遺産相続。
遺産が多ければ多いほどトラブルになりやすい、というイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、実際にトラブルが多発しているのは、遺産がそれほど多くない一般的な家庭なのです。
それも、「親からの遺産は土地付き一戸建ての住宅のみで、預金はほとんどなし」というケース。
実はこれが、相続でもめるパターンのナンバーワンなのです。
遺産が自宅だけという場合、どのように分けるのかが大きな問題になります。
なかなか話がまとまらず、最悪の場合、争いに発展し、仲の良かった兄弟が絶縁してしまうようなケースもあるのです。
今回は、「主な財産が自宅である」場合の上手な分割方法や注意点について見ていきましょう。
目次
なぜトラブルが起こりやすいの?
親が亡くなったあと、しなければならないのが遺産相続の手続きです。
たとえば、父・母と兄弟3人の5人家族、A家の場合で考えてみましょう。
A家では、お父さんが亡くなったあと、長男のBさんがお母さんを引き取り、実家でBさんの妻・子供たちと住んでいます。
弟のCさん、妹のDさんは、実家を離れ、それぞれ家庭を築いています。
このたび、残念ながらお母さんが亡くなり、兄弟3人で遺産を相続することになりました。
母の遺産は、現在、長男一家が住んでいる実家の土地・建物のみです。
この場合、相続財産は兄弟の共有状態で引き継ぎ、共有する実家の土地と建物を3人で均等に分けることになります。
しかし、これまで母と住んでいて引き続き住みたいBさん、実家に戻ってきたいCさん、家を売ってお金が欲しいDさん・・・のように意見が対立した場合、なかなか解決策が見つからず、話し合いに時間がかかり、厄介なトラブルに発展することが多いのです。
ここでなかなか話が決まらずにいると、二次相続、三次相続によって実家の権利の共有者がどんどん増えて相続が複雑になり、さらに解決が難しくなってしまいます。
仮に実家を売却することになっても、解決が難しい場合があります。
共有物を処分・売却するには共有者全員の同意が必要ですが、兄弟が遠方に住んでいたり、兄弟間の関わりが希薄だったりすると、こうした話し合いがうまくいかず、もめるケースも出てくるのです。
また、長男のBさんが「僕はお母さんの面倒をみてきたのだから、その分多くもらう権利がある」と寄与分を主張したり、誰かが「Cはお母さんによく援助してもらっていたじゃないか。これは生前贈与じゃないのか。その分は遠慮しろ」などというように、特定の誰かが贈与など特別に利益を受けた(特別受益)と主張したりした場合も、もめる原因になります。
相続が長引くとどうなる?
相続問題がなかなか解決できず長引くと、どうなるのでしょうか。
数次相続の発生
相続人全員で行う遺産分割協議は、いつまでという期限はありません。
しかし、長く解決しないままでいると、相続関係者が亡くなるたびに被相続人や共同相続人が増えていき、権利関係が複雑になる可能性があります。
このように、相続手続きをしないうちに相続人が死亡し、次の相続が起こってしまうことを「数次相続」といいます。
A家の人々を例にしてみましょう。
父の相続に関しては分割が済んでいるとします。
今度は母が亡くなり、子どもB、C、Dが相続人になったとします。
この、最初の相続のことを「一次相続」といいます。現在、Bさんたち兄弟が話し合っている相続のことです。
ところが、この一次相続の遺産分割協議中に、長男Bさんが亡くなってしまったとします。すると、Bさんの財産は、Bさんの妻と子どもが分割することになります。
この、2番目に発生した相続のことを「二次相続」といいます。
この場合、Bさんの妻と子は、Bさんが母から相続する分と、Bさん自身からの相続を得る計算になります。
この例では、単純に複数の相続が発生しただけに見えますが、遺産分割協議が長引けば長引くほど、相続関係は複雑になってきます。
実際の相続の場面では、A家の例のように単純な相続関係になることは少なく、数次相続は三次相続にとどまらず、四次相続、五次相続・・・と続いて行くケースもあるようです。
相続の数が増えれば増えるほど相続人は増え、関係の薄い親族と複雑な分割協議を行わなくてはならなくなります。
遺産分割は、その都度、そして早めにしておきましょう。遺産分割協議の話し合いが事実上不可能となったり、協議がまとまらず泥沼となるケースもあります。
優遇措置がなくなる
故人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、相続人が故人と家計を同一にしていたなど一定の要件を満たすと、80%または50%まで評価額が減額される「小規模宅地等の特例」という制度があります。
被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地は、相続人の生活基盤となる非常に重要な財産であるため、相続人の相続後の生活を脅かさないよう取られる措置で、A家の場合、母と一緒に生活していた長男のBさんが家を相続する場合、この小規模宅地等の特例が適用されます。
たとえば、A家の自宅の敷地の相続税評価額が1億円だったとします。
小規模宅地等の特例を適用すると、2000万円の評価で相続税を計算することができるのです。
しかし、遺産分割協議が長引くと、小規模宅地の特例を適用できなくなり、相続税の支払い義務が生じます。
申告が期限後になってしまっても、要件を満たしていればこの特例を利用することはできます。
ただし、延滞税等がかかることがあります。
3.たった1つの家、どう分ける?
