ゴミ屋敷は全国各地で問題になっています。
各自治体がそれぞれ条例を制定することで、対策を講じていますが、大きな効果を得たことで話題を集めているのが兵庫県の神戸市です。
条例施行後、それまで105軒あったゴミ屋敷が56軒へと激減。
まさに「効果があった」と考えてよいのですが、なぜ兵庫の条例は効果が出たのか。
その点に迫ってみるとしましょう。
目次
兵庫県神戸市のゴミ屋敷条例の施行は2016年の10月
兵庫県神戸市のゴミ屋敷に関する条例が制定されたのは2016年の10月。
全国的に見ると比較的早い方で、「市」という単位で見ると、大阪市、京都市、福島県郡山市、愛知県豊田市、埼玉県八潮市に次ぐもの。
早い段階からゴミ屋敷に関心を持っていた地域であることが伺えます。
しかし、効果という点では全国でもトップクラスです。
冒頭でもお伝えしたように、ゴミ屋敷に関する条例の制定から1年、それまで105軒あった神戸市のゴミ屋敷は、56軒まで減少したのです。
その背景にあるのは、他の地域とは微妙に異なる、神戸市独自の条例にあります。
兵庫県神戸市と他の地域のゴミ屋敷に関する条例の違い
多くの地域でゴミ屋敷に関する条例が制定されていますが、実はその多くが、細かい点はさておき、ほぼ同じものです。
それは、まずはゴミ屋敷の存在を確認したら行政が確認。
住居者に連絡を取り、改善を促します。
その際、住居者に改善の意思があれば指導・サポートを行うのですが、改善の意思が見られない場合には勧告、さらには命令を下すことが可能です。
それでも改善の余地が見られない場合、行政代執行が可能となり、その際の費用は住居者負担、支払いを拒否したとしても、税金同様、行政に徴収権限が付帯されるものです。
神戸市のゴミ屋敷に関しての条例も、基本的にはほぼ同じものですが、神戸市の
条例が他の地域と異なる点として、住居者への働きかけと支援です。
神戸市には非課税世帯に関しては経済的支援を行います。
また、介護サービスの導入等、福祉的・医療的な点からの支援も検討するなど、他の地域のように、ゴミを取り除くだけではなく、そこに付随する様々な問題の支援を行っているのです。
例えば経済的支援に関しては、上限は100万円。経済的に貧窮しているなどの条件が必要ではありますが、神戸市だけではなく、ゴミ屋敷の住居者は経済的に貧窮しているケースも見受けられます。
ゴミが多いだけではなく、ゴミが多いものの、経済的な点から何もできず、問題が肥大化してしまい、周囲にまで影響を及ぼす形となってしまっているケースが多いです。
神戸市ではその点に着目し、上限100万円の経済支援、そして福祉と医療双方からのサポート。
これらにより、条例施行年間でおよそ半数にまで減らすことに成功しました。
神戸市はゴミ屋敷問題の根幹にアプローチ
ゴミ屋敷の問題は、まずは衛生面や景観面など周囲への迷惑が挙げられます。
特に周辺住民を悩ませるのが異臭です。
ゴミにはコバエ等が近寄って繁殖したり、生ゴミ、食べ物など様々なものが入り乱れていることから、周囲には異臭を発生させることが珍しくありません。
しかし、ゴミ屋敷住居者にとっては、問題を解決させようと思っても、自力では既に不可能な状況に追い込まれているケースが珍しくありません。
特に高齢者の場合、自力での片付けが難しいので業者に依頼するしかありませんが、無料で引き受けてくれる業者はいません。
経済的な余裕がないので業者に依頼することもできず、ただただ悪化していくゴミ屋敷を眺めながら、時間が過ぎていくだけでしかありませんでした。
しかし神戸市はその点に着目。
経済的な支援を行うことで、ゴミ屋敷の解決に本腰を入れました。
そもそも行政代執行の費用も他の多くの自治体の条例では住居者負担。
