家からゴミが溢れ道路を塞ぐなど、近隣住人の頭を悩ませるゴミ屋敷問題。2015年京都市は全国で初めて行政によるゴミの撤去に踏み切りました。
近所にこのようなゴミ屋敷があり、その対応に困っている方も少なくないのではないでしょうか。この記事では、行政がゴミ屋敷住人に代わりゴミの撤去等を行う行政代執行が行われるまでのプロセスや、ゴミ屋敷問題に対する自治体の取り組みを、京都市の例を通して詳しく解説していきます。
目次
京都市のゴミ屋敷問題、行政代執行が行われた理由
2015年11月、京都市右京区に住む50代男性宅に行政代執行が行われました。ため込んだゴミが自宅周辺の通路に溢れ、高さ2メートルにまで積み上げられた堆積物が近隣住民の歩行を妨げたり、災害があった場合の避難の妨げになるという理由から、京都市の制定する「京都市不良な生活環境を解消するための支援及びに措置に関する条例」(以下「ゴミ屋敷条例」)に基づきゴミの強制撤去が行われたのです。
行政代執行とは?
行政代執行とは、市役所などの行政から命令を受けた本人がそれに従わない場合に、行政が変わって執り行うことを指します。ゴミ屋敷の場合、行政からゴミの撤去命令が出されたにもかかわらずその命令に応じない場合、行政が本人に代わってゴミの撤去を行うことを行政代執行と呼びます。このゴミの撤去費用は本人が支払う義務があり、支払えない場合は財産差し押さえなどの可能性もあります。
なぜ行政代執行を行うのは難しいの?
法律に代わって行政が独自に条例を制定し、ゴミ屋敷の規制に取り組んでいるものの、行政代執行によるゴミの強制撤去は財産権や人権なども絡む問題のため、近隣住民の迷惑になるからとすぐに行えるわけではありません。
そもそも、客観的に見てゴミであったとしても所有する本人が財産だと主張すれば、本人の許可なく撤去することは困難です。
ゴミ屋敷問題の裏には、こうした法律の他にも高齢化や核家族化、貧困や孤独、福祉、人権などといった様々な問題が存在しています。
そのため、行政代執行を行い、一時家が片付いたとしてもゴミ屋敷を作り出している根本的な問題が解決しない限り、再びゴミ屋敷化してしまう可能性があり、単に行政代執行を行えば良いというわけにはいきません。住人への支援などを行いながら問題解決を進めていく必要があるのです。
京都市のゴミ屋敷問題で行政代執行が行われるまで
先述の通り、行政代執行はゴミ屋敷問題発覚後、すぐに執り行われることはありません。では、具体的にどのようなプロセスを経て、2015年京都市右京区での行政代執行は行われたのでしょうか。その流れをご紹介していきます。
市民からの相談・通報
行政代執行が行われた2015年の6年前、2009年に近隣住民より行政へまずは相談が寄せられました。家から溢れたゴミが道路にまで広がり近隣住民の歩行を妨げていたのです。
調査
市民から通報を受けた場合、ゴミ屋敷の可能性がある全ての世帯に対し、訪問調査を行います。今回のケースでも市役所職員が現地を確認し、家のゴミが道路にまで蓄積されていることが明らかに見てわかる他、崩れかけた家のベランダにもゴミが堆積していることを確認しました。
判定
調査をもとに「不良な生活環境にある」と判定。ゴミ屋敷条例に基づき対応策が進められていきます。この「不良な生活環境にある」とは、防犯上、防災上、衛生上の観点から支障のある状態を示し、敷地内での樹木の生い茂りなどはこれに該当しない場合があります。
指導
2014年にゴミ屋敷条例が京都市で施行されて以降、市の職員がこの京都市右京区の男性宅を126回訪問、61回接触を行い、支援や指導が行われました。
接触の際には、市の職員が防火や清掃の指導を行う他、健康相談や福祉制度の情報提供なども行うことで、支援を基本とした取り組みが進められていきました。
勧告・命令
複数回にわたる指導のおかげで住人と行政側との人間関係は構築されていったものの、ゴミの片付けについてはこの住居者の男性が頑なに拒否を続けたため、2015年10月にはゴミを片付けるよう京都市から命令の措置がとられました。
行政代執行
京都市から命令があったにもかかわらず、住人によるゴミの撤去が進まなかったため、2015年11月ついに行政代執行が執り行われ、高さ2メートルまで積み上がった新聞や雑誌などの堆積物(45リットルのゴミ袋約167袋分)を京都市職員が直接撤去しました。
京都市のゴミ屋敷問題、行政代執行に対するゴミ屋敷住人の反応は?
度重なる指導や命令にも背いてきたこのゴミ屋敷に住む男性本人にとっては、行政代執行が行われることは不本意であり、市の職員の話ではゴミの撤去が開始された当初は気持ちも荒れて興奮気味だったといいます。
しかし、京都市職員の丁寧な対応に徐々に心を開いたのか、京都市職員がゴミの撤去している際、「ご苦労さん」「きれいになった」「疲れたやろ」と職員に声をかけ、撤去作業の後半ではその作業を手伝うなど協力的な姿勢さえ見られたとのこと。
ここからも、行政代執行がただの撤去作業ではなく、「人への支援」を基本に対応が行われていくことの大切さが垣間見られます。
まとめ
今までゴミ屋敷条例を施行する自治体は数多くあったものの、実際に行政代執行にまで踏み込んだケースはこの京都市での取り組みが全国初となりました。
近隣住人の苦情が京都市へ寄せられてから行政代執行が行われるまでに実に6年という年月がかかっており、京都市としても苦心の末の措置だったことが垣間見えます。その間にも100回以上訪問を繰り返すなど「人への支援」がゴミ屋敷問題の解決には欠かせないということは言うまでもありません。
京都市ではゴミ屋敷条例の施行後、地域あんしん支援員を3人増やし、保健師とさらなる連携をとりながら問題解決に向けて取り組みが進められるようになりました。
今回、ゴミ屋敷条例に基づく取り組みの一例として京都市で行われた行政代執行の例を紹介しましたが、ゴミ屋敷条例と一口に言っても、その内容は自治体によって様々です。現在近隣のゴミ屋敷問題に困っている方は、
本記事を参考にしていただき、お住まいの市区町村にある役場へ相談してみるのが良いでしょう。