ゴミ屋敷が社会問題となる中で、自治体もいわゆるゴミ屋敷条例を制定し、問題解決に努めています。
それまでの「お願いベース」ではなく、行政代執行によって、行政が強制的にゴミ屋敷の撤去を行えるようになりました。
実際に全国にて行政代執行が行われている一方で、神奈川県横須賀市では、懸念されていた問題が起きてしまいました。
目次
横須賀市にて行われた行政代執行
神奈川県横須賀市は、横浜市に隣接している都市で、首都圏や横浜市のベッドタウンとして知られています。
米軍基地もあることから、市の中心部は国際色豊かな繁華街もあるのですが、中心部以外はベットタウン的な落ち着いた街が広がっています。
そんな横須賀市でも、ゴミ屋敷に悩まされていましたが2018年8月、神奈川県で初となる行政代執行が行われました。
行政の宣言の元、行政代執行が敢行され、ゴミ屋敷は綺麗に掃除されました。
しかし2021年7月、再びマスメディアから報道されるレベルの「ゴミ屋敷」へと戻ってしまったのです。
行政代執行したもののゴミ屋敷に戻ってしまった
2018年8月に横須賀市によって行政代執行が敢行されました。
行政代執行が敢行される前には横須賀市が100回以上説得したとのことですが、住居人が説得に応じなかったことで横須賀市が動きました。
しかし3年の月日を経て、元に戻ってしまったのです。
近隣住人の話によると、行政代執行が敢行された3日後から、住居人は再びゴミを持ち帰るようになってしまっていたようで、2021年7月、マスメディアから扱われるようなゴミ屋敷へと逆戻りしてしまいました。
もちろん横須賀市としても引き続き指導を行っているとのことですが、改善されることはなく、ゴミ屋敷として再び近隣の住人を悩ませる存在となってしまったようです。
横須賀市の行政代執行は失敗だったのか?
3年で元に戻ってしまった神奈川県横須賀市のゴミ屋敷は、結果だけを見れば、失敗してしまったと言われても仕方ないものです。
しかし、行政代執行の後には綺麗になったのも事実です。
実はこの問題は、行政代執行が抱えている問題が具現化されたとの声もあります。
既に行政代執行の問題点として囁かれていた事が現実に
ゴミ屋敷の解決は、ゴミ屋敷を綺麗にするだけではなく、居住者のメンタリティーや生活様式そのものまで見直さなければならないとされています。
しかし、2018年8月に横須賀市が慣行した行政代執行では、ゴミ屋敷の掃除を行ったのみ。
つまり、表面処理にしか過ぎないのです。
行政代執行にてゴミ屋敷を清潔にした後、生活支援等を行うことで、再びゴミ屋敷に戻すことのないよう指導することが行政に求められています。
しかし今回の再ゴミ屋敷化に関しては、残念ながらせっかくの行政代執行が無意味なものになってしまったとのそしりを受けても仕方ない状況です。
横須賀市の行政代執行の何が問題だったのか
2018年8月に行われた神奈川県横須賀市いよる行政代執行から3年が経過すると、再び同じ家屋がゴミ屋敷化され、近隣の住人を悩ませるようになってしまいました。
「行政代執行など無意味だった」との声も聞こえてきますが、失敗してしまった理由は、いわゆるゴミ屋敷条例が制定される時にも指摘されていたことです。
それは、行政代執行は決して目的ではなく、あくまでもゴミ屋敷解決のための方法の一つであるという考えです。
ゴミ屋敷を掃除し、ゴミを撤去すればゴミ屋敷問題が解決すると思ったら大間違いです。
確かにゴミ屋敷のゴミを撤去することで、地域住民は安堵することでしょう。
それまで悩まされていた異臭や景観、これらの問題が解決するのは事実です。
しかし、ゴミ屋敷を綺麗にするだけでは本当の解決ではありません。
ゴミ屋敷問題の「解決」とは
ゴミ屋敷問題の「本当の解決」とは、ゴミ屋敷の住居人の生活様式を変容させることです。
