身内の方が亡くなられたら、遺産相続の手続きをすることになりますね。
そのまま順調にいけばよいのですが、場合によっては、相続をするのか、それとも相続放棄をするのか考えなくてはならないケースがあります。
相続時に、借金などマイナスの財産の方が多いとわかっている場合は、相続放棄を選択することによって負債を免れることができます。しかし、相続時には気づかなかった負債が、あとになって出てくると、非常に面倒なことになります。
こういった事態は、特に、故人が遠方に住んでいたり、家族と疎遠だったりした場合に多く見られます。遺品整理をして初めて負債を知ったとか、遺品整理が終わったあとに、たまたま知人などに借金の存在を聞いた、亡くなって数カ月たって金融機関から督促状が届いたなどということが、よく起こっているのです。
そんなとき、あらためて相続放棄はできるのでしょうか? それとも、負債を背負わなくてはならないのでしょうか。今回は、遺品整理と相続、負債の問題についてみてみましょう。
目次
その遺産、引き継ぎますか?
故人の遺産には、預貯金や不動産、貴金属、自動車など「プラスの遺産」だけでなく、借金やローンなど「マイナスの遺産」もあります。
法定相続人であっても、遺産を相続するかしないかは自由です。個人の遺産に負債がある場合、以下の2通りの方法があります。
相続放棄
相続したくない場合は、権利を放棄できます。相続財産に多額の債務がある場合や、相続人のうち誰かに全てをあげたい場合、トラブルを避けたい場合などに、相続の権利そのものを放棄できます。プラスの遺産、マイナスの遺産のどちらも引き継ぎません。
限定承認
プラスの遺産からマイナスの遺産を返済し、残った分を相続することを「限定承認」といいます。弁済はプラスの遺産の範囲内で行いますので、相続人の財産を持ち出してまで返済することはありません。
相続放棄も限定承認も、相続開始の3カ月以内に家庭裁判所に申し立てなくてはなりません。
ちょっと待った、その遺品整理
身内が亡くなられたあと、遺品整理をしなくてはなりませんね。
でも、もしあなたが相続放棄をしようと考えているのであれば、ちょっと待ってください。故人のものを片付けてしまうと、相続放棄ができなくなるケースがあるからです。
民法の第921条1号では「相続財産の全部または一部を処分したときは、相続放棄が認められない」と定められています。つまり、故人の持ち物を処分すると、相続の意志があると見なされてしまうのです。
この場合の「処分」とは、故人の持ち物を片付けたり売ったりすることをいいます。ですから、もし相続放棄を考えているのであれば、急いで遺品整理をしない方がいいわけです。
そして、民法では「常識的な範囲で」形見分けをするのは構わないとも定められていますが、この「常識の範囲」というのが思いの外難しいのです。
たとえば故人が愛読していた本や愛用していたアクセサリーなど、古いからといって価値がないとは限りません。古書店やリサイクルショップで高額がつくような“レア物”であれば、「常識の範囲」を越え、資産価値が発生します。
そのときに、遺族がすでに遺品整理をしてしまっていると、裁判所に相続の意志があると見なされ、相続放棄ができなくなる可能性があるのです。
相続放棄を予定している人が遺品整理をするには?
相続放棄を予定しているからといって、故人の遺したものを1つたりとも動かさず、そのままにしておくわけにはいきません。特に故人の住居が賃貸の場合は、できる限りすみやかに退去しなくてはなりませんよね。季節によっては臭いや害虫発生などで近隣に迷惑をかけてしまうこともあります。
そんなとき、遺品整理をするにはどうすればよいのでしょうか。
法律家に相談する
相続放棄に強い司法書士や弁護士を探しましょう。民法でいう「常識の範囲」がどこまでカバーするのか相談します。
明らかなゴミだけ処分する
故人が持ち家に住んでいた場合は、「明らかにゴミと認められるもの」だけを処分します。特に、残った食品や生ゴミは早めに処分しましょう。
賃貸住宅に住んでいた場合、相続人が「相続放棄をするので故人の荷物は処分できない」と言えば、大家さんや管理会社が自腹を切ってきれいにするしかありません。しかし、大変な迷惑をかけることになります。大家さんや管理会社と話し合って、できるだけのことをしましょう。
相続完了のあとに……
相続するにせよ、相続を放棄するにせよ、手続きがスムーズに完了すればひと安心ですね。
ところが、相続が完了したあとに故人の借金や負債が発覚するケースがあります。
「負債があるとわかっていたら、相続しなかったのに……」と悔やむ人もいます。しかし、相続が完了していたら、もう絶対に相続放棄はできないのでしょうか。
相続放棄をしたい場合
相続放棄の申立期間は3カ月と定められていますが、昭和59年、最高裁は「故人の死亡を知ってから3カ月以上たっていても、後から負債がわかった場合、その負債に気づいてから3カ月以内なら相続放棄が認められる場合がある」という判例を出しています。つまり、それ相応の理由があれば、申立期間の起算点を後ろにずらすことができるわけです。
たとえば、故人が疎遠になっていた遠い親戚で、仕方なく遺品整理をやっているとか、長く別居していた配偶者など、「これでは借金の存在を知らなくても仕方がない」と思えるような状況であれば、相続開始後3カ月を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。
相続が済んだあと借金があることに気づいても、多額の負債に苦しむことがないように、諦めずに相続放棄の手続きを取りましょう。
ただし、相続放棄の申述は、いちど却下されてしまったら再度やり直すことはできません。相続放棄に強い司法書士や弁護士に相談した方がよいでしょう。
督促状を見つけたら?
