遺品整理と個人情報

遺品整理と個人情報

故人の遺品を整理していると、思いがけない物や、どう片付ければいいのか困るものが、たくさん出てくると思います。
全てをゴミとして処分するわけにもいかず、かつ全てを遺族で引き継ぐわけにもいかないので、それぞれ残す物・捨てる物の判別が重要になってきます。
一方で、法的に処分方法が決まっている物も多数あります。その多くは、個人情報に関するものです。
平成15年(2003年)5月に公布され、平成17年(2005年)に全面施行となった「個人情報の保護に関する法律(通称「個人情報保護法」)では、「個人情報」とは次のように定義されています。

個人情報・個人データ・保有個人データ(法2条1・4・5項)
「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」をいいます。
また、個人情報をデータベース化した場合、そのデータベースを構成する個人情報を、特に「個人データ」といい、そのうち、事業者が開示等の権限を有し6か月以上にわたって保有する個人情報を、特に「保有個人データ」といいます。
(個人情報保護委員会ウェブサイトより)

記載されているとおり、個人情報が保護される「個人」とは、生きている人に限ります。
つまり「故人」はこの場合「個人」に入らず、ご存命中ならば個人情報保護法に則り守られていたものが、守られなくなってしまうのです。
そこで故人の情報については、遺族が各法令に従って対応しなければなりません。

遺品のなかから個人の運転免許証、保険証、パスポートなどが出てきた場合も同様です。
多くは、それぞれ担当の行政機関に返却する必要が出てきます。
ただし、対処の方法を知っておけば、それほど難しいものではないので、親御さんや身内の方が亡くなった際はぜひ注意しながら対応を進めてください。

1) 健康保険証

個人情報に関するもので、最も遺品のなかから見つかる可能性が高いのは、健康保険証でしょう。
日本は「国民皆保険」といって、生活保護の受給者を除く全国民、1年以上の在留資格がある外国人は、公的医療保険に加入することが法律で定められています。
戦後に保険制度が整備され、昭和36年(1961年)にはこの「国民皆保険」が成立しました。
医療保険制度には、社会保険事務所や健康保険組合が発行する「健康保険」(社会保険/社保)と、市区町村が管轄する「国民健康保険」(国保)の2種類があります。
多くは勤務先を通じて社保に加入しており、健康保険に加入していなければ国保に加入することになります。
いずれの保険証も、亡くなった際に返却することになりますが、担当窓口が異なるので、それぞれ期日も違いますので注意してください。

<健康保険>
返却期限: 亡くなった日から14日以内
返却先: 勤務先

<国民健康保険>
返却期限: 資格喪失日の翌日から5日以内
返却先; 市区町村の窓口
※「資格喪失」とは勤務先の変更、退社、生活保護の受給開始などを指す。この場合、被保険者が亡くなった場合も含まれる。

どちらの保険も、保険証を返却するのみで、その他に提出が必要な書類はありません。
ただし保険料に未払いがある場合、被保険者が亡くなっても、相続人が支払うことになります。
相続についてはこちらをご参照ください。

ほかにも高齢者が亡くなった場合に多い、被保険者証についてもご紹介します。

<介護保険>
返却期限: 資格喪失の翌日から早めに
返却先: 市区町村の窓口
必要書類: 資格喪失届、介護保険被保険者証

<後期高齢者医療保険>
返却期限: 資格喪失の翌日から早めに
返却先: 市区町村の窓口
必要書類: 資格喪失届、後期高齢者医療被保険者証

2)年金受給の停止

年金には厚生年金(厚生年金保険)と国民年金の2種類があります。
厚生年金は会社(法人)に勤務している70歳の人が加入しているもので、国民年金は自営業や社員数5人以下の個人事業主などが入っている年金です。
つまり基本的には国民全員が加入しているものなので、遺品整理の際には必ず注意しておかなくてはならないものだと言えるでしょう。
加入者が亡くなった場合、年金受給の停止を届けなければいけません。それぞれ対応方法は次のとおりです。

<厚生年金>
届出期限: 亡くなった日から10日以内
届出先: 年金事務所
必要書類: 年金受給権者死亡届、故人の年金証書、亡くなったことを証明する書類(戸籍抄本、死亡診断書など)

<国民年金>
届出期限: 亡くなった日から14日以内
届出先: 年金事務所
必要書類: 年金受給権者死亡届、故人の年金証書、亡くなったことを証明する書類(戸籍抄本、死亡診断書など)

3)運転免許証、パスポート

日本において運転免許証とパスポートは、保険証以上に個人の証明書として重要なものです。個人情報とともに写真が掲載されているからです。
どちらも原則的に返却期限はありません。どちらも更新手続きを行わないと失効になります。しかし放置していては悪用される恐れが大きい物です。
そこで故人の遺品を整理している時に、運転免許証とパスポートが出てきた場合、すぐに対処したほうがよいでしょう。印鑑証明書も同様です。
いずれも担当窓口へ返却することになります。

<運転免許証>
返却期限: 基本的にないが、できるだけ早く
返却場所: 警察署
必要書類: 運転免許証、亡くなったことを証明する書類(戸籍抄本、死亡診断書など)

