神奈川県の南東に位置する横須賀市は、古くから日本を代表する港町として知られる都市です。
横須賀市は東京湾と相模湾に面しており、市の三方を海に囲まれた、文字通り海の街です。
日本開国のきっかけとなった黒船が来航した浦賀も横須賀市です。
現在は米軍基地や自衛隊横須賀基地があり、国際交流都市としても知られています。
治安も良く、横須賀の犯罪発生率は高くありません。
人口20万人以上の県内9市で見ると、人口1000人あたりの犯罪発生件数は最も低く、住みやすい街となっています。
そんな横須賀市は、ごみ屋敷に関する条例を定めています。
どのような内容なのでしょうか。
目次
ごみ屋敷を解消するために
神奈川県横須賀市のごみ屋敷に関する条例は、正式名称を「横須賀市 不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例」といいます。
この条例は、そもそもなぜ制定されることになったのでしょうか。
横須賀市のホームページでは、その理由や経緯が説明されています。
横須賀市では、いわゆる「ごみ屋敷」のことを「不良な生活環境」としています。
これは、ごみなどが家屋の内外に積まれることによって、以下のように本人や近隣住民の方の生活環境が損なわれている状態を指します。
- 害虫
- ネズミなどの害獣
- 悪臭
- 火災の発生
- 物の崩落のおそれ
いわゆるごみ屋敷は、ごみなどが積まれています。
このような状態をつくってしまった本人には、自ら解消する責任があります。
しかし、ゴミ屋敷となる原因として次のようなケースも少なくありません。
- 認知症にかかる
- 身体機能の低下
- 生活に対する意欲の喪失
こういった人々は、自分で身の回りのことをできなくなったり、しなくなったりすることがあります。
さらに、外に向かってSOSを発信する力も低下してしまう「セルフネグレクト」の状態に陥ってしまう人もいるのです。
横須賀市では、そういった人に対し、ごみを片付けるだけでなく、生活上の諸課題の解決を目指しています。
市と関係機関や地域住民が連携して支援や見守りを行うなど、本人に寄り添った支援を行っています。
この活動の一環として、この条例が定められました。
「横須賀市 不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例」の内容とは?
目的(第1条)
もう一度、この条例の目的から見ていきましょう。
第1条で、2つの大きな柱を定義しています。
1つめの柱は、不良な生活環境の解消及び発生の防止を図ることです。
このような生活環境が出てきた場合、その措置に関して必要な事項を定め、その状態の解消や予防、再発防止を推進します。
2つめの柱は、不良な生活環境を作り出してしまった本人に対するケアを行うことです。
つまり、不良な生活環境そのものを改善するのみならず、その環境をつくってしまった人に対するケアも大きな目的としているのです。
ここが、横須賀市の条例が、他都市と少し違うポイントです。
人へのケアや支援を行うことによって、横須賀市民が安全で安心して暮らせる快適な生活環境を確保し、再発を防止しようとするものです。
用語について
次に、この条例の中で使われる用語がどういったものを指すのか、確認しておきましょう。
建築物等
昭和25年に制定された建築基準法(法律第201号)第2条第1号に規定する建築物及びその敷地を指します。
この法律では、土地に定着する工作物のうち、次のことを指し、建築設備も含まれます。
- 屋根及び柱もしくは壁を有するもの(また、これに類する構造のもの)
- 建物に附属する門もしくは塀
- 観覧のための工作物または地下もしくは高架の工作物内に設ける事務所
- 店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設
これらの工作物が、隣接する私道やその他の土地にわたる場合は、当該私道その他の土地を含みます。
不良な生活環境
物やごみが積まれることによって、近隣には害虫やねずみ、悪臭、火災などが発生したり、物の崩落のおそれが出てきます。
また、これらの影響によって、当該の建物のみならず、近隣の生活環境も損なわれている状態をいいます。
物の堆積等
ごみや物などが積まれていたり、放置されていたりすることを指します。
堆積者
物が堆積等をすることにより、建築物等における不良な生活環境を生じさせている人のことです。
居住者等
建築物等の居住者、所有者または管理者のことを指します。
それぞれの責務とは?
