東京都中野区は平成29年(2017年)6月1日、「中野区物品の蓄積等による不良な生活環境の解消に関する条例」を制定しました。
いわゆるゴミ屋敷問題解決のための条例ですが、具体的にどのような条例なのか、解説していきます。
目次
中野区のゴミ屋敷対策としての条例
「中野区物品の蓄積等による不良な生活環境の解消に関する条例」は東京都中野区にて、今後ゴミ屋敷の対策を進めるための条例となります。
それまでは区内にてゴミ屋敷問題が発生しても効果的な対策が打つことができませんでした。
しかし、条例を制定したことで、ゴミ屋敷に対して積極的な対策を講じることが可能になりました。
その中身について、いくつかご紹介しましょう。
生活環境の解消を目的としている
中野区のいわゆるゴミ屋敷に対しての条例の適応範囲としては、空き家を除いた住居、あるいは空き地に対し、以下の4つが該当している場合をその適用範囲とします。
- 物品の蓄積若しくは放置
- 植栽の繁茂(空地の雑草は対象外)
- 建築物以外の工作物の放置
- 動物への衛生的に問題のある投餌
これらが確認された場合、条例の対象となりますので、中野区が条例に基づき、ゴミ屋敷対策を施行可能になります。
条例制定の背景にあるもの
中野区にていわゆるゴミ屋敷条例が制定された背景にあるのは、ゴミ屋敷問題の顕在化です。
中野区に限らず、ゴミ屋敷は全国各地にて問題視されています。
既に条例化され、行政が先頭に立って問題を解決している地域もあります。
一方で、条例化されていない地域の場合、行政としては口頭で注意を促すことはできても、強制性はありませんでした。
しかし、それだけでは問題が解決しない点や、ゴミ屋敷条例を制定した地域にで、いくつかの解決が認められていることから、中野区としても条例の制定に踏み切りました。
ゴミ屋敷条例の流れについて
東京都中野区にて制定されたいわゆるゴミ屋敷条例の流れとしては主に以下の流れとなります。
ゴミ屋敷発生者に対して指導
いわゆるゴミ屋敷が認められた場合、中野区は発生者(ゴミ屋敷住居者)に指導を行います。
指導の場合、強制性はありません。
あくまでも発生者による自発的な解決のための指導です。
そのため指導に対し、どのようなリアクションを取るかは発生者の自由です。
ゴミ屋敷発生者に対して勧告
指導を聞き入れず、状況が改善しない場合、中野区から発生者に対し文書勧告が可能になります。
文書による勧告は、指導でも改善しない場合の一段階上の対策と考えることができます。
なぜなら、指導はあくまでも「改善しましょう」というものですが、勧告は「改善しない場合にはさらなる措置を講じる」のアナウンスです。
勧告に対してどのような対応を取るかは発生者次第ではあります。
しかし、勧告を無視し、ゴミ屋敷が改善されない場合には、中野区側も次の一手を打つことになります。
勧告は審査会の判断を仰ぐ
勧告は中野区独自に出せるものではなく、審査会からの意見徴収を経てのものになります。
中野区が独自に勧告を出せると、行政による暴走と捉えられかねません。
しかし、審査会を経ることで、勧告に正当性を付与します。
ゴミ屋敷発生者への命令
中野区が勧告を行ってもゴミ屋敷が改善されない場合、中野区から命令が可能になります。
命令になりますので、もはや発生者の意思は関係ありません。
中野区による命令になりますので、中野区民として従う義務が生じます。
仮に命令に従わない場合は、氏名の公表や過料を科すことが可能です。
中野区による行政代執行
指導、勧告、命令を経て行われるのが、行政代執行です。
行政代執行とは、行政による強制的なゴミ屋敷撤去作業です。
中野区からの指導や勧告、命令を無視し続け、ゴミ屋敷が改善されない場合、中野区による強制的なゴミ屋敷撤去が可能になります。
行政代執行の費用は?
