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ゴミ屋敷が好ましくない事態であることは多くの方の一致する価値観かと思います。
しかし、国の何かの法律に違反しているとは言い切れない事実が事態を複雑にしています。
ゴミ屋敷は、多くの場合で法律違反ではないことが多く、警察に連絡しても何もできません。
だからこそ、条例を制定し、ゴミ屋敷の対策を行っている自治体が多いのです。
そこで改めて、ゴミ屋敷を法律・条例の観点から見てみるとしましょう。
目次
ゴミ屋敷は多くの人にとって好ましいものではないでしょう。
しかし、感情論ではなく法律的な見地から考えると、実はゴミ屋敷だけでは違法とは断定できません。
近隣住民にとってゴミ屋敷は迷惑です。
しかし、「迷惑」は主観的なものであって、何らかの法律に違反している訳ではありません。
ですから、ゴミ屋敷を相手に司法や警察が動くことはできないのです。
裏を返せば、法律では解決できないからこそ、条例化して規制しようとしている自治体が増えているとも考えられます。
条例は制定されている自治体に於いては法律と同程度の拘束力を有します。
罰則まで規定していれば、条例に基いた罰則を科すこともできますし、罰則が抑止力となって問題を未然に防ぐこともできます。
法律での対処ができないからこそ、ゴミ屋敷問題の解決・対応は自治体による条例化が肝となります。
実際、多くの自治体にてゴミ屋敷のための条例が制定されています。
そこで、全国の自治体が制定しているに関する条例の一覧をご紹介しましょう。
https://777fukujin.com/blog/gomiyashiki-ordinance-report/
東京都荒川区では、以下の条例でゴミ屋敷問題の解決を図っています。
荒川区良好な生活環境の確保に関する条例
こちらは行政代執行、さらには代執行実行時の費用請求についてまで条例で制定しています。
上記の条例はゴミ屋敷だけではなく、環境全般に関する条例です。
それでも、行政代執行や費用請求まで制定している点に荒川区の本気度が伺えます。
東京都足立区ではを制定し、ゴミ屋敷問題の抑止力・対策をと考えています。
足立区生活環境の保全に関する条例
上記条例の特筆すべき部分は、名称からも分かるように環境保全のための条例です。
それでも、ゴミ屋敷問題解決のために、荒川区と同様に行政代執行、さらには代執行の費用請求について条例化しています。
加えて、支援の方法まで条例として定めている点は特筆すべき点です。
ゴミ屋敷は度々再発がみられますが、支援まで定めているのは、ゴミ屋敷問題の解決だけでなく再発防止まで考えているからにほかなりません。
東京都新宿区では「新宿区空き家等の適正管理に関する条例」が定められています。
名称からもわかるように、ゴミ屋敷問題だけに主眼を置いたものではありません。
空家対策の一環として、ゴミ屋敷の予防や対策も条例として定めています。
ゴミ屋敷は決して住人がいる家屋だけではなく、空家で発生するケースもあります。そこまで検討して、空家まで条例の対象範囲を広げているのでしょう。
また、新宿区でも荒川区や足立区同様、行政代執行まで制定しているのですが、代執行の費用拠出・請求に関しては制定されていません。
東京都豊島区では「豊島区建物等の適正な維持管理を推進する条例」が制定されています。
建物を適正に維持管理するという観点から、ゴミ屋敷問題にも切り込んでいる条例です。
こちらも代執行まで条例化されていますが、代執行の費用や支援・再発防止策は見当たりません。
それでも、緊急安全措置での費用は請求できるとありますので、代執行以外の対策での費用請求も可能と解釈できるでしょう。
東京都品川区では「品川区空き家等の適正管理等に関する条例」が定められています。
新宿区同様、空家問題解決の観点からゴミ屋敷問題にもアプローチしている条例です。
代執行も明文化されているのですが、費用請求に関しては記述がありません。
それでも、支援については記載があります。
東京都世田谷区では「世田谷区住居等の適正な管理による良好な生活環境の保全に関する条例」が制定されました。
住居管理、生活環境保全の観点からゴミ屋敷問題にアプローチしています。
代執行に関しての記述がありませんが、区長権限で「必要な措置が可能」との文言が盛り込まれています。
東京23区以外の自治体でもゴミ屋敷条例を制定しています。
そちらもいくつかご紹介しましょう。
「市」としては全国最多の人口を誇る横浜市。
東京のベッドタウン的な街もあれば、独自の発展を遂げている街もあるなど「住みたい街」として挙げられることの多い横浜市には「横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及び措置に関する条例(いわゆる「ごみ屋敷」対策条例)」が用意されています。
ゴミ屋敷の片付けだけではなく、ゴミ屋敷住人の背景まで踏まえ、福祉的側面や市・区役所と関係機関、さらには地域住人が連携するなどしてゴミ屋敷居住者に寄り添った支援を行える条例となっています。