遺産分割には、主に4つの方法があります。
現物分割
「現物分割」は、現物の遺産を現金に換えずにそのまま分け合う方法です。
現物分割では、それぞれが土地を自由に使えるというメリットがあります。
ただし、土地を現物分割する場合は、十分に広い面積があるかを確認しましょう。
たとえば、60坪の土地をB、C、Dの3人が3等分すると1人あたり20坪となり、狭すぎて使い道がなく、土地の価値も落ちてしまいます。
現物分割は、分けても利用価値があり、売却もできるような広い土地でないと難しいでしょう。
換価分割
「換価分割」は、不動産を売却してその代金を分配する方法です。
しかし、A家の場合で言うと、現在住んでいる長男のBさんは新居を探さなくてはならなくなります。
そのため、誰も住んでいない空き家などの遺産分割に適しています。
相続した土地を売却した場合、税金が発生する可能性があります。
その場合、税金を支払った後の残りを分割することになるので注意が必要です。
また、自宅を売却する場合は、あらかじめ家を片付けておくことも大切です。
あまりに汚れていたり、ものが溢れかえって手入れされていない家は価値が低くなり、売りにくくなくなってしまいます。
③ 代償分割
「代償分割」は、財産を1人がそのまま相続し、他の相続人に対して金銭などで精算する方法です。
A家の場合でいうと、母の財産が一戸建てのみなので、それを長男Bさんが1人で相続し、弟Cさん、妹Dさんの相続分を金銭で支払います。
Bさんは家を相続できますが、資金がないと難しい方法です。
共有分割
「共有分割」は、遺産の一部または全部を相続人が共同で所有する方法です。
A家の場合、Bさん、Cさん、Dさんが3分の1ずつの持ち分で共有することになります。
共有分割にした家を売却・処分する際は、共有者全員の合意が必要です。
また、共有者の1人が亡くなると、その相続人が新たに名義人に加わり、相続が起こる度に権利がどんどん細分化し、複雑になっていきます。
上手に相続するには?
遺言書で分け方を指定する
主な財産が自宅だけの場合は、相続方法について、はっきりと示すことが重要です。
そこで、親が元気なうちに話し合い、相続の方法について遺言書を残してもらいましょう。
遺言書に相続の方法を書いておけば、相続発生後に相続人全員で話し合って決める必要がなくなります。
A家の場合であれば、長男のBさんが自宅を相続するように指定するわけです。
生前の話し合いで全員が納得していても、実際に相続が起こったときには気持ちが変わる場合もあります。
しかし、遺言書があれば、その内容に反対する相続人がいたとしても、遺言を執行することができます。
法定相続分にこだわらない
遺言書がない場合は、相続人全員が集まって遺産分割協議行い、分け方を決めることになります。
その際に大事なのは「法定相続分にこだわりすぎない」ということです。
わずかな金額の多寡でもめたために、兄弟が絶縁してしまったり、親戚付き合いが途絶えてしまう例は星の数ほどあります。
法定相続分にこだわり過ぎず、みんなが少しずつ譲歩し、禍根が残らないように話し合いましょう。
まとめ
遺産分割でもめないようにするためには、自分だけ良ければいいという考えを捨てましょう。
兄弟間で譲り合うことが大切です。
せっかく親が残してくれた実家です。
気持ちよく帰省でき、気持ちよく迎えられる家にしたいですね。