横須賀市の条例では、市や居住者における責務が規定されています。
横須賀市の責務(第3条)
横須賀市は、地域社会と協力して、堆積者が抱える生活上の諸課題の解決に必要な支援を推進する責務があります。
また、不良な生活環境の解消や、その発生の防止に必要な措置を講ずる責務があります。
居住者等の責務(第4条)
居住者等は、居住・所有・管理する建築物等において、不良な生活環境を生じないように努めなければなりません(第1項)。
また、不良な生活環境を生じさせてしまった場合は、自ら、速やかにその状態の解消に努めなくてはなりません(第2条)。
「不良な生活環境」が見つかったら?〜調査と報告
神奈川県横須賀市では、不良な生活環境を発見した場合、支援を行なっています。
ですが、まず調査を行うことが第6条・第7条に規定されています。
調査
市長は、支援の実施に必要な限度において、その建物について調査を行うことができます。
以下のように必要な事項について調査を行うことができます。
- どのくらい物が堆積しているのか
- その建物がどのように使用されたり管理されているか
また、建築物等に住んでいる人や、ごみなどの堆積者、またその関係者に対して報告を求めることができます(第6条第1項)。
報告
調査や報告の結果、そこが不良な生活環境であると認められ、解消する必要があると考えられる場合があります。
その場合、その建築物等に関する、次の事項を知る必要があります。
- 所有関係
- 堆積者の親族関係
- 福祉保健に関する制度の利用状況
市長は、官公署に対してこれらの情報を報告を求めることができます(第6条第2 項)。
調査結果の提供
横須賀市では、不良な生活環境の改善をするために、市と地域住民、関係する行政機関その他の関係者とが協力して支援を行います。
この支援を行うにあたり、必要がある場合は、市長は協力者や機関などに対し、調査や報告の結果を提供することができます。
「不良な生活環境」が見つかったら?〜支援
では、横須賀市内では、「不良な生活環境」が生まれてしまった場合、どのような支援が行われるのでしょうか。
環境改善のための支援
不良な生活環境にあったり、そのおそれがある建築物等があった場合、市長は、堆積者が、自分で環境を改善・解消することができるよう、必要な支援を行うことができます(第1項)。
ごみ処分の支援
不良な生活環境を堆積者が自分で改善・解消することが難しい場合、市長は一般廃棄物にあたる堆積物の排出の支援を行うことができます。
ごみの排出支援を行う場合、市長は、堆積者に対してあらかじめ堆積者必要な説明を行い、その同意を得る必要があります(第2項)。
ごみの処分について
市長は、支援において排出された一般廃棄物を収集し、運搬・処分を行います。
この場合、堆積者は、運搬や処分にかかる手数料を支払う必要があります。
改善されない場合は?
横須賀市による調査や支援が行われても、状況が改善されない場合は、どのようになるのでしょうか。
指導
支援をしても、なお不良な生活環境が解消していない場合、市長は堆積者に対して、不良な生活環境を解消するよう指導をすることができます(第9条第1項)。
勧告
指導を行なっても、なお不良な生活環境が解消していない場合、市長は堆積者に対して、改善のための措置をとるよう、期限を定めて勧告することができます。(同第2項)
命令
勧告をしても、なお環境が解消していない場合、市長は堆積者に対して、改善のための措置をとるよう命ずることができます。(第10条第1項)
ただし、命令を行う前に、審議会の意見を聴かなくてはなりません。(同第2 項)
公表
命令を受けたにもかかわらず、正当な理由がないのに命令に従わなかった場合は、以下の事や市長が必要と認める事項を公表することができます。(第11条)
- 堆積者の住所
- 氏名
- 当該建築物の所在地
- 不良な生活環境の内容
- 命令の内容
代執行
堆積者が次のような場合は、市長または第三者がこの措置を行うことになります。
- 環境改善に必要な措置を行わないとき
- 行っても十分でないとき
- 期限内に改善が完了する見込みがない場合
ただし、ほかの手段によって措置を行うことが難しく、なおかつ、そのまま放置していると著しく公益に反すると認められる場合、代執行が行われます。
まとめ
神奈川県横須賀市は、ごみ屋敷に関する条例として「横須賀市 不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例」を定めています。
この条例は、生活しやすい環境をつくるのみならず、ごみ屋敷をつくってしまう人の精神状態や健康状態にも配慮した内容となっています。