認知症を発症したことにより、高齢者の住宅がゴミ屋敷化するケースが増えています。
厚生労働省によれば日本における65歳以上の認知症の人の数は、2020年でおよそ600万人と推計され、2025年には約700万人と予測されています。
これは65歳以上の場合、5人に1人が認知症という比率になります。
高齢の親族がいる人にとって、認知症によるゴミ屋敷化は、他人事ではありません。
そこでこの記事では、認知症によって住宅がゴミ屋敷化する理由と、ゴミ屋敷化の兆候がみられた場合に家族が取るべき対応について紹介します。
参照:厚生労働省
認知症でなぜゴミ屋敷化するのか
認知症を発症するとなぜ住宅がゴミ屋敷化するのでしょうか。
それは認知症が脳の様々な機能を低下させることに起因します。
認知症発症のサインには、以下のような5つの症状がみられるとわかっています。
- 物忘れ・記憶障害
- 時間や場所がわからなくなる
- 理解力や判断力が低下する
- 仕事や家事・趣味・身の回りのことができなくなる
- 行動・心理症状
各項目ごとに詳しく解説していきます。
認知症がゴミ屋敷を作る原因1:物忘れ・記憶障害
認知症による物忘れや記憶障害が発症すると、数分前や数時間前の出来事もすぐに忘れるようになることがあります。
そのためしまい忘れや置き忘れが増え、家の中は雑然と散らかって行き、いつも探し物をする状態に繋がります。
またすでに持っていることも忘れて何度も同じものを買ってくることもあるため、家の中は徐々にもので溢れていくでしょう。
認知症がゴミ屋敷を作る原因2:時間や場所がわからなくなる
認知症を発症すると、時間や場所、空間把握能力が著しく低下することがあります。
時間や曜日の感覚が衰えれば、毎週のゴミ出しも出来ず、室内にはゴミが溜まっていく一方です。
認知症がゴミ屋敷を作る原因3:理解力や判断力が低下する
認知症の状態では、自分が置かれている状態を正確に理解することができません。
ゴミ出しできず、同じ物を何度も購入してしまうため、住宅がゴミ屋敷化しているという判断も難しいでしょう。
第三者の助けを求めなければいけない状況に置かれているという判断も難しくなります。
認知症がゴミ屋敷を作る原因4:仕事や家事・趣味・身の回りのことができなくなる
認知症を発症した場合、セルフネグレクトの状態に陥り易いことがわかっています。
セルフネグレクトとは、生活環境や栄養状態が悪化しているにもかかわらず、それを改善しようという気力を持てず、誰かに助けを求めようという意志も持てなくなることです。
また、身だしなみにも構わなくなり、室内が荒れていくことに対する危機感も持てません。
洗面や入浴の仕方も分からなくなるケースもみられます。
食べこぼしが増えたり、失禁が増えることで室内の衛生状態も悪化しがちです。
認知症がゴミ屋敷を作る原因5:行動・心理症状
認知症になると、不安が強くなったり、うつ状態に陥ったりする傾向がみられます。
また逆に怒りっぽくなったり、誰もいないのに誰かがいると感じたり、自分のものを誰かに盗まれたと疑う物盗られ妄想にとらわれることもあります。
周囲の人が住宅のゴミ屋敷化を懸念して声をかけても、自分の大切なものを盗もうとしていると思い込み、抵抗するケースも珍しくありません。
認知症の進行で収集癖が強くなることも
認知症を発症している場合、物が捨てられないだけでなく、物に執着し、異様に収集する症状が出ることも分かっています。
同じ物を何度も購入するだけでなく、ゴミ集積所などにある、まだ使えると本人が感じたものまで収集することで、ゴミ屋敷化は加速の一途です。
認知症と共にゴミ屋敷化を加速させる5つの原因
認知症を発症することで、日常生活を円滑に送ることが困難になり、その結果ゴミ屋敷になります。
しかし高齢者の場合、認知症以外にも注意すべき原因が5つあります。
認知症と同時に発症する恐れもあるので、注意が必要です。
ゴミ屋敷化を加速させる原因1:加齢による気力と体力の低下
高齢になれば何らかの病気を患っていたり、体の不調を感じている人が多いでしょう。
しかし病状が悪化すると、身体的な不自由さが日常生活を圧迫し、掃除や片付け、ゴミ出しといった作業すら苦痛を伴う困難な作業になりがちです。
不衛生とは分かっていても体の状態が追いつかないことで、室内は徐々に荒れていきます。
ゴミ屋敷化を加速させる原因2:セルフネグレクト
認知症による脳の機能低下や加齢は、体力だけでなく気力も奪っていきます。