遺品整理の際に、消費者金融や債権の回収会社などからの督促状が見つかることがあります。また、相続が完了して数カ月してから、金融会社などから督促状が届くことがあります。こんなとき、どうすればよいのでしょうか。
家族が借りたものだから、返済に応じますか? でも、借金の督促状が大量に届いているような場合は、マイナスの遺産の方が多くなってしまうかもしれません。こんなとき、金融会社に対してどのように対応すればよいのでしょうか。
借金の時効
遺品整理などの際、督促状などを目にすると「まさか借金なんて……」とビックリしてしまいますが、督促状をよく見てみましょう。もしかしたら、すでに時効となっているものがあるかもしれません。
督促状やお知らせには、「支払期日」の記載があります。この日付から5年以上経過していると、その借金は時効になっている可能性があります。
とはいえ、借金が勝手に消えてくれるわけではありません。借り主側が時効の効果で借金の消滅を主張するには、「時効の援用」を行わなくてはなりません。つまり「私の借金は時効になっているので、お金はお返しいたしません」と貸主に伝えなければならないわけです。
この意思を伝える文書が時効援用通知です。時効援用通知には、債務を特定できる情報(顧客番号や契約番号、契約の年月日など)を明記し、その債務に関して消滅時効の援用をするという内容を記載します。 こうして作成した「時効援用通知書」を、配達証明付きの内容証明郵便で先方に郵送します。
普通郵便だと、配達証明付きにすれば書類が到達したことは証明できますが、届いた文書の内容が証明できないため、証拠になりません。しかし、配達証明付き内容証明郵便であれば、文書の到着と、到着した文書の内容が時効援用通知であることの両方を証明できるため、裁判上の証拠となるからです。
対応は冷静に
対応を考えるときに最も大切なのは、「冷静になること」。
督促状に驚いて、すぐ債権回収会社などに連絡をするのはNGです。
相続人は、相続放棄の手続きによって故人の債務の弁済を免れることができますし、借金の弁済期日によっては既に時効にかかっている可能性も考えられます。
にも関わらず、慌てて債権回収会社などに電話をしてしまうと、先方に電話番号や住所を知られたり、借金を支払う意思があると取れる発言を知らず知らずのうちにしてしまい、先方に言質を取られたりする可能性があります。
また、時効の援用が完了するまで、1円でも支払ってはいけません。
たとえば、時効期間経過後に金融会社から連絡があり、千円でもいいので支払ってくれと言われたとします。千円くらいならいいかと思いがちですが、それを支払った時点で時効援用権を失ってしまうのです。たった千円のために、そこから5年間、時効の援用ができなくなる可能性があるのです。
ですから、督促状を見つけたら、まずは落ち着きましょう。そして、本来、手続きをすれば支払う必要のなかった故人の借金でもめるという事態にならないよう、司法書士などの専門家に相談してから対応を決めるようにしましょう。
故人が連帯保証人になっていたら?
相続時に気づきにくいものの1つに、故人が連帯保証人になっているケースがあります。相続すると、故人が負っていた連帯保証人としての責任も負わなければいけないのでしょうか。
- 金融機関からの借り入れ
- 不動産の賃貸契約
- 身元保証
金融機関からの借り入れ
故人が知り合いに頼まれて借金の連帯保証人になっていたような場合は、相続放棄をしない限り、故人が負っていた連帯保証人として責任を負うことになります。つまり、知人がお金を返せなかったら、相続人が返済しなくてはなりません。
不動産の賃貸借契約
部屋を借りる際の連帯保証人になっていた場合も、連帯保証人としての地位は相続されます。借り主が家賃を滞納したような場合、相続人に滞納分の支払い請求が来ることがあります。
身元保証
身元保証とは、会社に入社する際などに求められるものです。もしも被保証人が会社に損害を与えた場合、身元保証人がその損害を賠償しますという約束です。最近では、アルバイトでも保証人のサインを求められるようになってきていますね。
身元保証は、被保証人と保証人の間の信頼関係に基づいて成立するものです。相続人と被保証人の間には信頼関係はないため、身元保証人としての地位は相続されません。
相続後の借金で迷惑をかけないために
前項まででは、相続人側からの相続放棄対策についてお話しました。では、被相続人、つまり遺産を遺す側からできることは何でしょうか。 それは、なんと言っても「終活」「生前整理」に尽きます。
特に、財産について遺言書を作っておきましょう。まだそこまでは……という人は、エンディングノートを書いて、自分の財産を整理しておいてください。
預貯金、株式、国債、住居や不動産、保険、年金、クレジットカード情報、骨董品など資産価値のあるものを整理します。
特に、インターネットの銀行口座やFXは遺族にはわかりにくいので、必ず書いておきましょう。死後に株が暴落して、遺族に莫大な負債を背負わせるようなことになりかねません。
そしてもちろん、ローンや借入金についても包み隠さず書いておきます。特定の誰かに何かをあげたいと思う人は、形見分けについても書いておきましょう。
もしもマイナスの遺産の方が多かったとしても、正確な情報さえあれば、遺族はスムーズに相続放棄を選択できます。
相続完了後に発覚する負債ほど、遺族、相続人が困ることはありません。スムーズな相続のため、生前整理をお勧めします。
遺産相続で迷ったら
遺品整理の現場では、督促状が散乱したお部屋に遭遇したり、途中で借金などが見つかってお困りのご遺族に出会ったりするのは珍しくありません。
遺品整理では、故人が残した土地や現金、有価証券など、資産価値があるものは扱いませんが、形見分けなどの際に資産価値があるかどうか判断のつかないものがあれば、ぜひ私ども遺品整理業者にご相談ください。膨大な現場を見て来た目で鑑定いたします。
また、相続についての困り事も、ぜひ私どもにご相談ください。遺品整理をどこまで行うか、相続放棄が完了するまで中断するのかなどの判断から、専門家のご紹介まで、お悩みを解決いたします。