死後離婚のデメリットとは?

死後離婚のデメリットとは?

最近、「死後離婚」という言葉がメディアなどでよく話題になっているようです。
実は、「死後離婚」とはマスコミが作った造語なのです。
なぜなら、実際には、配偶者の死後に離婚はできないからです。
いわゆる法律的な「離婚」は、 配偶者が生きているうちにしかできません。
民法728条で、配偶者のどちらか一方が死亡すると婚姻関係は終了すると定められているので、「死亡届」を提出した後に「離婚届」を出すことはできないからです。
では、この「死後離婚」とは何なのでしょうか。
今回は、「死後離婚」について見ていきましょう。

死後離婚のデメリット

配偶者が亡くなると・・・

死後の婚姻関係

死後に離婚はできない?

繰り返しになりますが、夫婦はどちらか一方が亡くなったら婚姻関係は終了すると民法によって定められています。
そのため、死亡届を出した時点で離婚届は出せなくなるので、正確には死後に離婚はできません。
では、最近よく取り沙汰されている「死後離婚」とは何なのでしょうか。

よく言われる「死後離婚」は、配偶者が亡くなったあと、残された方の配偶者が「姻族関係終了届」を役所に提出することを指しています。
この届けは、亡くなった配偶者の家族(姻族)との関係を終了させる、戸籍上の手続きのことです。

「姻族」とは?

「姻族」とは、婚姻によって発生する親族のことです。
一方の配偶者と他方の配偶者との血族との関係を姻族といいます。
民法725条により、3親等内の姻族も親族となると定められています。
つまり、結婚すると、配偶者の父母や兄弟姉妹、配偶者の曽祖父母や配偶者の父母の兄弟、配偶者の兄弟の子などが「姻族」になるというわけです。

残された配偶者と姻族との関係は?

民法877条1項では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。
この場合、姻族は関係ありませんが、次の2項において、「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」と定めているのです。
ということは、「特別の事情」がある場合に家庭裁判所がそう審判すれば、姻族にも扶養義務が課せられるケースが出てくる可能性があるのです。
とはいえ、1項が原則なので、直系血族や兄弟姉妹などが扶養義務できない場合に、はじめて扶養義務が課せられる可能性があると考えられます。

配偶者が生きているうちの離婚なら、その時点で姻族との親戚関係は切れます。
しかし、配偶者が亡くなった場合は、配偶者との婚姻関係は自動的に終わるのにも関わらず、姻族との関係はそのまま継続します。
そのため、配偶者はもういないのに、義理の両親や家族を扶養する義務が課せられる可能性が出てくるというわけです。

「姻族関係の終了」とは?

婚姻関係の終了とは

姻族関係を終了したい理由とは?

配偶者の姻族との関係を解消したいと思う人には、いくつかのパターンがあるようです。
1つは、生前から配偶者と不仲だった場合です。
配偶者と同じお墓に入りたくない、配偶者の親族との縁も切りたいという人です。
また、配偶者には不満はないけれど、配偶者の親族の介護を負担する余裕がない、義父母との関係が悪く、介護や扶養をしたくない、という場合。
そのほか、実の親と一緒のお墓に入りたいという人や、配偶者との結婚生活に区切りをつけて、新しい人生に踏み出したいなど、理由はさまざまです。

姻族関係の終了方法は?

姻族関係を終了する手続きは簡単で、役所に「姻族関係終了届」を出すだけです。
本人が出しに行っても、代理人が行っても構わず、郵送での提出も可能です。

提出先は、届出人の本籍地、住所地、所在地(居所や一時滞在地)のいずれかの市区町村の役所です。
提出時には、運転免許証など本人確認書類と印鑑が必要なので、忘れないようにしましょう。
本籍地以外の役所に出す場合は、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)が必要です。

届出用紙は役所で入手できますが、インターネットからダウンロードすることもできます。

姻族関係を終了したいときは、自分ひとりの気持ちや判断で手続きを完了することができます。
配偶者の親族に知らせる必要もありません。

姻族関係を終了すると、どうなるの?