大阪市では「大阪市住居における物品の堆積等による不良な状態の適正化に関する条例」が制定されています。
行政代執行、さらにはその費用請求当まで明文化されています。
京都市では「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例」が制定されています。
京都市の条例は全国的に珍しいことがあります。
それは過料を制定している点です。
行政代執行、さらには代執行実行時の費用請求に加え、命令違反者は50,000円以下の過料に処すと明文化されています。
ゴミ屋敷を含めた環境問題において、個人を相手に過料を制定している自治体は多くありません。
愛知県豊田市では「豊田市不良な生活環境を解消するための条例」が制定されています。
実は豊田市ではゴミ屋敷問題が顕在化したことがありました。
それで、代執行を含めたより具体的な条例となっています。
行政代執行や費用請求だけではなく、地域の役割、さらには京都市と同様、過料も制定しています。
福島県郡山市では「郡山市建築物等における物品の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」が制定されています。
郡山市でもゴミ屋敷問題が顕在化した過去があります。それで、より具体的な内容のゴミ屋敷条例となっています。
行政代執行や費用負担はもちろんですが、先述した京都市や豊田市同様、過料も制定されています。
ただし過料に関しては、立ち入り調査の拒否や立ち入り調査時の虚偽陳述が対象となっています。
秋田県秋田市では「秋田市住宅等の適切な管理による生活環境の保全に関する条例」が制定されています。
こちらも行政代執行、さらには費用の請求まで制定されています。
ただし、支援策や再発防止、さらには地域との連携に関しては特に記述は見当たりません。
お伝えしたように、ゴミ屋敷条例を制定している自治体もあれば、まだ制定していない自治体もあります。
ゴミ屋敷問題を考えると、ゴミ屋敷条例は「あった方が良い」と考える人も多いかと思いますが、なぜまだゴミ屋敷条例を制定していない自治体があるのか、その理由をいくつかご紹介しましょう。
ゴミ屋敷条例があればゴミ屋敷問題を改善できます。
裏を返せば、ゴミ屋敷問題がなければ不要な条例とも解釈できます。
つまり、既に条例化している自治体は、ゴミ屋敷で悩まされていたので解決するために条例化したと考えることができます。
自治体は基本的に受け身です。条例とは「制定して未然に防ぐ」ではなく「問題を解決するためのもの」です。
地域住民が近隣のゴミ屋敷に悩まされている地域であれば、いち早く条例化した方が良いのですが、ゴミ屋敷問題の無い自治体であれば、早急に条例化する必要がありません。
ゴミ屋敷条例だけではなく、条例は市長や区長といった首長が勝手に決めるものではありません。
条例を制定するためには、議会の承認が必要です。
「ゴミ屋敷条例に反対する人間がいるのか?」と思うかもしれませんが、条例は感情論ではなく、冷静に考えなければなりません。
制定した条例を実行に移したと仮定し、そこに不都合等はないのか。
冷静に精査したうえで条例を制定しなければなりませんので、反対意見だけではなく、条例の運用で穴がある等の指摘を受け、話がまとまらないケースもあります。
多くの住民がゴミ屋敷に悩んでいる地域であれば、条例化も早いでしょう。
しかし、そこまで多くの住民が悩んでいる訳ではなく、かつ他に多くの住民が悩んでいる問題がある場合、多くの住民の悩み解決のための条例の方が優先順位が上です。
地域が抱えている問題はゴミ屋敷だけではありませんので、他に解決しなければならない問題がある自治体では、ゴミ屋敷条例が後回しになってしまいます。
ゴミ屋敷条例を制定している自治体が多くあることが分かっていただけたかと思いますが、ゴミ屋敷条例を制定するメリットをご紹介しましょう。
先述したように、ゴミ屋敷は違法とは言い切れませんので法律では対応できません。
しかし条例を制定することで、ゴミ屋敷に対して積極的な対策が可能です。
ゴミ屋敷条例がない自治体では、あくまでもゴミ屋敷住人の自主性に委ねるしか、解決方法がありません。
自治体職員がゴミ屋敷まで出向き、綺麗に片付けるよう説得するしかありません。
もちろんその言葉に強制性はありませんし、自治体はこれ以上何もできません。
しかし条例があれば、条例に基づいて行政代執行等でゴミ屋敷を綺麗に片付けることができます。
ゴミ屋敷条例があるということは、ゴミ屋敷に対して行政がそれなりに「強権」を発動できると考えることができます。
つまり、ゴミ屋敷にしたら行政が黙っていないぞとの圧力となりますので、ゴミ屋敷の抑止力として期待できます。
ゴミ屋敷条例がないエリアの場合、ゴミ屋敷にしてしまったところで罰則もなければ、結局は自治体職員が説得するまでしかできません。住人にとっては痛くも痒くもないでしょう。
しかし条例に基づき行政代執行が行われた場合、自宅を勝手に片付けられるだけではなく、多くの自治体が行政代執行の費用請求まで制定していますので、費用まで支払うことになります。
