相続税を節税する生前贈与とは? 上手に相続税対策を。

相続税を節税する生前贈与とは? 上手に相続税対策を。

遺産相続というと、気になるのが相続税ですね。
2015年の税制改正により、相続税の基礎控除額が5000万円から3000万円に引き下げられました。
つまり、それほど多額の財産でなくても、相続税がかかる可能性が高まることになります。

「相続税なんて、お金持ちの話。うちには関係ない」と言っていられなくなったのです。

また、相続税の税率も財産の額に応じてより細分化され、最高税率が50%から55%に引き上げられました。改正で緩和された部分もあるとはいえ、実質的にかなりの増税となっています。

相続税を少しでも減らすには、どうしたらいいのでしょうか。その方法の1つ、「生前贈与」について、見ていきましょう。

生前贈与

生前贈与とは?

生前贈与 贈与税 相続税対策

生前贈与とは、まだ生きているうちに、配偶者や子に財産を無償で渡すことです。
生前贈与を行うと、相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。

つまり、亡くなったあと、相続にかかる税金を減らすことができるわけです。

ただし、生前贈与を行う際には、金額によって「贈与税」がかかります。

生前贈与を行う場合は相続税と贈与税を計算し、どうすれば税金が安くなるのか確認しましょう。

生前贈与の受け取り方には、2種類あります。
受贈者(生前贈与を受け取る人)は、贈与者(生前贈与を行う人)から生前贈与を受ける際に「暦年課税」か「相続時精算課税」のどちらかを選択することができます。

 暦年課税

財産を分割して贈与することで、相続税の対象となる財産額を減らしていくのが「暦年課税」です。
生前贈与は、年間(1月1日~12月31日)110万円以内であれば贈与税がかからないという、基礎控除枠があります。そのため、受贈者に生前贈与をしても、年間110万円以内の金額であれば税金がかかりません。

たとえば、毎年110万円を子2人に贈与すると、1年間で220万円の財産を無税で子に移すことができます。
これを10年行えば、相続税の対象となる財産のうち2200万円、20年行えば4400万円分が無税で移せることになります。つまり、その分、贈与者の財産額が減るので、贈与者が亡くなったあとの相続税が安くなるというわけです。

暦年課税は、毎年の贈与を積み重ねていくことで節税できるため、早い時期から行うほど効果が高くなります。

 相続時精算課税

「相続時精算課税」は、賃貸不動産を生前に贈与して、賃料収入の蓄積を防ぐ相続税対策です。
相続税を減らすためには、相続発生時の財産を減らしておくことが必要ですが、定期的な賃料収入がある場合、相続財産は増えていってしまいます。

そこで、相続財産を増やす賃貸不動産そのものを生前贈与します。すると、賃料収入は授与者に入ることになるので、贈与者の財産を増やさずに、授与者に移すことができるわけです。

この相続時精算課税制度は、「60歳以上の祖父母や親から20歳以上の子や孫への贈与については2500万円まで贈与税がかからない」という特例です。

2500万円までの特別控除なので、賃貸不動産の土地と建物両方で2500万円を超えてしまう場合には、建物のみを贈与するのが一般的なようです。

賃料収入は、建物の名義人に入るものなので、受贈者に賃貸人変更し、賃料収入が振り込まれる口座を受贈者のものに変更しましょう。
ただし、賃料収入が受贈者に振り込まれるようになると、確定申告が必要になります。忘れないよう必ず申告しましょう。

もともとは、建物も土地も同じ人(贈与者)が所有していたものなので、土地は貸家建付地の評価となります。しかし、建物を贈与すると、土地が自用地の評価になり、相続税が増えてしまいます。この制度を利用する際は、賃料収入と相続税の増加分の両方を考慮しましょう。

また、一度、相続時精算課税制度を利用すると、暦年課税を利用した生前贈与はできなくなってしまうので、注意が必要です。

生前贈与のメリットは?