姻族関係を終了すると、どのようなことが変わり、また、変わらないのでしょうか。

お金について

配偶者の生前に離婚した場合、「籍」が抜けるため、配偶者と他人になります。そのため、離婚してしまうと遺産も相続できず、遺族年金を受け取ることもできなくなります。

しかし、姻族関係の終了は、自分と亡くなった配偶者との関係には影響がありません。
そのため、亡くなった配偶者の財産はそのまま相続することができます。
遺族年金なども、そのまま受給できます。

また、子どもが夫婦の子であることに変わりないため、代襲相続(父母や兄弟の遺産を相続すること)にも影響はありません。

注意したいのは、姻族関係の終了は相続に影響がないということは、亡くなった配偶者に借金やローンなど負の遺産があった場合、こちらも相続することになります。
負の遺産を相続したくない場合は、相続放棄の手続きが必要になるので注意しましょう。

名字について

姻族関係を終了しても配偶者との関係には影響がないため、戸籍はそのままです。
したがって、姻族関係を終了したからといって、自動的に結婚前の苗字に戻るわけではありません。
また、復氏せず、そのままの名字でいることもできます。

結婚前の名字に戻したい場合は、役所に「復氏届」を提出する必要があります。
姻族関係の終了と復氏、どちらか一方だけすることも可能です。
姻族関係の終了も復氏も両方したい場合は、先に姻族関係を終了して、その後で復氏をすると、最新の戸籍には姻族関係を終了したことが記載されません。姻族関係の終了が最新の戸籍に記載されたくない場合は、先に姻族関係の終了を行いましょう。

復氏届を提出すると、原則として結婚前の戸籍に入ることになります。
結婚前の戸籍が父母の死亡などによって除籍になっている場合や、結婚前の戸籍に入りたくない場合は「分籍届」を提出して、新しい戸籍を作ることになります。

また、子どもの名字についても同様で、親が姻族関係を終了しても、子どもの名字や戸籍はそのままです。

親が復氏をすると、その親だけが戸籍から抜ける形となり、子どもは亡くなった親の戸籍に残ったままです。
そのため、名字ももとの苗字のままです。
子どもと親の戸籍を同じにするには、「子どもの氏の変更許可申立」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
家庭裁判所の許可審判が下りたら、役所に入籍届を提出しましょう。

「死後離婚」のデメリットとは?

死後離婚のデメリットとは

姻族関係終了届を提出して配偶者と「死後離婚」する人の数は、年々増加しています。
法務省の資料によると、姻族関係終了届を提出した人の数は2009年には1823件でしたが、次第に増えていき、2012年には2000件を突破。
さらに、2018年には4124件と大幅に増えています。

「死後離婚」をする人は圧倒的に女性が多いようです。
舅・姑など、亡くなった配偶者の親族との関係がうまくいっていない場合、関係を終了できることには大きなメリットを感じるでしょう。
しかし、死後離婚にはデメリットもあります。
そのポイントを見ていきましょう。

取り消せない

姻族関係を一度終了させてしまうと、二度と復活させることはできません。
配偶者が生きている間なら、離婚しても再婚すれば、また親戚関係を取り戻すことができます。
しかし、死後離婚してしまうと、もう元の親戚関係に戻ることはできません。
自分に親兄弟や子どもがいない場合、義理の家族との関係を断ち切ると天涯孤独の身になってしまいます。

婚家を頼れなくなる

姻族関係を終了すると、もし何かあっても、義理の家族の誰にも頼れなくなります。
もちろん親戚の集まりにも呼ばれることはなくなり、亡くなった配偶者の法事に出席することも難しくなるでしょう。
もしも、元義理の両親と顔を合わせる機会があれば、気まずい思いをすることにもなると考えられます。

子どもと姻族の間に影響が出る

法律上、自分は姻族との関係を断ち切れても、祖父母と孫の血縁関係は変わりません。
姻族との関わりの中で、将来的に子どもが肩身の狭い思いをすることも考えられます。

転居も必要?

育児や介護中で義理の両親と近居の場合、そこに住み続けていれば、街で偶然に会うことは容易に考えられます。
このような状況になるため、引っ越す必要が出てくる場合もあるでしょう。

まとめ

死後離婚のデメリットとは

折り合いの悪い姑などの介護をしたくないために、死後離婚を考える人がいます。
しかし、嫁にはもともと姑の介護義務はありません。
また、姑などと同じお墓に入りたくないという理由で死後離婚を考える人もいます。
しかし、もともと、舅姑と同じお墓に入る義務はありません。
再婚をしたいという理由で死後離婚を考える人も多いようです。
しかし、死後離婚しなくても再婚はできますし、死後離婚せずに再婚しても問題ありません。
一時的な関係の悪化から死後離婚すると、後悔することにもなりかねません。
焦って結論を急がず、じっくり考えましょう。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。