ非課税限度額を超えた分が加算されます。
たとえば・・・
預貯金・現金 | 1500万円 |
---|---|
土地 | 2000万円 |
建物 | 1500万円 |
生命保険金 | 3000万円 ※ |
葬儀費用 | -300万円 |
借り入れ金 | -700万円 |
正味の遺産額 | 7000万円 |
※ 生命保険金や、死亡退職金の控除は、以下のように計算します。
500万円×相続人の人数=控除(非課税枠)
この非課税枠は、生命保険と死亡退職金の合算ではなく、それぞれに適用されます。
2. 基礎控除額
基礎控除額の計算は、
3000万円+600万円×法定相続人の人数
です。
①の例を使って計算すると、
a. 相続人が配偶者一人の場合
3,000万円+600万円×1=3,600万円
3600万円が控除されるので、税金がかかる遺産額は3400万円です。
b. 配偶者と子供2人が相続する場合
3,000万円+600万円×3=4,800万円
4800万円が控除されるので、税金がかかる遺産額は2200万円です。
相続人の数が増えれば、相続税の基礎控除額も大きくなります。この計算がマイナスになった場合(今回の例では7000万円以下)は、相続税はかからず、申告する必要はありません。
3. 相続税の額
妻と子供2人が相続する場合で計算してみましょう。
法律では、妻が2分の1、子供が残りの2分の1を平等に分けることが決まっていますので、妻の取り分は1100万円、子供がそれぞれ550万円ずつ受け取ることになります。
課税税率は、以下のように決まっています。
課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | なし |
1000万円超~3000万円 | 15% | 50万円 |
3000万円超~5000万円 | 20% | 200万円 |
5000万円超~1億円 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円 | 40% | 1700万円 |
2億円超~3億円 | 45% | 2700万円 |
3億円超~6億円 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
これに照らし合わせて計算すると、
妻:2200万円×15%-50万円=280万円
子供:550万円×10%=55万円
この一家が収めなくてはならない相続税総額は、390万円となります。
年末調整とは?
- 年末調整の意味
- 年末調整と相続税の関係は?
年末調整の意味
年末調整とは、その年の1月から12月までの1年間に支払われた給与や源泉所得税の過不足を、12月に調整することです。
日本では、会社など雇用主が従業員に給与を支払う際に、その従業員が国に支払うべき所得税を天引きしていったん預かり、従業員に代わって国に納める仕組みになっています。
毎月もらう給与は、所得税が引かれた状態(源泉徴収)で受け取りますよね。
アルバイトであっても、月の給与が8万8000円を超えると所得税が引かれます。
この所得税の金額は、あくまでも概算の金額です。なぜなら、正確な所得税額は、1年間の総収入や、差し引くべきものが確定する年末にならないと計算できないからです。
そのため、年末に、その年に徴収した税額を計算し直します。そして、所得税を払いすぎていた人にはお金が戻り(還付といいます)、足りなかった人には不足分が徴収されるのです。
生命保険や損害保険などに入っている場合は、こちらも年末に保険会社から送られてくる払い込み証書を提出すれば、保険料が控除されます。
これを計算するために記入するのが、毎年書く書類なのです。
ダブルワークなど仕事先が複数ある人は、自分できちんと申告しましょう。収入をごまかすとペナルティが課せられますし、控除できるものがあるのに申告しないのはもったいないですよね。
年末調整と相続税の関係は?
年末調整は、あくまでもその年の給与所得等にかかる所得税を対象にした手続きで、会社など勤務先が行ってくれるものです。
しかし、相続税は勤務先とは無関係です。相続によって財産を得た人(相続税の納税義務者)が自ら行わなければなりません。当然、申告も別々に行います。
例外として、年末調整と相続を同時期に行うケースがあります。
それは、年末調整の対象となる人が亡くなってしまった場合です。
会社員の人が在職中に亡くなってしまったら、その年の1月1日から死亡したときまでの給与について年末調整が必要です。
この手続きは相続税とは関係はなく、勤務先で行ってもらえます。
年末調整と相続を同時期に行うケースとは、遺族が、故人に支給されるはずだった退職金や慰労金などを受け取った場合です。
このお金に関しては、退職所得としての所得税は課税されず、相続税の対象となります。
ただし、退職金のうち「500万円×法定相続人の数」という金額は、相続税の非課税枠となっています。
遺族は相続税の確定申告をしなければならないため、故人の勤務先から、
- 退職金の源泉徴収票
- その他支給された金額の明細書
など発行してもらう必要があります。
故人の勤務先の人事部や総務部など、担当部署の人と連絡をとり、必要な書類を揃えましょう。
確定申告とは?
1月1日から12月31日までの1年間に得た全ての収入を計算し、税務署に申告・納税する手続きを「確定申告」といいます。
- 確定申告が必要な人は?
- 確定申告が必要ない人は?
確定申告が必要な人は?
確定申告をしなくてはならないのは、以下のような人です。
- 個人事業を営んでいる人
- 給与の年間収入額が2000万円を超える人
- 副収入の所得合計額が20万円を超える人
- 2つ以上の会社から給与を受けている人
- 災害減免法により、源泉徴収の猶予などを受けている人
- 住宅や土地、ゴルフ会員権などを売却して利益が出た人
- 保険金などの満期金がある人
- 源泉徴収されていない外国企業から受け取った退職金がある人
確定申告が必要ない人は?
- 会社員。年末調整で精算が済んでおり、確定申告で控除などの必要がない人
- 専業主婦など、所得のない人
- 所得が少ない人。アルバイトなどで、給与収入金額が103万円以下の人
- 所得控除の合計額が、所得額を超える人
- 年金収入額が年間400万円以下で、なおかつ年金以外の所得金額が20万円以下の人
相続税にまつわるQ&A
Q1:前年まで、年収103万円内におさえて働いていた主婦や、または無収入だった人は、相続による収入があると扶養を外れてしまいますか?
A:いいえ。給与所得と相続による所得は別ものです。扶養家族として税金の控除を受けられるといった条件は、所得税にまつわるものなので、相続税とは関係ありません。
ただし、相続税の申告は行わねばなりません。相続によって財産を得た本人が申告を行いましょう。
Q2:会社員です。親の遺産を相続したため、今年の所得が増えました。税金が上がってしまいますか?
A:いいえ。こちらに関しても、給与所得と相続による所得は別ものです。会社の給与に関しては、勤務先で年末調整を行ってもらえます。
遺産相続は勤務先とは関係のないことですので、自分で相続税の申告を行う必要があります。
Q3:夫が急逝しました。納税の申告は、どのようにすればよいでしょうか?
A:納税者が死亡してしまっても、その年の1月1日から死亡した日までの収入について、納税の申告が必要です。これを「準確定申告」といい、相続人が手続きを行います。
もし、相続人が2人以上いる場合には、相続人全員がサインをした「準確定申告書」を提出しなければなりません。
全員が揃わない場合は、他の相続人の名前を付記した書類を各相続人がそれぞれ提出しても大丈夫です。
ただし、この場合には、準確定申告書を提出した相続人は、他の相続人に対して申告した内容を通知しなくてはなりません。
まとめ
相続税の申告は、相続を知った時(故人の死亡)から10カ月以内に行わなくてはなりません。
大切な身内を亡くしたばかりで、そんな気持ちになれない人も多いでしょう。
また、相続の手続きは煩雑なので、個人で行うのはかなり大変です。
スムーズな相続を行うためには、税理士や弁護士など、専門家に相談・依頼するほうがよいでしょう。