家から溢れたゴミが通路を妨ぐ、鼻をつくような悪臭、ネズミや害虫の発生など、近隣住民の頭を悩ませるゴミ屋敷問題。家屋の倒壊や放火の危険性などもあり早期の対策が必要不可欠ですが、家主に直接ゴミの撤去を依頼しても応じてもらえないことも多く、ご近所トラブルとなっている場面をメディアなどで見たことがある方もいるのではないでしょうか。
現在のところこのゴミ屋敷を規制するための国が定めた法律はありません。その代わりに自治体によっては独自のルールを条例として定め、このゴミ屋敷問題の解決に取り組んでいます。
神奈川県横浜市もゴミ屋敷に関する条例(以下「ゴミ屋敷条例」)を制定した自治体の一つです。ゴミ屋敷条例の内容は各行政によって異なりますが、神奈川県横浜市の場合、ゴミの強制撤去などを行うなどの措置も行っています。この記事では、神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例がどのような内容なのか、事例とともに詳しくご紹介していきます。
目次
神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例とは
神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例は2016年12月に施行されました。本来の名称は「横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及びに措置に関する条例」です。その名の通り、ゴミなどによる不良な生活環境の解消や発生防止のために制定されました。
不良な生活環境の解消や発生の防止を目的としているため、住人の代わりに行政がゴミの撤去作業を行う行政代執行などの措置も行われますが、あくまで家主への支援を優先することが基本方針として掲げられています。
神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例基本方針が「支援」である理由
前述の通り、神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例では支援が基本方針とされています。これは、ゴミ屋敷問題は堆積したゴミさえ撤去されれば片付くという問題ではなく、その根本原因に向き合っていかない限り、いくら強制的に片付けても再発する可能性がとても高いからです。
家主は60歳以上の高齢者であることが多く、地域からも家族からも孤立し他者の介入を拒む傾向にあることが、このゴミ屋敷問題の解決をさらに難しくしています。一体なぜゴミ屋敷は生まれるのでしょうか。その主な原因を以下にまとめました。
認知症や精神疾患
一般的に「困った人」とされるゴミ屋敷に住む人々ですが、その多くは精神疾患や病気を抱えるなど「困っている人」であることがほとんどです。
うつ病や認知症を発症すると判断力が落ちてしまい、ゴミの仕分け自体が難しくなる傾向にあります。
家族や地域からの孤立
高齢化、核家族化が加速する日本。その中で独居老人と呼ばれる高齢者の一人暮らしが増えています。特に高齢者は足腰などが弱くなり外に出る機会が減ることで、家族や地域からも孤立した状態になりやすいと言われています。
また、家族を亡くした、信頼していた人に裏切られた、仕事を失った、などの心の傷から他人のアドバイスや支援を受け入れられず、孤立化するケースもあります。
ケガや病気などの身体症状、身体障害
ゴミの集積所まで歩いて行くことが難しく、庭にゴミをため込むうちにゴミ屋敷化してしまった。自治体のゴミの個別収集を頼むにも一人で手続きに行くことができずゴミがたまってしまった。このような例のようにケガや病気、身体障害などで体が自由に動かずゴミ屋敷化が進むことがあります。
ゴミの収集癖
ゴミ屋敷にたまるゴミは、家主が自ら出したゴミだけではありません。近隣のゴミ集積所からゴミを拾い集めたり、家計の足しにしようと空き缶やリサイクル品を集めている、という家主も中にはいます。
横浜市のゴミ屋敷問題がメディアで取り上げられた際、ゴミがたまる理由を尋ねられた家主の答えは「家の前のゴミ集積所にあるゴミがきちんと仕分けされていないから、それらのゴミを一度家に引き取って自分で仕分けてから出そうとしている。しかし、その仕分けに時間がかかるためゴミがたまってしまっている。」といったものでした。
このような収集癖は、習慣や本人の考え方のくせなどが関係しているため、再発性が高く対応にも時間がかかります。
神奈川県横浜市でゴミ屋敷条例が制定された背景
ゴミ屋敷条例を制定している自治体は全国でもそこまで多くありません。ではなぜ、神奈川県横浜市ではこの条例が制定されたのでしょうか。その背景にはメディアの力があります。
神奈川県横浜市健康福祉局の担当者の話では、メディアが横浜市市内のゴミ屋敷を取り上げたことによって議会が動き、このゴミ屋敷条例の制定に繋がったとのことでした。
また、神奈川県横浜市を構成する各区ごとの対応には限界があるため、神奈川県横浜市全体のプロジェクトとしてゴミ屋敷のための対策会議が設置され、解決への取り組みが行われてきました。
神奈川県横浜市が条例によりゴミ屋敷を片付けるまで
ゴミ屋敷問題を解決するために、横浜市では条例の最終的な措置として行政が本人の代わりにゴミの片付けを行う「行政代執行」と呼ばれる強制撤去の措置が設けられています。しかし、強制撤去は人権や財産権などの問題も絡むため簡単に行えるものではなく、いくつかのプロセスを踏む必要があります。以下の章では行政代執行に至るまでに行われる横浜市の条例に基づいた措置の方法をご紹介します。
調査
ゴミ屋敷の近隣住人から神奈川県横浜市当てに苦情や相談があると、まず横浜市職員が現場訪問を行い調査します。家屋の調査を行うにも住人の不在や訪問拒否などで話をすることができないケースも多いのが現状です。
指導
調査の上で、ゴミ屋敷により家主本人や近隣住人の健康や安全など生活環境が著しく損なわれていると認められた場合、条例に定められた規則に従い家主への指導が行われます。
その際、片付け指導だけではなく、福祉施設の紹介や生活相談なども同時に行われます。
命令・戒告
複数回にわたる指導にも家主が応じなかった場合には、ゴミの撤去命令が出されます。その際、命令・戒告にも応じないと氏名や住所の公表が行われることがあります。
行政代執行
命令・戒告にも従わない場合、最終的な措置として行政が代わりに命令内容を果たす行政代執行が行われます。原則的にゴミの撤去を行う際にかかった費用は後日、本人へ請求されます。
まとめ
ゴミ屋敷は長年ゴミをため込んだ結果であり、その根本にはゴミ屋敷に住まう住人の精神的、身体的などの問題があります。そのため、再発を防止するためにもゴミの撤去だけではなく福祉や保健所などを交えた支援が必要です。
この記事では、神奈川県横浜市のゴミ屋敷条例の内容や事例を交えて日本の抱えるゴミ屋敷問題について紹介してきました。
最近では、在宅ワークや宅配サービスを利用する人が増えたことにより、若年層の間にもこのゴミ屋敷問題は広がりつつあります。もし、近所にゴミ屋敷がある場合には、お住まいの市区町村の役場へまずは連絡することが大切です。時間はかかりますが、行政と連携していくことがゴミ屋敷問題解決への近道です。