「我が家はみんな仲がいいから、相続トラブルなんてない」と言う人は多いでしょう。
しかし、実際には、遺産相続をめぐる兄弟間のトラブルは少なくないのです。
最高裁判所の司法統計によれば、裁判所が扱った遺産分割トラブルは、1994年には9868件でしたが、2013年には1万5195件とかなり増えています。
そして、家庭裁判所で遺産分割調停を起こしたり、相続人の間で争いを繰り広げたりしているケースの多くは、もともと仲の良かった兄弟なのです。
今回は、遺産分割での兄弟間トラブルについてと、その対策について見ていきましょう。
目次
兄弟間におこる相続トラブルの原因
一緒に育ってきた仲の良い兄弟が、相続の発生をきっかけに憎み合い、絶縁状態になるような例は少なくありません。どんな場合に、どんなトラブルが起こっているのでしょうか。
相続財産の全容が不透明
財産目録などがなく、相続財産の内容が不透明である場合、トラブルにつながりやすくなります。
何が相続財産なのか、どのくらいあるのかがはっきり分からないため、相続人が「もしかしたら、もっと遺産があるのではないか」と考えて、互いに不信感を持ち、争いに発展していくのです。
このような争いを避けるには、資産内容を明らかにしておくのが大切です
「遺産目録」を作り、預貯金や不動産など、遺産の内容を明らかにしておきましょう。エンディングノートがあれば、利用するのも一つの方法です。
相続財産に不動産がある
相続財産に不動産がある場合も、トラブルに発展しがちです。
現金や預貯金などは、相続人の数に応じて分割できるので、不公平感なく分割することができます。
しかし、不動産は頭数で割るわけにはいきません。
土地・建物の評価額は計算が難しく、どのくらいの価値とするのかで意見が割れることがあります。
たとえば、相続財産が実家の土地・建物のみというケースがあったとします。
実家にもともと住んでいた長男が、そのまま住み続けたいと、1人で土地建物の相続を希望したとしましょう。
この場合、長男は、実家をもらう代わりに、実家の評価額を残りの相続人で頭割りし、現金で支払わなくてはなりません(代償金)。
ここで、家の評価額についてもめると、代償金の金額について争いが発生するわけです。
このようなトラブルを避けるためには、生前からきちんと話し合いをして、死後の遺産の分け方を考えておくことが大切です。
土地建物を1人に相続させるのであれば、兄弟には他の財産を残すなどの工夫をして、不公平感が起こらないようにしましょう。
お互いに猜疑心が起こる
相続人の間で、互いに遺産の使い込みを疑うケースがあります。
よくあるのが、兄弟のうち誰かが、亡くなった親と同居していたケースです。
遺産分割が絡むと、「もしかして、同居している間に親の貯金を使い込んでいたのでは?」「本当は隠している財産があるのでは?」などと、疑いの気持ちが芽生えるのです。
いったんそう思い込むと、同居人が使い込みを否定しても他の兄弟は納得できず、もめごとになるわけです。
こういった場合も、相続財産の内容を親の生前に明らかにしておくことで防げます。
親自身が作成した遺産目録があれば、それ以外に隠し財産がないことがわかるため、無用なトラブルを回避することができます。
また、親の財産と同居人(相続人)の財産をしっかり分けておくのも有効です。
たとえば、水道光熱費は誰が支払うのか、食費は誰が支払うのかなど、誰がどの支払いをするのかを明確にしておけば、使い込んだと言われずに済みます。
その上で、自分のものは自分のお金で買うことを徹底します。領収証なども保管しておきましょう。
生前贈与があった
生前贈与があった場合も、親の死後にもめる原因となります。
生前贈与とは、親が生前に特定の相続人に対して財産を贈与することです。
生前贈与があった場合、贈与された財産も遺産に含めて計算することで不公平が起こらないようにするのですが、この場合、何が生前贈与に該当して、どのように評価するかが問題になることが多いようです。
たとえば、兄が不動産を生前贈与されているとしましょう。実際の遺産相続の場では、その不動産の評価額をプラスした額を兄と弟で分割します。
しかし、この不動産の評価額がいくらなのかが問題になるわけです。
生前贈与にまつわるトラブルを避けるためには、あまりに不公平な生前贈与や不透明な生前贈与を避けましょう。
贈与をする場合は、できる限り全ての相続人に公平になるよう配慮し、明細などを作成して、いくら出したのかを明らかにしておきます。
遺言の内容が偏っている