<パスポート>
返却期限: 基本的に期限はないが、できるだけ早く
返却場所: 各都道府県庁の旅券課窓口(パスポートセンター)
必要書類: パスポート、亡くなったことを証明する書類(戸籍抄本、死亡診断書など)

<印鑑登録証明書>
廃止期限: 亡くなったあと早めに
提出先: 市区町村の窓口
必要書類: 印鑑登録証明書、登録している印鑑、印鑑登録廃止申請書

4)クレジットカードの解約

現在、日本におけるクレジットカードの普及率は80パーセントを超えています。
先進国の中ではそれほど高くない数字のようですし、また持っていても使わないという人も多いとのこと。
もちろんスマートフォンの機能による支払いが増えていることも影響を及ぼしているでしょう。それでもクレジットカードは便利なものです。
特に定年後、海外に行く機会が増える高齢者も、クレジットカードを持っている人が多いのではないでしょうか。
また、電気・水道・ガスなどの公共料金をはじめ、各種支払いをクレジットカードによる引き落としにしている人かと思います。
さらに年会費なども引き落とされるため、使用者が亡くなったあと、すぐに解約しなければ無用な請求が来ることになります。
遺品整理で故人のクレジットカードが見つかった時は、次のように対応してください。

<クレジットカードの解約>
解約期限: 亡くなった日から1カ月以内
届出先: クレジットカード会社
必要書類: 退会・解約の書類
※亡くなったことを証明する書類が必要な場合もあり

カードを解約しても、まだ残金があれば支払わなければなりません。
その際は相続人が支払うことになりますので、必ず残金もクレジットカード会社に確認してください。

5)マイナンバー

平成27年(2015年)10月から、マイナンバーの通知が始まり、翌年1月より申請者にはマイナンバーカードが交付されています。
マイナンバーとは個人番号であり、国民一人ひとりが持つ12桁の番号のことです。この制度は、次の目的でスタートしました。

1.行政の効率化
行政機関や地方公共団体などで、様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減されます。複数の業務の間での連携が進み、作業の重複などの無駄が削減されます。

2.国民の利便性の向上
添付書類の削減など、行政手続が簡素化され、国民の負担が軽減されます。 また、行政機関が持っている自分の情報を確認したり、行政機関から様々なサービスのお知らせを受け取ることができます。

3.公平・公正な社会の実現
所得や他の行政サービスの受給状況を把握しやすくなるため、負担を不当に免れることや給付を不正に受けることを防止するとともに、本当に困っている方にきめ細かな支援を行うことができます。

平成28年1月から、順次、社会保障、税、災害対策の行政手続でマイナンバーが必要になります。

社会保障
年金の資格取得や確認、給付
雇用保険の資格取得や確認、給付
医療保険の給付請求
福祉分野の給付、生活保護 など


税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書などに記載
税務当局の内部事務 など

災害対策
被災者生活再建支援金の支給
被災者台帳の作成事務 など
(政府広報オンラインより)

つまり、日本で生活するための情報はマイナンバーによってまとめられます。
逆を言えば、マイナンバーが漏えいすると個人情報そのものが漏れてしまうため、行政や各機関も細心の注意を払い、取り扱わなければいけません。

では遺品整理の際、このマイナンバーに関する物(マイナンバーカードなど)が出てきた場合、どうすれば良いのでしょうか。
そもそも亡くなった方のマイナンバーはどうなるのか、疑問に思う人も多いでしょう。
マイナンバーは原則的に、一人が一生使用する番号です。亡くなったからといって、同じ番号を他の人が使用することはありません。
となれば、亡くなった人のマイナンバーについて気になるのは、特にマイナンバーカードの取り扱いでしょう。
これは各市区町村の役場に返却します。

<マイナンバーの返却>
返却期限: 特になし
返却先: 各市区町村の役場
必要書類: 亡くなった人との関係を証明する書類

ただしマイナンバーカードの取り扱いについては、市区町村によって異なります。
一部では個々による破棄が認められている市区町村があるので、必ず問い合わせるようにしてください。
個々で破棄する場合は、クレジットカードと同じくハサミなどで細かく切って捨てることになります。
しかしマイナンバーカードは小さく切っても、個人番号部分はもちろん、埋め込まれたICチップなどが他の人の手に渡る恐れもあります。
いずれにしても市区町村の役場に返却するほうが望ましいのではないでしょうか。

6)シュレッダーは便利。でも……

故人の家・部屋を片付ける場合には、シュレッダーがあると非常に便利です。
業務用シュレッダーがあれば、紙類だけでなくDVDや、クレジットカード、マイナンバーカードも細かくしてから廃棄することが可能になります。するとゴミ袋も少なくて済み、個人情報の漏えいも防ぐことができます。
とはいえ業務用シュレッダーは、高価なものです。
一般家庭用であれば数千円で購入できますが、業務用となれば価格は数万円です。
そこでシュレッダーの貸し出しを行っていたり、あるいはシュレッダー作業を請け負う業者を利用してみるのも、ひとつの方法でしょう。
清掃業者や遺品整理業者であれば、業務用シュレッダーを持っていることが多いです。

個人情報の保護は、行政だけでなく各個人も十分に注意しなければならないものです。
故人の情報はなおさらのこと、大切に扱わなければ供養もできません。
各市区町村や業者に協力を求めながら、故人の個人情報をしっかり守ってください。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。