中野区が行政代執行を行った場合の費用は中野区の税金ではなく、発生者負担です。
行政代執行後、中野区から発生者に対し費用が請求されます。
但し減免措置もあります。
減免措置が適用される考え方としては、以下となります。
発生者の資産状況
発生者が個人で、かつ不動産を所有しておらず、住民税非課税者で、現金を含めた資産の総額が一定額以下であり、代執行の費用を支出することで生活再建が難しくなる場合には、減免措置の対象となります。
中野区の、いわゆるゴミ屋敷条例の目的はゴミ屋敷を綺麗にするだけではありません。
綺麗にすることで発生者の生活を改善する点にあります。
そのため、費用が経済的に大きな負担となるようであれば、減免措置の対象となります。
再発防止の観点
中野区のいわゆるゴミ屋敷条例は、再発防止も考慮されています。
そのため、発生者が以下の状況の場合、減免措置の対象となります。
- 心身の状況が改善するのか
- 福祉サービスの利用
- 親族による支援の確認
- 継続的な状況確認ができる
中野区のゴミ屋敷条例の意義とは
東京都中野区にて制定された、いわゆるゴミ屋敷条例の意義を正しく理解する必要があります。
なぜなら、ゴミ屋敷条例とは、ゴミ屋敷のゴミを撤去するためだけの条例ではないからです。
ゴミ屋敷条例は再発防止まで視野に入れた条例
ゴミ屋敷は周辺地域の住民にとっては迷惑極まりないものです。
街の景観を損ねるだけではなく、異臭、さらには何らかのアクシデントの際、リスクが高まります。
例えばゴミ屋敷にて火災が発生した場合、周辺地域にも飛び火するリスクがありますし、実際、そのような事案も他の地域にて発生しています。
そのため、ゴミ屋敷問題を解決してもらいたいと願う一方で、減免措置等に対しては「税金を投入するのか」「自己責任ではないのか」との声も聞かれます。
周辺も住民もゴミ屋敷条例への理解が不可欠
ゴミ屋敷条例の狙いはゴミ屋敷を清掃して綺麗にするだけではありません。
ゴミ屋敷の改善と共に再発防止も視野に入れています。
そのため、周辺住民としても、ゴミ屋敷条例の真の目的を理解しておく必要があります。
ゴミ屋敷条例があっても簡単には進まない
ゴミ屋敷条例が制定されたことで、中野区も条例を元にしたゴミ屋敷対策が行えるようになりました。
しかし、ゴミ屋敷条例は中野区だけで勝手に進められるものではありません。
勧告の前には審査会からの意見聴収を行い、相応しくないと判断された場合は勧告に進めません。
条例とは罰則ではありません。
ゴミ屋敷の発生者を懲らしめるためではなく、地域住人が快適な生活を送るためのものです。
ゴミ屋敷を発生させてしまった張本人であっても、地域住民の一人であることには違いありません。
ゴミ屋敷条例の目的は住民の快適な生活のため
中野区が制定したゴミ屋敷条例も、中野区の住民が快適な生活を来るためのルールの一つです。
決して罰を与えることを主眼とした条例ではありません。
ゴミ屋敷発生者に対して様々な思いが錯綜することでしょう。
しかし、そのゴミ屋敷発生者もまた、中野区の住民として快適な生活を送れるよう、中野区行政が導く必要があるのです。
中野区のゴミ屋敷条例を正しく理解しておこう
東京都中野区にて制定されたゴミ屋敷条例は、以降、行政による代執行を可能にしました。
しかし、あくまでも再発防止策であって、決してゴミ屋敷発生者への罰則的な条例ではありません。
ゴミ屋敷は問題ですが、ゴミ屋敷を解決した後、再発させないためには何が必要なのかまでを考えて制定された条例になります。
減免措置など、それまで迷惑をこうむっていた地域住民とすれば少々腑に落ちない部分もあるかもしれません。
しかし、ゴミ屋敷発生者を含めた地域住民の快適な生活のためのものです。
決して罰則ではなく、あくまでも快適な生活のための条例である点を正しく理解しておきましょう。