仙台市は、宮城県の中程に位置する東北地方唯一の政令指定都市です。
夏には太平洋からの海風の影響を受けて平均気温が低く冷涼で、年間を通じて晴天の日が多く、東北地方の中では温暖で暮らしやすい気候です。
また、豊かな自然に恵まれており、温泉や海水浴場、スキー場など、1年を通して自然に親しみ、楽しめるスポットがたくさんあります。
そんな仙台市には、ゴミ屋敷に関する条例が定められています。
どんな内容なのでしょうか。
目次
仙台市・ゴミ屋敷条例ができるまで
宮城県仙台市のゴミ屋敷に関する条例は、正式名を「ごみの散乱のない快適なまちづくりに関する条例」といい、平成11(1999)年3月に制定、同年5月から施行されています。
すでに20年以上の歴史のある条例ですが、なぜこの条例が作られることになったのでしょうか。
ポイ捨てごみが与える影響とは?
「杜の都」と言われる仙台市。
しかし、タバコの吸い殻や空き缶、食べ物の包装容器などが、さまざまな場所にポイ捨てされ散乱していました。
ポイ捨てごみは、街の美観を損ねるだけではなく、プラスチックや金属類など分解されにくい材質のごみを野生動物が食べてしまったり、自然に影響を与えたりします。
そのため、仙台市では、環境との共生を目指すことが課題となったのです。
美化への取り組み
このような状況を改善するため、平成9(1997)年、仙台市の市民や学識経験者が「仙台まち美化懇話会」を設けました。
この懇話会では、散乱するポイ捨てごみの対策や施策について話し合われました。
その結果、教育や啓発によって「ポイ捨てしない人」をつくるのが大切だということ、また「ポイ捨てしにくい環境」をつくることの必要性が浮かび上がってきました。
そして、仙台市と市民、また仙台市における事業者が連携・協力して取り組んでいくことが重要だと指摘されたのです。
こうして、平成10(1998)年から「ポイ捨てごみから、まちづくりを考えるキャンペーン」を展開。
フォーラムの開催などを通じて多くの市民から上がった意見を踏まえ、この条例が制定されました。
宮城県仙台市のゴミ屋敷に関する条例の特徴とは?
官民一体となって制定された、仙台市の「ごみの散乱のない快適なまちづくりに関する条例」。
どのような特徴があるのでしょうか。
条例を貫く精神とは?
仙台市でも問題となった「ポイ捨てごみ」は、モラルやマナーの問題であるといえます。
しかし、本当にそれだけでしょうか。
現代社会では、「大量消費」と「大量廃棄」というシステムが出来上がっています。
大量にものを買い、使い、捨てることによって、街は汚れます。
汚れた街には、人は愛着を持ちにくいものです。
つまり、「ポイ捨てごみ」は、美観を損ない、ひいては自分たちが暮らす街への関心や愛着を希薄にしてしまうという側面もあるのです。
このことから、仙台市に住む人一人一人が、自分たちの街をどういう街にしたいか、どういう街に住みたいのかを考え、街づくりに参加することでポイ捨てのない美しい仙台市をつくることができるという精神が、この条例を貫いていると言えるでしょう。
罰則を設けない
ほかの都市や地域では、条例に違反した場合の罰則を定めているところが少なくありません。
しかし、仙台市のこの条例に罰則はありません。
「罰則があるからポイ捨てしない」のでは、「街を愛すること」にはつながりにくいと考えられます。
それよりも、「仙台市が好き」「大好きな仙台市をきれいにしたい」という気持ちがあれば、街を汚そうとは思いませんよね。
大切なのは「自発性」。
そのため、罰則は定められていないのです。
宮城県仙台市のゴミ屋敷に関する条例の内容とは?