このような処置が嫌であればゴミ屋敷にしなければよいのです。
ゴミ屋敷条例を制定することで、ゴミ屋敷に悩んでいる近隣住民や今後住まいをと考えている人にアピールできます。
お伝えしたように、ゴミ屋敷条例がなければゴミ屋敷の解決は住人が自発的に清掃することを期待するだけです。
近隣住民とすれば迷惑ですし、これからそのエリアに引っ越そうかと考えている人にとっても嫌な物でしょう。
しかし条例があれば片付けることができますし、「いざとなれば片付けます」をアピールできます。
ゴミ屋敷条例を制定するメリットをご紹介しましたが、デメリットはないのか。
考えられるデメリットをいくつかご紹介しましょう。
ゴミ屋敷条例を制定することで、地域住民に対してプレッシャーになってしまうのではとの声もあります。
抑止力にもなれば、「汚くしたら行政が動く」と圧力をかけているのです。綺麗好きな住人であれば問題ありませんが、少々だらしない住人にとっては圧力になりかねません。
ゴミ屋敷条例に基づいてゴミ屋敷に向き合うのは自治体の職員です。
しかし、自治体の職員とて決して無限のリソースを抱えている訳ではありません。
ゴミ屋敷問題に向き合うことで、他の仕事が疎かになることもあるでしょう。
条例を執行するのもまた、人間です。
例えば年末年始や年度末等、行政が忙しい時期にゴミ屋敷問題が勃発すると、自治体職員は激務となるでしょう。
結果、他の地域サービスの質が落ちる可能性があります。
ゴミ屋敷条例が如何に住民生活に直結したものであるかが分かっていただけたのではないでしょうか。
そんなゴミ屋敷条例について、豆知識をいくつかご紹介しましょう。
今でこそ多くの自治体にて制定されているゴミ屋敷条例ですが、全国初となったのは足立区です。
2013年、「足立区生活環境の保全に関する条例」として制定された条例が、いわゆるゴミ屋敷条例としては全国初のものとなります。
2013年といえばまだまだ「ゴミ屋敷」という言葉そのものもさほど浸透していない時期でしたが、既に足立区ではゴミ屋敷に悩まされている住人がいたことから、条例化されました。
ゴミ屋敷条例は、お伝えしたように「ゴミ屋敷に悩まされている自治体」にて条例化されているものです。
そのため、都市の規模は関係ありません。
例えば全国でも有数の大都市・さいたま市にはゴミ屋敷条例がありませんし、決して大都市ではなくともゴミ屋敷条例を制定しているところもあります。
つまり、ゴミ屋敷条例が制定されていないさいたま市ではゴミ屋敷に悩んでいる方が少ないことから、条例の制定には至っていないことが予想されます。
しかし、今後さいたま市でもゴミ屋敷が増加し、多くの住人が悩まされるようなことになればゴミ屋敷条例制定に向けて動き出すことでしょう。
先に各都市の条例の紹介でお伝えしたように、厳密には「ゴミ屋敷条例」ではなく、それぞれ都市によって名称、さらには中身も微妙に異なりますが、どの都市でも「いわゆるゴミ屋敷条例」といった表現はしているのですが、「ゴミ屋敷条例」との名称にて条例を制定しているエリアはありません。
「ゴミ屋敷」の名称は広く知れ渡るようになりましたが、自治体の条例として採用するには少々不適切なのでしょう。
そのため、条例の名称には「ゴミ屋敷」は含まれていませんが、想定しているのはゴミ屋敷なので、「いわゆるゴミ屋敷条例」といった形で紹介されることが多いです。
行政代執行まで明文化されているゴミ屋敷条例のある自治体では、指導や勧告等でゴミ屋敷が改善されない場合には行政代執行、つまりは行政による強制的なゴミ屋敷清掃・片付けとなりますが、実際に行政代執行が行われたこともあります。
決して抑止力的に制定されているだけではなく、実際に実行した自治体も多々ありますので、決して「条例化しているだけで実際にやる気がない」訳ではありません。
ゴミ屋敷条例に限らず、条例は実情に見合っていなければ見直されるものです。
そのため、もしもゴミ屋敷条例が地域住人のニーズ、環境、時代背景にマッチしていないものになれば見直されることもあるでしょう。
これまでも、一般的な環境に関する条例をゴミ屋敷にもある程度対応できるよう文言を加えた自治体は多々あります。
逆に、制定したゴミ屋敷条例を停止・廃止した事例はありません。
その点では、ゴミ屋敷条例は時代に求められている条例だと判断できます。
ゴミ屋敷条例とは、ゴミ屋敷改善を目的とされた条例です。
全国各地のゴミ屋敷問題を受け、ゴミ屋敷条例を制定した自治体は多々ありますが、条例の文言は各地域によって異なります。
これは条例が地域生活に根付いたものであることから、各地域の問題に合わせて条例化される点にあります。
そもそも、ゴミ屋敷が問題化していない地域にはゴミ屋敷条例はありません。
条例は法律ではなく、地域のルール的なものです。つまり、地域の実情に合わせたものになりますので、どのようなゴミ屋敷条例を制定しているのかを見ることで、各地域のゴミ屋敷問題が見えてくるとも考えられます。
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