生前贈与 メリット

では、生前贈与のメリットを見ていきましょう。

 相続財産を減らすことができる

繰り返しになりますが、暦年課税で生前贈与を行うと、年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税がかかりません。そのため、110万円以下に分けて毎年贈与をすることで、贈与税を払わず、しかも相続税の課税対象となる財産を減らしていくことができます。

妻と子供2人があり、財産が7000万円あるAさんの場合で考えてみましょう。
相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数となります。
Aさんの場合、
3000万円+600万円×3=4800万円
で、基礎控除額は4800万円です。
7000万円−4800万円=2200万円
で、7000万円から基礎控除額を差し引いた残りの2200万円について相続税がかかることになります。

しかし、生きている間に、3人の相続人に110万円ずつ贈与すると、
7000万円−110万円×3=6670万円
となり、贈与税なしで財産を7000万円から6670万円に減らすことができます。ここから基礎控除額を差し引くと、
6670万円−4800万円=1870万円
で、Aさんの死後、相続税の対象となるのは1870万円になります。

では、この暦年課税を10年続けるとどうなるでしょうか。
7000万円−330万円×10=3700万円
となり、贈与税なしで財産を7000万円から3700万円に減らすことができます。

残った3700万円は、Aさんの基礎控除額を下回るため、相続税なしで妻と子が相続できることになるわけです。
(※ただし、定期贈与とみなされてしまうケースもあるので、注意が必要です)

 贈与したい相手を自由に決められる

民法では、故人の遺産を誰が相続するか、定められています(法定相続人)。遺言などがない場合、財産の相続は、この法定相続人に対して行われます。

しかし、生前贈与なら、誰に何を渡してもOKで、配偶者や子などの親族以外にも生前贈与を行うことができるのです。

たとえば、介護などをしてもらった息子の奥さんや、お世話になった近所の人などには、法律上、財産を相続する権利はありません。しかし、生前贈与であれば、自分が贈与したい相手を自由に決めることができます。
法定相続人以外に財産を渡したい場合、遺言書によって誰にどの遺産を渡すのか指定する方法もありますが、手続きとしては、生前贈与の方が簡単です。

生前贈与のデメリットは?

生前贈与 デメリット

いいことづくめのような生前贈与ですが、デメリットもあります。

 税務署に認められないことがある

生前贈与をするためには、贈与者と受贈者、双方の意思表示がなくてはなりません。
もし、受贈者が生前贈与について知らない、了承していないなどの場合、生前贈与は成立しません。生前贈与を行う際は、生前贈与を立証しやすくするため、贈与のたび、贈与契約書を作成するのがよいでしょう。

また、生前贈与として子や孫の口座にお金を振り込んだものの、その通帳を親が管理しているようなケースがあります。

このような場合、ただ名義を変えただけで、実質的な支配・管理は贈与者が行っているものとして、贈与が成立していないとみなされることがあります。そうなると、相続税を課税されてしまうので注意しましょう。
生前贈与を行う際は、通帳・印鑑・キャッシュカードを全て授与者に渡し、授与者が自由に使えるようにしなくてはなりません。

さらに、現金手渡し、名義預金、へそくりなどは、税務署に生前贈与として認められないケースが多々あるので注意しましょう。

 定期贈与とみなされる場合がある

繰り返しになりますが、年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税が課税されません。しかし、毎年同じ金額を贈与し続けると「定期贈与」とみなされ、年間の贈与額が110万円以下であっても贈与税が課税されてしまうケースがあります。

「定期贈与」とは、毎年一定の金額を渡す贈与のことです。
定期贈与は、その取り決めをした年に「定期金に関する権利」の贈与を受けたとして、贈与額の合計金額に対して贈与税が課税されます。
たとえば、毎年50万円を10年に渡って贈与すると取り決めたとします。
すると、この取り決めをおこなった年に、50万円×10回=5000万円の定期金に関する権利を贈与したとして、500万円に対して贈与税を支払わなくてはなりません。

生前贈与加算され、相続税の課税対象となる

死亡前3年以内の贈与については、財産とする規定があります。
贈与者の死亡前3年以内に相続人に対して行われた贈与は、死亡時に相続財産として加算されます。つまり、相続税の課税対象となるのです。

贈与者の生活を圧迫することがある

財産の多くを生前に贈与してしまうと、そのために贈与者の生活が圧迫されてしまうことになりかねません。
節税を考えるのも大切ですが、贈与者の生活も考慮して計画を立てましょう。

まとめ

親が苦労して築いた財産や、先祖代々受け継がれた土地など、財産は、お金そのものという意味だけでなく、心の財産として、大切に引き継いで行きたいですね。
できるだけ財産を崩すことなく、スムーズな相続ができるよう、様々な方法を検討しましょう。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。