では、いよいよ、仙台市のゴミ屋敷に関する条例の内容を見ていきましょう。
目的(第1条)
この条例の大きな目的は2つ。
- 仙台市・事業者・市民等・土地所有者等、また自主的活動団体が協働し、ごみの散乱のない快適なまちづくりを総合的・計画的に推進すること
- 仙台市民の生活環境の向上に資すること
これらを実現するため、必要な事項を定めたのがこの条例です。
定義(第2条)
条例内で使われる用語の定義を見ていきます。
- 事業者・・・仙台市内で事業活動を行う人
- 市民等・・・仙台市内に住む人、滞在する人、市内を通過する人
- 土地所有者等・・・仙台市内に土地を所有する人、占有する人、管理する人
- 自主的活動団体・・・ごみの散乱の防止のため、継続的な活動を機種的に行う市民団体
で、主として仙台市民によって組織された団体。
それぞれの責務について
仙台市全体が一体となってゴミの散乱防止に努めるため、それぞれの立場の責務を定めています。
仙台市(第3条)
仙台市は、条例の目的を達成するため、ごみの散乱させないための総合的な策を立て、実施します。
事業者(第4条)
仙台市で活動する事業者は、事業活動にあたり、ごみの散乱を防止します。
また、活動を行う地域の清掃活動に努め、ごみの散乱防止について従業員を啓発しなくてはなりません(第1項)。
利用後、捨てるものを製造・加工・販売を行う事業者は、ごみの散乱の防止について消費者の啓発を行います(第2項)。
容器入り飲料やたばこを販売する事業者は、販売する場所に容器を捨てるごみ箱や吸い殻入れを設置し、適正に管理します(第3項)。
また、事業者は、条例の目的を達成するために仙台市が実施する策に協力しなければなりません(第4項)。
市民等の責務(第5条)
市民等は、屋外でみだりにごみを捨ててはいけません。
出したごみを持ち帰るなど適正に処理します(第1項)。
また、市民等は、居住地域の清掃活動に積極的に参加するなど、ごみの散乱のない快適なまちづくりの推進に努めなければなりません(第2項)。
市民等が屋外で喫煙する際は、吸い殻入れが設置されている場所で喫煙したり、携帯用吸い殻入れを使用します(第3項)。
そして、条例の目的を達成するため、仙台市が実施する施策に協力しなければなりません(第4項)。
土地所有者等の責務(第6条)
仙台市において、土地所有者等は、ごみの散乱防止のための意識の啓発、清掃活動その他必要な措置を講じなければなりません(第1項)。
また、土地所有者等は、条例の目的を達成するため、仙台市が実施する施策に協力しなければなりません(第2項)。
ゴミ屋敷、解決への流れは?
仙台市の「ごみの散乱のない快適なまちづくりに関する条例」には「ゴミ屋敷」という言葉は出てきません。
しかし、ゴミ屋敷が出た場合、官民一体となって解決する道筋が決められています。
土地所有者等(第6条)
その土地を所有・占有・管理する人は、ごみを散乱させないよう意識を高め、片付けや掃除などを行います。
まずは、その土地に関わる人がゴミ屋敷にしないよう努めなくてはなりません。
推進地区の指定(第8条)
しかし、ある土地にごみが散乱していたり、ゴミ屋敷になっていたりしたら、どうなるのでしょうか。
第8条において、市長は、特にごみの散乱を防止する必要があると認められる区域を、「ごみの散乱のない快適なまちづくり推進地区」として指定することができます。
条例にはこれ以上のことは書かれていませんが、仮にゴミ屋敷があった場合、そこが「推進地区」とされる可能性は大いにあると考えてよいでしょう。
推進団体の認定(第9条)
「推進地域」として指定されたゴミ屋敷はどうなるのでしょうか。
自主的に活動を行っている団体が、「推進地区」においてごみやゴミ屋敷の清掃活動を行おうとする際、「推進団体」として市から認定を受けることができます。
この活動の実施に関する計画書を市長に提出し、適切な内容であり、確実に行われる見込みがあると認められる場合、この認定を受けることができます。
推進団体の活動(第10条)
ゴミ屋敷からは大量のゴミが出ることが考えられるため、推進団体は、推進地区における清掃活動を行うために必要なごみ袋や、その他市長が定める清掃用具の贈与や貸与を受けることができます。
また、ゴミの収集や運搬を依頼することができ(第1項)、市長は依頼に応じなくてはなりません(第2項)。
こうして、自分たちの住んでいる地域を美しく保てるよう、一般市民や団体と仙台市が協力する仕組みが作られています。
もちろん、その土地は所有者や占有者のものです。
しかし、自分の街にゴミ屋敷があるのは気分の良くないものです。
仙台市では、「自分たちの街なのだから、自分たちできれいにしていこう」という自主性が重んじられているのです。
宮城県仙台市のゴミ屋敷に関する条例 まとめ
仙台市では、美しい街づくりを推進するため「ごみの散乱のない快適なまちづくりに関する条例」が定められています。
この条例には「自分たちの街を愛し、自分たちできれいにする」という大きなテーマがあります。
仙台市を住みよく快適な街にするために、自ら考え、それぞれの立場で協力し合うことを旨とし、ごみを散乱させないよう自主的に努めていくことを目指した条例となっています。