そのため、住居を綺麗にするだけではなく、なぜゴミ屋敷になってしまったのか、その行動様式からサポートしなければならないのです。
しかし神奈川県横須賀市にて行政代執行が敢行されたゴミ屋敷は、あくまでもゴミ屋敷を綺麗にしたのみで、近隣住民によると行政代執行の3日後、住居人は再びゴミを持って帰ってきてしまっていたとのこと。
行政代執行が生活様式や価値観を変容させるには至らず、結果としてゴミ掃除をしただけになってしまったのです。
ゴミ屋敷への行政代執行の難しさ
神奈川県横須賀市が2018年8月に慣行した行政代執行。
結果だけを見れば失敗だと指摘されても仕方ないものですが、行政代執行が難しいのもまた、事実です。
行政代執行とは訓告や命令に従わない住居者のゴミ屋敷に対し、強制的な撤去作業を行える条例ですが、行政と地域住人との意識のズレが、問題をより難しいものにさせているとの指摘があります。
ゴミ屋敷近隣の住人にとっては、ゴミ屋敷は片付けてもらいたいものです。
異臭、火災リスクといった問題だけではなく、景観的な面も迷惑を被っていると考えてよいでしょう。
一方、行政代執行を含めたゴミ屋敷改善のための条例は、ゴミ屋敷の改善のためのものです。
つまり、ゴミ屋敷を掃除するだけではなく、住居人の行動変容の促進も含まれているのです。
ここに両者のギャップがあるのです。
行政と地域住人のゴミ屋敷問題のギャップ
とにかく表面上だけで良いので片付けて綺麗にしてもらいたい地域住人と、ゴミ屋敷化の根源的な問題である住居人の生活様式の改善が目的の行政という、両者の隔たりが、行政にブレーキをかけてしまっている現状もあります。
実際、いわゆるゴミ屋敷条例に関しては、住居人の経済的な支援も盛り込まれているのですが、なぜ自ら勝手に汚くしたゴミ屋敷の住居人に対して経済支援を行うのかという地元民から疑問の声が挙がることもあり、行政としても適切なサポートを徹底しにくい側面があります。
ゴミ屋敷の解決は行政代執行を住民がより深く理解すること
地域住民にとって、行政代執行は「ゴミ屋敷を綺麗にする制度」だと思っていることでしょう。
確かに間違った解釈ではありませんが、決して掃除をするだけの制度ではありません。
行政代執行はゴミ屋敷再発防止のための矯正プログラムと考えてよいでしょう。
そのため、掃除がすべてではありません。
掃除を含め、住居人にゴミ屋敷の再発防止のための支援を行うことが条例の肝なのですが、住人にとっては、住居人の行動・生活様式よりもとにかくゴミ屋敷を何とかしてもらいたいと考えることでしょう。
この両者のギャップを埋めることこそ、ゴミ屋敷の再発防止において重要な部分です。
地域住人の理解も解決のための鍵
その点では、行政は住居人だけではなく、近隣の住人に対しても行政代執行の本来の意義を正しく伝えることが大切です。
決してゴミ屋敷そのものを掃除して綺麗にするだけではなく、改善した状態を継続し、再度のゴミ屋敷化を防ぐためには行政のサポートも不可欠であることを、近隣住人にも適切に伝えることです。
行政がゴミ屋敷の住居人に清掃を含め、様々なサポートを行いやすい環境を構築することが大切です。
行政代執行が失敗に終わった横須賀市に学ぶ
2018年8月に神奈川県横須賀市にて行われた行政代執行は、結果だけを見れば失敗と考えてよいでしょう。
しかしこの失敗は、他の自治体にとっては良い教訓となります。
結局は住人の行動・生活様式の変容が実現しなければ、ゴミ屋敷を掃除したところで再発してしまうことが実証されました。
いわゆるゴミ屋敷条例が制定された際にも多くの識者から指摘されていたことですが、図らずともそれらの指摘が正しいものであったことを証明する結果となってしまいました。
今後、ゴミ屋敷問題を抱えている自治体は、行政代執行だけで改善できると考えるのではなく、ゴミ屋敷住居人、そして近隣住人に行政代執行を理解してもらうことが大切になるでしょう。