祖父母にとって、かわいい孫にできるだけのことをしてあげたい気持ちは自然なものでしょう。
少しでも良い教育を受けさせ、良いところを伸ばしてあげたいと願うなら、金銭的なサポートが必要になってきます。
そこで、孫へ生前贈与をしたいと考える人も多いようです。
今回は、祖父母から孫への贈与と、贈与税について見ていきましょう。
目次
孫へ生前贈与をするメリットは?
まず、孫へ生前贈与をすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
相続税の節税になる
孫に生前贈与する場合は、「3年以内贈与財産の加算」が適用されません。
孫以外への贈与では、生前贈与を行って3年以内に贈与者が亡くなってしまうと、生前贈与した分も相続税の課税対象となってしまいます。
しかし、孫への生前贈与であれば、原則として生前3年以内の贈与であっても相続税の課税対象になりません。
3年以内贈与財産の加算の適用例
たとえばAさんが、子供と孫に対して毎年300万円ずつ、5年間生前贈与を行ったとします。
5年間、毎年贈与を続けると1500万円を贈与することになります。
Aさんが、1500万円を贈与し終わってから3年後も存命であれば子供であろうと孫であろうと相続税の課税対象とはなりません。
つまり、「3年以内贈与財産の加算」が適用されることはありません。
ところがAさんが、生前贈与を終わった年に亡くなったとします。
その場合、最初の2年分600万円は子供も孫も相続税の課税対象になりません。
しかし、子供には「3年以内贈与財産の加算」制度が適用されてしまいます。
最後の3年分900万円については贈与ではなかったことになり、相続税が課税されてしまうのです。
孫の場合は、「3年以内贈与財産の加算」が適用されません。
贈与を受けた全部が相続税の課税対象から外れるのです。
孫に直接財産を譲れる
民法上では、孫は法定相続人になれないため、遺産相続によって遺産を引き継がせることができません。
しかし、生前贈与をすれば、自分が生きているうちに、孫がお金を必要とする時に直接援助できます。
孫への生前贈与には贈与税がかかる?
孫へ生前贈与を行った場合、贈与税はどのようになるのでしょうか。
そして、それは誰が支払うべき税金なのでしょうか。
孫への贈与には贈与税がかかる?
「贈与」とは、個人から個人へ、無償で財産を受け渡すことです。
そのため、たとえ相手が孫であっても贈与税はかかります。
この場合、贈与税を支払う義務があるのは、財産を受け取った孫になります。
贈与税の計算方法は?
まずは、贈与を行った場合、どのくらい税金がかかるのかを知っておきましょう。
贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計した金額で計算します。
また、非課税枠(基礎控除)は年間110万円と決められています。
計算式は、以下となっています。
(贈与を受けた金額―110万円)×税率−控除額
祖父母から孫へ贈与を行う場合、税率は2種類あります。
贈与を受ける孫が18歳未満の未成人の場合は「一般税率」、贈与を受ける孫が18歳以上の場合は「特例税率」が適用されます。
「18歳」のボーダーは、令和4年4月1日より前の贈与については「20歳」でした。
一般税率の場合
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1000万円以下 | 1500万円以下 | 3000万円以下 | 3000万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | − | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
贈与を受ける孫が18歳未満の場合の通常税率と控除額は上記です。
500万円を贈与する場合を例にとって計算してみましょう。
基礎控除後の課税価格は、500万円−110万円(基礎控除額)=390万円です。
税率は上記の表より20%となりますので、390万円X20%=78万円となります。
控除額は上記の表から25万円ですので、最終税額は78万円-23万円=53万円となります。
まとめると以下の計算式です。
(500万円−110万円)×20%−25万円=53万円
贈与された孫には53万円が課税されます。
b.特例税率の場合
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1000万円以下 | 1500万円以下 | 3000万円以下 | 4500万円以下 | 4500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | − | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
贈与を受ける孫が18歳以上の場合の通常税率と控除額は上記です。
税率と控除額は上記です。
同じく500万円を贈与する場合を例にとって計算してみましょう。
基礎控除後の課税価格は、500万円−110万円(基礎控除額)=390万円です。
税率は上記の表より15%となりますので、390万円X15%=58.5万円となります。
控除額は上記の表から10万円ですので、最終税額は58.5万円-10万円=48.5万円となります。
まとめると以下の計算式です。
(500万円−110万円)×15%−10万円=48万5千円
贈与を受ける孫に48万5千円が課税されます。
孫への生前贈与で節税する方法とは?