一人暮らしで誰も訪ねてこない暮らしであればなおさら、自分だけが我慢すればいいという考えから、ゴミ出しできていなくても構わなくなり、身だしなみにも構わず、入浴や排泄に支障をきたすこともあります。
外出もしなくなるため、ますます社会との接点を失い、孤独を深めながら住宅のゴミ屋敷化も加速します。
ゴミ屋敷化を加速させる原因3:物を捨てることへの罪悪感
物のない時代に幼少期を過ごした高齢者によくある価値観として、物を捨てることに対する罪悪感があります。
物を大切にする気持ちは大切です。
しかし、「いつか使うかもしれない」「いつか役に立つかもしれない」と、いつ来るともしれない「いつか」のために住宅を物で埋め尽くすのは考えものです。
高齢になると脳の加齢も手伝って、物や自分の考え方に執着する傾向が強くなります。
本人の価値観は重んじながらも、周囲がサポートすることは欠かせません。
ゴミ屋敷化を加速させる原因4:人に迷惑をかけたくない思い
「自立した生活を営むべき」「人を頼ることは迷惑をかけることになる」そんな価値観に囚われて、助けを求めることができないまま、加齢によって生活の質が大幅に低下するケースもあります。
荒れた生活の中で認知症などの症状も悪化し、周囲が気づいた時にはゴミ屋敷になっているという事もあるでしょう。
ゴミ屋敷化を加速させる原因5:心の病
認知症以外にも、加齢による脳の機能低下によりうつ病や溜め込み症、統合失調症などの心の病を発症することもあります。
自宅に引きこもりがちになり、通院もできない状態に陥っている場合、病気を発見できないまま症状が悪化し、住宅のゴミ屋敷化も加速することもあるでしょう。
認知症によるゴミ屋敷化を防ぐための対策3選
認知症によるゴミ屋敷化を防ぐためには、日頃の対策が重要です。
加齢に伴い脳や身体の機能が低下することは避けられません。
だからと言って、高齢の親族を引き取って一緒に生活するのが難しいこともあるでしょう。また無理に環境を変えることが、かえって心身に悪影響を及ぼすこともあります。
お互いの生活を尊重しながら、無理なく認知症によるゴミ屋敷化を防ぐ方法を3つ紹介します。
認知症によるゴミ屋敷化予防策1:まめに連絡を取る
高齢者を孤独にしないように、こまめに連絡を取りましょう。
電話で会話するだけでも、自分を気にかけてくれているという安心感が心の健康に繋がる他、会話することで相手の体調を把握することもできます。
地域に高齢者が住んでいる場合は、日ごろから挨拶をするようにするのもよいでしょう。
また急に姿を見かけなくなったことに気づいたら、自治体に連絡して安否確認することも、ゴミ屋敷化や孤独死を未然に防ぐために有効です。
認知症によるゴミ屋敷化予防策2:人の出入りを増やす
単身で暮らす高齢者宅であれば、デイサービスなどを利用して、常に人が出来るような状況を作りましょう。
人とコミュニケーションを取ることは、脳のリハビリとして有効です。
また心身の調子の変化にいち早く気づき、適切な対策を取りやすくなります。
認知症によるゴミ屋敷化予防策3:一緒に家を片付ける
高齢者が暮らしやすい環境を、一緒に考え、一緒に整えましょう。
加齢と共に体は衰えますから、それに合わせて導線を整え、物も減らす必要があります。
しかし勝手に物を処分したり置き場を変えようとすれば、高齢者の不安を煽り、対立を生むこともあるでしょう。
高齢になり心身は衰えたからこそ、人として重んじられたい気持ちは強くなります。
住宅、そして住宅にある品々の所有者本人の意向に配慮しながら、同意を得ながら室内の片付けを進めることが大切です。
本人の了承を得られれば、不用品回収業者や遺品整理業者に、生前整理や不用品回収を依頼するのもひとつの方法です。
この時、片付けや捨てることがなぜ必要なのか説明しながら、高齢者の心身の安全を最優先に考えての行動であることを繰り返し伝えてください。
高齢者の状況を加味しながら、焦らずゆっくり進めましょう。
まとめ
認知症は誰でもなりうる病気です。
しかし初期の段階では加齢による単純な物忘れと誤解されやすく、住宅がゴミ屋敷化するなどの大きな社会問題に発展しやすい傾向がみられます。
一度ゴミ屋敷になると、自力で元の状態に戻すことは困難ですし、ゴミ屋敷清掃業者に依頼すれば費用もかかります。
何よりゴミ屋敷は近隣に多大な迷惑をかけ、住宅自体もひどく傷めます。
高齢者の住宅を認知症によるゴミ屋敷にしないために、日頃からコンタクトをとり、早い段階で対処できるよう心がけることが大切です。