遺言の内容が偏っていると、トラブルに発展しやすくなります。
たとえば、兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」という、最低限の相続分があります。
しかし、親が、内縁の妻や愛人、認知した子どもなど法定相続人以外の人に財産を残す遺言をしていた場合、その財産があまりにも大きいと、本来、財産をもらえるはずの相続人の遺留分を侵害することになります。
遺言書を作成する際は、法定相続人の遺留分に配慮しましょう。
相続人の配偶者とのトラブル
兄弟姉妹の間は仲が良くても、その配偶者とはそりが合わないということは、よくあります。
このような場合に相続トラブルが起こると、兄弟は「兄嫁が余計なことを言っているに違いない」「あの義妹が親のお金を使うのは許せない」などと考えます。
また、配偶者の方でも「小姑に文句を言われる筋合いはない」「介護したのだから、その分多くの遺産をもらうのは当然」と考えて、夫(相続人)をけしかけたりすることがあるのです。
このような場合も、やはり親が生前にきちんと遺言書を作成しておくことによって、争わせないようにするのが一番です。
兄弟間トラブルがもたらす影響
兄弟間で相続トラブルが起こると、どのような影響があるのでしょうか。
遺産分割協議が長引く
相続でもめると、遺産分割をすることができません。遺産分割協議で合意できない場合、家庭裁判所で遺産分割調停をすることになります。さらに、調停でも解決ができないときは、遺産分割審判が必要になります。
このように、もめれば揉めるほど、手続きにかかる期間がどんどん長びいていき、長い例では3年以上かかるケースもあります。
相続財産の活用ができない
遺産相続トラブルが長びくと、せっかく相続した財産を活用できません。
相続の申告が済むまでは、預貯金があっても出金できません。不動産も、売るのはもちろん、賃貸に出して収益を得たりすることも難しくなります。
さらに、不動産は、固定資産税だけは確実にかかります。また管理コストも必要になるので、相続争いで放置すればするほど、損失は大きくなります。
相続税の控除を受けられない
遺産分割がスムーズに進まないと、相続税の控除を受けられなくなる恐れがあります。
相続税には、配偶者控除や小規模宅地の特例など各種の控除制度があります。これらの適用を受けるためには、原則として相続開始後10ヶ月以内に遺産分割協議を終え、相続税の申告をしなければなりません。
それができない場合、相続税の申告期限後3年以内であれば、遺産分割協議を成立させて控除を受けることも可能ですが、それを超えてしまうと、控除を受けられなくなる可能性が高くなり、大きな損失となります。
精神的・肉体的な負担が大きい
遺産相続トラブルは、精神的な負担が大きく、相続人は非常に疲弊します。
高齢化社会である日本では、親が80歳以上のケースも珍しくありません。そのため、相続争いを起こしている相続人も50代や60代、中には70代になることがあります。もともと体力が落ちている高齢者が、財産を巡って争うことは、肉体的にも大きな負担となります。
兄弟間の相続トラブルを避けるためには?
繰り返しになりますが、相続トラブルを避けるための注意点を挙げておきます。
相続財産の内容を明らかにする
相続トラブルの多くは、遺産内容の不透明さが原因です。遺産の内容が不透明だからこそ、相続人に猜疑心が生まれることにも繋がります。
相続トラブルを避けるには、親が、生前にきちんと遺産目録を作成しておきましょう。
公平に分ける
遺産の分け方に偏りがあると、不公平感が相続人の感情を刺激し、トラブルに繋がります。
遺言書を作る場合は、法定相続人の遺留分に配慮して、あまりに偏った内容にならないようにしましょう。
偏った生前贈与もトラブルの原因になります。生前贈与の場合も、できるだけ平等に贈与を行い、贈与時の明細を残しておきましょう。
相続人同士が信頼し合う
遺産相続トラブルの一因として、心の問題があります。さまざまな理由から相続人同士が互いを疑い、信用できなくなり、次第に憎み合うようになってしまうのです。
相続にあたるときは、相続人同士が信頼し合い、お互いの立場を尊重しましょう。譲り合う姿勢を持ち、兄弟が冷静に話し合うことが大切です。
まとめ
親が残してくれた財産。子供たちが争っては、親も悲しむに違いありません。
相続が発生したら、早めに準備をして、遺産内容を明確にし、管理方法などのルールを決めましょう。
兄弟間でしっかりとコミュニケーションを取ることにより、スムーズな相続を行いたいものです。