これではまさに追い詰められているだけにしか感じないでしょう。
住居者とすれば、どうすることもできずに放置のような形になっている所に行政が無理難題を仕掛けてきて、片付いたとしても結局はその費用は自己負担。
しかし神戸市は違います。
「綺麗にする」を押し付けるのではなく、住居者に寄り添ったサポートを行います。
その結果が、1年間で半減という結果となって表れたと考えてよいでしょう。
「その後」も見据えた条例を制定していた神戸市
神戸市の条例のポイントはまだあります。
それは「撤去後」も見据えていた点です。
ゴミ屋敷を清掃して清潔な状態に戻したとしても、生活習慣や価値観を変えなければ、結局は再びゴミ屋敷となってしまう可能性が高いです。
そこで神戸市では、個人情報の共有、さらには区役所や社会福祉会による連絡会議を定期的に開催するなど、ゴミ屋敷改善「後」まで見据えています。
実際、とあるゴミ屋敷は、ボランティアによるゴミ出しによってゴミ屋敷が改善されると、その後はヘルパーらによる見守り支援を行うことで、再ゴミ屋敷化を防止するなど、「その後」まで見据えている点もまた、神戸市の条例のポイントです。
兵庫県神戸市のゴミ屋敷問題のそれまで
兵庫県神戸市では、それまでゴミ屋敷に関する問題として、行政指導や強制撤去ができない点が挙げられていました。
周囲が「ゴミ」だと思っても、住居者が「財産」だと主張すると、行政としれはそれ以上打つ手がありませんでした。
しかし条例として制定することで、「財産」だと主張するゴミ屋敷に対して、アクションを取ることができるようになりました。
しかし他の地域同様、ただアクションを起こすだけでは再発の危険性があることから、他のエリアにはない経済支援を用意することで、住居者の不安を軽減し、行政に協力的な姿勢を取れるよう体制を整えました。
結果、ゴミ屋敷は半減しましたが、勧告や行政代執行はありませんでした。
つまり、勧告の前の時点でゴミ屋敷の住居人が納得し、協力かつ前向きにゴミ屋敷改善のために動いてくれたことを意味しています。
ゴミ屋敷への対策について、他の地域が神戸市に見習うべき点は?
ゴミ屋敷に関する条例の大枠に関しては、神戸市も他の地域もさほど変わりません。
しかし経済支援、さらには横のつながりなど、神戸市独自の条例を盛り込むことで、大きな効果がもたらしました。
実は経済支援に関しては他にも条例として定めている地域があるのですが、実際には行われていないところが多いとか。
これは、条件を満たしていないのではなく、ゴミ屋敷の住居人に寄り添った姿勢を見せていない点が挙げられます。
神戸市は条例制定後、1年でゴミ屋敷をおよそ半減することに成功しましたが、勧告や行政代執行はありませんでした。
つまり、住居者としっかりとコミュニケーションを取っていたことが伺えます。
真摯な姿勢で住居人に説明し、解決のためには何が必要なのかなどを真摯に話したからこそ、住居人も協力する姿勢を示したのでしょう。
つまり、神戸市は条例を盾に強権を発動してゴミ屋敷を半減させたのではなく、条例を根拠にしつつ、住居人と真摯に向き合うことでゴミ屋敷を半減させたのでしょう。
このような住居人に寄り添う姿勢こそ、ゴミ屋敷改善で必要なことなのかもしれません。
最後に
兵庫県神戸市のゴミ屋敷は、条例制定から1年で約半分に減らすことができました。
しかし、条例を盾に強権的に減らしたのではなく、むしろ行政代執行はおろか勧告さえなかったことからも、住居人に寄り添った姿勢で向き合い、建設的にゴミ屋敷を減らしたであろうことが伺えます。
県民気質等もありますが、ゴミ屋敷に悩んでいる他の街の行政は、神戸市の姿勢に見習うべき点が多々あるのではないでしょうか。