贈与税の支払い責任が孫にかかってくるとなっては、贈与税対策をしっかりとしてあげたいと思うでしょう。
では、贈与税対策として、どのような方法があるのでしょうか。
贈与税の非課税枠を活用する
繰り返しになりますが、贈与額は受け取る人1人につき年間110万円までは非課税となっています。
それならば、毎年110万円ずつ孫に贈ればいいということになります。
この方法は、特別な手続きもなく、贈与した財産がどのような目的に使われても構わないため、最も簡単な方法でしょう。
また、贈与する相手も孫に限定されません。
ただし、多額の財産を贈与したい場合は、その分、年数がかかってしまいます。
相続税対策を考え、生前に財産を移しておくには、早めの時期からコツコツと贈与を行っていくのがベストでしょう。
ただし、後に述べる注意点も考え合わせる必要があります。
贈与税の特例を活用する
110万円の非課税枠での贈与は、どうしても時間がかかってしまいます。
一度で高額の贈与をしたいなら、贈与税の特例を活用しましょう。
贈与税の特例は、贈与されたお金の使用目的が以下に限定されますが、1年で110万円以上の贈与を行うことができます。
- 教育資金
- 住宅資金
- 結婚・子育て資金
a.教育資金の一括贈与
30歳未満の孫に対して教育資金として贈与する場合は、1500万円まで非課税となります。
教育資金は、以下のような教育に関する用途にのみ使うことができます。
- 保育園や幼稚園の費用
- 学校の入学金
- 授業料
- 塾や習い事
- 学用品の購入
この制度を利用する場合、贈与専用の口座を開設し、贈与は必ずその口座に振り込む必要があります。
このお金を使用するときは、使途が教育資金であることを証明する領収書やレシートを金融機関に提出し、口座からお金を引き出します。
このお金は、以下の用途で使った分については、その分に贈与税がかかるため注意が必要です。
- 教育資金以外で利用した
- 孫が30歳になった時点で資金が余った
b.住宅取得等の資金贈与
孫が住宅を購入したり、リフォームしたりする場合、その資金として贈与する分が非課税となる制度です。
もともとの適用期限は2021年12月31日まででしたが、税制改正によって2023年12月31日まで延長されました。
ただし、非課税枠は最大1500万円から最大1000万円に縮小されています。
以下の住宅には最大1000万円、それ以外の家には最大500万円が非課税枠となります。
- 省エネルギー性が高い住宅
- 耐震性が高い住宅
- バリアフリー性が高い住宅
c.結婚・子育て資金の贈与の特例
18歳以上50歳未満の孫に、結婚や子育てのための資金を贈与した場合、1000万円まで非課税となる制度です。
「18歳」は、令和4年4月1日より前の贈与については「20歳」でした。
結婚資金とは、婚活、結婚式、新居の費用などが該当します。
ただし、指輪や新婚旅行の費用は当てはまらないので注意しましょう。
子育て資金は以下の資金が該当します。
- 出産費
- 産後ケア費用
- 子供の医療費
- 小学生の子供の育児にかかる費用
- 不妊治療の治療費
この制度も、教育資金と同じように、お金の使用目的が「結婚や子育てのため」に限定されています。
贈与専用口座を開設し、贈与金はそこに振り込みます。
このお金を使用するには、結婚・子育てのための出費であるということが証明できる領収書やレシートを金融機関に提出し、引き出します。
孫への贈与で気をつけたいポイントとは?
孫へ贈与を行う際に気をつけるポイントがあります。
贈与の合計額に注意!
もしも、双方の祖父母が生前贈与を行う場合、合計額に気をつけましょう。
課税対象となるのは「1年間に受ける金額の合計」です。
そのため、110万円までなら大丈夫と双方の祖父母が贈与すると、孫が受け取る金額は220万円となります。
そのため、220万円から110万円を引いた90万円に対して贈与税がかかり、孫は贈与税を支払う義務が生じてしまいます。
非課税枠で毎年同じ日に同じ金額を贈るのは注意!
同じ贈るなら記念日にと、孫の誕生日など毎年同じ日に贈与し続けることを「連年贈与」といいます。
もし、110万円の非課税枠を活用して、10年間、同じ日に100万円を贈与し続けると、「もともと1000万円を渡すつもりだった」と税務署から指摘される可能性があります。
この場合、贈与した合計額が贈与税の対象となってしまうので、注意が必要です。
贈与税を代わりに納税する
孫に税金を払わせるのはかわいそうと、贈与税を祖父母が負担するのはNGです。
贈与税は、あくまで受け取った孫が納めるべきものです。
祖父母が代わりに支払うと、その分も贈与とみなされてしまいます。
孫名義の通帳を作る
直接お金を渡すと贈与税が生じることから、孫名義の通帳を作り、そこにお金を入れる方法はよく聞きます。
しかし、これは「名義預金」とみなされます。
つまり、孫の名義にはなっているけれども、預金をしている祖父母の財産であるわけです。
そのため、この通帳のお金は相続財産であり、相続税を支払わなければなりません。
お孫さん名義の通帳を作って定期的に贈与したいなら、まず、孫にこの通帳の存在を伝えましょう。
その上で、孫がいつでもお金を引き出せる状況であれば贈与が成立していることになり、孫の財産であるとみなされます。
まとめ
法定相続人になれない孫に財産を譲りたい場合、遺言書を書いておく必要があります。
しかし、生前に書き残せなかったり、相続税対策を別にしたい場合は、生前贈与をするという方法があります。
贈与税を節約したいなら、110万円の非課税枠内で贈与を続けるのがおすすめです。
また、使途が限定されている特例枠もあります。
特定の用途に必要なお金を贈与したい場合は、特例枠を利用しましょう。